水竜出現! 放て、必殺【レイオ・ブラスト】編
ルミレミの冒険物語 水竜出現! 放て、必殺【レイオ・ブラスト】編
「……ふ~ん? ”勇者”ねぇ……あの魔王を倒してくれるって言うんなら願ったり叶ったりじゃないの?」
「口を慎めよ、フェイ・テスタロス」
立場上は上司であっても旧友でもあるフェイが執務室の壁に寄りかかり対等の口調で話すのを咎める程リリーア・クリサリスも器の小さな女ではないが、リリーアの本心に関係なく魔王への不敬行為は慎ませなけれいけないのが彼女の立場である、それがこの城にいる魔族のほとんどがフェイと同じ考えだとしてもだ。
「はいはい……それで? あんたは私にその勇者を倒してこいって言うわけ?」
炎のようなポニーテールの赤髪に同じく真っ赤な甲冑に身を包み”紅蓮の死神”の二つ名を持つフェイは面白い遊びを見つけたかのような顔で言うが、リリーアは首を横に振る。
「いや、まずは彼女らが勇者かどうか見極める必要があるだろう、結局はお前に戦ってもらうには違いないがな」
「……まあ、それはいいんだけどね。 どうせこんな城、て言うか魔王の側になんて居てもストレスが溜まるだけだしね、偶には発散したいわ」
魔族の間での魔王の評判ははっきり言って最悪である、唐突に人間に戦争を仕掛けたのもそうだし、魔族の気にいった女性を集めハーレムを作りそのあげくに部下に危険を冒させ人間の女も連れて来させている始末だ。
そんな魔王であっても反乱どころか抗議の一つも出来ないのは”魔族は魔王に逆らえないように創られている”からしいというのがリリーアの話だった。 どこの誰かは知らないが、だったらもっとましな魔王を寄こせと文句を言いたいのはフェイだけではないだろう。
「やれやれ……とにかく無茶だけはするなよ? お前に何かあればアリアやシュバルに申し訳が立たないからな」
フェイの妹であるアリア・テスタロスと彼女ら姉妹の幼馴染みのシュバル・シュピーゲルは現在〈アレストリア王国〉の国境付近、つまり最前線にいる。 それは頭脳明晰で戦闘能力も高く容姿も良い部類に入るシュバルを魔王が前線に送り、彼に好意を抱く妹の気持ちを組んだフェイがアリアをシュバル元へ送るよう手配したからであり、当のフェイが城にいるのは友人であるリリーアを一人魔王の側で残しておくのが心配というのが経緯である。
戦闘においては紅蓮の死神と呼ばれ恐れられている彼女の、そういう気遣いや他者への配慮を良い面だと同時に戦士として危いものではとリリーアは心配している。
「……心配するなよリリーア、私とて魔王の為に死ぬなんてまっぴらだからな?」
どうしてこうなったんだろう?とレミーナ・シルフィードは目の前にいる貧弱な武器で武装した十数人の男たちを見据えていた。
無事に夜を明かしたレミーナ達三人は朝食後にまずルミーナ・シルフィードの【サーチ】で《エターナル・ツインダガー》を探したところ案外近くに落ちていたので回収した、ザコ二スと名乗った魔族が捨てたのか、彼が持っていたものがルミーナの魔法攻撃の際に落ちたのかは知らないが武器が戻ったのは幸いとほっとした。
その後に【テレポート】でこの〈カノンの塔〉に無事到着した途端にこの状況であった。
「くっくっくっくっくっ! こんな可愛い娘っ子共がこのゴロッツ・キーデス様のアジトに自分からやってきるとはな! がっはっはっはっはっ!!」
どう見ても盗賊団かその類の連中のリーダーらしい男が下品な笑いを上げるの聞いたジェシカが「ああ……そういえば……」という声を出した。
「ジェシカ、こいつら知ってるの?」
「はい、ルミーナさん、知っていると言いますか……最近〈カノンの塔〉に盗賊が住みついたようだと村で噂があったような……?」
「そう言うのは早く思い出してよ!」
思わず怒鳴るレミーナ、昨日からだけの事ではなく姉と冒険に出る度に大小様々の余計なトラブルが起こるという事実に頭を抱えたくなり、自分か姉のいったいどっちがトラブルを呼んでいるのだろうと考え絶対に自分ではないはずと信じたい。
