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元気なシャム

「それにしてもヒンヌー教徒はどこ取ったんだ?目立つだろ、うちのパラソル」 


 海岸線沿いの道路。一同は歩きながら浜辺のパラソルの群れを眺めていた。赤と白の縞模様のパラソルを五つ備品として保存されていたものを倉庫から引っ張り出してきていた。


「どれも同じ様なのばっかりじゃん。分からないっすよ」 


 小夏が一番にあきらめて歩き始める。誠もどうせ分からないだろうとそれに続く。


「菰田っちなら結構広いところ取ってくれるよね?」 


 シャムはそう言いながら砂浜を見渡している。


「あれじゃねえか?……バッカじゃねえの?」 


 かなめが指差した先には、『必勝遼州同盟司法局』というのぼりが踊っていた。野球チームの用具部屋の奥にあった横断幕である。


「アホだ……」 


 思わず誠はつぶやいていた。


「誰も止めなかったのかよ、あれ」 


 そう言うとかなめは足を速めた。さすがにいつもより心の広いかなめでも恥ずかしくなったようだった。


「きっと正人っちが片付けてくれるよ」 


 さすがにシャムですら菰田達ヒンヌー教徒の暴走にはあきれているようだった。とりあえず目的地がわかったことだけを考えるようにして海に沿って続く道を進む。


「やっぱ車でも借りりゃあよかったかな?」 


 暑さに閉口したかなめが思わずそう口にしていた。


「やっぱりアイス買おうよ」 


 そんなシャムの言葉にかなめの視線が厳しくなる。


「それはお前が買え。アタシは缶ビール買ってその場で飲む」 


 二人の飽きない会話を聞きながら誠はようやく見えてきたコンビニの看板を見てほっとしていた。買出しの観光客で一杯の駐車場。四人は汗をぬぐいながら入り口に向かって進む。


「やっぱ考えることは一緒か」 


 缶ビールとアイスを持った親子連れを見ながらかなめがつぶやく。


「アイス!かなめちゃん!自分のお金ならいいんだよね?」 


 満面の笑みで人だかりに呆れたかなめを見上げるシャム。


「そうだな、店中のアイスを買い占めても文句は言わねえよ」 


 かなめの言葉に店内に飛び込むシャムとそれに小夏が続く。誠もその姉妹のようなコンビネーションに苦笑いを浮かべていた。


「ジャリは元気だねえ」 


 サングラスをずらしたかなめが誠の顔を見上げる。


「何か?」 


 誠が口を開くが、かなめは何も言わず店内に入った。弁当とおにぎりの棚の前に客が集まっている。かなめはそれを無視してレジを打っている店長らしき青年に声をかけた。


「缶ビール四ケースあるか?」 


 並んでいた客の迷惑そうな顔を無視するかなめ。


「すいません、ちょっと待ってください」 


 そう言うと青年はスナック菓子の陳列をしているアルバイトの女の子に声をかける。


「ビール24本入りのやつ四つほしいんだけど」 


「お客様、冷えて無くても……」 


 さすがに機嫌のよいかなめでも舌打ちをした。そして一呼吸入れると頭を掻きながら女子高生風のアルバイト店員に向き直る。


「ああ、クーラーボックスはあるから出してくれたらそのまま持ってくよ」 


 その言葉に少し遠慮がちに、バックヤードから出てきた高校生と言った感じのバイトと顔を見合わせると、そのまま二人は奥に消えていった。


「小夏!つまみとか選んでろ。シャムはアイスは決まったか?」 


「うん!チョコ最中!誠ちゃんも食べる?」 


 にこやかに小夏の分と二つを持ったシャムが振り向く。


「いいです。僕もビールをやりますから」


 断った誠の顔を満足げに見上げるかなめ。 


「神前、そりゃあいいや。アタシの分も頼むわ」 


 女子高生らしい店員が重そうに台車に乗せたダンボール四つのビールを運んでくる。


「シャム。アイスの勘定はお前がしろよ」 


 そう言いながらカードを取り出すかなめ。


「ケチ!」 


 シャムがすねながらレジの列に並んだ。小夏がポップコーンやポテトチップや珍味と言った菓子やつまみを持ってかなめの元にやってくる。


「裂きイカはあるか?」 


「当たり前だろ!アタシも大好きだからな」 


 そう言うと小夏は菓子類をダンボールの上に置いた。閉めていたレジを開けて、アルバイトの女子高生が勘定を始める。隣の列に並んでいたシャムはもう払いを済ませて小夏をつれてアイスを食べるために出て行った。


