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永劫に愛してます旦那様

作者: 橘 月菜

短いお話ですがどうぞよろしくお願いします。

 学生時代に、俺はとあるゲームをしていた。


 携帯ゲーム機のソフトで、女神候補の女の子と不思議な窓のある部屋で日常を過ごすゲームだ。

 日常だけじゃなく、時には部屋の外の世界に冒険したりして遊べたりも出来る。


 主人公は別の世界の人と言う設定で不思議な窓を通して、女の子とコミュニケーションしながら日常や冒険を楽しめ!と言うゲームソフトだ。


 着せ替えや性格設定も自由で、理想の女の子に出来るのが当時の俺は好きだった。

 女の子の反応も人間に近くて、遊んでいて楽しかった。


 だが別の人気ゲームを購入してからは、そのゲームの一日のプレイ時間が減っていった。

 また別のゲームを購入してはプレイ時間が減っていき……。

 その内、そのゲームソフトを遊ばなくなり……家のゲームソフトの棚に並んでいるだけの遊ばれないゲームの一つになってしまった。


 とりあえず、女の子が女神になった所までは覚えているが……その後はどこまで進んだっけ?


 まあ、随分前だしな。

 忘れてしまうのはしょうがないのかもしれない。


 ……。


 あれっ?


 そういえば、女の子の名前はなんだっけ?



「ただいま~旦那様が今帰ったぞ~。……なんてな。昨日も残業、今日も残業、定時で帰れるのは何時になるやら。それに飲み会なんて、本当は行きたくないんだけどな。仕事の付き合いも大切だし、しょうがないよな…。はぁ、ココとは違うとこに行きてぇなぁ。……まあ、無理だけど!あははっ……はぁ。」


 酒を飲んで笑っていないと、やってられんわ。

 こんなん続けたら、何時か天から向かえが来るんじゃないか?


 それはそれとして……俺は仕事の後に、仕事仲間と一緒にお酒をだいぶ飲んでから家に帰ってきた。

 まあ、歩いて帰れないほど飲んでいないつもりだったので酔ってないつもり。

 それに、俺は酒に強いって根拠のない自信がある!


 あれっ?酔っ払いほど……俺は酔ってないって言うんだっけか?

 俺は酔ってないから大丈夫……あははっ!

 何が大丈夫かって?俺にも分かんない!


 家の扉をバタンと閉めた。

 玄関付近に設置してある、蛍光灯のスイッチをオフからオンにする。

 暗い玄関がパっと明るくなった。

 指にスイッチのつるつるとしたプラスチックの冷えた感触が、酒で火照った俺には心地良い。


 ガチャっと鍵をロックする。


 この扉の鍵も取り付けてからだいぶ経つ。

 そろそろ、取り替える時期かもしれない……そんな予感が、俺の脳裏にふと思いつく。


「あれ~、こんなに玄関って綺麗だったかな?まあ、いっかー……あははっ。」


 いつもより玄関が掃除されて、物も整頓されているような気がする。

 まあ、気がするってだけだ。


 タッタッタッタッ……。


 部屋の奥から誰かがこちらに歩いて来て、鈴が鳴るような声でこう言った。


「お帰りなさい旦那様♪ナナミは旦那様が帰ってくるのを今か今かとお待ちしておりました。」


 女の子は碧い大きな瞳を輝かせて、顔に太陽の光のような暖かい笑みを浮かべて俺を出迎えてくれた。


 ぴかーっ。


 おおっ……、美少女の笑顔が眩しい。


 玄関先で俺を出迎えたのは肉着きの良い脚に黒のニーソックスを履いて、皺でよれよれになった大きめ白いワイシャツを着たセミロングの可愛い女の子だった。


 ピンク色のふわふわした髪の毛が、女の子が歩くにつれて……ふわりふわりと宙に浮く。

 女の子の形の良い胸もポヨンポヨンと揺れる。

 さらに歩くたびにワイシャツの奥に隠された、布地がチラチラと見えた。


「旦那様、お仕事でお疲れでしょう?ナナミがお風呂を沸かして起きましたので、どうぞお入りになってください♪ささっ、お洋服を脱いでくださいませ旦那様♡」


 女の子は俺に近くに来てスーツの上着を掴むと、慣れた手付きでぱぱっと手際良く脱がしてくれた。

 その時近くで俺を愛おしそうに見る女の子は、本当に可愛くて俺の胸がドキドキと鼓動を鳴らしてしまう。

 視線を女の子の顔から下に下げると、ワイシャツの開いた胸元から形の良い胸の谷間が見えた。

 肌は白くてもちもちっとしてそうで、手で触ったら気持ち良いだろうなと思う。

 まあ、触らないけどな。


「旦那様、次に下も脱いでしまいましょう♪くふふっ。」


 何故か喜んでいる女の子のその小さな手が、俺のベルトをガチャガチャと止め具を外そうと弄り始めた。

 俺は、慌てて女の子の手を止める。

 酒を飲んで浮かれた頭でも、さすがに止めた。


「待ってくれ、お酒飲んで来たから……少しばかり横になって休んでから、風呂に入るよ。ありがとな風呂を沸かしておいてくれて。」

「そうですか……旦那様がそう仰られるのなら。と・こ・ろ・で♪旦那様は少し横になってお休みになりたいとの事ですが…その…えと…ナ、ナナミの膝枕でお休みになられてはどうですか?」


