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魔王降臨 冒険開始?編


 

             ルミレミの冒険物語 魔王降臨、冒険開始?編



 男が目を開き最初に見えたのは一人の女性だった、多少癖のある黒髪にファンタジーゲームか何かに出てくるようなレオタードとも思える衣装の人物は、片膝をつきこうべを垂れている。

 「……お目覚めですね、魔王様?」

 「……魔王……?」

 まったく状況が理解出来ていないところへ聞きなれた、しかし自分にはまったく縁のない単語に首を傾げる事しか出来ない。 とにかく置かれた状況を確認すべく周囲を見渡してみるとそこは王の謁見の間という風な場所であり自分が玉座に座っていると分かる。

 「……僕は……え?」

 更に自分の姿にぎょっとなる、当然顔は見えないが身体には漆黒の甲冑を身につけていてその隙間からのぞく自分の皮膚の色は濃い緑色をしていたからだ。 いったいこれは何の冗談か、それともタチの悪い夢なのかと思った。

 しかし身に纏う甲冑の重さも、室内のひんやりとした空気もすべての感覚がリアルなものであり、それは夢と言うよりゲームや小説なので見かけて何度も妄想した状況下であると受け入れてしまいたくなる。

 「……ご命令を魔王様、この私、リリーア・クリサリス以下すべての魔族はあなたの仰せの通りに……」

 「……僕の相手をせよ?……と言ってもか?」

 顔を上げた女性が美人だったから半ばノリと冗談で言ってみた言葉だ、引き籠りと言われる生活をしていた彼であっても、仮に自分の予想通りの状況だったとしてもいきなり相手をせよと言って従う者はいないと思う程度に世間の常識は知っている、しかし返ってきた言葉に驚く事になる。

 「……魔王様がそれをお望みなら……」

 「……!!?…………ほう?」

 見た目での判断だが年齢的に言葉の意味を理解していないという発想はない、一瞬の戸惑いの後に彼の内にどす黒い欲望が生まれ、それまであった突然の状況に不安という感情を吹き飛ばした。

 「いいだろう、僕が魔王……お前達の王だな?」

 「……はい」

 女の返答に満足げに頷き、魔王となる事を決めた男の口元が不気味に歪んでいた。 

 

 

 「【ファイア・ボンバー】っ♪」

 てっぺんにアホ毛をゆらす長い銀髪に蒼い瞳を持った十歳くらいの少女の可愛らしい声共に放たれた火球は、十数メートル先にいるゴブリン六体の足元で爆ぜ吹き飛ばした。

 「……きゃぁっ!? ちょっと私もいるんだから気を付けてよお姉ちゃんっ!!」

 十七、八に見える外見とアホ毛がない以外は魔法を放った少女とそっくりな顔立ちの少女、レミーナ・シルフィードはもう少しで爆発に巻き込まれそうになった事にひやりとし大声を上げた。

 ゴブリンの巣である洞窟の外での戦闘なので天井が崩落し生き埋めというオチはないが、それでも味方との位置関係と魔法の威力くらい考慮してほしいと思うのはもう何十回目にもなる。

 「あ~~ごめんね~」

 謝りはするものの反省の色は見受けられない姉のルミーナ・シルフィードを一瞬だけ睨みつけてから目の前のゴブリン三体に視線を戻し手にしている双剣《エターナル・ツインダガ―》を強くにぎりしめるレミーナが服の上に皮の胸当てというだけの軽装備なのは動きやすさを重視してのことで、当らなければどうってことはないよ~というルミーナにいたってば防具は何も付けていない。 

 「たぁぁぁあああああああっ!!」

 かけ声と同時に地を蹴って跳び出すと一気に間合いを詰め二本の短剣を振い二体のゴブリンの喉を斬り裂く、残った一体が棍棒を振り上げるがそれを振り降ろす前にレミーナは右手の短剣を突き出し視喉を貫く。

 どす黒い血しぶきを噴出させながら倒れていくゴブリンが動かなくなり、敵が全滅したのを確認するとレミーナは|《エターナル・ツインダガ―》を腰のさやに仕舞う。

 「まったく、悪さをしなければやられる事もなかったのに……」

 〈ティファーナ村〉に住むレミーナ達がわざわざ森のゴブリンの巣に来たのは彼らが村の農作物を荒らすから退治してくれと叔母のフェーナ・オーガストに依頼されたからで、妖魔の類だからと意味もなく殺生をする趣味は彼女にも姉のルミーナにもない。