「……とりあえずぶっとばす?」
「……そうね、私が行くわお姉ちゃん」
《エターナル・ツインダガー》を抜きながら前へ出るレミーナの目が据わっていたのに驚いた顔を見せるルミーナ、妹のそんな顔はかなり苛立っている時の顔だと知っていて、そういう時はルミーナも触らぬ神にたたりなしを決め込む事にしていた。
「何だ? 俺らとやろうって言うのかお嬢ちゃん? がっはっはっはっはっ!」
しかし、そんな事を知る由もないゴロッツ達は馬鹿にした笑いで火に油を注ぐような真似をする。
「ええ、そうよ? 悪いけど、手加減はしないから……」
言いながら僅かに腰を沈めると次の瞬間に一気に踏み込み盗賊団との間合いを詰める、その動きは俊足と言うべきものでありゴロッツの顔から余裕が消え驚きに変わる間に三人が蹴り倒されていた、そこでようやく反撃に出た男達の剣やナイフを《エターナル・ツインダガー》で防ぎつつ蹴りを繰り出して次々と盗賊団を倒していく。
「……う、嘘だっ!!?」
「本当よっ!!」
最後に残ったゴロッツの顔面に強烈な一撃が決まるとそれで戦闘は終了だった、痛みに呻く盗賊達に「どうするの? まだやるのかしら?」と凄みを利かせた声で言えば、ゴロッツ・キーデスの盗賊団が情けない声を上げながら逃げ出すしかなかった。
ほぼ予定通り〈シャノンの村〉に到着したレミーナ達はとにかくジェシカの家に向かおうとしたが、ジェシカが行方不明になった事はすでに知れ渡っていたようで通行人のおばさんが彼女に気が付き大騒ぎになった。
その後ジェシカの家に行くと彼女の両親に感謝され、お礼をしたいと申し出たのだがルミーナとレミーナは辞退した。 ジェシカを助けたのはほとんど自分の身を守るついでであるし、何より姉妹は正式な冒険者ではないので報酬を貰うのは気が退けたのである。
それでも「でしたら、せめて宿屋を手配しますから今夜は村でゆっくり休んでくだされ」と言われれば、ルミーナの【テレポート】ですぐ帰れますのでとは言いにくく、結局〈シャノンの村〉に一軒だけある宿屋で一泊する事になった。
一見すると旅人など訪れるとも思えない農村の〈シャノンの村〉にも宿屋があるのは冒険者のためであり、だから大抵の宿屋は酒場を兼ねている。
「う~~ん……どれにしよっかな~~♪」
その酒場で夕食を摂るべくルミーナとレミーナはテーブルに並んで座っている、混雑している店に居る客の大半は村の男達であり、その中にうら若い女の子が二人と言うのは浮いた存在だがフェーナの〈大いなる実り亭〉に入り浸っていた彼女らは特に気にする事はない。
「……ここ、いいかな?」
姉妹がメニューを眺めていた時に不意に声をかけられ顔を上げると、そこには短く切った黒髪の青年が立っていた、防具は付けてはいないが腰に剣を携えているのを見ると冒険者なのだろう。
「……あなたは?」
「ああ、俺はトラン・ザムバースト、冒険者だ。 決して怪しいものじゃない」
そう言って青年は自分のギルド・カードを見せた、このギルド・カードは冒険者ギルドに所属する冒険者である事を示している。 ギルドの試験をクリアした者しか所持出来ないこのカードは何よりの身分証明書であり青年の冒険者としての能力が一定以上であるのを現している。
別にギルドに所属していないから冒険をしたり冒険者を名乗ってはいけないという決まりはないが、ギルド所属と言う信用や仕事の斡旋等の様々なサポートの恩恵は難しい試験を突破しても受ける価値があり、冒険者を目指す大半の者はまずはギルド所属を第一とする。
ちなみに冒険者を名乗るのは自由だが、勝手に”ギルド所属の冒険者”を名乗った者には厳しい制裁が科せられる、だからこそギルド・カードは信頼性の高い身分証として機能している。
「ふ~~ん? まあ、いいんじゃないレミーナ?」
「……まあ、お姉ちゃんが言うなら……」
「決まりだな……って、お姉ちゃん!?」
