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第23話

アランは朝5時に目が覚めた。



体を起こす。


すると、昨日の夜読んでいた『ゴブリンの生態』というタイトルの本が

床にドサッと音を立てて落ちた。



まだ朝食には早いし、もう一眠りしようと思ったアランは、また横になった。






「きゃああああああ!!」


宿の外から、誰かの悲鳴が聞こえたので、アランは飛び起きた。



何事だろう。声は女の子っぽかった気がする。


いつもの綿のシャツと革のパンツを履き、部屋を飛び出した。






宿のロビーまで降りてくると、夜勤の男性従業員が

さすまたを持って事務室から出てきたところだった。


「何事ですか?」

アランが尋ねる。


「わかりません、庭からだと思います。」

従業員は答えた。



アランと従業員は、一緒に庭に出ていった。


そこに居たのは、ベールをつけた女の子。



「大丈夫ですか?」

従業員が女の子に声をかける。


「うん、大丈夫。びっくりしただけ。」

女の子が答える。



アランは、誰だろう?と思った。

この宿の宿泊者だろうか。



「何があったのですか?ムーエ・カリナ様。」

従業員は、さすまたを構えるのを止めた。


「オカリナを小さな魔物が持って行っちゃった。」


「オカリナが盗まれたのですか?」


「そういう事。」



「それは、どんな見た目の魔物でしたか?」


「角が生えていて、耳がとんがっていた。

 毛がいっぱい生えてて山羊みたいだった。」



それを聞いてアランは、思い当たる事があった。

特徴がパーンに似ている。ナオはパンフルートを持っていた。


「あの、横からすみません。その山羊のような魔物は、白い毛でしたか?」


「違うわ。真っ黒だった。」

そう女の子は言うと、視線をアランの方へ向けた。



ハッとする女の子。


「もしかして・・・。アラン・・・くん?」


「え?」

急に名前を呼ばれたのでキョトンとするアラン。


「あ、アラン・ケタブリルです。」

慌ててお辞儀をする。



「お怪我はありませんか?お客様。」

従業員がムーエに確認する。


「大丈夫。ありがとう。」






ロビーに入るアランとムーエと従業員。従業員はそのまま事務室へ入っていった。



「朝早くから、庭で何をしていたんですか?」

アランは聞いてみた。


「昨日、モンスターから、オカリナを拾ったの。

 試しに吹いてみようと思って外に出たら、魔物が草陰から現れて。」


「そうなんですか。」


「小さな魔物だったから、まだ子供だと思うんだけど。」


「その魔物、もしかしてパーンでは?」


「パーン?」


アランは、自分がパーンの村を知っている事と

そこに知り合いが居ることを話した。


「今から、そこに行ってオカリナを盗んだ者が居ないか確かめてきますよ。」


「・・・・・・。」

ムーエは黙っている。


「あの・・・?」


「わたしも、ついて行っていい?」






アランとムーエは緑の森のパーンの村に来た。


ナオの家が見える。



「もしかして、まだ寝ているかもしれませんね。」


「・・・・・・。」

ムーエが、ふらふらと別の方向へ歩いて行く。


「あ、そっちじゃありませんよ!」


「シィー!」

口に指を当て静かにしてほしいとジェスチャーをするムーエ。



「ヒソヒソ(何か聞こえるでしょ)」


音はパンフルートの物では無い。きっとオカリナの音だ。


「ヒソヒソ(行ってみましょう)」



音のする方向へ2人は歩いていった。

だんだんと音が、はっきり聞こえるようになっていく。



「あ!わたしのオカリナ!」

ムーエが叫んだ。


銀色のオカリナを持った1人のパーンが立っている。毛がカラスのように黒い。


「あの、そのオカリナ。返してもらえませんか?」

アランがパーンに声をかける。


「これは、僕のだ。」

黒いパーンは言った。


「違うわ。間違いなく私が昨日拾ったオカリナ。」



ミー♪ソー♪