 村には他にゴブリン退治の適任者――冒険者がいないわけでもないが、せっかく身内に戦闘力の高い娘がいるのだからゴブリン程度に依頼料を払う必要もないとケチくさい事を考えたのだろうとレミーナは考えている。

 「……まあ、いいか。 お姉ちゃん、さっさと帰ろう?……って、お姉ちゃん?」

 見るとルミーナはゴブリンの巣穴だった洞窟の中を興味ありげに覗きこんでいた、「何をしているの?」と聞いてみると「ん? いや、何かないかなぁ~と思ってさ」という答えが返ってきて呆れた顔をする。

 「……流石にこんなとこにお姉ちゃんの欲しがる物はないと思うけど……」

 「う~~ん? そうかなぁ……」

 ルミーナは別に金目の物がほしいわけではなく、寧ろその手の物に執着がなく金銭感覚も適当すぎるので家計を預かるレミーナが苦労しているくらいだ。 そんな姉がほしがるのはいわゆるマジック・アイテムの類でその理由は二つ。

 ひとつは最近になって始めた単なる個人的な収集趣味、そしてもう一つは呪いにより十歳になってしまった自分の身体を元に戻すためである。 冒険者をしていた二人の両親のせいで家の倉庫にはいくつかのマジック・アイテムが眠っていたののひとつを、二年前に倉庫の整理をしていたルミーナがうっかり発動させてしまい呪いに掛ってしまったのである。

 現在はルミーナが二十歳、レミーナが十八歳というのが姉妹の実年齢だ。

 それからレミーナ達はルミーナの呪いを解く方法を探し、時には冒険にまで行くようになった。 幼いころから遊びや親に本を読んでもらう的な感覚で冒険者の技術や知恵を教わってきた二人にとってそれ自体は苦労でも何でもないのだがレミーナは好き好んで冒険者になろうという考えはなく、姉の事がなければ故郷で叔母さんの店を手伝いのんびりと生きていくと考えていたのだ。

 姉妹とはいえ別にルミーナに付き合う必要もないとも言えるが、魔法を使う事に関しては天才とも言えるハイ・スペック娘でも気まぐれで何事も大雑把で適当な姉を一人で旅に行かせて家で待っているというのも心配で精神的に良くなく、結局選択肢はないのがレミーナだった。

 「……良し、ちょっと見てくる♪」

 「……へ? ちょっと待ってよ!」

 レミーナの制止を無視して洞窟内へと入って行く、いつもの事ながら自分のしたい様にするマイペースぶりに呆れつつも、特に危険はないだろうと思うしレミーナは外で待つことにした。 その考えが甘かったと思ったのは一分ほど経ちルミーナの大声が中から聞こえてきた時だ。

 「……ちょっ! まだいたの!? え~~い! 【ファイア・ボンバー】ぁぁぁああああああああああっ!!!!」

 「……へ?」

 次の瞬間に轟音が中から響き、続いてガラガラと洞窟内部が崩れる音と「……って、ちょっ……あきゃぁぁぁああああああっ?」という姉の悲鳴が聞こえてきた。

 「ちょ……お姉ちゃ……!!?」

 唐突に背後からの衝撃を感じ直後にレミーナは意識を失った。



 〈ティファーナ村〉にある宿屋兼酒場の〈大いなる実り亭〉で酒と軽い食事に来た冒険者のバッシュ・ブライトはルミーナとレミーナがゴブリン退治に行ったことを店主のフェーナ・オーガストから聞き驚いた。

 「おいおい……この物騒な時によくも二人だけで行かせたな?」

 最近になり魔王率いる魔族がこの〈アレストリア王国〉に進行してきているのは魔王の国のある南側とは反対の北の辺境にある〈ティファーナ村〉にも伝わってきている。 ましてやバッシュは三十代後半にもなるベテラン冒険者であり、情報収集は怠りはしていない。

 アレストリア南方の地に魔族と呼ばれる種族が住んでいるのは誰でも知っていた事である、数百年前に他の大陸からの移民者によって建国されたアレストリアの民からすれば魔族は先住民族であるという程度で友好的でも敵対的でもなく互いに棲み分けを行ってきたというのが歴史だ。

