オレと晶のクリスマス
メリークリスマス!
初の侑視点です。
晶中三、侑中二の頃の話で、このころすでに侑は晶に恋心を抱いています。
先輩一切出てきません。
甘さは控えめだと思われます。
以上を踏まえてよろしければ…
「侑、ケーキ食べたくない?」
風呂からあがって、そのままだらだらとテレビを見ていた晶が、こちらを全く見ないでそんなことを訊いてきた。ソファーに座っている晶の隣に座りながら、答える。
「……食べても食べなくても、どっちでもいいけど」
「食べようよ。クリスマスだし」
そうだね。うん、わかったから。――――こっちを見て。
晶がさっきからテレビにくぎ付けになっているのが、面白くない。口に出しては、言わないけど。そんなに面白いか、それ?
よくよく晶を見れば、テレビに夢中になっているというより、ただぼーっと、テレビの画面を見つめているだけだった。多分内容なんて、全然頭に入ってないな。
疲れている。勉強疲れか? 高校受験が近付いてきて、晶は勉強に必死だ。クリスマスの日くらい休めばいいのに。晶の成績なら、どこの高校だって余裕だろうに。
テレビを見ているということは今は休憩中? 勉強するとき、晶は基本部屋に籠りきりになるからな。きっとそうだ。
というか髪濡れてますが、晶おねーさん。さっきから水滴がぽたぽたぽたぽた。受験生が風邪を引く。オレがこんなに風邪菌を家に持ち込まないよう努力してるのに、その努力が無駄になるようなことは止めてくれ。
「晶、髪乾かせば?」
「……忘れてた」
ふぅと溜息。近くにあったタオルを渡してやれば、手を動かすのも億劫と言わんばかりの動作で、髪を拭き始めた。
「ケーキ、食べるなら付き合うけど」
「ホント? 良かった。一人で食べるのはちょっと悲しいから」
「座ってて。オレが取ってくるから」
晶が立ち上がろうとするのを制して、冷蔵庫の中にあるケーキを取りに行く。冷蔵庫を開けると、一番目立つところにケーキの入った白い箱が置かれていた。ああ、これか。
「晶、なんか飲む?」
「ん、シャンメリー飲もう。あと一本残ってたよね?」
「了解」
とりあえず、シャンメリーとケーキの箱を運んでしまおう。コップを運ぶのはそのあとだな。
目の前にケーキとシャンメリーが置かれると、晶の顔がわずかにほころんだ。……本当に今日は疲れているな。その顔を眺めてから、再び台所とリビングを往復。わたしがする、と晶は言ったが、晶のために動くことは苦じゃないし、それに何より疲れているのにそんなことはさせられない。
「美味しそうだね。……チーズケーキ貰っていい?」
「いいよ。オレはなんでもいいから、晶は好きなの選べば。っていうかホールケーキかと思った」
普段使いではない、ワインを入れるような綺麗なグラスに、シャンメリーを注いだ。
「うん、わたしも思った」
「だよな。買ってきたのって父さんたち?」
「そうだよ。留守番させちゃうお詫びだって。別にいいのにね」
父さんも義母さんも、今日もいない。久々に休みが取れたとかで、二人でどこかへ行ってしまった。……正直、どうでもいいけど。
チーズケーキを一切れ口に入れながら、晶が尋ねた。
「今日クリスマスなのに、予定なかったの? 一日家にいたけどさ」
「なかったよ。それにこんな寒い日に外出たくないし」
「ものぐさだね」
くちびるに薄い笑みをのせて、晶が笑った。
「晶もだろ」
寒いから、外出したくないのはホント。でも今日予定を入れなかった一番の理由は、晶の側にいたかったからだ。クリスマスという、この特別な日に。
晶がオレを見ていないのは、知ってる。だって彼女の心には、もう別の人物が入り込んでいるから。オレより二つ上の、晶の昔馴染み。晶の何よりも誰よりも大切な、憧れのヒト。
来年のクリスマスは、晶はあいつと過ごすのかも知れない。
でも、今年は。今年のクリスマスはオレといる。たとえ晶にその気がなかろうと。
くすっと、オレも笑う。
「どうしたの? 侑」
「なんでもない」
ほんのわずかな優越感に浸りながら、オレはグラスに口をつけた。