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毒を食らう
季節は冬、山は見事な雪化粧を施している。
はじめて出会った桜の根に頭を預け、仰向けに寝転んでいる美しい鬼がいる。
すでに狂ってしまっている鬼は、これから殺されることもわからぬようだ。
否、殺されることを待っていたのかもしれない。
鬼はいつのころからか、自分というものが消えていっていることを感じていた。
それは不相応に与えられた時間のツケ。
必ず支払わなければならない代償だった。
「ごめん…」
首が落ちるその瞬間、仰向けの美しい鬼はそういった。
ずっと虚ろだった瞳に、その一瞬だけ光が蘇る。
愛してやまないその瞳は間もなく、光を失った。
左手に握り込んでいるのは、その鬼の討ち取った血まみれの刀だ。
毒女の血肉を練り込んで打った刀は、すべてを切り裂くといわしめる魔刀。
本当に見事な切れ味だった。
首を落とされ自らの血で赤く染まった鬼は、けれどとても美しかった。
そのあまり美しさは、この体を猛毒のように苛んでいく。
その日、最愛の鬼をこの手で殺した。