 そんな状況で〈アレストリア王国〉が魔族の突然の侵攻という事態に対処出来たのは現国王が有事に備え南方方面の部隊の配備など警戒を怠らなかったからであるが、その政策は臣下と国民の両方に税金の無駄使いと批判の的だったものが、魔族侵攻と共に掌を返し国王の英断であったと称賛されている。

 そんな大衆の身勝手さを国王がどう思ってるかなどバッシュには興味はないが、〈アレストリア王国〉に生きる者として国王がどう魔族に対処していくかというのは重要な事である。

 ちなみにバッシュ達冒険者が探索したりする遺跡などは彼らの祖先の遺物であったという説もある。

 「こんなとこまで魔族が来るとも思えないですけどね? それに、あの子達なら魔族なんて何でもないでしょう」

 フェーナが自信たっぷりに言ってみせるのは根拠のあるのをバッシュは理解している、現状の戦況はアレストリア国境付近がメインの戦場であり国内への魔族軍の侵攻は許していない。 しかしそれは軍勢というレベルであり、国内で魔族を見たという情報があるのをバッシュは知っていた。

 「へえ? スパイ活動とか破壊工作でもしているんでしょうかね?」

 冒険者の様な荒くれ者の訪れる〈大いなる実り亭〉の主人をしているフェーナらしい肝の据わった言い方に流石にあの子達の叔母さんだなと再認識する。 

 「さてな? 何にしても用心に越したことはねえさ……もちろんあの子達もだぜ?」

 冒険者をしていれば常に最悪の事態を想定するという習慣が身に付いているバッシュだが、頭の別の部分ではルミーナとレミーナなら確かに魔王でもどつき倒せそうだと想像している自分に気が付き苦笑した。


 

 レミーナが目を覚ますとまず見えたのは金属の天井だった、まず先に素早く周囲を確認し状況確認をするのはそれが冒険者として生き残る術と何度も両親から聞いた言葉を姉と冒険に行くようになり意識しておこなうようにしたのを今では無意識にでもしているようになっていたからだ。

 「……檻……?」

 どうやら自分は何者かに捕まったらしい、おそらく意識を失う前に受けた衝撃は背後から魔法か何かを受けたのだろうと判断する。 姉の危機に気をとられたとはいえ背後の気配に気が付かなかったというのは不覚だったと反省したレミーナは、平穏な暮らしを望む自分が冒険者かもしくは戦士の様な思考を自然としてるのに心の中で苦笑した。

 「……お目覚めかね?」

 不意に聞こえた男の声にぎょっとなり視線をそちらに移すと、魔術師風の黒いローブを纏った人物がいやらしい笑みを浮かべて立っていた。 灰色の肌をした男が人間であるはずもなく魔族であろうことは一目瞭然だ。

 「魔族が私に何の用なわけ? 言っておくけど家には身代金を取れるようなお金はないわよ?」

 「この状況で気の強い娘だな? まあ、そういうのは嫌いではないがな」

 レミーナの入れらた檻はどこかの空けた場所にポツンと置かれていて周囲には雑草や数本の樹木がある程度である、あまり人が寄りつきそうな場所でもなく助けを期待するには厳しいだろう。

 そして当然だが《エターナル・ツインダガー》も取り上げられている、魔族の男が気が付いているかは知らないが特殊な魔力を付与されたあの短剣なら檻の鉄格子を斬り裂くのも不可能ではなく、レミーナはかなりピンチと判断せざるを得ない状況だった。

 「あなたに好かれたくもないけど……それで私をどうする気なの?」

 「魔王様のハーレムに連れて行く」

 「…………はぁ?…………石とかで出来てて魔法で動く奴?」

 「……は?……って、それはゴーレムだ!! ハーレム! 簡単に言えば一人の男が何十人もの女を抱えてウハウハってあれだ!」

 レミーナのボケに律儀に突っ込んだ魔族は咳払いをして気を取り直す。

 「……つまりだな、魔王様は気に行った女を集めてハーレムを作っているという事だ。 人間の女の何がいいのかは知らんがね? そして俺はその候補を集める特殊潜入要員のザコ二ス・ギーヌだ」

