7話 逃亡
逃亡を決意して幾星霜ついに雲が月を隠し、辺りを照らしていた月光も薄まり闇が深くはなったのと同時に動き出す。
『包帯はアホみたいに巻かれてるけどやっぱり夜になったら寒いなぁ… お、いいコートあるじゃん』
初めは直ぐにでも逃げようと思っていたのだが荷物を没収されていた事を思い出し取り返しに行ったのだがここに来るまで着ていた服だけ見つからない。
別に思い入れも無いので適当に隷商人のコートを拝借した事でがとれたのでいよいよ脱走しようと思っていたのだが小動物が俺を見つけて近寄ってきた。
『る〜』
『おい、静かにしてくれ』
『る〜♪』
駄目だ埒 があかない
そう判断した俺は奴を懐に入れて間の抜けた鳴き声が周りに響かない様に気を付けながら馬車から飛び降りた。
一応彼女のペットみたいな物なので少し悪い気はしたが背に腹は変えられない。
ごめんね、いつか返しに来るから
そう心に誓った後で現状を確認したが計画より進行が遅い事が分かったので焦りながら町へ駆け出す...
瞬間に誰かへ話しかけられてしまう。
『こ.こんな所で な、何 をして いるんですかぁ ?』
彼女だった。
俺は反射的に声のする方向に顔を向けてると視線の先には当然彼女がいた。
早く逃げなければならない事ぐらい分かっているのだけど自分自信の何処かで彼女の声をもっと聞きたい、彼女の顔を見ていたい。
失恋した事は分かっていた筈なのに未練たらしく動く事が出来なかった。
そんな自分が嫌になって来る…はやく逃げよう。
俺は自分の頬を叩き、景気の良い音を聞きながら喝を入れ直し今自分がするべき事はこの場を誤魔化す事だと思い必死に言い訳を考えていると向こうの方から話しかけられてしまう。
『逃げよう...として、いた んですか?』
まずいっ、ばれた。
直ぐに仲間を呼ばれてしまうと 彼女への思いを纏めて思考の片隅に投げ捨て逃げ出したら瞬間に言われた言葉に思考と足がとまってしまう。
『私も 、連れ..て行っ...て.くだ..さい』
…えっ、今なんて言った気のせいだよね?
彼女がそんな事言うわけ...
『私も...連れて行って下さい!』
マジやないですか。
あそこまではっきり言われたら聞き間違う事も出来無い彼女は本当に自分も一緒に連れて行ってくれと言っていた。
彼女が何を言っているかは理解できたが疑問が一つ生まれる。
何故一緒に行きたいと言っているのかと。
しかし考えても分かる物では無いので聞く事にする。
『あの、それって どうい』
『レ..レンさんがっ、』
『…レンさんって』
彼女は何故か焦っていた、そして更に疑問に思う
【レン】 とは一体だれだったかと。
その疑問は直ぐに解消される、レンという人間は目の前にいる娘の彼氏であり俺が夜逃げしようと決心した原因を作った男だ。
しかしその男が一体どうしたというのだ、そう一瞬思ったが彼女の表情から状況を理解する事が出来た。
この焦っている彼女とレンという奴隷商人の名前をだけを出すと言う状況、つまり誰かに追われているのだと。
なら誰に追われているか?
簡単だ 彼女の親は有名な奴隷商なのだいくらでも人に話せない様な事をしていた筈だ、きっと誰かに怨みを買っていたのだろう。
俺は彼女の状況を理解したので、これ以上何も聞かずに一緒に逃げる事にした。
『あのー..すいません、お嬢さん何処か良い逃げ場とかお知りになられたりしないでしょうか?』
『ぜ..絶対 に大丈夫、 とは言えないですが 町まで 逃げ切れば 大 丈夫だと思います。』
『なるほどそうですか、なら町へ急ぎましょう。』
必要な会話だけをして俺たち二人は街へ走り出した。
二人で走って町へ急いでいる途中、二人で夜逃げしている事に気がつき 胸がドキドキしてしまう。
中々無いシチュエーションだよな今の状況って
ふと彼女の方へ顔を向けると更に意識してしまう。
"夜に月光に照らされて二人で歩きたいな"
少し違うけど自分の望みが叶っている事に俺は気がついた。
実らない恋だけど此れは良い思い出だ。
そんな事を考えている自分が本当に情けなくて嫌になる。
今の心の疼きからこの想いを本当に終わりを示さなければ永遠に引きずってしまう..このままじゃ絶対に駄目だ
…決めた。
町まで無事に連れて行ってあげよう、彼女とレンの幸せを願って。
そして二人の幸せな顔を遠くから目にした時にこの恋に終わりを告げるだろう。
そう 決意を新たにした所でその調子を壊すかの様に邪魔が入った。
『ル〜』
..そういえばこの小動物もいたのかと気づき彼女に返そうと小動物の首根っこを掴んだのだが急に暴れて手から離れ逃げていく。
こんな森の中で目を離せば見つける事が出来ないと俺は捕まえようとするのだが俺の手を躱し町とは反対の方向へいってしまう。
『おいっ!、ちょっと待っ
『ルーちゃんっ!』
彼女が小動物を追い掛けていく、
…目的地から離れて行ってるんですけど
何て言える訳がなく彼女を追いかけに行った。
『もう 、ルーちゃん どこ行こうとしてたの?』
数分小動物を追い掛けていると彼女がようやく捕まえたようで 少し怒りながら言い聞かせる。
『ルー』
それに返事をしてるのか間の抜けた声が聞こえるので
