前置き
まったくもって非常に言いにくい話なのだが、俺は残念な事に恐ろしいほどにイケメンらしい。そう、これでもかというほどイケメンであり、成績優秀、身体能力バツグン。料理だってプロ級だ。適当に作った料理で女子の股を濡らすなど容易くてアクビが出る。現在高校二年生だが、悲しいほどにハイスペックである。そんじょそこらのハイスペックなアニメの主人公が出てきても、失礼だが鼻で笑ってしまう。そこから導き出される結論とは何だろうか。
そう、モテるのだ。それも病的なほどに、そして悲しみの余りに泣いてしまうほどに、とにかくモテる。ラブレターも死ぬほど貰ってきたし、それに溢れんばかりにサワヤカ王子様な対応をして、もう何人の女子をトキメキ心拍急上昇させてきたのか分からない。バレンタインデーなんかもう大変だ。どこぞの漫画のキャラやアイドルなんかはトラック単位でチョコを貰うらしいが…俺もそこまでは流石にいかない。何故なら全国にその名が知れ渡っていないからだ。頭の中身を俺に奪われてしまった女子達が、SNSなんかに俺の写真を広めないようにとにかく注意してる。もし俺の素性が全国区になったら、一つの市町村くらいならチョコで埋められる自信がある。もうとにかく、俺はイケメンでハンサムで王子様なのだ。俺が笑顔を見せた日には、もう女子という女子が叫び、学校が奇声に染まるほどだ。
変わって欲しい?もしかして変わって欲しいなんて思ったりしていないか?イケメンになりたいと?女子にモテたいと?
少なくとも、俺と変わる事はおススメ出来ない。むしろ変わってもらえるというなら、俺は泥をすすってでも生きよう。それほどまでに、今の生活は苦痛に満ち満ちている。残念な事に。イケメンであるが故の業、カルマと言うべきだろうか。嗚呼、世のイケメンは全員俺と同じ目にあえばいいのに…。本当に、神様仏様、どうして俺なのでしょうか?他の奴ではいけなかったのでしょうか?何故女子に好かれているのか分からないような顔だけ男では駄目なのでしょうか?ああ腹が立ってきた。一つここは感情を歌にのせて、ミュージカルでもしたい所だ。
さて何故こんなに俺が、顔も体も何もかもが優れている俺が、これほどに今を憂いているかと言えば、俺は病気なのだ。病気、と言っても、例えばガンだとか余命何年何か月だとか、そんな重い話ではない。いや、俺にしてみれば大層重い話なのだが。
世の中には信じられないほどの難病、奇病がある。だからと言って、俺の病気が信じられるのか、少しでも現実的なのかと言えば、それは間違いなくNOである。随分とアクロバティックな難病であるから、医者に診てもらえど診てもらえど、得られる答えは異常なしの一つだけ。病気と言ったのは、いわゆる自己申告という奴である。いずれ治るものとでも思わなければやっていられない。
おおっと話が長くなった。イケメンであるが故の特に意味もない魅力溢れる長々トーク。うっかり出てしまった。イケメンであるが故に。こりゃイケメンうっかりさん☆…うざくはないぞ。うざいなんて思っていても、俺の顔から美声と共にこの内容が出てきたらちっともうざいなんて思わないだろう。イケメンなので許されてしまうんだなコレが。いや、この病気は許されないぞ。許さない、絶対に許さない。
さてイケメン無駄話を繰り返してきたが、その難病の正体とは?あら不思議、心底俺に惚れた相手の気持ちが、俺を見る事で逆転するというものである。どういう事か?それは単純。好感度MAXの相手がいる。その気持ちの逆とは何か?どうやらそれは、殺したくなるほどに憎くなるらしい。
まとめようか。とにかく俺に対しての好感度がMAX、つまりこの男になら何をされてもいいというような恋愛感情の極致にまで達した相手は、俺を見るなり全力で殺しにかかってくるのだ。イケメン何故か有罪。今分かっているだけで、俺への好感度MAXな人間が四人はいる。先輩、後輩、同級生、先生だ。正直学校に行きたくないが、思ったより何とかなっているので普通に通っている。こういうポジティブシンキングがモテる秘訣かもしれない。それならいっそのこと全部消し去りたい。本当に、もう、そんな気分だ。