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危ない日常

さて今日は高校二年生の新学期だ。下手に動けば俺はモテにモテる。唸るばかりにモテる。モテすぎて困る。イケメンであるが故に。ただ好感度をMAXにしてこれ以上悲しい生活にしたくはない。ここは一発ジャブをかましてやろう。


突如としてありったけの大声で、しかも気が狂うほどの、奇声に近い声で歌う。そのいきなりの、場をまるで読まない、気でも狂っているかのような俺の行為に、空気が張り詰めるのを感じる。しょうがないだろう、俺はイケメンなので、いるだけで相手を惚れさせかねないのだから。これくらい単なる帳尻合わせだ。男子にはただのマイナスにしかならないが、まあいいか。


「ごめんごめん、ストレスたまっちゃってさー。あはは。」


「そ、そうなんだ…大変だね彼方君も…」


女子が苦笑いを浮かべる。さて皆さんは気づいただろうか?今のイケメン立ち回りに。別段今の行為を発作と言ってしまうのは簡単だ。より詳しく言えば、「右手がうずくもんでな…」とでもしておけば、中二病と思わせてなんとでもなるのだ。しかし問題がある。イケメンで中二病は大してマイナスにならない気がするのだ。ちょっと痛い子なくらいじゃ、イケメンであるが故に、キューティックなチャームポイントになりかねない。相乗効果を生みかねない。それは問題、大問題だ。しかし先程のように言うことで、ストレスが溜まるといつもああなのか?という疑念を持たせる事に成功する。そうなると、ずっと一緒にはいたくないと思わせることが出来るってわけだ!それは悲劇を回避することが出来…

まずい、それ来なすったぞ。俺はあわてて自分の机に背を向けるように座りなおした。


「だ、大丈夫彼方…?そ、それにその姿勢、いつも私にしてるよね…なんで?」


今話しかけてきている女は樋山ひやま しずく。俺への好感度がMAXで、殺意もMAXになりかねない危険人物、言うなら不発弾だ。


「…悪いな、雫とは目を合わせたくないんだ。」


「ご、ごめんね彼方…もしかして私がストレスになっちゃってるのかな…」


正直、すごく結婚したい。この雫という子、確か顔はかなり美人だったはずだ(というのも、最近顔を合わせた事がない。殺られるから)。それでいて素の性格はお淑やか。この難病さえなければ即座に両想いのカップルフォーリンラブなこと請け合いだが、それを許してくれない。なんだというんだ神様は。俺の余りの顔の整いっぷりに嫉妬してのこの仕打ちか?しかし今の一言。どうだ、少しは好感度が下がったのでは…


「うひょお!」


変な声が出た。うっかり振り返って彼女と顔を合わせてしまった。この時限爆弾は、俺の顔を見られた瞬間起爆する。そう、彼女の好感度は衰え知らずだったわけだ。

瞬時に彼女はハサミを手に取り、俺の目に目掛けて突き刺そうとしてきた。これには本能がレッドアラート。身体能力が高い事が功を奏し、回避に成功、そのまま彼女のハサミを持っている手を掴む。女子の腕力に遅れをとるほどに非力ではない。ハイスペックだから。

しかしこうして躊躇なく殺しにくるのは勘弁してもらいたい。俺は命の危険を感じて、素早く顔を反転させた。雫も正気を取り戻したか、知らずのうちに手に持ったハサミにきょとんとしている。たぶん(その様子は見えないので何ともいえない)。周りの生徒たちは気にかけない。以前これは彼女なりの情熱的なアプローチだと適当な事を言ってしまったからだ。それでは彼女は高校生活でロクに彼氏も出来ないだろう。そう考えると何だかいたたまれなくなってきた。


「さっきのはあれさ、嘘だから!俺は好きな人の前ではドキドキしすぎて顔も合わせられないんだ。顔を合わせないでよ、気を失ってしまいそうだ。」


「う、うんっ!そっか…嫌われたんじゃないんだね…良かったぁ…」


なにか好感度が上がる音がした気がしたが気のせいだろう。そもそも好感度MAX、これ以上上がる事は…ないだろ?ないよな?

殺意が増すなんてことはやめてもらいたいものだ。はあ、しかしどうしたらこの子から嫌われるのだろうか…この難病が発生したのは最近のことなので余り実験していないが、前学期の終業式に彼女と二人っきりの時に、

「チョークおいしい!チョークおいしいよぉ!レロレロレロレロォ!!僕は女体よりチョークが何より好きなんだ!うひょぉチョークのカーニバルときたもんだ!まるで女の子の裸体みたいだよぉ!」

という特大の大砲をかましってやったら、

「ひ、人の好みは色々あるものだよね…」

と戸惑い混じりの声で返されたので、これは好感度が下がったろうと思って、満足げに彼女の顔を見たら、プリントを止めてある画鋲を手にとり、俺に襲い掛かってきたので、雫に関しては割と諦めている。無理。彼女の好感度はどこまでも男気一本気だ。正直どうやったら好感度を下げられるのか全く分からない。同級生なのでどうあがいたところで彼女とは毎日会う。憂鬱だ。


「本当に、本当に顔を見ないでくれ…俺の事を思っているのならさ…嫌なんだよ、雫にだけは、顔で判断してほしくないんだ…」


「う、うん、わかったよ!もちろん!」


イケメンであるが故に、ナチュラルに口説いてしまった。釘を刺そうとしたんだがなあ。まあ雫が天使(こちらの顔を見せない限り)な事が何よりの救いだ。癒される。しかし雫もかわいそうだな。俺の顔がまともに見れないだなんて。


「あ、もうすぐ先生来るよ。」


「分かった、それじゃあな。」


てっきり雫が行ったものだと思い、前を向くと、彼女とシッカリ目が合った。そうなるとどうなる?殺意満々のハサミが俺を襲ってくる。それを華麗にかわす…事はちょっと出来ない。命の危機である。そんな余裕なんてない。鮮やかなフェイントをかけられた事もあり、思わず素っ頓狂な声を上げる。クラスメイトは笑っている。これがイケメンでなかったら、ただただ気狂いにドン引きだろう。首の皮一枚、といったところか。いや、もうちょっと余裕あるかな?ハサミを持った手を掴みながらそんな事を思い、掴むのをやめて華麗にターン。雫も沈静化する。慣れたもんだ。ただ学校にハサミ、持ってくるなよな。命が危ないんだから。

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