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ルミレミ姉妹の未来と魔王の末路編


                ルミレミ姉妹の未来と魔王の末路編



 

「ただいま~~~~♪」

 バタンと木製の扉の開く音と共にルミーナ・シルフィードの元気な声が〈大いなる実り亭〉に響き渡り、店主のフェーナ・オーガストと、日も暮れかけた時刻ということもあり二十人近くはいるバッシュ・ブライトをはじめとした常連客の視線がそちらへ集中した。

 「……おかえり二人とも……あら? 随分と服がボロボロねぇ? それに一週間近くも帰って来ないなんて、そんなに手こずったの?」

 「……ええと……その……あははははは……」

 姪っ子が一週間も戻って来なかったというより、お使いを頼んでちょっと寄り道でもしたのとでも聞くかのような叔母のフェーナに、レミーナはどう説明したものかと考える。

 「うんとね、ゴブリンのついでに魔王もぶっとばしてきたんだよ~~♪」

 そのレミーナのように悩むという事をしないルミーナはストレートかつ簡潔に答えると、バッシュ達は「ああ、そうだったのか?」と納得しかけて、次の瞬間に声を揃えて叫んだ。

 「「「「「「……って、魔王ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!?」」」」」」

 「あら、そうだったの?」

 驚きのあまりに中には飲んでいた酒を噴き出した者さえいたが、フェーナだけは特に驚いた様子もなく言うのに、流石は自分達の叔母さんだなと歓心したような呆れたような気持ちになる。 そして男衆が口々に本当なのかとレミーナに聞いてくれば「……ええ、まあぁ……」と苦笑しつつ答える。

 唖然とした様子で言葉を失っている男衆は、やがて声を揃えて盛大に笑い出すが、それはルミレミ姉妹が自分達をからかっていると思ってではなく、とうとうやりやがったかとでも言う歓喜の笑いだ。

 「がっはっはっはっ!! そうか、魔王を倒したのかっ!!!」

 「さすがルミーナちゃんとレミーナちゃんだぜっ!」

 「まったくだぜ! 天下の魔王も二人にかかればゴブリンのついでかよ!」

 次々と発せられる賞賛の言葉に一応は嬉しいとは思いつつも、魔王くらい倒せて当然とでも言いたげな彼らの中では自分と姉はどういう風に思われているんだろうと気になり、ついでに言えば勝ったからといって凄いと言えるような魔王でもないので素直に喜んでいいものかどうかというところである。

 魔王個人の戦闘能力もだが、結局のところ人間側に魔王による被害はほとんどなく、国境での戦線で戦死者が多少出た程度だろう。 もちろん死者が出たという事を軽く考える気はないが戦いとはそういうものであるし、顔も知らない兵士達の死を身内の死と同様に悼める程にレミーナも慈悲深くはなれない。

 とにかく魔王のした事というのはその程度であり、少なくとも〈ティファーナ村〉の住人からすれば最初に倒したゴブリンの方がまだ厄介な存在に違いない。 そう思ってしまうと、やはりレミーナ達のした事はゴブリン退治のついで程度の事なのかも知れない。 

 「はいはい、みんなそこまでね。 とにかく二人ともお風呂に入って着替えてきなさい、お腹も空いてるだろうし美味しいご飯を用意してあげるわ」

 騒ぎがひと段落した頃合を見計らってフェーナがパンパンと手を叩く。

 「あ……はい」

 「わ~い、ご~は~ん~~♪」

 喜び勇んで店の奥へと走っていく姉を「待ってよ」と追いかえるレミーナの後姿を見つめながらフェーナは思う、静かに平穏に暮らしたいと願うレミーナには悪いがあの姉妹はこれからも山あり谷ありな波乱万丈な人生を送るだろう。 それでもどんな困難だろうとルミーナは笑いながら突き進み、そんな姉に手を引っ張られながらレミーナもそれに付いていくのだ。

 そういう姉妹の未来を想像してみて、くすりと笑うフェーナだった。



 魔王がいなくなったといっても、誘拐してきた人間の娘達を元の場所に返すといった事後処理を済ませてしまえば、元通りの魔族のまとめ役をするだけなのがリリーア・クリサリスである。 結局のところ魔王の存在は魔族にとってはいらない騒ぎを起こした程度で、これといった変革をもたらしたわけでもない。

