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  作者: 平丸
8/80

8話


少女を守った男が致命傷を受けて倒れてしまう


『奴隷さん!』


少女は奴隷の男の前へ座ると下位治癒魔法【活性】を唱える。


『【活性】っ!【活性】【活性】【活性】‼︎‼︎』


必死にそれも命を懸けて魔法を唱える。


彼女の魔法はお世辞にも上手いとは言えない。


そんな彼女が連続で絶え間無く魔法を唱えると直ぐに魔力が枯渇し死に直結してしまう事になる。


そしてそれは少女自身にも現れた。


『っ! はぁ…はぁ【活性】..』


彼女の顔に疲労が目に見えて分かる様になり顔に汗を垂らしながらも魔法を使用する。


しかし幾ら魔法を唱えても男に反応が見られない。


彼女自身そんな事は分かっていながらも唱え続けた。


命を懸けて守って貰った命をその相手の為に使うのに何かおかしな事があるのか、とでも思っているのだろう。


か細い腕を震わせながら男の傷口に当てて魔法を唱えようとする


『…【活っせ


『お嬢様、そんな薄汚い男になんか触れてはいけませんよ。』


彼女の背後から今一番出会いたく無い男に声を掛けられて腕を掴まれる、少女はその男の顔を怖くて顔を向ける事が出来ずにいると男の方が力づくで顔を向けさせた。



『どうしたのですか?お嬢様..いやシャノン』


『ひっ..いや!』


シャノンはレンの腕を払い退けると男の頰にうっすらと引っかき傷が浮んだ。


『痛っ…やれやれ今度こそは完全に調教して差し上げなければなりませんね』


『ち、調教?』


『ふふふ、では行きましょうか…調教部屋へ』


男は下卑た笑みを浮かべて彼女の腕に奴隷用の手枷をかける。


手枷を掛けられた瞬間に漸く自分が今から何をされるのかを理解した。


『ひぅっ』


掛けられた手枷は外す事は出来無かったが必死に男から少しでも離れようとこの場から逃げ出すと何故か誰も追っては来なかったので少し安堵していると知り合いの奴隷商と出会えた。


『レ、レンさんが…助けっ


『…そうですか、では行きましょうか』


少女が事情を説明しようとすると、目の前の男は何も聞こうとはせずに少女の細い腕を取ると進んでいた方向とは反対に向かって歩き出す。


『えっ、そっちは..』


少女も進んでいる方向が先程逃げた道である事に直ぐ気づき男に伝えるが反応を示さなかった。


『…』


男は唯、道をゆっくりとゆっくりと戻って行く。


『ま、待って!』


何か可笑しい事に気付いた少女は、男に声を掛けると、ピタッと動きが止まり首だけを捻って顔を見せた。


月が隠れていたからだろう、それまで何とも思わなかった男の顔には生気が見られず頰が痩けているのに気づく。



『大丈夫ですよ..お嬢様もきっと レン様の素晴らしさが分かりますから』


『ひっ..』


男は再びシャノンの腕を引いて歩き始めた。


『いや...待って!』


『……』


シャノンが幾ら訴えても男はゆらゆらと歩き続ける。





これ以降、彼女の声が男に届く事は無く主人の元へ戻った。



『よく、連れて戻してくれましたね。』


『…ありがとうございます。』


それだけいうと男は視線を少女へ向ける。


『そろそろ、本題に入りましょうか…シャノン貴女は私に一生を捧げる事を誓いますか?』


『…』


自分が此れからどうなるのか理解していたシャロンの責めてもの抵抗として、男に対して無反応を徹底しようとした。


それにより、男の言葉に反応を示さない少女を見てて徐々に苛立ちが増し始める結果となった。


『シャノン、何かいうことは無いのですか?』


『…』


『...おい、無視はいけないのでは?』


『……』


『………』


男が話しかけても彼女は反応を示さず無表情を続けると、直ぐに男は我慢の限界を迎え何かがキレた。


『俺がっ、話しかけてんだ ぞ 無視すんじゃねえ!

お前はいつもそうだ俺が話し掛けると嫌な顔しやがって‼︎』


男のヒステリックな叫びに少女がビクッと一瞬だけ反応を示したのを目にしたは男は嬉しそうに言葉を続けた。


『だから、俺はお前の…………意思を改竄するっ‼︎』


『!っ…』


彼女は連れ戻された男の事を思い出してしまう。


長い付き合いでは無いがいつも笑顔で彼女にも奴隷達にも真摯に接していた男の成れの果てを


そして自分が何をされどうなるのかを理解してしまった彼女に恐怖を隠し切る意思も力も無く男にもその事は理解していた。


『そうです、その顔が見たかったのです…やはり良いですねぇシャノンの表情は...美しい』


純度100パーセントの恐怖で引き攣った顔、それはいつも男を目にして又は触れられてする表情とは違い、両者とも彼女にとって良い感情の訳が無いのだが男には天と地ほどの差があったのだ。