少し腹が立ったがまあ仕方無いかと小動物を抱いた彼女を見ていると遠くから話し声が聞こえてきた。
『オイッ、" ........ "が逃げたらしいぞ!』
『直ぐに探せ‼︎ まだ近くにいる筈だ』
まずいっ...ばれた
俺は彼女を後ろから抱き上げると急いで走り出した。
『わ、ど うしたんです、か⁉︎』
『ばれたようです 早く町まで行きましょう。』
『えっ!?』
『ルー♪ルー♪』
俺はこれ以上ない程に焦っているというのに小動物は楽しそうにはしゃいでいて少しイラッと来ながらも速度を上げて走る。
クソ、小動物 覚えとけよ。
ばれない様に道から外れた森を走っていると徐々に木々が減っていき遂に森が終わるその先で多くの人工物が目に入った。
『ん?』
俺はその人工物に何故か疑問を持ってしまい念の為と一度止まり彼女を降ろしてからゆっくりと森の終わりに近づいていった。
『どうしたんですか?急に止まって』
『すいません、ちょっと気になる事がありまして念の為ゆっくりと近づいているんです…お嬢様も慎重にお願いします』
彼女も何かを察したのだろう顔に緊張感を漂せながら首だけを縦に振っている。
俺たち二人はゆっくりと近づいていった。
もうすぐ町に着く筈だがら その標識だったり外から攻めてくるモンスターの監視塔などといったものなのかもしれないが少し違和感を感じる。
…気のせいだったら良いのだがと思いながらも油断せず一歩 一歩音を立てない様、慎重に近づいていくと信じられないものを目にした。
『…』
『…』
俺たちの視線の先には百人程の武装した群勢がいた。
それだけならまだモンスター退治だと思えるかもしれないが明らかに違う事がわかってしまう。
その集団に線の細い人間などは一人足りとも居らず、全ての男達に共通して鍛え抜かれた鋼の肉体を携え彼らの月明かりで反射して時たま光る眼光は重く鎮んでいる。
彼らが一体どれ程の修羅場を潜ればそうなるのか、奴隷の男には見当がつかない。
そしてまだそれだけでは無かった。
戦闘にいる男から発せられている覇気の様な物が彼を恐れさせる 。
その男は群勢の中では其処まで身体は大きくなく、硬そうな革ジャンを着ているがそれでも上半身は筋肉の隆起が分かるほど鍛えられていて "なんか強そう" と、見た目からはその程度にしか感じられない筈だというのに動く事が出来なかった。
男は、魔法で周囲を威嚇している訳でも無く唯立っているだけだというのに、周囲にそれと似た何かを撒き散らしていた。
その光景はよく剣術と名ばかりのチャンバラで親父と遊んでいた時に出していた物に似ていると奴隷の男は感じた。
しかしいつも思うが何なんだよあのプレッシャー.....魔力を撒き散らしているとか親父は言ってたけどそれ以外にも絶対に何か他の物も一緒に周囲に放出している。
もしかしたらあれを気と呼ぶのかも知れないけど気っていう物は恐いな。
ここにいるだけでプレッシャーでお腹痛いんだけど..
それよりもさっさとこんな所離れないと危険すぎる、引き返すか ...でも後ろからは追手が来ているしなぁ...
少し考えた結果やっぱり道を変えた方がいいと結論づけた。
『お嬢様、ここは危険です。別
『…おい、さっきからそこにいるのは誰だ』
気がついた時には男が手を横に振るっていた。
最初は何をしているのだと思っていたがこれは..攻撃だ
俺は彼女を担ぎながら横へ思いきり飛ぶ。
初めは飛びすぎたかとも思っていたが丁度良かった着地点の目前スレスレまで木々が切り裂かれている。
なんだよこのふざけた技は!どういう仕組みだよ!
理由を考え様としても向こうはその暇を与えては来れない。
男は 二度、三度と続けて攻撃してくる
時には二発同時でまた時には三発連続でそれに何とか対応して彼女を担ぎながらしばらく避けている内に気がついてしまう、これが...
陽動だという事に
『...っ! お嬢様これを着て‼︎』
『ヒッ...は、 はいっ‼︎』
俺は暖房対策で着ていた男物のコートを彼女に被せる
こんな事をしたのには理由がある。
何でそんなことしたかって?
それは
『いい加減、顔を見せろ』
男が言葉を発したと同時に衝撃波が周りの木々を切り裂きながら襲い掛かり俺の身体を斬り裂かれ大量の血がふきだした。
『グッ!!』
イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイッ‼︎
だがそれだけだ、それよりも大事な目的を達成できたかを確認する為に軋む体を動かして背後へ隠した彼女を目にする。
『…ああ よかったぁ、綺麗なままだ...』
俺の目的は彼女が傷つかないようにすることだったのだから。
『ほう、俺の攻撃を喰らってもまだ立って居られるか』
男はそう楽しそうに笑い俺の目の前に立っている。
俺は血だらけの体に鞭を打ち男と対峙しようと思ったのだがどうしても力が入らず意識が遠くなり倒れてしまう。
『うっ、』
『大丈夫ですかっ‼︎』
お嬢様が心配して話しかけて来るが返事を返す気力が出ない。
だけど一つ伝えなければならない事がある事を思い出し気合いで言葉を紡ぐ
『お嬢様...にげ て』
それだけ伝えると俺は遂に限界を迎えて意識を手放し
たのだった。