File:9 手駒
コツコツ。靴の音が響いている。
「ミスターN。」
そう呼んだのは黒崎だ。しかし、その眼は明らかに刑事をやっている時の目とは違う。
「来たね。黒崎・・・梓刑事・・・。こんなところで密会しているなんて。マスコミにでもばれたら君はどうするつもりだい。」
「それは関係ない。今、あたしの頭の中にあるのはあのオリジナルを殺ること。」
「フ・・・。君はどうも喧嘩っ早いねぇ・・・。」
「別に喧嘩っ早いわけじゃ・・・。」
「君はまだあいつを殺すべきじゃない。」
「知らないわ・・・。」
そういうと黒崎はぷいと元の方向をむき、歩いていった。
(ふん・・・。今の君にはただただオリジナルを話されるだけなのに・・・。まぁ、それだけってことかぁ・・・。)
今私は何をしているのかというと、事件の依頼である。というよりも協力かなぁ・・・。
「ねぇ、ナガシィ。今回もやつらは来るのかなぁ・・・。」
「恐らく来るでしょうね。この連続殺人はもう、誰かに止めてもらわないといけない事件になっているんですから。」
(でも、なんでだ。犯人には犯罪を止めるっていう意思があるようには思えない。どうしてだ。もう、十分すぎるぐらいの人を殺している。まさか。まだ復讐は終わってないってことか。それともただただ捜査をかく乱するためだけに殺しているのか・・・。それとも、殺しをしているのはただの実験体・・・。)
しばらく静かな時が続いた。
「見つけた。」
ふと萌を見ると、目の前に人がいるとは思えない所を見ている。明らかに見ているのは僕だ・・・。
「止まってる。」
「そろそろ。決着つけない。あたしにその力を全部よこすんだね。」
「ふぅ・・・。刑事がやることじゃないよね。」
覚えのある顔と声である。僕が刑事をやっていた時の部下の一人だった黒崎梓だ。
「刑事。誰のこと・・・。」
(・・・記憶すらないのか・・・。)
「さぁ。あなたのすることは一つだよ。あたしに力を全部。あたしに渡すこと・・・。」
「そろそろまずいんじゃない・・・。」
「何・・・。」
「それのシステムはセカンドキル。秒単位でなければそれは発動しない。もうそろそろ1秒ぐらい経つよ。そうなったらどうする・・・。」
「ふん。そうやって、現実世界で1秒たつのを待つつもり。そうはいかないわ。」
黒崎は右手にナイフを手に僕に襲いかかってきた。昔、梓とはよく活動をしていた。動き方がわからないわけじゃない。身をひるがえして、ナイフが刺さるのをかわす。
「チッ。簡単にかわすわね。」
「それはそうだよ。君のことを知らないわけじゃないからね。」
「・・・。どういうこと。どこかで・・・うっ。」
黒崎が鈍い声をあげて、うずくまる。
「ハァ・・・。ハァ・・・。ハァ・・・。あっ・・・。」
苦しい表情だ。同人誌とかであるやられて気持ちがどっかに飛んで行きかけている女子の顔ではない。
「はっ・・・あっ。うっ・・・。」
「ジィエンド。」
黒崎の身体から赤い何かが出ていった。まさかとは思っていたけど、僕の次に取り憑いていたのは黒崎だったのか・・・。今度はいったい誰に取り憑く。まず、萌は違った。
「取り憑く人間さえわかっていればいいんだけどなぁ・・・。」
「あれ。梓・・・。」
時間が戻ったようだ。
「なんでここに・・・。」
萌は黒崎に寄った。
「あれ。あたしは何でここに・・・。」
「萌。黒崎にこういって。」
「えっ。うん。」
今起こったことを黒崎に話した。
「そういうことかぁ・・・。いったい何をしていたんだろう・・・。なんか時折意識が飛んでいたんだけど・・・。」
「黒崎刑事。それはおそらく一連の連続殺人の犯人が持っているものと同じ力によって、一時的に主人格が乗っ取られているんだ。」
「梓。多分、連続殺人をしてる犯人が持っている力のせいだよ。一時的に意識を乗っ取られてるんだよ。」
「てことは。あたしは今まで犯人の手駒になってたってわけ・・・。」
「・・・。」
「あたしはいったい何やってんの・・・。」
人の気配を感じる。萌も感じたみたいで、お互いにその方向を見てみた。しかし、誰もいない。
「ほら。だから言ったのに・・・。君には無理だってね・・・。でも、いい情報になったよ。かつての同志・・・。フフフ。ハハハハハ。」