第5話
「やだ!ゴキブリ!」
「違う、コオロギだ!」
「どっちでも気持ち悪いのは一緒!早く捕まえて!!」
バオの宿屋のロビーにて。
リンコとベガルだ。また騒ぎになっている。
「朝からどうしたのー?」
とケイトが聞く。
「ベガルがスズメの餌にするはずだったコオロギを逃したんだ。」
ディークが自分の武器であるレイピアを磨きながら答えた。
「またですか。」
とアラン。
「そういえばディークさんは、何かペットは飼っていないのですか?」
「いるよ。」
「え!?何を飼ってるの?」
「ハムスター。」
『青い水晶の洞窟で奥に生えている光るキノコを採ってきて下さい
1回のみで1ゴールド。50個お願いします。』
クエスト掲示板にこんなクエストがあった。
ケイトは手に持ったクエストを見て言う。
「いいねー。キノコなら逃げないから採るの楽そうだし。」
「ナイフが必要ですね。
ロングソードでは切りにくそうです。」
「商人広場でナイフ買ってから行けばいいんじゃないかなー。」
「あれば便利そうですし、そうする事にしましょうか。」
2人は商人広場でナイフを探す。
「ねー。シルバーナイフって高いけど、何につかうのかな?」
ケイトが5ゴールドもする銀製のナイフを見て呟いた。
「銀は魔物除けになるって言いますし、殺菌効果もあるんじゃないでしょうか。
魔物を自分で捌ける人に需要があるのかもしれません。」
「ふーん。」
「あ、すみません。」
「ううん、気にしないでいいよー。
ボクのこと人間扱いしてくれるの好きだからさ。」
「・・・ケイトさんは銀は平気なんですか?」
「うん、何もないよ。シルバー普通に触ってるし。」
「何か苦手なものは、無いのですか?」
「無いと思うよ!」
「すごいですね。」
「へへーん!すごいでしょ!」
「2人とも、買うの?買わないの?」
店の人がイライラしている。
「すみません。」
2人はとりあえず折りたたみ式のナイフを買うことにした。
1つで32シルバーだった。
「じゃ、水晶の洞窟へ行こう!」
青い水晶洞窟へは乗り合い馬車で向かう事になった。
5分くらい乗って1駅移動する。
「片道2シルバーみたいだねー。1ゴールド÷2人で50シルバーでしょ。
それを32シルバーと4シルバーで36シルバー分引くと24シルバーかー。」
「ケイトさん、14シルバーです。」
「な、なんだって!?」
耳がピーンとなったケイト。
「少なすぎるよー。」
「田園にある物は管理している人の物ですが水晶洞窟からならば
自由に物が持ってこれますから、なにか売れば収入になります。」
「そっかー。なるほどね!」
「キノコを少し多めに採る事にしましょうか。」
「そうだね。」
「しかし、馬車は便利ですね。」
「もう着くみたいだねー。」
「あ、ケイトさん。大事なこと忘れていました。」
「ええ?何を忘れたの?」
「キノコをどうやって運ぶのか考えていませんでした。」
「あ、あはは。・・・どうしようかー。」
「何か袋を持っていませんか?」
「えーと。」
ケイトは肩掛けカバンの中身を見てみる。
「あったよ!丁度良いの!」
今着ている探検家のような服を買ったときに、その服が入っていた袋だ。
駅から洞窟までは近い。2人はテクテク歩いていく。
「ねー、コバルトフラワーがいっぱい生えてる!」
「コバルト・・・フラワ―?」
群青色の花をした、タンポポに似た植物が確かに沢山生えている。
「ボクお花好きなんだ!」
「そうなんですか。」
「あれはね、染料になるんだよー。」
「詳しいですね。」
青い水晶の洞窟に着いた。
青黒い岩壁に、ぽっかり開いた入り口。
中は青い発光水晶がぼんやり明かりをともしており、松明は不要そうだ。
「よーし、キノコ見つけるよ!」
「はいっ。」
~15分後~
「あ、あれだ!光るキノコ!」
「ありましたね。」
白っぽく光るキノコの群生を見つけた。
早速2人はキノコを採る事にした。
「意外と硬いねー。」
「ああっ!」
「何!?アランどうしたの!?」
「手を切ってしまいました。」
「!?」
アランの左手の親指に切り傷が出来ている。
