3話
「アーーーーーンンンンンンンーーーー腹減ったよぉおおおおおーーー」
「ほんと、お前はそればっかだな」
先日の炭焼き小屋での食事から3日。
本日も元気に空腹です。
そろそろ次のご飯食べたいなと思っております。
思っておりますが、その前に
「セイレム、俺、言語習得したい」
「へ?」
そう、そうなのだ。
前回も思ったが、言葉がわからないのは色々面倒くさい。
しかも、わからないことをセイレムづてに聞かなければならない。
魔王として、それはどうなのかと自問自答してきたが
ついに、俺は決心したのだ。
言語を習得して、より美味いものを食べようと。
いや、ん?うん。
そう、そうです!セイレムを困らせてやろうとな!思ってだな!
「魔力でバフォちゃんの時みたいにちゃちゃっと学習しちゃえばいいじゃん?」
「そうですよ、あ、でも、そうか。僕が喋ってる言葉も…」
「そう、ここではない世界の言葉なんだ」
勇者は各国をまわらなければならないため、言語の壁がないに等しい。
しかし、魔王は勇者を一箇所で待ち構えているのが基本だ。
魔王としての座学でも言語の話は出てこない。
そして、会話をする相手といえば、バフォちゃんのような使い魔や魔物の類ときている。
新しい言語が発達するわけがない。
その分野の勉強の仕方がわからないのだ。
だからこそ、だからこそ、言語の教えを請うのをためらっていたのだ。
どうしたって…セイレムに先生として教示してもらわねばならないのだから。
前代未聞ですよ、魔王が勇者に勉強を教わるなんて。とほ…。
「だからな、あっちでの言語ではない、こっちの言葉をセイレムに…って聞いてるか?」
「聞いてる聞いてる。だから今準備してる」
そう言うとセイレムは、がさごそとセイレムの持参している剣が入っている袋を漁る。
袋の中から、直径5mmほどの黒い球を取り出し、地面に向かって親指で弾いた。
着弾したところから、みるみる植物が育ち
なにかの実ができるとそれをもぎ取ってバフォちゃんと私に渡した。
「それ、食べて」
「「え?」」
食べ物持ってたの?!
というか、食べなきゃいけない意味がわからない!食べていいのこれ…真っ黒なんだけど…
不安しかないんだけど…
バフォちゃんと顔を合わせると、今世最後の別れと言わんばかりに抱き合い
そして、2人で一緒にその黒い塊にかぶりついた。
ザガハッ
かじった。おそらく。
というのも、一切味がしない。
かじった感覚はあるが、なんだろうか。
およそ植物の味がしない。水の匂いもせず、草の匂いもしない。
「セイレム…これっ…」
何ていう食べ物なのか…そう聞こうとして、俺の意識は途切れた。
「魔王様!」
そう言われて振り返ると、ツノが生えた幼女がいた。
目線が一緒なので、幼女だと認識した。
そして呼ばれたものの、正直、誰なのかわからない。
幼女の知り合いなんてあいつしかいないしな…
「魔王様!魔王様までここへ!おのれ、セイレム。
やはり敵!魔王様、申し訳ございません。セイレムを少し信用してしまっておりました。
このバフォメット、一生の不覚!散らせる命であるならば、この不手際死を持って償っていたところですが…ここがどこかわからず魔王様をお一人にするという失態を重ねるわけにもいかず…」
ん?いまなんと…?
「バフォ…ちゃん?」
「はいっ!バフォメットでございます!魔王様!
早くここから脱出しましょう!」
待て待て待て待て。俺の頭の処理が追いついていない。
整理させてくれ、要するに、だ。
「バフォちゃんはメスで、幼女で、
セイレムにもらった黒い塊をかじったら、このふわっふわしたところに飛ばされた。
で、合ってるか?」
「魔王様、私は両性です。それと、おそらくここは、死後の世界なのではないかと…」
「死後の世界?」
俺魔王だけど、聞いたことないよそれ。
近所の死神がやってるところはたしかに冥界だったけど、魔王の俺、出入り自由だったし。
人間が言ってた死後の世界ってそこのことだったはずだし、ますますわからなくなってきた。
要するになんだ、どういうことだ。頭の毛糸がこんがらがったまま、解けません!
あとバフォちゃん、両性なんだね…知らなかったよ。
「おー?なんだなんだ、嬢ちゃん坊ちゃん!お使いかい?偉いねぇー」
頭をモヤモヤさせた俺と、脱出しようと試みるバフォちゃんの前に
頭に布をまいたおっさんが突如話しかけてきた。
そもそも、どこから出てきたんだなどと考えている間に、
気づけば周りでは魚と思われる生物のやりとりが行われる大きな施設に来ていた。
そこで俺は気づく。
「言葉がわかる…?」
そう、話しかけられた内容も、すんなりわかったのだ。
バフォちゃんもわかるようで、私はメスではないと怒っている。
どうなっている、ここはどこだ。
それに言葉がわかるのもどういうことなのだ。
セイレムもいない。こうなってくると、あの黒い塊が怪しさをどんどんと増してくる。
やはり、ハメられたのか…いや、セイレムがいない今そんなことを考えるよりもまず生き残らねば。
「おじさん、ここはどこなんだ。そしてできれば、食べ物を食べる場所へ行きたいのだが」
通じるのかわからないが、いつものように話してみた。
そう、あくまでも元の世界の言語を話すようにだ。
するとおじさんはごく普通に返答を返してきた。
「おー、ここは築地っつーんだよ!いい魚あるぜぇ?!」