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毒と鬼

緩く着物を着崩し、カルマの傍に立つ鬼はとても美しかった。

すらりと伸びた長身に、風になびく髪は腰を覆うほどに長い。

整った顔立ちはどこか野生的で、カルマのような柔らかさはない。


なにより美しいのは、その瞳だ。

空に輝く星のような、眩しいくらいの光を宿している。

まちがいなく、人にあらざる美しさ。


けれど日々闇の中で暮らしているカルマは、彼の眷族を見ることも多い故、人ではないものなどさして珍しいものではない。

むしろ人より身近な存在だと思う。

たしかに人ほどの鬼を見るのは初めてだったが、けれど人に似ているせいで恐怖もない。


とくに脅えもしないカルマに、鬼は面白くなさそうに顔を歪める。


「普通、いきなり現れた鬼に恐れ慄くのが人間じゃねえの?」

「なら私は普通じゃないようですね」

「可愛げのねえやつだな。食い散らすぞ」

「では死ぬ覚悟をなさってください」

「はあ? 俺たち鬼はお前らが主食なんだぞ、死ぬわけねえだろ」

「でも私は普通じゃないですし…」


カルマの言っている意味が分からないといわんばかりの鬼だったが、やがて何かに気がついたようだった。

鬼はカルマの細い腕をとると顔を近づけ、鼻を鳴らした。


「お前、すげえ匂いがする」

「そうなんですか? 自分ではわからないんですけど……、どんな匂いがするんですか?」

「……なにかが腐食したような、俺たち鬼には堪らねえ匂いだ。お前、なに者だ?」


じっと見つめられて問われれば、カルマはなんだかおかしくなって笑ってしまった。

まさか人知を越えるものといわれている鬼に、なに者かと問われるとは思いもしなかった。

笑われて仏頂面の鬼だったが、カルマが一しきり笑うのを待っている様は、返される言葉を期待しているようだ。

やがて笑いを沈めたカルマは、それでも緩んだ頬のまま鬼に言ってやる。


「私、毒女(どくめ)です」

「…毒女?」


鬼は少し驚いたように目を丸くした。

人にとっても珍しいとされる毒女は、やはり鬼にとっても珍しいらしい。

鬼はカルマの頭の先からつま先までを視線で滑らせ、そのまま何度も往復させている。


「全身を毒に侵されてるとかいう、あの…?」

「そうそう」

「お前が?」

「そうです」


鬼はもう一度カルマの腕をとった。

捲れ上がった袖からのぞくカルマの細い腕に、鬼がその唇を寄せる。

薄い唇が開いたと思ったら、ぺろりと舐められた。


途端鬼は顔をしかめ、カルマの腕を離す。

その様子に、カルマがまた笑った。


「…毒女に会うのははじめてだけど、まさかこんな娘っ子のまでいたとはなあ。なんとなく感覚的に、年季のはいったババァばっかと思ってた」

「私も自分以外の毒女には会ったことはないですけど、多分みんな若いと思いますよ」

「なんで?」

「だって毒女ってその性質上、長生きとは無縁だと思いませんか?」


なるほど。

鬼が納得したように頷いた。

そしてふと、なにかに気がついたようにカルマを見る。


「にしてもお前、変な奴だな」

「実際普通じゃないですし」

「…そういうこといってんじゃねえよ。俺は捕食者で、お前は捕食される側だろうが。―――ったく、てめえの肝っ玉はどうなってんだよ…」


うーん…と、カルマが首をひねって唸る。


「毒まみれ、ですかね」

「…………」


もういい…と、やがて鬼が嘆息した。

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