 別に知りたくもない男の名前まで教えてくれたが、とにかく相手の目的は分かった。 魔王など他種族の王様くらいの認識だったレミーナに魔王はスケベ男とという新たな知識が加わる。 何にしてもしここから逃げ出さないというには変わりない、魔王に気にいられてあんな事やこんな事をされるのは論外だし、もし気にいられなくとも無事に帰してくれると思うほど楽観的な考えはしない。

 「成程ねぇ……こんな場所にいるのは転送魔法を使うため?」

 「そういう事だ、もう数人攫ってきたらすぐにでも送ってやるさ」

 すぐに転送といかないのは幸いだった、通りすがりの勇者を期待はしないが多少の時間があればとても頼もしい救援が来るのをレミーナは分かっている。 そう考えていると不意に空にキラリとした光が見えた。

 「てりゃぁぁぁああああああああっっっ【ルミーナ・キック】ぅぅぅぅううううううううううっっっ!!!!!」

 「……ん?…・・・ぐおぁっ!!?」

 超高速とも言える速度で飛来しザコ二ス・ギーヌの後頭部に蹴りを入れ吹っ飛ばしたルミーナ・シルフィードはその反動で後ろへ跳び見事に着地する。

 「ちょっとあんた! 人の妹を猛獣みたいに檻に入れるとかどういうつもり!?」

 「……猛獣って……お姉ちゃん、それひどっ!」

 「……ぐっ?……お前は……」

 「天井が崩れて閉じ込められちゃったけど【テレポート】で脱出して、そしたらレミーナがいなかったから【サーチ】でレミーナ探して【フライト】ですっ飛んで来たのよ!! 【サンダー・ショット】!!!!」

 ザコ二スの聞きたかった事とは全然違うだろう事を早口でまくしたてついでに雷の攻撃魔法を撃つが狙いをしっかり定めてなかったのか雷撃はザコ二スではなく彼の少し後方にあった木に命中し黒焦げにした。

 ルミーナは先にレミーナの聞いた魔族の目的を知ってるはずもないが、妹が檻に入れられて側に男がいるからそれが妹を攫った犯人だと決め問答無用で蹴りを入れ魔法を撃ち込んだのだろう。

 男がレミーナを助けようとしていたとかいう発想がルミーナにはないのが直感と勢い任せで動く姉らしいと思えた。

 「……むぅ? 何者か知らないが好都合だな、お前も十分魔王様の守備範囲内だし捕まえあの娘とともに送ってやる!」

 ひやりとしたという顔で態勢を立て直したザコ二スが不敵な顔を作り直しそう言うのを聞いて、レミーナの中に魔王はロリコンという一文が追加された。

 ザコ二スが軽く右腕を振うと地面に三つの光の魔法陣が現れそこから異形の生物が現れた、それがレッサーデーモンだとレミーナが分かるのは両親の持っていた書物に書いてあったからで、確か並大抵の人間では太刀打ちできないとも書いてあったと思い出した。

 しかしレミーナはまったく心配はしない、姉が並大抵でないのは妹の自分が一番知っている事であり、ルミーナもまったく動じる素振りさせみせない。

 「やれ!」

 「【レイオ・ランサー×3】!」

 ザコ二スが低い声で攻撃命令を出すのとルミーナが三本の光の槍を放つのは同時だった、そしてルミーナに近づく事すら出来きずに【レイオ・ランサー】に撃つ抜かれたレッサーデーモンは光の粒子となり空中に飛散した、その光景にザコ二スは我が目を疑うかのように驚愕の表情で目を見開く。

 「【レイオ・ランサー:】だとっ!? 光竜神レイオリスの編み出せし魔法をこんな小娘が使うというのかっ!?」

 光竜神レイオリス、それは古の昔に世界を破壊せんとした破壊神と戦い打ち倒したと言われいる竜の神の名前だ。 すべての力を使いはたし破壊神を倒した後に人間にこれからは自らの手で世界を守るよう自らの魔法を授けたと言われているが、所詮レミーナにすれば伝説であり真偽は不明だ。

 今ではその使用者は皆無とさえ言われているレイオの魔法に書かれた書物を何をどうしたのか両親が手に入れ、ルミーナはそれを熟読の末に独学で覚えてしまった。 他の魔法にしてもそうだがルミーナは知識や理屈ではなく感覚で魔法を覚え扱っている、そのためであろう威力の加減や制御が多少大雑把であるのが欠点だが、魔法と合わせ体術を使った高い戦闘能力を持つ彼女は伝説級の魔法使いだというのが昔から姉妹と親しくしていたバッシュ・ブライトの言葉である。

