表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後RPG  作者: グゴム
終章
95/100

95 死闘

          挿絵(By みてみん)           

95


仁保姫クアラ! 離れろ」


 仁保姫が繰り出した強烈なラッシュ、そして渾身の一撃は完璧に決まっていた。それでも先生は――たしかに傷を負っているのだが、一切気にするそぶりも無く、仁保姫の腕を掴んだ。


 仁保姫は、自身の常識にはありえない先生の行動に対し、驚愕し、恐怖の様な感情が湧きあがったのか。一瞬思考を停止させた。その一瞬が命取りだった――


 タクヤの言葉にはっと我を取り戻し、掴まれた腕を振りほどこうと、右まわし蹴りを放つ仁保姫。しかしそれは再び発動していた【ライトクロス】によって、いとも簡単に受け止められてしまった。


「これで二人目――【ウォールオブソード】」

「きゃっ!」


 先生は掴んだ手を支点に、仁保姫を人形のように振り回すと、思いっきり空中に投げ上げた――続けて、発生した無数の光の剣が、空中に投げ出された仁保姫の小さな体を滅多刺しにしてしまう。


 一瞬にして、そのHPを全て失ってしまう仁保姫――


「ちっ! 【時術】【リワイ――】」

「そうするしかないよね、牧原君」

「っ――!?」


 先生はタクヤの目の前にいた。タクヤは仁保姫を救うために【時術】を使う体勢に入っており、一瞬で移動した先生の動きに気が付くのが遅れた――というより、速すぎる。


 先生は細身の片手剣を振るい、タクヤの腰から肩に掛けて斜めに切り上げる。その斬撃をもろに喰らったタクヤは、詠唱を終える事無く、鮮血を上げながら倒れこんだ。


「三人目――あらら、もう半壊しちゃってるじゃん? 牧原君なんて、どうしたの? 回復役から狙われるのは当然なのに」


 剣に滴りついたタクヤの血を振るいとしながら、先生が向き直る。そこには、王子と六道と――仁保姫の三人が立っていた。倒したはずの仁保姫の姿を見て、すこし驚く先生。


「……あれ? なんで仁保姫君? あぁそうか、魔石か」


 先生がタクヤに攻撃に向かったのに気付いた王子が、機転を利かせて仁保姫の傍に駆け寄り、魔石にエンチャントされた【リワインド】を使用していたのだ。


 だだ、魔石あれはある程度対象の近くではないと使えない。タクヤは、やられてしまった。



「ま、これで一橋君につづいて面倒な牧原君も居なくなったわけだし。いい事にしよっか」

「……許さない!」


 タクヤがやられた。その事実は仁保姫を発奮させた。復活したばかりにもかかわらず、目に涙を溜めながら一気に詰めよったのだ。


 しかし、怒りに任せて放った膝蹴りは、やはり光の衣に阻まれてしまう――しかし、今度は左右から六道と王子が攻撃に参加していた。


 六道が無言で【ライトクロス】の効果を引き剥がす闇の霧を放つ――それにより、大きなジャンプから放たれた王子の斬撃を、先生は剣で受け止めざるを得なかった。続けて王子の攻撃に気をとられている先生に、仁保姫が手刀を繰り出す――それは横腹に直撃するもやはりダメージは無い。振るわれた六道の大剣は、王子の剣を弾き飛ばした返す刀で受け流される――


 王子、六道、仁保姫の三人による波状攻撃が、走馬灯の影絵のように切れ目無く、連続して繰り出される。流れるように次々と放たれる拳、斬撃、魔術。


 先生は、その全てを受けきっていた。


 いや、違う。何発かは確実に決まっている。普通の相手なら効果がある攻撃が――だ。


 だが、先生は致命的にならないものは無視している。四肢を欠損してしまいそうな斬撃、動きを束縛するような魔術など、王子達が決めにかかって放つ技に絞ってガードしている。それ以外の繋ぎの攻撃はあえて喰らっているのだ。


 いくらか攻撃が通った所で、【無限の魔力(インフィニティマナ)】によってダメージは喰らわない。傷も一瞬で回復する。思った以上に【無限の魔力(インフィニティマナ)】は厄介な性質を持つスキルだった。


「アハハハ! 楽しいね!」


 こんな状況になっても、先生は楽しげに言う。その余裕げな声に、タクヤを斬られて頭に血の上っていた仁保姫が痺れを切らした。背後から渾身のとび蹴りを放ったのだ。


「やぁぁぁ!」


 仁保姫は流星のごとく、キラキラと脚を輝かせながら先生に襲い掛かる。


「甘いよ、仁保姫君」


 先生が右手を開くと――そこから現れた雷光が、仁保姫の小さな体躯を容赦なく貫いた。勢いを失い、逆に吹き飛ばされてしまう仁保姫。


 その仁保姫に向かい、先生は剣を向ける。


「さて、とどめを――」

「やらせない!」


 王子が二人の間に立ちふさがった。宝剣を青眼に構え、迎え撃つ。それを見て、先生は小さく笑った。


「ふふ。それじゃあ、まとめてイってみようか」


 何を思ったのか先生は、手にした細身の片手剣を鞘に戻した。続けて空中に手を差し伸ばす。


 その手が光に包まれる。煌々とした光から先生が引き抜いたのは、巨大な両手剣だった。真っ直ぐに伸びた銀の刀身。金で彩られた握りは宝石で彩られ、刃の根元には白く輝く魔石が埋め込まれていた。


