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放課後RPG  作者: グゴム
2章
9/100

9 探索

          挿絵(By みてみん)            

9


 一階層でキャンプ狩りをしていると、三十分ほどでさあきが地図の作成を終えた。そのまま、探索を後回しにして、最短距離で次の階層に進む。そして次の階層でも、さあきがマッピングをしている間に階段部屋でキャンプ狩りをし、地図を描き終わるとすぐに次の階層に進むという作業を続けた。


 タクヤが説明するには、このようなやり方で進む狙いは二つだそうだ。一つは敵の特性や配置を確認するため、そしてもう一つは自分達の限界を把握したいから。



 俺たちは、さあきの【解析】スキルにより、敵のレベルやステータス、さらには弱点までも確認できる。これは圧倒的なアドバンテージである。攻略本を片手にプレイしているようなものだからな。


 しかし、もちろん完璧ではない。例えば行動パターンや特殊攻撃、さらに危険な敵の組み合わせなど、実際に確認してみなければわからない情報はいくらでも存在する事を忘れてはいけない。


 さらに戦闘経験は戦いでしか磨かれない。できるだけ多くの種類のモンスターと戦闘して、レベルと共に戦闘・連携技術を身に付けなければ、いくら高性能なスキルを持っていても宝の持ち腐れである。



 もう一つの狙いについては、今後の戦闘においての安全マージンを計るために、『大体、どれくらいのレベル差の敵が相手なら戦えるのか』ということを確認しておきたいという意味だ。しかし、この狙いは空振りに終わった。



……



 アスモデウスの迷宮・地下5階・階段広場


 俺は人型の狼・ワーウルフと対峙していた。全身を覆うダークブラウンの毛。鋭く長い牙に研ぎ澄まされた爪。酷く曲がった背中のせいで、子供くらいの大きさにも見えるが、実際の体長は、俺と対して違わないだろう。


 人狼ワーウルフは一瞬のタメの後、鋭い牙を向けながら飛びかかってきた。見た目を裏切らず、俊敏な動きである。それでも避けられないことはない。AGI特化なめんな。


 紙一重でワーウルフの牙を避けると、すぐに反撃を加える。一、二、三発と、連続して繰り出された【三段突き】が、ワーウルフの体に風穴を開ける。血が噴き出し、HPバーを大きく減少させた。あと3割ってところか。


「【ファイアランス】行くよ。みんな離れて!」


 タクヤの号令に、それぞれが対峙していたモンスターから距離をとる。直後、タクヤの手から巨大な炎柱が噴き出した。それは見事にモンスター全体を巻き込みながら進み、俺の相手はもちろん、他の三人が対峙していた敵すらも葬り去る。後衛、タクヤの狙いすました範囲魔術が炸裂した。


 このパーティのリーダー、牧原タクヤは完璧な魔術師プレイに徹している。各種基本魔術を、そのダントツに高いINTと適確すぎるタイミングで行使する事によって、効率的に大ダメージを叩き出す。今の【ファイアランス】だって、本来はただの一直線上に敵を薙ぎ払うだけの範囲魔術なのに、なぜか全体魔術となってしまった。さすがにMMO歴≒年齢の廃人様は違う。


「おっしゃ! 楽勝だな」

「この階層も大丈夫そうだね」


 フーの威勢の良い声にタクヤが答える。今の敵はワーウルフLv16・4体とヘルハウンドLv15・2体の組み合わせだった。対する俺たちは最高で俺のLv11。結構なレベル差にもかかわらず、問題なく倒せてしまった。しかも一人さあき抜きの5人で。


 これは敵がレベル差5のグループでもまだ余力があると同時に、戦える敵の上限がまだまだ見えないことも意味していた。


「思ったより全然行けるな。もうちょっと苦戦するかと思ったが」

「みんな強いですねー」

紅亜礼(くあら)が一番強い」

「えっ! あやねちゃんの方がすごいよー」

 

 賞賛しょうさんし合う仁保姫と六道りくどう。お気楽である。


 だが、この2人は俺がワーウルフ一体と対峙している間に、それぞれ2体ずつを相手にしていた。このパーティ、女子陣の近接戦闘の強さには、正直男として思うところがある。


「できたー」

「あ、さあきちゃんお疲れ様ー」


 一人、階段に座り込んで黙々と地図を描いていたさあきが、作業を終えて大きく伸びをした。それを見てタクヤが腕時計(現実世界から付けていた物)を確認してみんなに指示を出す。