 しかしながら、部屋は乱雑に散らかり料理などの家事能力も低い、加えてあれこれとトラブルを引き起こす姉にレミーナはとても伝説級の魔法使いという単語は当てはめられない。 そしてだからこの姉につまらない嫉妬やコンプレックスを抱かないというのをレミーナ本人はまだ気が付いていない。

 「……この娘は……何という魔法使いなのだ……」

 そんなルミーナのだらしない一面を知らないザコ二スは単純に彼女の能力に驚愕している、この男の実力をレミーナは完全には知らないがおそらく戦闘力では姉の足元にも及ばないだろう、自分であっても先の様な不意打ちを受けねば十二分に叩き伏せるだろうと見積もる。

 だからと言ってこの魔族が下級というわけではない、本人が言っていた様に潜入と拉致を目的としているならその任務に特化した能力の持ち主が送り込まれてきたというだけだ、事実魔族の国までの距離を転送する魔法というのは高レベルな魔法技術を必要とする。

 「あんたがこないならこっちからいくよ~? 【レイオ・ボンバー】!!」

 「……なっ!? ちょ…………」

 「お姉ちゃん!? それは……」

 ルミーナが放った彼女の身長の半分程の光弾は吸い込まれるようにザコ二ス・ギーヌの足元へ向か一気に大爆音を響かせ爆ぜた、【ファイア・ボンバー】とは比較にならない大爆発はザコ二スのみならずの鉄の檻ごとレミーナも吹き飛ばしていた。

 「うぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああっっっ!!!!?」

 「きゃぁぁぁああああああああっお姉ちゃんのばかぁぁぁああああああああああっっっ!!!!!」

 大爆発の収まった後には数十メートルはあるクレーターが出来ていてそこにザコ二ス・ギーヌの姿はなかった、レミーナはクレーターの外周辺りまで飛ばされた檻の中で「……うきゅ~~☆」と目を回して気絶し中心部に立つルミーナは笑顔でVサインをしていたから、少し離れた木の枝に止まっていた不気味なカラスが彼女らを見つめ、そしていずこかへと飛び去ったのには気が付かなかった。



 妹を誘拐したどこの誰とも知れない男を倒したルミーナ・シルフィードはその妹のレミーナ・シルフィードの閉じ込めらた檻へと駆けより「大丈夫だった~?」と声をかけてみたが彼女は完全に気絶していた。

 「ありゃ~? やりすぎたかなぁ?……ちょっとやばいかも……」

 この”やりすぎた”は妹に対して被害を出した事であり、やばいかもというのは後で妹からお説教の嵐だというのを恐れての事で、おそらく消し跳んだであろう男に対してではない、レイオ・シリーズの魔法を使ったのは完全に勢い任せで深くは考えていなかった。

 「ま、とにかくレミーナを出してあげないとね。 【レイオ・ブレード】!」

 ルミーナの右腕に出現した金色に輝くブレードが軽々と檻の鍵を切断し入口を開ける、鍵を開ける魔法もあるにはあるがルミーナは”ぶっ壊せば同じ”という考え方なのでこういう方法をとる、何より大雑把で戦闘特化タイプであるルミーナはその手の神経を細かく使う魔法は苦手なのだ。

 「……うんしょ、うんしょっと……」

 ゴブリン戦から魔法の連続使用での疲労も見せないルミーナが妹の身体を引きずり檻から出すのは身長差を考えればしかたなく、それでも檻から出した妹の身体をなるべく優しく地面に横たえてあげる。

 「……これで良しっと~」

 しばらくすれば目も覚ますだろと自分も適当な場所に腰を下ろす、平然とはしているがゴブリン戦からの魔力消費でまったく疲労していないわけでもなく少し休んでおきたいと思ったのだがそうもいかなくなる。

 「……やれやれねぇ……」

 「……これはいったいどういう事なのか?」

 空から舞い降りて来た魔族は担いでいた女の子を地面に下ろしながらそう言った、この状況で行き倒れの子を救助して来ただけという事もあるはずもなく、レミーナを誘拐した先の男の仲間であるのは疑いようもない。

