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レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞 2 「新たな敵」  作者: 橋本 直
第二十章 めでたい飲み会

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挨拶代わりのドタバタ騒動

「ちょっと隊長!いつまで待たせる気ですか!」 


 階段からの大声。そこには明石に肩を押さえられながら不満そうに叫ぶ明華がいた。


「早く来すぎたのはお前等だろ?それに急な話だったから新入りの歓迎も出来なかったし」 


 すまなそうな顔をしながら嵯峨が手を合わせる。


「それなら連中が来たらもう一回乾杯すればいいじゃないの」 


 少し酔いが回っている明華の言葉に嵯峨は名案を聞いたとでもいうように両手を叩いた。


「その手があったな」 


 そう言うと嵯峨は吉田とシャムに目配せをした。


「じゃあそこに場所とってあるからさ。さっさと始めちまうか」 


 嵯峨が上座のもう一つのテーブルを指差す。明華はいつも通り、明石はどこか遠慮がちに席に着いた。


「えー、それでは皆さん」 


 ビールを注ぎなおしたグラスを掲げる嵯峨。一同もビールやウーロン茶を掲げる。


「このたび、ようやく明石の奴が覚悟を決めて人生の墓場に転落することになりました」 


 そこまで言って嵯峨は隣のテーブルを見た。明華がきつい視線を嵯峨に送っている。


「まあいいや、とにかくめでたいので乾杯!」 


 いつものことながら短い一言で嵯峨の挨拶は終わる。それと同時に一同がグラスを合わせる。シャムはクラッカーを鳴らし、どこから持ってきたのか島田が太鼓を叩いている。


「ごめんね!遅くなっっちゃったわね」 


 そう言いながら入ってきたのは運用艦『高雄』艦長の鈴木リアナだった。


「本当におめでとう!明華!」 


 サラが慌てて注いだ烏龍茶のグラスを明華に向かってリアナが掲げる。


「リアナ。あなた健一さんの実家にいたんじゃなかったの?」 


「馬鹿ねえ!そんなこと気にしなくていいわよ。二人の仲じゃないの!」


 不思議そうな視線を投げる明華にリアナは笑顔で答える。


「さあ、めでたい席ですからね。たくさんお食べになってください」 


 そう言いながら春子と小夏がもつとキャベツが乗った皿を運ぶ。その様子を見るとかなめはすばやくテーブル中央の鉄板に火を入れる。


「明華、飲んでね」 


 グラスにまだ半分以上ビールが残っていると言うのに、リアナは瓶を持ったまま待機している。


「鈴木さん。ワシ等もうかなりできあがっとるんで……」 


「大丈夫よ!大きいんだから。明石さんが飲めばいいじゃない」 


 そう言うとリアナは空になっていた明石のグラスにビールを注ぎ始めた。


「そう言えば姐御にはお世話になってるからな」


 するすると明華に近づいてかなめがビール瓶を差し出す。 


「おい、西園寺。なにかたくらんでいるな」 


 明華はそう言いながらもグラスをかなめに差し出す。


「止めとけばいいのに。誠ちゃんもう空けたの?じゃあ私が注いであげる」 


 どこかしら挙動不審なかなめを見ながらそう言うと、アイシャが誠にビールを注いでやった。


「加減しておけよ。また誠が暴走したら私は知らないからな」 


 そう言いながらカウラは手をかざして鉄板の具合を見ている。


「なんだ、まだ始めて無いのか?仕方ねえなあ」 


 戻ってきたかなめは、すぐさまもつとキャベツを鉄板の上に広げる。他のテーブルの鉄板でも同じようにタレをつけられたもつが焼かれ、肉の焼ける香ばしい香が部屋に満ちてくる。