 おそらくは、魔族と人間双方の歴史書には魔王の出現は記されても、ただそれだけだろう。

 「……ふぅ……」

 執務室で書類作成を終えたリリーアは大きく息を吐くと「う~~ん」と伸びをする、この手のデスク・ワークも嫌いではないが、ここのところ執務室からほとんど出ない仕事をしていれば、治安維持に動きまわっているフェイ・テスタロスが羨ましくもなる。

 魔族にも結局のところ悪党の類がいるのは魔王の降臨以前からの話で、そういった連中から一般人を守り秩序を維持するのがフェイ達のような戦闘要員の本来の仕事であり、人間相手に戦争をするための力ではなかったのだから元の鞘に戻っただけとも言える。

 「……我らはこれからどうなっていくのか……」

 いつかは再び別の魔王が現れる日もくるだろう、ここはそういう世界なのだから。 その魔王が魔族を率るに相応しい者であれば良し、だが、またあの男のような者だったら勇者にでも倒してもらうように依頼するかななどと、嵐のように現れ過ぎ去った小さな勇者の顔を思い出して、ふと思った。



 

 〈大いなる実り亭〉は宿屋も兼ねているのでその浴場は広い、ルミレミ姉妹は十数人は入れそうな広い湯船にのんびりと浸かっていた。

 「ふい~~~癒されるねぇ~~~♪」

 「本当ね、こうしてのんびりお風呂に入るのも久しぶりだしね、お姉ちゃん」

 ゴブリン退治に始まり魔族による誘拐、そして水竜と戦いフェイとリリーアという魔族に挙句の果てには魔王と戦う、一週間程度の間に起こった出来事とはとても思えないほどの冒険だったとレミーナは思った。

 結局のところルミーナが勇者だったのかはレミーナには分からないが、姉は姉でありそれ以外の何者でもないとは思う。 

 この世界は神の創った”ゲーム盤”で勇者と魔王は神の戯れに戦わされる存在、その片方の魔王がいなくなれば双璧をなす勇者ルミーナも不要の存在となるはずで、もしそうなら姉は、ルミーナ・シルフィードは……と考えてしまいぞっとなったレミーナは思考を止める。

 いくら神だって姉を奪うのは絶対に許せない、強くてハチャメチャで自分を振り回して、でも普段は子供っぽくてだらしなくて、そんな姉をレミーナは大好きなのだ。 幼い頃からずっと一緒にいた自分の半身のような存在とすら考えている。

 だから、その姉がいなくなるのをレミーナは想像もしたくない。

 「……ねえ、お姉ちゃん。 私達はずっと一緒だよね?」

 「……ん?」

 レミーナの突然の言葉にルミーナは一瞬怪訝な顔をして、妹の顔が真剣なのを見て、彼女を安心させるかのような笑顔を向けて言う。

 「とうぜんじゃないのさ~♪」




 高校の制服の上にエプロンという姿でキッチンに立つ怜美れみが出来上がったばかりの卵焼きをお弁当箱の詰めようとした時に、ドタバタという音ととも勢いよくドアが開かれた。

 「おっはよ~~~~♪」

 「おっはよ~~~♪……じゃないでしょうお姉ちゃん!! いったい何時だと思ってるのよ?」

 黒い長髪は寝癖でボサボサで服もだらしなく乱れている社会人二年目の姉の留美の姿を見て呆れ顔になる怜美は、テーブルの上にあるトーストとハム・エッグを指差して「とにかく、早くごはんを食べちゃってよ!」と言う。

 「はいはい~♪」

 まったく反省の色のない姉にやれやれと呆れるが、そんな姉の面倒をみるのは嫌いではない。

 「まったく……お姉ちゃん、いつまでもそんなんじゃお嫁に行けないよ?」

 「いいよ~、お姉ちゃんはずっと怜美に面倒みてもらうんだもんね~~~」

 年齢=彼氏いない暦の留美はそんな事も気にしないという風に言うのにまたも呆れる怜美も実は彼氏はいないのだが、その事に不満はまったくない。

 「はいはい……と、良しっと」

 姉と自分のお弁当を作り終えた怜美は、何気なくテーブルにおいてあったリモコンを操作してチャンネルを変えるとニュースをやっていた、どうやら道路に跳びだしてトラックに轢かれた男の話題らしい。

 目撃者の話では虚ろな目でふらふらと歩いていたその二十代の男は不意に道路に跳びだしたといことで警察では衝動的な自殺ではないかとみているらしい。 子供の頃から友達も出来ず、就職しても長続きせずに家に引き篭もりゲームばかりの生活を送っていたというその男の名前を見ようとしたが留美が声をかけてきたので思わず振り返り、その間にニュースは次の話題に移る。