 「……ザコ二ス・ギーヌはどうした?」

 「さっきの誘拐犯? やっつけたよ」

 淡々と質問する新たな魔族の男にルミーナは少し困ったような顔で簡潔に答える、休もうかという矢先の新手の登場に面倒くさいなと思っている。 

 「……そうか」

 そう呟くように言うと男は長剣を出現させた、先の男と同じようなローブ姿だが魔法を使えるから戦闘が魔法オンリーになるとは限らない。

 「……死ね」

 「【レイオ・ブレード】!!」

 素早い踏み込みで斬りかかってきた男の剣を光の刃で受け止めると男は驚いた顔をしたのは、こんな女の子に自分の剣が受け止められるとは予想もせずに一撃で終わらせるつもりだったからだろう。

 「……我が剣技を受け止めるか、それに【レイオ・ブレード】とはな?」

 「可愛い女の子だからって甘く見ちゃいけないって事だよ?」

 「……我が名は二ーバン・メイダ」

 「あたしはルミーナ・シルフィードよ!」

 相手に名乗り返してから後ろへ跳んで間合いをとるのは力勝負では勝てないからだ、十歳の女の子の身体能力の限界である。 もっとも二十歳の身体に戻ったとしてもやはりパワー勝負で鍛えられた男に勝つのは難しいだろうが。

 「てりゃぁぁぁああああああああああっ!!」

 今度はルミーナが跳躍し斬撃を仕掛ける、素早い動きだが二ーバンにとって受け止めるのは造作もない事だった、もっともルミーナもそれは予測済みで二撃、三撃と連続で攻撃を仕掛ける。

 「レミーナといいその子といい、魔族が女の子攫ってどうすんのよ!?」

 「我が王の命令だ!」

 「いやらしい王様なのね!」

 女の子を誘拐という響きだけでそう言い返すルミーナは横薙ぎにはらわれた二ーバンの剣をひょいっとかわしてみせる、すばしっこさと小回りではルミーナに分がある、そのまま二ーバンの脇をすり抜けると彼の身体を蹴り上げ跳躍し距離をとると左手を翳す。

 「【ファイア・アロー】~!」

 「……ちっ!」

 下位クラスとはいえまさかふたつの魔法を併用出来るとは思っていなかった二ーバンには不意打ちにも近いものだったがそれでも炎の矢をかわしてみせたのは彼の技量が高かったからだが、ルミーナにとってその【ファイア・アロー】は動きを止めるための牽制に過ぎず、魔法を放つと間髪いれずに【レイオ・ブレード】を突き出し地を蹴っていた。

 「……なっ……ぐふぉっ!?」

 流石にこの一撃は回避出来ずに【レイオ・ブレード】は二ーバン・メイダの左胸に深々と突き刺さる、魔族と言えども心臓を貫かれてはひとたまりもなく、ルミーナがブレードを抜き後ろに跳ぶと同時に前のめりに崩れ落ちた。


 

 レミーナが目を覚ますと今度は満天の星空だった、よっこらせと身体を起こしてみると姉のルミーナと見知らぬ女の子が会話している光景が跳び込んできた。

 「……お姉ちゃん……と、誰……?」

 「……ん? あ! レミーナ起きた~♪」

 いつも通りな姉の笑い顔に戦闘で吹き飛ばされた事を思い出し怒鳴りつけようかとも思ったが見知らぬ子の前なのでそれは我慢する、代わりにさっきの疑問をもう一度聞く。

 「お姉ちゃん、その子はいったい誰なの?」

 「……あ! 私はジェシカ・フェアリオと言います、いきなり魔族に誘拐されたのをルミーナさんに助けてもらったんです。

 ルミーナより先に女の子が答えた、十五歳くらいの亜麻色のショートカットのおとなしそうな子だ。 しかしまだ事情がちゃんと把握出来ずに「お姉ちゃんが助けた?」と聞き返すと、今度はルミーナが二人目の魔族と戦闘になり倒した経緯を説明した。

 「仲間がいたんだ……って、そりゃいるわよね」

 大軍で村などを襲い一網打尽などと乱暴なやり方をせずにハーレムに連れて行く候補を選別して個別に拉致しようとするなら当然一人より複数で手分けした方が効率が良い、それいいとしても真面目に諜報活動や要人暗殺をするでもなく、自分の欲望のためだけに潜入要員を使うという魔王のやり方には疑問を感じざるを得ないレミーナ。