「おい、小夏!アタシのボトル持って来いや!」 


 叫ぶ先の小夏はあからさまに嫌そうな顔をしながら階段を下っていく。 


「貴様また小細工して神前を潰す気か?」 


「なに怖い顔してるんだよ。姐御の門出にそんなことしたらどうなるかアタシでも判るよ」 


 かなめが残っていたビールを飲み干す。その隣ではアイシャがニヤニヤしながらかなめを見つめていた。


「気持ち悪いな。アイシャ、先に言っとくがコイツはアタシの部屋じゃなんにもしてねえからな」 


「何か言ったかしら?私」 


 アイシャはグラスを持って一口飲む。そして、すぐさま誠のコップが空だとわかると手近なビール瓶を持って誠に差し出した。


「調子に乗るなよ、アイシャ」 


 カウラは叱るような調子でアイシャをにらむ。だが、誠にはアイシャの酒を拒む勇気はなかった。黙ってその有様を見つめながらパーラは一人で鉄板の上を切り盛りしていた。


「おい、外道!持って来たぞ」 


 小夏がぞんざいにかなめの前にウィスキーとラム、それにテキーラのボトルを並べた。


「いいねえ、こう言うささやかな幸せっていう奴を大事にしたいもんだ」 


 そう言いながらかなめはグラスにビールがまだ少し残っていると言うのにテキーラを注ぐ。


「出来ましたよー!」 


 パーラが声を上げると同時にアイシャがキャベツをモツのタレに絡ませて手元の皿に集めた。


「キャベツ取り過ぎだろ!アイシャ!」 


 かなめが自分の皿を席に持ち帰ろうとするアイシャに難癖をつけた。


「え?そう?いつもは野菜はいいから肉食わせろって騒ぐ癖に」 


「じゃあ私はこれをもらうか」 


 カウラはそう言うと大き目のもつの塊を箸でつかむ。手元のもつを見つけると、誠も箸を伸ばす。


「神前。お前も飲め!」 


 コップに半分以上注いでいたテキーラを飲み干し、ウィスキーに手を伸ばしたかなめが、そのまま誠のコップを奪い取るとそのまま注ぎ始めた。


「だからそれを止めろと言うんだ!」 


「だって注いじまったからな!ささ、ぐっとやれ!」 


 勢いだった。誠は言われるままに喉にしみるウィスキーを一息で飲み干した。


 喉を焼くウィスキーのアルコールに誠は顔をしかめる。カウラは心配そうに見つめている。


「飲みましたよ!」 


「おお、いいじゃねえの!さあ次だ」 


 そう言うと誠の手からコップを奪い取り、今度はラムを注ぎ始めた。


「貴様等、いい加減にしろ……」 


「こうなったらもう駄目でしょ。ああ、やっぱり鉄板で焼いたキャベツはおいしいわ」 


 手を出そうとするカウラと無視を決め込むアイシャ。


「次、行くわよ」 


 パーラは残ったもつを自分の皿に移すと、またモツとキャベツを鉄板に拡げる。誠は景色が回り始めるのを感じていた。


「本当に大丈夫なのか?」 


 声をかけるカウラの声に少しばかりためらいが感じられるのは、誠の顔の色が変わってきているからだろう。かなめに渡されたコップを一度テーブルに置くと、誠はパーラが盛り付けてくれたモツに取り掛かった。


「遅くなりました」 


 警備部部長のマリア・シュバーキナ少佐の声が響く。続くのはロナルド・スミス・Jr特務大尉、ジョージ・岡部中尉、フェデロ・マルケス中尉。そして遠慮がちに入ってくるのはレベッカ・シンプソン技術中尉だった。


「おい!眼鏡っ子!」 


 周りを気にしながら一人部屋に入るのを躊躇しているレベッカにかなめが声をかけた。


「私ですか?」 


「他に誰がいるんだよ。ここ座れ!」 


 かなめはそう言うと自分の隣の座布団を叩く。


「でも……」 


 明らかに困惑してレベッカは周りを見回す。酔ったかなめに何を言っても無駄だと知っている古株の隊員達はそちらには口を出さずにそれぞれ歓談していた。レベッカは助けを求めるようにロナルドに視線を投げたが、ロナルドは複雑な表情で嵯峨と話し合っていてレベッカを見る様子はなかった。岡部とフェデロは噂くらいは聞いているらしく、かなめの一にらみで目を反らすことを決めると黙ってもつをつつくことに集中していた。