『大丈夫ですよ、この時の為に入念な人体実験をしましたのでシャノンには完全なる調教をして差し上げましょう‼︎』


『じ...っけん?』


『はい、実験ですよ...皆さん此方へ』


男の言葉が闇に響くと背後から何人もの奴隷商達が沸き上がってくる。


『な、何で….』


少女の目の前には見知った奴隷商ばかり、件の男と敵対していた者、自分が抱えていた子分みたいな者そんな人間が連なっていた。


『だから言ってるじゃ無いですか実験ですよ、私に対して好感度が高い人間と低い人間それぞれでどの様にすれば効果的なのか…まぁ半分ぐらいは廃人ななりましたが彼等は代償となったのですよ。』


『廃..人っ 命を何て思ってるんですか!』


男の飛躍しすぎたその行動に一周回って怒りを覚えた彼女は遂に反論を返したが、それは男に追い打ちを掛ける起爆剤にしかならなかった。


『はぁ〜..シャノン、貴方がそれを言える訳が無いじゃないですか。』


『..何を言って


男の言葉に少女は戸惑いを持ってしまう、心当たりは無い筈だというのに何故か反論が口から出て来ることは無かった。


男はその答えを知っている様で楽しそうに告げる。


『貴女が着ているその服、今まで口にしていた食物、それら全ては彼みたいな奴隷達を売って手にした金じゃ無いですか。』


『だ、だから私達は売り手 を見つけるまで不快になら無い様にケアをして…』



『そのたったひと時の誤魔化しの後に彼がどうなるか分かってますか?』


『そ、それはきっと..購入された主人の元で衣食住を保証されながら生


『そんな訳が無いでしょう、今回運んでいる物など殆どがまともな主人の元に着くなんて本当にお思いで?』


男はつまらなそうな顔をして少女の言葉を遮り事実だけを述べた。


『今回運ばれている幼女は何処かの特殊性癖がある男に買われて壊れるまで犯されて捨てられるんじゃ無いんですかね?』



少女は、よく自分のペットと楽しそうに戯れていたツインテールの幼女は自分より6つは小さかった。


その幼女と何気無く一度だけ会話した時に語られた夢を思い出して理想と現実の圧倒的格差に目眩がし始める。


そしてその光景は男にとって甘美な物でしか無く興奮しながら続けた。


『そして、貴女は今一つの命を代償に無傷でいられてるのではありませんか。』



男は彼女を守る為に自ら傷ついた奴隷の方に視線を向

けると少女も自分が無傷で入られる理由を思い出してしまう。



『奴隷さんっ!!!』



少女は奴隷の男の元に走り状態を確認しようとするが止められてしまう。


『貴女が奴隷を置いて一人で逃げた時には、既に虫の息だったと言うのにもう...遅いですよ?』


『そ、そんな..』


少女は目の前の奴隷の男が自分の所為で瀕死の状態にあると言うのに見捨てて自分だけ逃げていた事に気づいてしまう。


その時

少女は気づいてしまう、自分が綺麗事しか言ってない事を..


少女は気づいてしまう、自分が他人の命を食い物にして生きている事に..


少女は気づいてしまった、自分が嫌いでで仕方なかった目の前の男と何一つ変わら無い事に...




『すっばぁ……らしい ♪』




自らが愛する女の絶対的で純然たる完全無欠な絶望に染まったその顔をさせた者が自分である事への優越感で絶頂に達っしたのか、カクカクと小刻みに体を震わせながら少女の前に立つ。


『シャノン、貴女は醜く臆病で最低な人間です....しかしそんな貴女に私はチャンスを差し上げましょう』


『チャ….ンス?』


男の言葉に少女は耳を傾けてしまう。


『ええ、チャンスです..貴女には今迄の罪を償う機会を与えて差し上げましょう』


『罪...償い?』


『ええ、そうです貴女がこの手を取りさえすれば貴女の望みが叶い救われるでしょう。』


『……』


少女の目に光が無くなり、目の前にいる男の言葉が全て正しい様に思える様になった。


"この手を取れば罪を償える、そして救われる"


その言葉が彼女の心にストンと落ちてしまった。


少女の手がゆっくりと男の手に近づいて行く、つい数刻まで自分で触れようとなど思わなかったその手に



『私は...貴方に一生を、捧 げ..』




男は血走った目で興奮しながら少女の言葉を待つが待っていた言葉を聞くことはなかった。







『そんな事する必要なんて無いですよ』






奴隷商の男と少女は、その声のする方向に反射的に目を向ける...そこには


『奴..隷さ ん?』


自分を守り死んだと思っていた男が立っていた、それは彼女のボロボロになった精神の崩壊を防ぐ最期の砦となる。


『お嬢様様、俺は貴女をここに来てからずっと見てました… それでも俺は貴女が醜くいなんて思った事は無いですよ』


その言葉に彼女は一瞬だけ気持ちが楽になる、しかし

奴隷商の言葉にもまた真実がある。


その罪の意識が心にへばり付いて離れてはくれ場にいる。


『...で、でも私は人の命をお金に換えて生きてました...その罪悪感は消えて無くらないんです。』


『確かにそうかもしれません、だけどこの男に着いて行く必要も無いんですよ。』


『あっ...』


少女の瞳に光を取り戻す、反対に奴隷商は焦りを感じ始めた。


『お、おい早く続きを言えよ!今なら..あ、あれだ優しくしてやれるぞ⁉︎』


奴隷商が必死に少女へ話しかけるが、もう耳を、傾ける事は無かった。


『大体どこの家に産まれるかなんて子供は選ぶ事が出来無いんですよ?考えても無駄ですよ..それでも罪の意識に駆られると言うのなら、貴女が悩んで悩み抜いた末に自分のできる事をすればいい…俺はそう思います。』