 「……それよりレミーナごはん~~、お姉ちゃんお腹空いたよ~~~」

 「え?……ああ、そうね」

 情けない声を出す姉に自分も空腹を思い出したレミーナは首にかけた緑の《宝玉》を取り出す、両親がどこかの遺跡で見つけてきたこの|《宝玉》は物は魔法の荷物入れというべきもので、魔法の心得のない者でも念じるだけで物が出し入れ出来るという優れものなのだ、正式名称は不明なため二人は|《物入れ玉》と呼んでいる。

 これのおかげでレミーナとルミーナはかさばる荷物を抱えなくて済んでいる、その|《物入れ玉》から三人分の干し肉を取り出す、ゴブリン退治は日帰りの予定であっても非常時に備え数日分の食糧を携帯するのは冒険者の常識である。

 「ご・は・ん~~~☆」

 レミーナの手から奪い取る勢いで干し肉を受け取ると立ったまますぐにかぶりつく、行儀が悪いなと思うがゴブリン戦から魔族二人と戦闘すれば相当にお腹が空くのも当然で、だからレミーナは何も言わない。

 「ジェシカさんも遠慮なくどうぞ? お腹空いてるでしょう?」

 「あ……ありがとうございますレミーナさん」

 ジェシカも干し肉を受け取り口を付ける、特別上品でもなく、姉のようにがっつくわけでもない食べ方はジェシカはごく普通の女の子である事を窺わせる。

 「……それでこれからどうするのお姉ちゃん?」

 「……ん? ああ、とにかくこのジェシカを村まで送っていかないといけないんだけど……あたしは子の村に行った事無いんだよねぇ……」

 レミーナが気絶していた間にある程度は話し合ってはいたらしていたらしいルミーナが困った顔で言う、【テレポート】は事実上一度行った場所にしかいけない、しかし武装はおろか旅支度すらしていないジェシカをここから一人帰すという選択はない、だから必然的に二人が送って行くという事になる。

 レミーナとしては早く〈ティファーナ村〉の家に帰りたいがこの状況ではやむを得なかった、《物入れ玉》から地図を出すとルミーナとジェシカにも見せるように広げた、大雑把な姉だから村の名前を聞き行った事がないから送って行くと程度にしか考えてないだろう。

 「……それで、ジェシカさんの村って?」

 「ここです、この〈カノン村〉です」

 ジェシカが示した村は〈ティファーナ村〉から南方に行ったところにあった、旅慣れた二人なら徒歩で三、四日という距離だ。

 「それでお姉ちゃん、現在地は?」

 「…………ほへ?」

 「……ほへ? じゃなくて現在地! 【サーチ】で私を見つけたんだから、だいたいは分かるでしょう?」

 【サーチ】は事前に魔法による目印を付けておいた対象物を探す事の出来る魔法で、具体的に言うと術者の脳に”対象物がどの方向でどのくらいの距離にある”という情報が送られてくる。 

 「……え~~とね、分かんないや♪」

 「……お姉ちゃん……」

 しかしながら、その情報は言葉にすると”東に三キロ”というような具体的なものでなく”あっちにだいたいこんくらい”というものなので、例えばルミーナは自分の右手のある方向にレミーナがいるという事は分かるが、その右手の方向がどっちかを把握していなければ東であるか西かであるかは分からない。

 「…………はぁ」

 「……あははははは」

 姉に期待した自分が間違っていたとレミーナは大きく溜息を吐き、話を聞いていたジェシカも苦笑していた。 妹がいなくなって慌てたという事情があるにせよ迂闊すぎる行動だ、妹を見つけたら【テレポート】で村へ帰るだけだからという考えすらルミーナにあったはずもなく、単に考えなしの勢い任せで動いたのは間違いない。

こと戦闘やそれに準ずる知識や技能に関しては吸収するように覚え使いこなせても、こういう方面の事にルミーナが疎いのは関心があるなしの問題だろうが、それにしても戦闘方面にとんがりすぎである。

 逆にレミーナの知識や技能がある程度バランスが良いのは、本を読もうと思ってもところ他に読むようなものもなければ結局は両親の持つ冒険者ための書物を読むしかなく、冒険者になる気はなくてもそれらの知識が雑学として面白いと感じていたからであり、両親やフェーナ叔母さんの繋がりでバッシュ・ブライトのような冒険者と親しくしいろいろと話をしたり教わったりで覚えてきたからである。