 女の子は少し残念そうに唇を尖らせると、打って変わってにぱ~っと笑みを浮かべて俺に膝枕をしたいと言ってきた。

 そうだな……仕事で疲れて、最近癒しが必要だと思っていたんだ。

 こんな美少女の柔らかそうな太腿に頭を乗せたら、疲れなんて吹っ飛びそう。

 チラっと女の子を見ると、期待した目で見ている。


「じゃあ、膝枕お願いしようかな。いやー、こんな美少女に膝枕されるなんて、俺は幸せ者だな!」

「きゅん♪やだやだやだ♡旦那様にそんな事言われたらナナミは……きゅんきゅん疼いてしまいます。」


 紅く染めた頬を押さえて頭を左右に振り、脚をもじもじする女の子はとても嬉しそうだ。

 明るいピンク色の髪の毛が、女の子の動きに合わせて激しく宙を舞う。


 そんな楽しそうな女の子を眺めていると何だか突然、部屋の生活臭以外にバニラアイスのような甘い匂いがほんのりと香り始めた。

 バニラの芳香剤なんて、置いてあったかなこの部屋?

 まあ、良いか今はそんな事。


「ではでは、旦那様?早速、お部屋の奥の布団の上にナナミが座りますので……旦那様には、ナナミの太腿に頭を乗せて頂きますね♪くふふ♡」


 女の子はそう言うと、スキップしそうな勢いで奥の方に行ってしまった。

 女の子の後姿を眺めて、本当に可愛いなと思う。

 俺も女の子の後を追い駆けるように脚を進める。


 ……。


ぽんぽん。


「はい、どうぞナナミの……太腿に頭をお乗せくださいませ旦那さまぁ♡」


 耳まで紅くした女の子は普段俺が使っている布団に座って太腿をぽんぽんと手で軽く叩くと、大きな瞳をうるうるとさせて俺を呼ぶ。

 女の子は膝枕をするって言ったものの、さすがに太腿に男の頭を乗せるのは恥ずかしいらしい。

 あんなに、顔を紅くし息をはぁはぁと荒くさせて……そんなに恥ずかしいのだろうか?

 でも……女の子の方から言った事だし、良いよな膝枕されても。


 据え膳食わぬは男の恥と言うしな!


 ではではでは、桃源郷に行ってきます!

 とう!


 ぷにぷに~♪


「ひゃんっ!?旦那様の髪の毛が私の太腿をサワサワして、くすぐったいですよ~あははっ♪」


 女の子のもちもちっとした太腿の上に、勢い良く俺は頭を乗せる。

 おお、すごいすごいすごい!こんなに気持ち良いのか、女の子の膝枕は!

 後頭部に女の子の暖かい体温が感じられて、ああ……俺は今、美少女に膝枕されてるんだなっと感激してしまう。

 俺の後頭部に感じる女の子の生脚についつい仰向けから身体を横にして、頬でぷにぷにの太腿の感触を感じてしまった。頬を擦るたびに女の子は、くすぐったそうにしている。

 

「んっ…やぁ…ん…。んふふ、旦那様は甘えん坊さんですね。でもそんな甘えん坊さんな旦那様も、ナナミは好きですよ♪」


 こんなに女の子に甘えてしまうのは、やっぱり俺は酔っているのかもしれない……。


 さわさわ……。


 そんな事思っていたら、髪の毛をさわさわと触る女の子の暖かい手の感触を感じる。

 女の子の方を見上げると、俺の顔を愛おしいそうに眺めていた。

 その小さな手で俺の髪をさわさわと撫でられると、心の中がぽわぽわしてきて安心してくる。


「良い子良い子ってしてみました旦那様♪いつも、お家に帰ってくる旦那様は……とても、とても疲れていらしゃるので…僭越ながらナナミは旦那様が、お身体を壊さないか心配です。」

「大丈夫だよ、俺の身体は俺が一番知ってるから…。」

「それでも、ナナミは頑張っている旦那様の事がいつも心配なんです。」

「俺は……頑張ってなんかいないよ。当たり前の事をしているだけだ……。」


 俺がそう言うと小さな手で俺の髪を優しく撫でる女の子は「いえ、旦那様はとても……頑張っています。……誰も旦那様を見ていなくても、このナナミが一生懸命に頑張っているのを知っています。……だから頑張りすぎの旦那様には、たまにはこんな風に休んでも良いと思いますよ。」と俺を労わるようにそう言った。


