第25話
朝7時の商人広場。
「いらっしゃい!安いよ安いよ~。」
1人の客が武器屋の前で立ち止まる。
「お客さん、どんな装備をお探しで・・・。」
立ち止まった客を見る店主。
「うわああああああ!!」
店主は、自分にソックリな人間が目の前に立っていたので悲鳴をあげた。
クルッと向きを変え、ソックリな人間は去っていった。
ディークは新聞を読んで、食事が出来上がるのを待っていた。
「面白い記事はあった?」
隣に座っているレミ・ファがディークに尋ねる。
「そうだなぁ。『人工魔法生物が研究施設から逃げ出す』
というのは、なかなか気になる記事だったよ。」
新聞を折り、その記事をレミに見せる。
「えーと。『魔法生物研究所から1匹の人工生物が逃げ出した事がわかった』」
レミが読み上げる。
「『逃げ出したのは人のモノマネをするのが得意なドッペルという生物で
逃げ出した事に気がついた研究員がすぐ探したものの
別の研究員に化けて施設の外に出てしまったという』」
シド・ファも記事を覗き込む。
「『研究目的の生物の為、力は弱く一般の人に
危害を加えるような事は無い、との事』」
「危険は無さそうだけど、もし自分にソックリの人間が目の前に現れたら
驚くだろうなぁ、と思ってね。」
そう言うとディークは席を立ち、食事を受け取りに行った。
レミとシドが顔を見合わせる。
「僕かレミのどちらかに化けたら、ソックリなのが3人になるね~。」
「うわぁ、見てみたいような気がする!」
緑の森。アランとケイト。
「『緑の森で、森ドングリを採ってきてほしい』ですね。」
アランはクエストを読み上げる。
「ドングリー♪ドングリー♪ルンルン♪」
ケイトはゴキゲンだ。
「楽しそうですね。」
「だってドングリってかわいいでしょ。ボク、ドングリ好きなんだー。」
「あ、1個見つけた!」
ケイトが地面を指差す。
「あ、こっちにもありますよ!」
「この辺いっぱい落ちてるねー。」
「1、2・・・15個もありました。」
しゃがんでドングリを拾っていたアランが立ち上がる。
「この調子なら、すぐに集まりますね。」
振り返るアラン。しかしさっきまで一緒に居たはずのケイトが居ない。
「あれ、ケイトさん?」
「ケイトさーん、どこですかー?」
ケイトとアランは、ドングリを袋いっぱいに持って
赤いレンガの小路へ向かっている。
「いっぱい採れたねー。」
「・・・・・・。」
「これはクヌギのでしょ。でこっちはコナラ。」
「・・・・・・。」
「あれ!?クリが入ってる!?ボク拾ってないから、アランが拾ったんだね!」
「・・・・・・。」
「なんかさ。アラン静かだね。どうしたの?」
「どうもしない。」
アランが言った。
「そうかなー。ちょっとおかしい気がするんだけど。」
「気のせいだ。」
「あ、わかった。また風邪ひいたんだよ、きっと。それで元気無いんじゃない?」
「・・・・・・。」
「風邪ひいたんならさ、早く宿に戻ったほうがいいね。」
「あれ、アランじゃないか?なんで1人なんだ?」
商人広場の前でベガルがアランに言った。
「ケイトさんと、はぐれてしまいまして。」
「そうなのか?」
「いくら周りを探しても、見当たらなくて
もう宿に帰ってしまったのかと思い、戻ってきたんです。」
「ふーん、まあケイトに会ったらアランが探してたって伝えておこう。」
「お願いしますね。」
商人広場の中に入っていくベガル。
目の前にケイトとアランが居た。
「宿に戻る前に、風邪薬買ってこ!アラン!」
「心配ない。」
「どうしてさ。絶対今日のアラン変だよ!?」
「アラン!?あれ、さっき宿の方へ行ったんじゃなかったか!?」
目を丸くするベガル。
「あー、ベガル!ね、ベガルも薬が必要だと思うよね?」
「薬?」
「アランが風邪ひいたみたいだからさ、薬買おうって言ってるのに
要らないって言うんだよー。」
「・・・要らないって本人が言うなら、良いんじゃないか?」
「そうだ。」
「なんかアラン変だな。」
「そうなのか?」
「言葉遣いがおかしい気がする。もっといつも丁寧だよな。」
「いいえ、気のせいだと思います。」
にっこりして、アランは言った。
ケイトとアランとベガルの3人が、宿に入った。
「お客様、おかえりなさいませ。」
マリーがアランを見て驚く。
「ケタブリル様は先程、お部屋に行かれたような・・・気のせいかな?」
思わず素に戻るマリー。
丁度、上の階からアランが降りてきた。
「ひええええええ!?アランが2人!?」
「どうしたんですか?そんな大きな声を出し・・・うわわわわわわ!?」
アラン自身も、相当ビックリしている。
「・・・・・・。」
ケイトと一緒に居た偽アランが、ゴクッとつばを飲んだ。
「あれは!?私のニセモノです!捕まえて下さい!」
偽アランが叫んだ。
「え?私は本物のアラン・ケタブリルですよ?」