 それはルミーナも同じだが彼女の場合はそこにかなりの偏りがあったのが現在の結果である。 

 「……どしよっか?」

 「……ちょっと待ってよ」

 レミーナは〈カノン村〉の周辺に行った事がある場所がないか探してみる、一度〈ティファーナ村〉に戻るのも手だがジェシカの事も考えるとなるべく近い場所まで【テレポート】してそこから徒歩といきたい。

 誰か〈カノン村〉に【テレポート】出来る魔法使いを探してという発想がないのは、十六歳で長距離の【テレポート】を覚えたルミーナが規格外なだけで普通は十年、二十年と修業を積んだベテラン魔法使いでもなければ、目視出来る程の至近距離程度ならともかく【テレポート】など使えるものではないからだ。

 「……っと、あった〈シャノンの塔〉……確かここに行った事あったよね?」

 〈カノン村〉の東に位置する塔はいわゆる遺跡に属する建造物で、そこからなら半日、ジェシカを考慮しても一日というところだろう。 半年ほど前に姉の呪いを解く方法ががあるかもと訪れた時に〈カノン村〉に立ち寄らなかったのは《物入れ玉》のおかげで食糧その他の物資を補給する必要もなく、帰りは【テレポート】でさくっと帰還したからだ。

 その時は結果的には無駄足だったが意外な形で役に立った感じである。

 「あ~~あの時の塔かぁ~~、んじゃ、すぐに行くの?」

 「まさか、ジェシカさんもいるし夜歩くのは危険でしょう? それにそんな強行軍をする理由もないし今夜はここで野宿しましょう。 ジェシカさんもいいでしょう?」

 「はい」

 「そだね~」

 反対意見も出なかったので三人は寝袋を用意してたき火を囲む形で眠りに入る、見張りも立てずにというのが不用心にも思えるが魔族の仲間がまだいるならとっくに襲ってきているだろうし、近くに危険な肉食獣の気配もないと判断しての事だ。

 三人は互いに「おやすみ(なさい)」と言い合い眠りについた。



 ザコ二ス・ギーヌと二ーバン・メイダがやられたという報告を魔王の居城にある自分の執務室で受けたリリーア・クリサリスは信じられないという顔をした、戦闘こそ不得手な部類でも二人の能力は高く、人間の少女数人の誘拐という程度の任務をしくじるとは思えなかったのだ。

 「……どういう事か?」

 「はい……」

 その報告がリリーアに届いたのはザコ二スの使い魔が合流の遅れていた三人目の魔族に知らせ彼が報告に帰還したからである、どんな任務であっても敵地に侵入する以上は自らが失敗した時の事を考慮しておくというのがザコ二スの用心深さである。

 その魔族が任務を続行するでもザコ二ス達を倒した者を抹殺するでもなく帰還したのはその相手がレイオ・シリーズの魔法を使った事を重要視し報告しなければと判断したからで、リリーアもそれは間違っていないと思う。

 「……今では失われし魔法とされるレイオ・シリーズを使う少女か、まさか”勇者”とでも言うか?」

 独り言のようなリリーアの呟きに「は?」と部下が聞き返すのに「何でもない」と答え立ち上がる。   

 どうであれ任務の失敗は魔王に報告せねばならず、それはそれで頭の痛い問題であるがそのレイオ・シリーズの魔法を使う少女の存在はその何倍も頭の痛くなる問題かも知れないと考えた。

 「後でいい、ここへフェイ・テスタロスを呼んでおけ」



 深夜の〈大いなる実り亭〉ではフェーナ・オーガストが酒場の片づけをしていた、入口に鍵をかけようとしたところでふと思い出したように呟いた。

 「……そういえばルミーナ達遅いわねぇ?」

 姉妹の家はここではないが依頼を果たしてから報告にこないという事をする子達ではない、酒場の営業時間は知っているので思ったより時間がかかり夜になったからという事もなく、まだゴブリン退治から帰って来ないのは間違いない。

 「……あの二人に限ってゴブリン相手に手こずってるわけないし……ひょっとして、そのまま冒険に行っちゃたのかしらねぇ?」

 そう言ってクスリ笑うフェーナだった

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