 俺を優しく撫でる女の子の言葉に、何故か心にズシンと来てしまう……。

 俺が頑張っているのを認めてくれてる……たったそれだけなのに、嬉しく思ってしまった。


 仕事で頑張っても……誰も褒めてくれない。

 みんな自分の事で手いっぱいの仕事場で、他人を褒める余裕なんてない。


 そんなのが当たり前になっている日常で、ふいにそんな俺の仕事を頑張ってる認めていると言う嬉しい言葉を囁かれたら……嬉しくなってしまうのは当たり前だよな!

 それもこんな美少女に!

 嬉しくてにやけてしまう顔を見られるのが恥ずかしくて、顔を女の子のバニラのような香りがする太腿に顔を埋める。


「おまえに俺のなにがわかるってんだ……。」


 恥ずかしくて、つい女の子にそうトゲのある事を言ってしまう。


「なんでもです。」


 なんでも?


「なんでもだって?」

「はい、なんでもです。旦那様の事なら、ナナミはなんでも知っています♪」


 俺はうつ伏せ状態から仰向け状態にして、顔の上の女の子の顔をじっと眺める。

 可愛らしい顔が俺に見られてる事に気がついて、ニコニコと微笑んだ。

 だが、その笑顔に若干俺は恐怖を覚え始めた。


 酒を飲んで火照った身体も、この状態で冷めてきた。

 ついでに酔って判断が鈍っていた俺の意識が、ある事に気がついて正常に戻り始める。

 俺の身体が冷や汗を流し始める。


 頬を紅く染めて、うっとりと俺を見つめる女の子の顔を見つめて……俺は酒で鈍った頭で、必死に記憶の中の今まで出会った女の子達の顔を思いだす。

 この女の子の顔を思い出せない……。

 誰だ?

 なんで、こんな美少女が俺の部屋にいるんだ?


「なんで俺の事を、なんでも知ってるの?」

「ずっと旦那様の事を見ていましたから……そう…ずっとです。うふふ♡」


 女の子が頬に手を当てて、トロンとした顔でそう言った。

 普段の俺なら、その顔を見て……エロい美少女だひゃっほーと思っていただろうが、今はそれどころじゃない。


 誰に言っているのか分からないが、実は俺……独り暮らしなんだ。

 まあ、女の子に膝枕されてる状態で信じて貰えるか知らないが……。

 今までの流れが自然すぎて、酔いが冷め始めるまで違和感なかったわ……。

 女の子が自然に接してくるから俺も普通に接してしまった。

 とりあえず、この女の子が誰だか聞いてみようか……。


「ところで……君は誰なんだ?」


 俺がそう言うと……女の子はスっと瞳から光を消して、暗い笑みを浮かべた。


「ナナミです。昔旦那様のお世話になった、元女神候補の現異世界の女神のナナミです♪旦那様にずっと放置されてて見ているだけじゃ我慢できなくなったので、この世界から旦那様を誘拐しに来ました♪これからは、私と旦那様が愛し合ったあの部屋でずっと……ずーっと一緒に暮らしましょうね?だ・ん・な・さ・ま♪くふふ♡……そう永遠に暮らしましょう旦那様、死ねるなんて思わないでくださいね?ナナミは旦那様の事を忘れた事無いのに……旦那様はナナミを忘れていたのが許さない。今度は、ナナミが旦那様の世話をしてあげます…。ナナミは旦那様に世話していただいたので、遠慮する事はありませんよ…。楽しみですね旦那様。ココとは違う世界ですよ旦那様も嬉しいですよね?」


 突然、部屋が眩い光で溢れる。


 思い出した……色欲の女神になったナナミだった…。

 俺はナナミに逃がさんと言わんばかりにがっちりと抱きしめられて、光の濁流に包まれ意識が薄れていく。

 薄れていく意識の中で、ナナミの囁きが聞こえた……。


「愛してます旦那様……永劫一緒ですよ。くふふ♪」

ここまで読んで頂きありがとうございます。


ゲームをクリアしないで放置してるとゲームの中のヒロインが迎えに来る!見たいな感じに書いてみました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] きれいに纏まっておりますし、仕事と生活に疲れたリーマンのひと時の娯楽としては良いかと思います。 [気になる点] 予定調和で終わってます。 [一言]  これは…ホラーなんでしょうか?  まあ…
[良い点] 女神様が可愛いです。 最後まで結局は優しい気もするし。 [気になる点] ホラーなのか、それとも理想なのか。 ちょっと迷う結末でした(私が疲れているからかも)。 [一言] ナナミとならいい…
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