レミーナの言葉にトランが驚きの声を上げた、どう見ても十代後半か二十歳くらいの少女が十歳くらいの女の子にお姉ちゃんと言えば当然の反応である。 レミーナにとってはそんな他者の反応はもう慣れたもので、とりあえずトランに座るように促し、それぞれに料理を注文してからすらすらとこれまで何度も繰り返してきた説明をする。
「……成程ねぇ、アイテムの呪いで幼女化かぁ……」
「つるぺた幼女って言うな!」
「……いや、つるぺたまでは言ってないが……」
まだ半信半疑という風なトランの反応はレミーナも見慣れたものであり、信じようと信じまいとどっちでもいい事だった。 しかし姉を馬鹿にしたり呪いという単語に言われのない差別や迫害をしようとする者に対してはレミーナは容赦のない制裁をしてきた。
「それで冒険者の真似ごとをするようになったんですよ、だからギルドにも所属していません」
レミーナにしてみれば冒険はあくまで姉の呪いを解くためのものであり生業にする気はなく、またルミーナも試験が面倒という理由でギルドには所属していない。
「おいおい……魔族を倒して少女を救えるような奴らが無所属かよ……信じられないな……?」
そのトランの驚きの言葉にレミーナは彼が話を聞きつけて興味を持ち自分達に会いに来たのだと分かる。
「そういう事情なら、なおさらギルドに入った方が良くないか? その方が情報だって手に入り易いだろ?」
「その辺は、まあ……いろいろと伝手を使ってというか……あははははは」
「そうだね、バッシュさんとか結構いろいろと教えてくれるもんね~♪」
「バッシュって……まさか、バッシュ・ブライトかよ?……君達はつくづく只者じゃないなぁ……」
ルミレミ姉妹にとっては気の良いおっちゃんというバッシュも冒険者としては、ギルドではそこそこ名の知られた存在であるのは知っていた。
「あはははは……まあ、私達はそんな感じですよ。 今回の事だって偶然って言うか成り行きです、凄腕冒険者とかそんな事じゃないんですよ」
「……そうとも思えないけどな……っと、そういや呪いを解きたいんだったよな?」
トランがふと何かを思い出した様な顔でそう言った。
「そだよ~、あたしはナイスバディな大人の身体に戻りたいのよ~~!」
自信満々に言うルミーナだが、彼女のスタイルが平均的でありバストのサイズも人並みなのを知っているレミーナはつい苦笑してしまうのには、ルミーナには気が付かれなかった。
「呪いが解けるってか、何かあるって保障するらないんだが……〈モエツ糊〉の側で最近遺跡が発見されたんだ」
「へ~~レミーナ知ってた?」
「ううん、初めて聞いたわ」
「まだ、そう多くの冒険者が立ちいったわけじゃないから、ひょっとしたらまだ何かあるかも知れない」
チームを組む冒険者以外はある種ライバルであるとも言えるが、ある程度までの情報はオープンにするのが〈アレストリア王国〉の冒険者の流儀だった、それは情報を共有し合う事で結果的に自分の利益にもなるからである。
ましてや、すでに数人が足を踏み入れた場所であれば、トランがガセネタで二人を騙そうとしていると疑う必要はない。
「……そうなんだぁ、今度また行って……」
「うし! 早速行こうレミーナ~!」
「……そうだね……って!? えぇぇええええええええっ!!!?」
〈シャノンの村〉から三日程の距離にあり、周囲を広い森林地帯に囲まれたモエツ湖は数キロはある広大な湖であり魚も多く生息する豊かな湖だが、移民の初期時代に村を作ろうとした人々がこの湖に棲む水竜に襲われ全滅したという逸話もある場所であり冒険者以外は誰も近寄ろうとしないというのは、食糧などの買い出しの時に店員がレミーナに教えてくれた話だ。
もっとも現在では目撃例もなく、水竜の存在自体を疑問視する声もあり、トラン・ザムバースト自身も水竜の存在に懐疑的だからこそルミレミ姉妹に話をしたのだろう。
「うわ~~~広いねぇ~~~~♪」
そんな逸話を知ってか知らずかルミーナ・シルフィードは景色を眺めはしゃいだ声を出し、彼女の後ろに立つ妹のレミーナはそんな姉を恨めしそうに睨んでいる。
