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裏と表と魔物の話

 世界にはいろんな文化がある。同じモノでも、場所によって扱いが変わる。時代を変えれば同じ場所でも、がらりと違うものに変じてしまう。同じままいられるものは多くは無い。

 そんな中でも数少ない、何も変わらないモノ。

 それはいかなる文化圏でも重宝され、各国の主要な都市や集落におかれていた。

 ――表裏結晶。

 二階建てほどの一軒家にも勝る高さを誇る、巨大な魔石だ。色は無色透明が基本で、うっすらと青や紫といった色が混じることがある。常に淡く光を放つこれは、ある一定の範囲の中に魔物が滲み出ることを完全に防ぐ、という魔術を放ち続ける道具として作られた。そのために特別に作られた台座を取り付けられていて、そこには古い言語で魔術式が刻まれている。

 この結晶は『作られた』ものだ。

 いつ、どうやって……ということは、文献にも残っていないのだが。

 しかし魔石は基本的に、魔物から摘出したそのままでは使わない。鉄などの鉱物のように炉のようなものでドロドロに溶かし、薬品などを混ぜ合わせて整形している。大型の、ドラゴンと呼ばれる魔物からすら、取れる魔石は人間が抱きかかえられる程度の大きさだ。表裏結晶のような巨大なサイズともなると、普通に考えれば人工的に作ったと考えるべきだろう。

 今流通している魔石は、基本的に合成した人工物だ。

 そうでなければ、あまりにも偏りがひどくて扱えないのである。たとえばアポフィラが使っている杖は魔学校の支給品で、火や水といった七種類の属性の術式を均等に扱える程度の力を持っている。魔石はそれが持つ能力で使える魔術も制限が在り、彼女の杖は標準だ。つまり極端に強い魔術が扱えるものではない、ということである。ゆえにそう値段の方も高く無い。

 扱える魔術のランクが上がるほどに、必要とされる魔石の能力の高まる。魔石は不純物を混ぜることで純度を意図して落としているが、そうするほどに『安く』なった。不純物を混ぜるほど使う魔石の量が減るので、その分安くなるという。

 つまり、強い魔石はその分不純物が下がり、魔石の純度が上がる。

 今のアポフィラには、今以上の魔石はちょっと手が出ない。

 ちなみにニノンが使っている杖の魔石は、アポフィラのものより純度が高い。それは特定の属性に特化させた治療師専用なので、より威力を高めるためだ。まぁ、その分いい値段がついているのだが、ニノン本人はそれを時に鈍器として運用するのだから恐ろしい話である。

 もっとも、魔石は並大抵の物質では砕かれる程度に硬く、多少かけたくらいならば有料で修理できないことも無いので、それほど問題がある行為ではないのだが。

 以上の普通の魔石の扱いからして、表裏結晶もまた加工したものだろう。あるいは、これを作る際に生み出された技術が、今の魔石を作り出す原点だったのかもしれない。

「……今日も、ご機嫌にピカピカですな」

 オーリアの中心にある公園のような広場に、アポフィラはいた。ここオーリアの表裏結晶はもちろん中心にあり、朝日を受けていつも以上にまぶしく光る。朝早くから結晶の周囲には人の姿が多くある。定期的に行われている、結晶のメンテナンスの時間なのだ。

 いくら記録が残っていないとはいえ、魔石は魔石。

 基本的な仕組みは、アポフィラのような魔術師が使っているものと同じだ。あえて違うところをあげるなら、一つの魔術のみを発動し続けるという仕組みであるくらいなのだが、町に置かれている街灯などにも使われている技術なので、やはりそう珍しいものでもない。

 なのでメンテナンスの類も、比較的楽――という話だ。

 詳しいところはあまり知らないのだが、今のところ表裏結晶が『死んだ』という話は古今東西聞いたことが無いので、きっと現状のままでも問題ないのだろう。

 十数人の人々が、作業着姿で結晶を磨く光景を、アポフィラはじっと見ている。

 手元には近くの屋台で買った軽食。パンに具を挟んだものだ。

 散歩の帰りに買ったもので、これが今日の朝食である。

 食べつつ、結晶のメンテナンスを眺め、アポフィラはふと思う。

 ああいう特殊なものでしか滲み出る現象を防げないといわれるが、逆に言うならあの程度で何とかなってしまうという『裏側の世界』は、どういう場所なのだろうかと。

 その一端を、冒険者は見ている。

 特定の、きわめて強い力を持つ魔物の個体を中心に、こちら側へ領域ごと滲み出てくるものがダンジョンだ。各種ダンジョンのような場所が、向こう側にはあるという意味である。その中には遺跡形のような、明らかに人工的に作られたようなものもあり、謎は尽きない。

 いつか、向こう側に行くことなんてものはあるのだろうか。

 その頃には確実に死んでいるだろうわが身が、アポフィラは少しだけ残念だった。

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