「そろそろ迷宮に入って大体6時間くらい経ってるし、今日はここまでにしようか」

「ん。まだまだいけると思うが」

「うん。まあ特に慌てて降りる必要も無いし。それに次の階って6階だろ。ちょっと怪しいんだよ」

「怪しいって?」

「えっと、確認なんだけどさあき、この迷宮って全21階層なんだよね?」

「えっ? うん。ウィンドウにはそう書いてあるけど、それがどうしたの?」


 あぁ、なるほどね。大体、言いたい事はわかった。


「大体こういうRPGのダンジョンってはボス、ちょっと強めの敵の事ね、がいるんだよ。で、いるとしたらキリがいい階層。今回の21階層なら、5階刻みの"6階、11階,16階,21階"か10刻みの"11階,21階"が怪しい気がする。まあただの経験則だけど。本当は5の倍数階も怪しかったんだけど、何もなかったからね」

「へぇー」


 仁保姫が感嘆する。たしかにそういう事もあるが、実際はあんまし関係は無いだろう。引き上げる口実って所かな。まあ、タクヤがそう判断するなら、従うまでだ。


 出来れば『ギリギリ勝てるレベル差』を確認したかったが、まあしょうがないか。どちらにせよ一日で全階層の4分の1も進んでしまったんだ。あまり進み過ぎても、色々な意味で危険なのは確かだろう。


 俺たちは来た道を戻り、地上へと向かった。敵モンスターはきっちり再配置(リポップ)していて、再び、今度はさあきを含めた6人での乱戦を繰り返しながら進んだ。


……


 ホームに戻ったときには既に日が暮れていた。料理担当に任命されたさあきと仁保姫が慌てて食事の準備を始める。今日の料理は昨日拾ったバーゲストの肉を使ったステーキがメインだそうだ。


 その間、残りのメンバーは戦利品の整理。一番の目的である魔石180個ほどが集まった。エギルとの契約だと、これで銀貨180枚だ。その他大量の毛皮やスケルトン達の武装なども合わせればおそらく銀貨200枚、つまり金貨2枚ほどになるだろう。初日としては悪くない。これからモンスターを狩ることに集中すればこの倍はいけるだろう。


 今日の目的はマッピングと迷宮に慣れる事、そして安全マージンの確認だった。実際、全員なら敵レベルが自分達より+5ほどあっても余裕であり、2,3人の少人数でも敵レベルが同じくらいなら全く問題にならない事がわかったのは大きい。


 タクヤはこれらのことを踏まえ、晩飯兼反省会の席でみなにこれからの迷宮探索について以下のルールを示した。


・マッピングが済んでない階層(現状だと5階以降)に行くのは禁止

・マッピングが済んでいる階層でも、出てくる敵のレベルは自分と同じくらいの階層で戦闘する事

・マッピングの済んでいない新しい階層へ行く時は全員で行く事

・ソロ行動は基本的に禁止。最低でもペアで行動する事


などである。要約すると、『危険の少ない場所で同格以下を乱獲しろ』


 同格以下を乱獲するメリットは当然魔石だ。魔石を落とすのはどのモンスターでも同じだから乱獲のほうが儲かる。金策だけ考えるなら、乱獲方針は当然である。だが、レベル上げの面で見ると、おそらく格上と戦ったほうがレベル・スキル上昇は速いとは思われる。検証したわけではないので不明確だが。


 また、同格以下、ソロ禁止などルールは安全の為だそうだ。特にソロ禁止については、俺は反対したのだが押し切られてしまった。パーティ戦だと、なかなか固有スキル【死】を使う機会がない。どうやって鍛えていくか、考えないといけないな。


「レベル上げは各自でやろう。基本的にいつでも迷宮に入ってもいいけど、今言ったルールは守ってね。それと食事については、さあき達がやる気満々だけど、家事や掃除は分担してやるから、そっちもサボらないように」

「ご飯は任せてー、ねっクアラ」


 食事の片づけをしながら、さあきが仁保姫に笑顔で言った。仁保姫の奴がすこし恥ずかしながら頷く。


 さあきは昔から料理好きだったからな。腕前も文句無しである。マトモな素材さえ用意すれば食事には全く困らないだろう。まったく便利な奴だ。





後書き

【短剣】【三段突き】

高速で三回突く。


【短剣】【スローイングナイフ】

ナイフを投げつける。10m程度なら狙いに寸分無く当たる。【一撃死】は発動しない。


【火術】【ファイアランス】

HP消費中。術者直線上に炎の柱を出現させる。大きさは【火術】スキルに依存。


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