あの後レミーナは当然ルミーナに反対したのだが結局押し切られた……と言うより、ルミーナはどっちにしろ一人でも行くのであり、結局はついて行かざるを得ないレミーナというのがルミレミ姉妹のいつものパターンである。
翌朝に準備を整え宿屋を出発する時に見送ってくれたトラン・ザムバーストは「……君のお姉さんはすごいバイタリティだな……」と呆れたような感心したような、レミーナに同情しているともとれるような顔だった。
「……景色なんていいから早く遺跡に行こうよお姉ちゃん、私は早く家に帰りたいんだからね!」
「ほへ? ああ、そうだねぇ~」
レミーナが急かすのはそれだけが理由ではない、豊かな森林がありながら鳥の鳴き声も聞こえず、さざ波ひとつ立たない真っ青な湖面がどうにも不気味に見え何か起きそうな胸騒ぎがするのだ。 気のせいと思いたいがルミーナと冒険中のそういう悪い予感は外れた事がなく、それでもどうか外れて下さいと神に祈ってみる。
だが、その祈りは届かなかった。 それまで何ともなかった〈モエツ湖〉の中心辺りでポコポコと泡が立つのが見えた。
「……ありゃ? あれ何だろうね?」
「……ううう……結局はこうなるのね……」
興味津々というルミーナとは対照的に滝のような涙を流すレミーナにはもはや「逃げよう」と提案する気にもならず諦めの極致にあったのは、何となく何が跳び出てくるのかが予想出来たためである。
そして、その予想も見事に的中し、激しい水しぶきを上げて跳び出してきたのは巨大で長いトカゲにも似た頭部と首だった。
「やっぱり水竜ぅぅぅううううううううううううううううううっっっ!!!!」
そのレミーナの叫びに気が付いたのか水竜は姉妹の方をギロリと睨むとゆっくりと移動を開始した、頭部だけでもレミーナの倍以上はありそうな巨体なせいか初速こそにぶいが、そのどんどんと速度を上げて岸に向かって来る。
「お! 何か知らないけどやる気みたいね?……【フライト】!」
「……って、お姉ちゃんっ!?」
飛行魔法を使いルミーナはふわりと宙に浮かぶと一気に加速し水竜に突撃して行く、そこには水竜という未知で強大な存在に対する恐れは全く見られない、それは生来の怖い物知らずであり、売られたケンカはとりあえず買うというルミーナの気質である。
もっとも、これまで無敵の行軍だけだったという事もなく、何度か負けたり痛い目を見た事もあるのだが、それで懲りるという事をしないのは良い事なのか悪い事なのか判断に迷うところである。
自分に向かってくる小さな存在を敵と認めたのか水竜が吼える。
「やかましいわっ! 【レイオ・ランサー】っ!!」
レッサーデーモンを一撃で倒した光の矢が水竜の首に突き刺さるが何ともなかったのようにルミーナに噛みつこうと、いや、喰いつこうとするのを回避する。
「だったらっ! 【レイオ・ランサー×12】!!!」
ルミーナの一度に放てる最大数の【レイオ・ランサー】が水竜を襲うと流石に痛みに声を上げるが、やはり大きなダメージになった様子もなく、反撃とでも言いたげに無造作に振るわれた水竜の頭部をルミーナは今度は回避出来ずに吹き飛ばされて、水面に叩きつけられた。
「うきゃぁぁぁああああああっ!!?」
「お姉ちゃんっ!!!?」
レミーナは悲鳴のような声を上げを上げ反射的に《エターナル・ツインダガー》を抜くが、しかし飛行魔法を使えず、姉を助けにも行けないという事実に愕然となった。
水竜の頭突き?を食らい勢いよく水面に叩きつけられた全身を激しい痛みが襲うが、それを堪えて再度【フライト】で水中から飛び出す。
「……あたたたた……手強いわねぇ……」
とりあえず突撃してみたが流石に一筋縄ではいかない相手と分かる、身体がでかいからなのか知らないが【レイオ・ランサー】を十三本も受けて平然としているというのは信じがたい。
「ちょっと! あんたは何であたしらを襲うのよ?……って、ちょっ……!?」