オカリナを吹く黒いパーン。


「あ、なんだか足が勝手に・・・。」

アランの足がピョコピョコ動いた。


ファー♪ラー♪

また、オカリナを吹くパーン。


「あ、わたしも勝手に・・・。」

ムーエの足も動き出した。



「帰って。」

そう言うとパーンは、不思議なメロディーを奏で始めた。


2人の足が勝手に動いて、どんどんパーンとの距離が離れていく。


「わ、わわわ。」

慌てるアラン。


「わたしが見つけたオカリナなのよ!」


抵抗しようと試みるが、無駄だった。



「ネーロ!何やってるんだ!?」

ナオの声がした。


ネーロ、と呼ばれた黒いパーンはオカリナを吹くのを止めた。


「アラン、どうしてここに居るんだい?」


アランは事情を説明する。


ムーエが手に入れたオカリナをネーロが持っていってしまった事。

だから取り返しに来た事など。



「なるほどね。」


ナオは白いマフラーを撫でながらうなずいた。


「ネーロは口が下手だから、僕が説明するよ。

 あのね、あのオカリナは本当にネーロの物なんだ。」



「え!?」

ムーエは驚く。


「どういう事なんですか?」

アランも聞き直す。


「元々ネーロの持ってた笛なんだけど、モンスターに奪われちゃったんだよ。

 キャラメルスライムにさ。」


「確かに、わたしが倒したのはキャラメルスライムだったわ。」


「そんなのが居るんですか。」



「ネーロは、自分で取り返すのは怖いから

 誰かが退治してくれるのを待ってたんだと思う。」


うなずくネーロ。


「そういう訳だから、申し訳ないんだけど、オカリナは返せない。

 そうネーロは言いたいんだと思うよ。」


「なるほど。」


「それじゃ、仕方ないわ。」

ムーエも納得したようだ。



「無理やり、持っていったのは、悪かった。ごめん。」

ネーロが謝った。


「代わりに渡せるものは無いから、これをあげる。」

オカリナを吹くネーロ。



ドー♪ミー♪ファー♪ソー♪


「え?」

アランの体が動き始めた。


ファー♪ラー♪シー♪ドー♪


「ええ?」

ムーエの体も動き始めた。



音に合わせて2人が踊る。

正確には、踊らされているのだが、なかなか楽しい。


しばらく踊った後2人は森を出た。






「それにしても、面白かったですね。」

アランが、にっこりしながらムーエに言った。


「そうね。不思議だった。」

ムーエも、つられて、にっこりする。



「ねぇ、アランくん?」


「なんでしょうか。」


「アランくんって・・・その・・・。」

急にモジモジするムーエ。



「・・・・・・?」


「えっと、・・・だから・・・その・・・。」



「アーラーン!!どこ行ってたの!?もー!?」


ケイトが正面から走ってきた。

ほっぺを膨らませて怒っている。



「あ、すみません。緑の森まで行っていました。」

アランは、にっこりして言う。


「書き置きくらい残していってよ!まったくもー。

 ・・・何ニコニコしてるの!?なんか良い事あったの!?」


「実はですね・・・て、あれ!?」



ムーエの目に涙があった。


「え!?何、アラン女の子泣かせちゃだめだよ!?」

ケイトがムーエの顔を覗き込む。


「あ、あのどうしたんですか。」

慌てるアラン。



「大丈夫。何でもない。」

涙をポタポタ流しながらムーエは言った。


「何でもないようには見えないよ?」

心配そうなケイト。



「ホントに何でもないの。ほっといて。」

そう言うとムーエは宿の方へ走っていってしまった。



「どうしたんでしょうか?」

アランは首をかしげる。


「アランがわかんないんだから、ボクはもっとわかんないよ。」

ムーエの行った方を見つめてケイトは言った。






アランとケイトの前から立ち去ったムーエ。



「アランくん、あんな可愛い女の子と一緒に居るなんて・・・。」

ショックを受けているムーエであった。

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