「神々の剣の力、みせてあげるよ――レーヴァテイン!」


 両手剣の銘が宣言される。同時にその刀身は光に包まれ、一気に体積を数倍に膨れ上がらせた。


 巨大な柱のごとき大きさにまで巨大化した大剣レーヴァテインは、仁保姫を――立ちふさがる王子さえも、容赦なくなぎ払ってしまった。弾き飛ばされ、大きく地面に叩きつけれられる二人。


 王子は、武器によるガードと【ライトクロス】の自動防御により、かろうじてHPバーを残していた。しかし仁保姫は、雷撃のダメージもあったためか、その強烈な一撃によってHPゲージを全て失ってしまっていた。


 ――三人目の戦闘不能者だった。



「それが、貴方の本気ってわけね」

「ふふ。そういう事になるね。六道君」


 三人やられ、王子も瀕死状態にもかかわらず、最後に残った六道は不敵に笑った。


「じゃあ、そろそろ私も本気でいくわ。あまり……皆と一緒に戦うのは慣れてないのよね」


 六道がそう言うと、周囲に闇の霧を発生させる。そしてそれはみるみると集まり、濃縮されていき、全てを塗り潰すようなどす黒い球体が形成された。


 六道はなんの躊躇も無く――それを食べた。一口に、一飲みに。


「六道さん……?」


 倒れこむ王子の声は、六道には届かなかった。ニヤリと冷たい笑みを浮かべた後、それは始まった――六道が、みるみるとその姿を変えたのだ。


 肌は浅黒く変色し、セミロングだった黒髪は地面に届くほどに伸びていく。黒ずくめの軽鎧の隙間からは、黒色の翼とヘビの様な尻尾が姿を現し、両手の指からは獣のように鋭い爪が飛び出す。さらに額には不吉な刺青タトゥーが広がっていた。


 その姿はまるで、邪悪を象徴する悪魔のようだった。


「キャハハハハ!」


 壊れたボイスチェンジャーのような、怖気の走る甲高い声で笑い声を上げた六道。同時に背から生やした黒い翼を開き、先生に襲い掛かった。


「っく!」


 この六道の変形には、さすがの先生も面を喰らっていた。レーヴァテインを床に突き立て、六道の両手剣を受け止める。ギィン――と金属同士がぶつかり合う、耳障りな音が部屋中に響いた。


「……ぐっ」

「あは! 残念!」


 先生が呻き声をあげて崩れ落ちる。六道の攻撃――剣によるそれはフェイクだった。本命は、変形によって出現した尻尾。研いだナイフのように鋭い先端を持つ六道の尻尾が、先生の視界の外側からヒットしていた。


 体勢を崩した先生に、六道は一気に畳み掛ける――打ちつける様に、大剣を斜めに切り落とした。


「ぐあぁぁぁぁ」


 斬撃が肩口にめり込むと、先生は大きく叫び声を上げた。続けて六道は左手を突き出し、その手から黒色のレーザーを発射する。それは先生の右太腿を貫き、痕から血が噴出した。


 レーザーは連発して打ち出され、次々と先生の四肢を貫き、そのたびに先生は悲鳴をあげた。苦悶に染まるその表情を見て、六道は狂気じみた様子で笑う。


「あはははは! そんなに気持ちいい?」


 何発も何発も、容赦なくレーザーを打ち続ける六道。その顔は、邪悪に染まっていた。これが、六道が魔界ニブルヘイムで得た力――大魔王の力なのか。


「HPが無くならないなら、このまま全身を打ち抜いて、四肢をもぎ取ってあげるわ。あはあは! それでも死なないなら、滑稽もいい所ね!」


 レーザーを打ち続けながら、再び部屋中に響き渡る甲高い声で、ケタケタと笑う六道。なんかもう、どっちが味方なのかが分からないほどの悪役ヒールっぷりだった。


 だが、この攻撃さえも、【無限の魔力(インフィニティマナ)】の前には無力だった。



「それは……ご遠慮したいかな」

「――っ!?」


 先生はそう言うと、先ほどまでの苦悶の表情ですら演技だったという様子で、すばやく立ち上がると、手にした両手剣レーヴァテインを振るった。六道はレーザーを打ち続ける事で完全に動きを封じていると思っていたのだろう、虚をつかれ反応が遅れる。


 ギィン――


 かろうじて一撃目をガードする事に成功した六道、しかし息もつかせずレーヴァテインは振るわれる。一撃目とは逆方向からなぎ払われた二撃目――


「っち!」


 六道が後ろへ飛びのく。先生のレーヴァテインが空を切る――しかし、逃げ切れない。先生は一足で六道に迫った――その背にいつのまにか詠唱された【光術】【ライトアロー】による大量の矢を背負っている。


