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後悔しながらも

 廊下から沈みつつある夕暮れが見える。もしかしたら自分はかなり損をしたのではないだろうかと誠は考えたが、口の軽いアイシャが四人で露天風呂に入ったと島田達に言いふらすのは確実だ。


『特に菰田さんが……。怖いんだよなあ』 


 常に痛い視線を投げてくる経理課長代理の三白眼を思い出しながら自室に入った。島田もキムも帰ってきてはいなかった。誠は着替えとタオルを持つとそのまま廊下を出た。


 どうにも寂しい。


『やはり断らない方が……』


 そう考えながらエレベータでロビーに降りる。


「神前曹長!」 


 ロビーで手を振るのは司法局実働部隊技術部の秘蔵っ子で技術部整備班のやり手の西兵長だった。後ろでそれを小突いているのは菰田主計曹長。いつものことながら威圧するような視線を誠に浴びせてくる。


「もう行ってきたんですか?露天風呂」 


 イワノフ少尉がニヤニヤ笑いながらうなづく。


「結構日本風の風呂というものもいいものだな」 


 そういいながら扇子で顔を仰いでいるのはヤコブ伍長だった。


「島田さんは?」 


「野暮なこと言っちゃだめですよ!きっとラビロフ少尉と……」 


 西はそう言うとにんまりと笑う。


「餓鬼の癖につまらんことを言うな!」 


 西を取り押さえたのはソン軍曹だ。菰田、ソン、ヤコブ。どれも誠が苦手とする先輩である。


『ヒンヌー教団』


 三人を司法局実働部隊の隊員達はこう呼んだ。


 アイシャ曰く『筋金入りの変態』と呼ばれる彼等は自らは『カウラ・ベルガー親衛隊』と名乗り、犯罪すれすれのストーキングを繰り返す過激なカウラファンである。出来れば係わり合いになりたくないと思っている誠だが、経理の責任者の菰田に提出する書類が色々とある関係で逃げて回ることも出来なかった。今回の旅行でも、本来は菰田は管理部経理課長代理として、休みが取れないところを吉田に仕事を押し付けてやってきたほどのいかれた人物である。


『これでカウラさんと風呂に入っていたら……』 


 菰田達の視線が誠には本当に痛く感じる。


「どうしたんだ?」 


 いぶかしげに黙って突っ立っている誠の顔を菰田が覗き込んでくる。悟られたらすべてが終わる。その思いだけで慌てて誠は口を開く。


「なんでもないですよ!なんでも!じゃあ僕も風呂行こうかなあ……」 


「そっちは駐車場だぞ」 


 ガチガチに緊張している誠を見る目がさらに疑いの色を帯びる。ソンなどは誠の周りを歩き回り異変を探り当てようとしているような感じすらする。


「そうですか?仕方ないなあ……」 


 誠は逃げるようにして菰田達がやってきた露天風呂のほうに向かった。


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