 「これって要するにニート君が人生に嫌気がさして自殺って事かなぁ?」

 「……そうなんじゃないかな?」

 明るく活動的な性格の怜美にはこういった人間の思考は想像出来るものではない、だから家族に迷惑をかけ、他人に迷惑をかけ自分で命を絶つという身勝手な行動をとれるこの男に同情しようとは思わない。

 もっともこの男はまだいい方で、人を殺せば死刑になるからとかそんな思考で人の命を奪おうとした事件も以前にあり、友人には現代社会の犠牲者だという者もいたが怜美にしてみれば身勝手なエゴでしかない。 そんなくだらないエゴにもしも留美が巻き込まれでもしたらと思うとぞっとし、そうなったら犯人を殺してやりたいほど憎むだろう。  

 「……って!! お姉ちゃん! 時間時間っ!!」

 「ほへ?……うわっ、やばっ!!!!」

 焦り、大慌てながらも残ったトーストとハム・エッグを一気に入れて牛乳で無理矢理に飲み込む留美に呆れながら、キッチンに戻って姉のお弁当を持ってくる。

 「じゃあ、いってくるね~~~♪」

 「……ちょ! お姉ちゃん! 寝癖くらい直して……ああ、ボタンも掛け違ってっ!!」

 姉妹の慌しい朝の喧騒もいつもの事であり、そんな日常の光景の中では二人の頭の中から先ほどの自殺したという男の事などすっかり消え去っていた。



 窓から差し込む光が朝になった事を知らせるが、レミーナは自分のベッドの中でまどろんでいる。 もう起きて朝ごはんを作らないとお姉ちゃんがうるさいだろうなというのと、布団の中があまりにも気持ちよくてもう少しこのままでいたいという気持ちが鬩ぎあっていた。

 「レミーナ~~~~~~~♪」

 「……へ!?」

 そんな心地よさも、バタンという音と共に響いた元気なルミーナの声で一気に消し飛び、意識が現実へと引き戻される。

 「お姉ちゃん!?」

 上半身を起こして姉の方を見れば、旅用の服を着込み準備万端という様子なのが分かり嫌な予感を覚えた……と言うよりほぼ確実であろう。

 「ねえ、レミーナ。 湖の遺跡に行こ?」

 「……は?」

 「ほら、モエツ湖の!」

 それでやっと思い出す、冒険者のトラン・ザムバーストに聞いた遺跡で、本当はそこへ行く予定だったのが水竜とフェイの襲撃で結局行き損ねてた遺跡だ。 

 「ちょ……これからなのお姉ちゃん!?」

 「そだよ~~♪」

 魔王を倒して村に戻ってから三日、ようやくしばらくは静かに過ごせると考えていたのは、いくらルミーナでも魔力を完全に使い切る程の戦いをしてすぐに冒険には行かないだろうと思っていたからだ。 しかし姉のバイタリティーと気まぐれさ加減はそんなレミーナの予想を上回っていたようだ。

 「ほらほら~~早く行こう~~~~!」

 「ちょっ! 待ってよお姉ちゃん! 私まだ着替えも……って!? 待って、脱がさないでよぉぉおおおおおっ!!!! もうっ!! お姉ちゃんの馬鹿ぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!!」

 早朝の〈ティファーナ村〉にレミーナの、いや、ルミレミ姉妹の騒ぎ声が響き渡るのだった……。




 ルミーナとレミーナの姉妹はその後も冒険を続けていき、当人達にはその気もないが数々の偉業を達成した。 だが、それによって得られたであろう名声も富を地位も、二人はすべて拒否していったために彼女らの名前は歴史の表舞台に残る事はなかった。 

 晩年は故郷の村で静かに穏やかに姉妹仲良く暮らしたと伝えられていて、銀髪の美しい老婦人になった姉妹・・・・・・・の肖像が今でも村には残っている。 

 しかし、彼女らの冒険譚はジェシカ・フェアリオという女性の記した一冊の本に残されて冒険者ギルドに保管されている。 アレストリアのみならず大陸を嵐にように駆け抜けた二人の冒険者の名前は一部の冒険者達の間でひっそりとだが語り継がれていく。 

 

 

         その本……《ルミレミの冒険物語》を読んだ者達の間で永遠に……。

 



ルミレミ姉妹の冒険物語はこれで終了になります、読んで下さった方ありがとうございます。

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