『わたしのできる事を..する。』


『はい...じゃあ逃げますか』


話は纏まった後は逃げるだけだ、そんな時にこの場で一人だけ納得いかずにいる人間がいた。


『そんな事させると思うか?この場には俺の見方が沢山いるんだぜ..お前ら男は殺せシャノンも少し痛めつけてやれ』


奴隷商が調教した人間達はのろのろとその命令に対し動き始める。


そして反対方向には奴隷商が呼んだ軍隊がいる、そんな状態に少女の唯一人の味方は不敵に笑い少女へ顔を向けた。


『例えどんな困難が待っていようと俺は貴女を護る盾になり、貴女へ害をなす人間を切り裂く剣となりましょう…さあ!お嬢様、貴女の奴隷めに御命令を。』


この普通に考えれば絶対絶命の状況だと言うのに少女は目の前で笑っている男が味方でいる限り何とでもなる、そんな風にさえ感じた。


彼女が今この場で自分に出来る事は、想いを込めて精一杯叫ぶ事だけだと言う事が分かっていたからこそ男の心へ届く様に叫んだ。


『助けて、下さーーーをっい!!』






『かしこまりました、お嬢様。』





そのやりとりの後、直ぐに奴隷商の叫び声が響き渡った。


『てめぇら、やっちまえぇぇぇっ!!』



『『『‼︎‼︎‼︎…………………………』』』


『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎‼︎‼︎』』』


奴隷商の群勢がたった一人の奴隷の男に向かって行くそれに対し男はたった一本の短剣を構えているだけだった。


誰がどう見ても結果が見えている、それなのに男の笑みが崩れる事は無い。


彼の目からは後ろにいる少女を絶対に護るという気迫がこもった強い意思を感じさせながらも、群勢達など目にはない様に何処か違うところを見つめていた。


群勢はそんな男の瞳に何かしらの恐怖を感じてしまうこれ以上近づいては危険だと本能が訴えていたのだ。


するとどうだろう、つい先程まで殺る気に満ちていた動きが止まってしまう。


『………………………ゴクッ』


誰かが呑み込んだ唾の音が響くようにさえ感じる程、沈黙が続く。


先に動いてしまえば負けると察した彼等はたった一人の男の動きをじっと見つめていた。


そんな折、男の瞳に一筋の光が煌いた。


男の覚悟が決まり此れから戦闘が始まるのだと思った瞬間に彼等の心が折れてしまう。


初めは数人のはずだったしかし恐怖は伝染する、それは味方の数多い程強く現れたのだ。


『お、おいお前が行けよ..』


『いやいやお前が行けって』


『ごくん…………………』


誰も動こうとはしない..イヤ、動く事が出来なかったのである。


彼等がそんなやり取りを続けていると、遂にあの男が動き出してしまう。


『引け、お前達程度では相手になら無いだろう』


『あ、あにき...たのんます』


『……………………(ぺこっ)』


群勢は一瞬で自分達のボスの言葉通り下がっていく。




男の言葉に軍勢が全員下がりだすのをみた奴隷商はヒステリックになりながらキレた。


『お前ら、何ビビってんだよ!使えねえなぁっっ‼︎』


奴隷商が調教して作り上げた味方を蹴りながら罵倒し

ていると男が目に余る光景から口を出した。


『おい、レン目障りだ..やめてやれ』


『な、なんだよ兄貴こんな使えねぇゴミどもなんかやられて当


『なら、お前が一人で立ち向かえ...その細腕で何が出来るかなんて知れてるけどな』


『じょ、冗談キツイっすよ兄貴ぃ』


『この俺が冗談なんて、言うと思うか?目障りだ消えろ..後は殺ってやるから』


『で、でも兄


『クドイぞ』


男の瞳に何か訳が分から無い物を感じてしまった奴隷商はこの場から去る事しか出来なかった。


『っち、いくぞ』


奴隷商の言葉に全ての軍勢がたった一人の男残して去って行く。


それは、奴隷にとって嬉しい状況であるはずだったのに冷汗が止まらずにいる。


『さて、待たせたな..殺り合おうぜ!!』


『……』


方や拳でまた一方は剣...これでは勝負が決まった様にも見えるが奴隷の男に油断は無かった。


それは一度遣り合って敗北したから..だけでは無く目の前の男から発している覇気の様なものからである。


油断できる状態では無かった。


『お前の剣と俺の拳どちらが強いか楽しみだ‼︎』


『っ……!』



こうして奴隷の男は初めての殺し合いを行うことになる。

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