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それゆけボウケンシャー!

 森の中に、黒い影が躍っていた。

 四つんばいになった――人間のような形を模したケモノだ。

 魔物と呼ばれるそれらは群れを成し、周辺の田畑はもちろんのこと、近隣に住む人々の生命すら危うくしている。ゆえに彼らを排除すべく、武力が向けられるのは当然の流れだった。

 ようやく探し当てられた、奴らのねぐら。

 そこにたどり着いたのは四人の『冒険者』である。

 お呼びでない侵入者に対し、威嚇の声を上げる魔物の群れ。

 相対するのは黒髪の男。長身の、細身だがしっかりとした身体つきの青年だ。年はまだ若く少年の色も強い。長い髪を首の後ろでさっと結わえ、黒い瞳が相手を睨むように細められる。

 彼が指先をかけているのは、腰のベルトにぶら下げた二本の武器の一つ。この地より遥か東の方角にある独自の文化を持つ国の、独自の製法により作り出された刀という剣だ。ゆるりとした曲線を持つそれは外側に鋭い切れ味を宿し、いかなるものも切り捨てる力を持っている。

 彼の背後には、同年代であろう茶髪の青年が佇んでいた。背丈は同じくらいだが、黒髪の青年より華奢――というよりも、筋肉が少ない細い身体つきをしている。見るからに武器を手に大立ち回りを演ずる風貌ではなく、現に青年の手にあるのは少し大降りのナイフだった。

「情報と比べて、何か数が多いんだけど……」

 ぎゅ、とナイフを握る手に力がこもる。

 二人を取り囲むのは、十は超えるだろう数の魔物の群れだ。どれもこれも鋭い爪と牙を持っていて、少しでも肌をかすれば命すら危うくなるかもしれないという思いを抱かせる。

「だがこの数はさほどではない。これならば、特に問題はなかろうよ」

 しかし黒髪の青年は、どこか楽しげに笑っている。

 余裕を隠さないようであり、あるいは危機を勝利で愉悦を感じているような笑みだ。その様子に、小さくもれるのはもう一人のため息。こうなった彼――何年もの付き合いのある親友ともいうべき青年が、何を言っても聞かないことはわかりきっているからだ。

 普段は温和な青年の、戦いの場で見せる獰猛さ。

 仕方が無い、と茶髪の青年は思う。

 武を振るい敵を屠る、それが彼の『使命』なのだから、と。

「では――参るか」

 こくり、とうなづく。

 そして二人は同時に離れ、魔物へと向かっていった。

 そんな彼らから離れたところで、別の人影が魔物に対峙している。金属で大きな石を先端に固定した杖を持つ、赤毛を長く伸ばした少女だ。服装は先の青年二人と異なり、動きやすいとは言いがたいごく普通の服。街を歩けばどこにでもいる市民である彼女は、数体の魔物を前にして逃げることも出ず、不敵な笑みすら浮かべて睨みあっていた。

 その背後には、ぼんやりと佇む白い髪の少女。獣人の血を持つことを意味する耳が、時折ぴくくと動いている。青い目はうつろで、心ここに在らず、といった風貌だ。彼女も動きにくそうなだぼりとした外套を羽織っているが、まだ足元はすっきりしていて動作向きではある。

 赤毛の少女は、もう一人を守るように魔物の前に立っていた。

 多勢に無勢、しかし彼女の表情に焦りなどはない。

 魔物の一体が跳ねるように身体をしならせ、目前に迫っても。

「おっりゃあ!」

 少女が上に振り上げた杖を、タイミングを合わせて振り下ろす。その背後から迫る魔物は茶髪の青年が、音も無く現れるより早く、懐から取り出した数本のナイフでしとめていく。ひときわ身軽な格好をしている彼は、それを生かして戦場を自由自在に駆け巡った。

 だからこそ赤毛の少女は。

「セツナさんナイスっ」

 そういって、明るく笑みを浮かべられるのである。

 一方、セツナと呼ばれた

「ヒイラギ、少しここ任せる」

「了解した――ニノンとアコを頼む」

 短く交わされた言葉。

 セツナは魔物を軽く切りつけ動きを封じながら、赤毛の少女――ニノンの元に向かう。残されたヒイラギは改めて刀を構えなおし、手近なところにいる魔物に切りかかった。

 作戦としてはこうなっている。まずヒイラギが前線で大立ち回りを演じ、敵の注意をできる限り引き付ける。いくら魔物といえども、やはり目立つ存在に気がとられてしまうものだ。

 大多数をヒイラギ一人で相手にすることになるが、彼とてそうやわではない。それにセツナがフォローに入る。さらにニノンも本来の役割は薬師で、治療術の使い手であるが、その鈍器のような杖を使って前線に立つことも可能だった。もちろん過信はできないが。

 完全なる後方支援特化なのは、おそらくもっとも後方に立つ少女。

 白い髪の魔術師、ただ一人だろう。

「一匹そっちに行ったわよ、アコ!」

 ニノンの隣を、魔物が一匹すり抜けていく。セツナは離れたところにいて、追いつけそうに無い。魔物が向かう先にいるのは、杖を構えたままじっと前を見るアポフィラだ。

「――ボクは、アコなんて名前じゃないです」

 と、白い獣耳をぴぴくと動かし、少女が答える。

 青い魔石が取り付けられた杖の切っ先を、魔物がいる方へ向けた。

 淡く光る石から、するりと白い帯のようなものが現れる。杖の先端をくるくると回せば、その帯は一つの形を得ていく。丸い円になり、中に配置された記号や文字となった。

 次に少女は、目前に迫る魔物を斬るように右から左へ薙いだ。発光している魔石の軌道が青く残り、ちょうど魔物に面するところに光が集中する。そして――剣が飛び出した。

 魔術により作られた剣は、至近距離で魔物に深々と突き刺さる。

 ゆっくりと倒れていく魔物。その身体が躯に変わる前に、青い剣はパキンという高い音を残して消えていった。その直後にヒイラギが、魔物の一体を切り伏せる。不利であることを判断する程度の知能はあるのだろう、残りの魔物はそのまま森の奥へと逃げるように去った。

 追いかけようとするものはいない。彼らの今日の仕事は、魔物を追い払うことだ。うかつに深追いするのは命取りで、そもそもそのための準備もしていない。今日はここまでだ。

 ぴぴく、と耳を震わせながら、白い髪の少女が杖を抱える。

「ボクはアポフィラ、です」

 間違えるのもほどほどにしやがれですよ、と深くため息をこぼした。


 特に世界を救うでもなく、大金の夢を追うわけでもない。

 何となく気が向いた時、あるいは懐事情の具合で重い腰を上げるだけ。

 彼らは、そんなゆるい感じの冒険者パーティである。

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