「ああ誠、冷えてるビール二缶持って来い」 


 かなめはレジを操作している店員を見ながらそう言った。


「銘柄は……」 


 奥に向かおうとした誠だが、振り返って思い出したように尋ねた。


「何でもいいぜ。ただ発泡酒はやめろ、ちゃんとしたビールな」 


 そう言われて誠は冷蔵庫に向かう。とりあえずあまさき屋で出しているのと同じ銘柄の缶ビールを二つ持ってかなめのところまで行く。 


「ありがとな。店員!こいつも頼むわ」 


 追加の商品に店員はあからさまに嫌な顔をする。いつもならサングラスをはずして眼を飛ばすくらいのことをするかなめだが、特に気にすることも無く会計を済ませる。


「誠。アイス食ってるアホの分も頼むわ」 


 かなめはそう言うと軽々と二箱のビールを肩に担ぐと、あきれながら見つめている店員や周りの客の視線を無視して表に出る。あわてて誠もその後に続いた。


 店先でアイスを食べているシャムと小夏の前にどっかと二箱のビールを置くと、誠が持っていたビールを受け取って一気にのどに注ぎ込むかなめ。


「やっぱ夏はこれだぜ」 


 そう言ってかなめは簡単に飲み干したビールの缶を握りつぶす。


「もう飲んだんですか?」 


 まだプルタブを開けたばかりの誠が問いかける。


「ビールはのど越しで味わうもんだ。シャム、その目は飲みたいって顔だな?」 


「うー……」 


 シャムの目はビールを飲み始めた誠を見つめている。


「どうせ身分証はバッグの中だから買えないんだろ?ざまあみろ」 


 シャムが膨れている。どう見ても小学生な彼女。恨みがましくかなめを見ている。


「おい、誠。先に行くからゆっくり飲んでてくれよ。とりあえず一箱シャムの分だ」 


 かなめはそう言うと積み上げられた四つのビールの箱との一つを地面に置いた。


「誠ちゃんこれ持ってくね!」 


 そう言うとビールを飲み始めた誠から、シャムが一箱のビールを持ち上げて軽く肩に乗っけた。


「じゃあ先行くから!」 


 シャムはそう言うと誠からつまみ類を受け取った小夏と一緒に恥ずかしいのぼりを目指した。


「しかし、元気ですねえ。ナンバルゲニア中尉」 


「まあ他にとりえが無いからな。それより気をつけろよ」 


 少しうつむき加減にかなめがサングラスをはずす。真剣なときの彼女らしい鉛のような瞳がそこにあった。


「今日のロナルドとか言う特務大尉殿だ。前にも言ったろ、アメリカの一部軍内部の勢力は貴様の身柄の確保を目的にして動いている。叔父貴が認めたくらいだから海軍はその勢力とは今のところ接点は無いようだがな。だが、あくまでそれは今のところだ」 


 誠は残ったビールを一気に流し込むようにして飲むと、缶をゴミ箱に捨てた。


「局面によっては敵に回ると言うことですか?」 


「分かりやすく言えばそうだな。あのロナルドって男は特殊任務の荒事専門部隊の出なのは間違いない。それこそ、そう言う指示が上から降りれば間違いなくやる」 


 それだけ言うと、かなめは再びサングラスをかけた。


「まあそれぐらいにして……今日は仕事の話は止めようや。とっとと付いて来いよ!」 


 そう言うと軽々と二箱のビールを抱えて、早足でかなめは歩き始めた。



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