「わ!?わ!?どうしよう!!」
「大丈夫です、ケイトさん。これがありますから。」
アランはカバンから治療薬を取り出した。
そして瓶のフタを開けて、傷に液体をかけた。
みるみるうちに傷がふさがり、キレイに治ってしまった。
「ほ。もう、ビックリしたよー。」
「すみません。」
「・・・大丈夫なら早くキノコ採ろう。」
赤いレンガの小路。
「うん、大きくて質の良いキノコだね。
これで沢山ケミカルライトを作れるよ、ありがとう。」
黒いベストを着た中年の男性は言った。
「ケミカルライトとは?」
アランは依頼人に聞いた。
「暗い洞窟の中を探索する時の必需品だよ。
前に作った分があるから、お礼に特別に分けてあげるね。」
ケイトが2本のライトを受け取った。
「わー!良い物もらっちゃった。どうもありがとう!」
「それと1ゴールドをどうぞ。
また機会があったらよろしくね。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します。」
アランはお辞儀をした。
「あ、アランとケイトじゃないか。」
2人の後ろから声がした。
「ベガルさん!」
振り返ったアランは、手にコバルトフラワーの束を持っている。
「水晶洞窟に行ったのか?」
「そうだよ、光るキノコとか、コバルトフラワーとか採ってきたよ。」
「オレはいらないかな。」
「そういえば、コオロギは見つかったんですか?」
「うん、無事に見つけたから心配いらないな。」
「良かったですね。・・・ところでここへは何をしに?」
「ダイダイナッツを依頼者に届けに来たんだ。」
「ダイダイナッツ!知ってるよボク。
キンイロスナトカゲの革をなめすのに使うんだよね?」
「そうらしいな。」
「そうなんですか。」
「うん。キレイな黄金を保つのに、一番良い方法なんだって。」
「洞窟の中にハリーをつれていくと見失っちゃう!今日は散々だった!」
リンコのハリーは真っ黒な体をしている。
暗い洞窟に溶け込んでしまうのだ。
「うーん、どうしよ。・・・・・・あ、皆おかえり。」
アラン、ケイト、ベガルがロビーに入ってきたのを見て言った。
「あの、リンコさん。光るキノコは要りませんか?」
「光る!?あ、良い事思いついた!」
「・・・もしかしてさ、買ってくれるの?」
ケイトの耳がピクピクしている。
「物々交換でも良い?」
「物にもよりますが良いですよ。」
「じゃあ、これは?」
そういって丈夫そうなロープを差し出した。
「いいねいいね。使えそう!」
「交渉成立!どうもありがと!」
「こちらこそ。・・・ところで、そのキノコはどうするんですか?」
「ハリーに新しい首輪を作る。光る首輪!」
「皆帰ってきてるのね。」
ランランが帰ってきた。
肩にイノシシを担いで。
「うわー!すごーい!!」
ケイトが、はしゃいでいる。
「あらケイト。焼肉食べる?」
「食べる食べる!」
「その代わりに、何か交換できる物は無いのかしら?」
「これはどうですか。」
アランは手に持ったコバルトフラワーを見せた。
「これってインクの材料になるわよね?毒薬のレシピを
ノートにまとめてるんだけどインク切らしちゃって。助かるわ。」
「交渉成立!やったね!」
「あ、でもその束全部は、いらないわ。半分くれたらでいいから。」
「うーん、では残りはどうしましょうか。」
「とりあえず焼肉!焼肉!」
「焼肉なら外でやって下さいね。」
受付のマリーが言った。
じゅ~、じゅ~。
宿屋の外の庭で焼肉をしている一同。
「たまには、がっつり食べたいよね。」
ディークも加わっている。
「ディークさん、コバルトフラワー要りませんか?」
「コバルトフラワー?着色料になるやつ?」
「そうみたいですが。」
「治療薬の着色は、コバルトフラワーを使っているらしいよ。
薬屋に持っていけば買い取ってもらえるんじゃないかと思うよ。」
「あ、良い情報ありがとうございます。」
「良い情報なら、お礼で、何かないのかなぁ?」
ニヤリとするディーク。
「え、ええ?」
ハムスターの餌なら良いのだろうか?