【闇術】【ダークバニッシング】


 六道が右手を前に突き出し、目の前に闇の霧を作り出した。その闇の空間に、光の矢群は次々と吸い込まれる――しかし、続けて迫った先生本人の攻撃までは防げなかった。神々の剣レーヴァテインは、軽々と闇の空間を切り払うと、そのまま六道の悪魔化した体を、ざっくりと切り裂いたのだ。


 六道は声も上げず、力を振り絞って先生を蹴り剥す。その結果、先生を大きく後ろに弾き飛ばす事に成功するも、六道は腹部の辺りから大きく出血する事になった。


 二人は体勢を立て直すと、距離をとって睨みあった。


 六道が、左手で血を抑えつつ、にやりと笑う。弾き飛ばさた先生も、それをみて、醜く顔をゆがめた。


「あは。キャハハハハハ!」

「ふふ。ふふふはははは!」


 狂気に満ちた笑い声が部屋を包んだ。そして同時に、二人が剣を構えて飛び出した。


 人外レベルの二人による最後の交錯は、一瞬だった。煌きを放ち、目にも留まらぬ速さで切り抜けた結果――


 倒れたのは六道だった。


 糸の切れた人形のように、膝から力なく倒れた六道は、みるみると元の人間の姿に戻っていく。そして倒れたまま、HPバーが0となり動かなくなってしまった。


 見ると先生も肩口から腹部にかけてを切り裂かれ、大きく出血をしていた。互いに斬撃を打ち合い、相打ちだったのかもしれない。結局は、生身のまま――ダメージをくらってしまう六道が倒れ、【無限の魔力(インフィニティマナ)】を持つ先生が倒れなかったのだろう……



「さて……あとは――」


 勝利を確信した先生が、余裕げに振り返る。そこには先ほど瀕死状態に陥らせた王子が、立ちあがっていた。


「まだ、僕が居ます……」


 六道が戦っている間に体力を回復していた王子。しかしどうみても、全快には程遠い。それでも、王子は立ち上がった。


「天王寺君。そんな瀕死状態で、勝ち目あると思う?」

「勝ち目など……終わってみるまでわかりません」

「そうか……じゃあやってみよう」


 先生はそう言うと、間髪いれずレーヴァテインを突き出して突進する。王子は手にした宝剣でその切っ先をはたくと、突撃の勢いを逸らし上げた。キリキリという音と共に、剣同士がこすれあって火花を上げる。懐にもぐりこんだ王子が、そのまま先生の喉元を狙い、突いた。


 だが先生の自動防御ライトクロスは、それをいとも簡単に受け止める。反撃に先生も王子を蹴り上げるが、やはり王子の自動防御ライトクロスも発動した。


 【光術】を使用した光り輝く攻撃を、同じく【光術】による自動防御で防ぎあう。キラキラと輝く二人の打ち合いは、見とれてしまうほどに美しかった。


 そんな攻防をしばらく続けた後、不意に先生は距離をとった。王子が瀕死にもかかわらず、攻撃をしのぎ続け、逆に反撃すらしてくる事に痺れを切らしたようだ。


「さすがだね。天王寺君、やっぱり君は強い」


 そう言って、感心した様にうなずく先生。続けて、レーヴァテインを右手で担ぎながら肩をすくめた。


「でも、そろそろ終わりにしよう。さっきみたいに神々の剣――レーヴァテインを全力で使用せれば、一瞬で勝負が決まる」 


 そう。先ほど王子と仁保姫をなぎ払った"あの攻撃"がくれば、もはや余力の無い王子に防ぐ事はできないだろう。これまでそれをせずに打ち合いに応じていたのは、先生が余裕を見せていただけだ。


 状況は絶望的だった。それでも王子は、戦闘体勢を崩さない。片手剣を構え、その切っ先を相手に向け続ける。


「君は、本当にあきらめが悪いんだね」


 先生が呆れながら言うと、王子はかみ締めるように、ゆっくりと答えた


「僕は……僕達は、負ける訳にはいかない」


 その眼に、絶望の色は見えなかった。クラスメイト全員の命を背負っているという責任。世界を救いたいという強固な意志。責任感と使命感に溢れた、輝くように強い瞳だった。



 王子。お前は本当に、大したやつだよ――



「そうか……それじゃあ、終わりにしよう」


 先生はそう言って、無造作に王子との距離を詰めた。途中、神々の剣レーヴァテインを掲げる。次の瞬間、レーヴァテインの刀身は、先ほど仁保姫と王子をまとめてなぎ払った時以上に光り輝き、巨大化した。


 先生はその光の剣で、一気に王子をなぎ払った。王子の懸命なガードは簡単に貫かれ、弾き飛ばされる。そして壁に激突して、王子のHPは0となった。



 最後に残った先生が、レーヴァテインを地面に突き刺し、声を上げる。


「そろそろ出てきたらどうだい? 一橋君」




 俺は【隠密】【ヒドゥン】を解除し、姿を現した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