水竜がかっと口を開いたかと思うとそこから激しい勢いで水が吐き出された、咄嗟に射線上から逸れてみせたのはルミーナの直感と思い切りの良さだが、水竜もたいしたもので【水のブレス】を吐きながらも頭部を動かしルミーナを追尾して来た。
「……わっ!? 【シールド】!!」
魔法による光の防御壁でガードするが、噴射される水の勢いに弾き飛ばされそうなる。
「ぐぎぎぎぎぎ……根性~~~~~!!!!」
【フライト】と【シールド】のパワーを最大にすべく魔力を注ぎ込み必死で耐えながらも、この水竜を倒すべく手を模索するのはほとんど本能的な行動である、そして導き出された結論はぶっつけ本番ではあるが”あの魔法”を使うしかないであった。
そうと決まれば、まずは水竜か自分のどっちが先に息切れするかの根競べであるという考えは出来ても、一旦【ブレス】から離脱し態勢を立て直そうという発想のないのがルミーナである。
先に息切れしたのは水竜の方で、【水のブレス】の勢いが徐々に弱くなり、やがて止まった。 ルミーナはすぎさま【シールド】を解除すると両手を水竜に翳さしたまま新たな魔法を使うべく準備に入る。
「……光竜神レイオリスの力をあたしの手にっ!!」
ルミーナが叫ぶと彼女の前に現れた光が魔法陣を形作る、その様子に文字通り息切れしゼェゼェと呼吸を荒くしていた水竜の顔が驚愕したように見えた。
「ぶっつけ本番! いっけ~~【レイオ・ブラスト】フルシュ~~~トぉぉぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
魔法陣の輝きが一気に増したかと思うとそこから放たれたのはまばゆいなかりの閃光だった、閃光は一気にルミーナの数十倍近い直径に肥大し水竜を呑み込んだ……。
「……冗談だろう?」
上空で水竜と勇者らしき少女の戦闘を観戦していたフェイ・テスタロスが驚愕に目を見開きながら呟く、長い休眠期の最中だった水竜が目を覚ましたのは勇者の放つ並はずれた魔力に反応し、食らおうとでも思ったのだろうと分かるのは、永き年月を生き強力な力を持つ古竜の部類に入るその水竜の存在と所在は魔族も知っていたからだ。
そんな古竜と勇者との三つ巴の戦闘をする気はフェイにはなく、まずはお手並み拝見とその戦闘を観戦する事にした。
そしてその戦闘を終了させたのは一筋の強大な光の直線だった。 勇者と思われる少女が放った光の奔流は水竜だけでなく直線上数百メートル渡り呑み込み、光が収まった後に射線上にあった木々は消滅していた。
そう、焼き尽くされたという生易しレベルではない、神の裁きの光にも思える強大なエネルギーは水竜や木々を一瞬にして蒸発させ文字通りのこの世から消滅させた。 このような恐るべき力を持つ魔法はフェイの知る限において思い当るものはひとつしかない。
「まさか……【レイオ・ブラスト】……?……レイオ・シリーズの魔法で最大最強の魔法だと言うのか!?」
フェイも書物とかリリーアあたりから聞いた程度であるが、【レイオ・ブラスト】だけは人間には使えないだろうと思われている、それは膨大な魔力を必要とするだけではなく使用時に身体にかかる負荷は並大抵ではなく、高位の魔法使いでも一度の使用ですべての魔力を使い果たすだけでは済まず、死と引き換えにするものだと言われている。
しかし、蒸発した水蒸気で湖面に発生したもうもうとした霧が晴れ姿を現した少女はしばらく肩で息をしていたものの、しばらくし岸に向かって移動し始めていた。 楽観的に考えれば伝え聞いた話が間違っていただけだともとれるが、【レイオ・ブラスト】らしき魔法の威力を目のあたりにすれば少女はどちらにしても只者ではなく、リリーアの言っていた勇者である事は間違いないだろうとフェイには思える。
「……面白い!」
フェイの顔が驚愕から不敵なものに変わると、彼女は紅蓮の死神の由来のひとつでもある戦闘用の大鎌《クリムゾン・デス》を出現させて両の手で握りしめると、勇者と戦うべく降下し始めたのだった