ニセモノと言われてキョトンとする本物アラン。
「私が本物の、アラン・ケタブリルです!」
「いいえ、私です。私が本物なんです。」
そう言って、アランは腕につけている
キンイロスナトカゲの腕輪をその場に居る皆に見せる。
「私もあります。」
もう1人のアランが、やはり同じ腕輪を見せる。
「わ、私こそ本物です!!」
「いいえ、私です!!」
「あーもう、どっちが本物か、わかんないよー!!」
ケイトが頭を抱える。
ベガルは目の前で起きている事を、整理するのに一杯一杯で、全く喋れない。
事務室に駆け込んだマリーが非常ベルのスイッチを押した。
そしてスピーカーで館内放送をする。
「1階ロビーに、モノマネ生物ドッペルが現れました。
危険かもしれませんので、皆様自室へお戻り下さい。」
マリーが、そんな放送をしたものだから、かえって野次馬が集まり始めた。
「うわぁ、アランが2人居る!?」
「すごいな、見分けつかないよ。」
「わたしにも見せて!」
ワイワイガヤガヤとロビーに人が集まってきた。
「これが、ドッペルだね。どっちが本物かわからないけど
捕まえて研究所に送らないといけないね。」
ディークが腕組みして言った。
「捕まえる!?」
アランが叫んだ。
「私は本物ですよ!?」
「暴れないように麻酔を打ったほうがいいかもしれないわね。」
ランランが吹き矢を構えた。
「ええええええ!ランランさん、止めてください!!」
「ランランさん!それだけは止めて下さい!!」
2人のアランが叫ぶ。
「本物のアランには悪いけど、ガマンしてね・・・。」
矢を吹こうとするランラン。
「ちょっとまって!!」
「え?」
ベールをつけたムーエ・カリナがランランに耳打ちする。
「本当?」
「間違いないわ。」
ランランは、よく狙いを定めて、向かって左のアランに矢を吹いた。
パタッと倒れるアラン。
フニュフニュと形を変え、白い粘土のような物体になった。
適当な袋に、ドッペルを入れて口を結ぶ。
マリーが研究所に送る手配をしてくれる事になった。
「ふう、ランランさんが私に吹き矢を向けた時には、どうなるかと思いました。」
アランは、気が抜けてロビーの椅子に座り込んでしまった。
「ごめんねアラン。ボク全然気が付かなかった。」
ケイトがしょんぼりして言った。
「すごい光景だったな。
広場の前で会ったのが本物だったのか。それで次に会ったのが・・・。」
ベガルは眉間にシワを寄せて、まだ考え込んでいる。
「新聞を読んでいたら、すぐ気がついただろうけどね。」
ディークが苦笑いしながら言った。
「それにしても、ランランすごいね。どっちが本物か見破るなんてさ!」
ケイトがピョンピョンしながら言う。
「それは違うわ。あたしじゃなくてムーエよ。」
「ムーエ?」
聞き返すケイト。
「ムーエが教えてくれなかったら
本物のアランに、まず吹いちゃうところだったわ。」
笑いながら、ランランが言った。
「笑い事じゃ、ありませんよ。」
しら~っとしているアラン。
ムーエがアラン達に近づいて来た。
「この子か、ムーエって!」
ケイトが耳をピクッとさせる。
「ムーエ、なんで本物のアランがわかったのかしら?」
ランランがムーエに尋ねる。
「あの、その・・・。」
モジモジするムーエ。ランランに、また耳打ちする。
「そう、そういう事だったの。」
コクっとうなずくムーエ。
「何!?どうしてわかったの!?」
「これは皆に言わないほうが良いのかしら?」
「お願い。黙っていて。」
赤くなってムーエは言った。
「えー何々!?気になるよー。」
「乙女の秘密よ。」
イタズラっぽく笑うランラン。
「えー男の子には内緒なの!?何それ!?」
「え?この子男の子なの!?」
驚くムーエ。
「うん、間違えられる事多いけど、ボクそうだよ。」
ケイトは言った。
「そうだったの。」
ホッとして笑うムーエ。
ムーエの表情を見て、ディークは察した。
「ケイト、ベガル、行こう。ドッペル運ぶの手伝ってくれ。」
「え?何で急に?」
「何でだ?」
「わからないなら、わからないでいいから、早くこっちに来るんだ。」
右手にケイト、左手にベガルを掴んでディークはその場を離れていった。
「じゃ、あたしも行くわね。」
ランランが階段へ向かう。
「え、ええ?」
ロビーには、アランとムーエの2人だけになった。
どうしよう、とモジモジするムーエ。
「ムーエさん。」
アランが話しかける。
「あ、えっと。なあに?」
「どうして私が本物だとわかったのか、気になります。教えてもらえませんか?」
「え、その・・・。」
しばしの沈黙。
「あのね。」
ムーエが口を開いた。
「はい。」
「目の色。ニセモノは、緑じゃ無かったの。」
恥ずかしくなったムーエは走って上の階に行ってしまった。
「あ、ムーエさん!?・・・・・・なぜ行ってしまったんでしょうか。」
全く気がついていないアランであった。