「でもじゃねえ!一応アタシが上官だ!上官命令って奴だ」 


 元々たれ目のかなめがさらに目じりを下げながら叫ぶ。


「じゃあ、すみません」 


 そう言いながらレベッカはパーラの後ろをすり抜けてかなめの隣の座布団に腰をかけた。


「畳の暮らしにゃ慣れてねえか?」 


「ええ、一応……」 


 恐る恐るレベッカはかなめを見つめる。その様子を見ながらかなめは上機嫌にテキーラを煽る。


「まずどれで行く?」 


 そう言うとかなめはウィスキー、テキーラ、ラムの三本の酒瓶をレベッカの前に並べて見せた。


「どれがいい?」 


 さらにそう言いながらにじり寄るかなめにレベッカは眉をひそめる。


「私は……ビールでいいです」 


「遠慮するなよ」 


 かなめの手がレベッカの肩をつかんだ。レベッカは怯えるように低く声を上げる。


「仕方ねえなあ……ビールで良いんだな?パーラ、一本取ってくれ。それにコップも!」 


 そう頼みながら今度は顔を近づけるかなめ。レベッカは怯えたようにあたりを見回す。


「西園寺さん。止めた方が良いですよ」 


 先程の酒で多少いつもの貧弱な神経が強化されている誠は自分でも不思議に思えるほど自然にかなめを止めていた。しかし、かなめにはその言葉は逆効果だった。


「神前!一体何を止めるんだ?こう言う事か?」 


 かなめの右手がレベッカの胸に伸びる。


「あ!」 


 思わずアイシャが吹いた。カウラの烏龍茶の入ったコップを握る手に力が入る。


「だからそれを止めろと……」 


「だってぷにぷにして気持ち良いぜ!」 


 かなめの大声が部屋に響く。他のテーブルの隊員の表情は明らかに一つの言葉で説明がついた。


『またか』 


 そう思った彼等はそのまま誠の座るテーブルから視線をそらした。


「いいだろ?カウラ。おい、アタシの胸も触って良いぞ」 


 そう言ってレベッカの手を握ると自分の胸に当てる。


「西園寺!」 


 いつの間にかかなめの隣まで歩いてきた明華がレベッカからかなめを引き剥がす。


「これ没収!」 


 そう言ってかなめの前のボトルを次々と取り上げる。


「姐御!勘弁!マジで!」 


 少しろれつが回っていないかなめを明華が見下ろしている。さすがに悪乗りが過ぎたと言うようにかなめはレベッカから手を放した。


「ごめんねレベッカ。コイツ変態だから」 


「姐御酷いですよ!」 


 そう言いながらコップに残ったテキーラを飲み干すかなめ。それを聞いていた誠の視界が急激に狭まってくる。


「そう言えばもう一人の問題児が……、大丈夫?」 


 明華の声が耳の奥で響く。轟音が誠の頭を襲っていた。


「いつもこんな感じなんですか?」 


 恐る恐るずれた眼鏡を直しながら、レベッカが尋ねた。


「まあそうね。こんなもんじゃないの?ねえ、アイシャ」 


「まあそうですね。いつもこんなものじゃないですか?」 


「確かにこういうものだ」 


 ゆっくりと烏龍茶を飲みながら、カウラはモツをつつく。


 レベッカは笑いを浮かべようとしていたが、完全に目の座ったかなめに見つめられているので、引きつった頬は不器用な笑顔しか作れなかった。ふらふらと頭を左右に傾けながら誠は意味もなく箸でキャベツをつついていた。彼がテキーラが入ったコップに手を伸ばすと、そのコップを明華が奪った。


「あんたも懲りないわね。もうぐだぐだじゃないの!」 


「大丈夫ですよ。平気ですから」 


 そう言いながら首がくらくらと回っているのは誠自身もよくわかっていた。


「どこが大丈夫なの?じゃあ、ビールにしましょう」 


 そう言うと明華はレベッカの前に置かれた瓶を手に取った。


「ビールなら、大丈夫です」 


 誠はすばやく明華から瓶を奪うと、そのままラッパ飲みをはじめた。


「何するのよ!神前!」 


 慌てる明華だが、遅かった。


「おっと!ここで神前の新歓一気か!」 


 かなめがはしゃぎだす。その言葉を聴いて島田とサラが立ち上がって騒ぎ出す。顔をしかめる明華をよそにビールを飲み終えた誠はふらふらと瓶を小脇に抱えた。そして彼は自分の意識が閉じて行くのを味わっていた。


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