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放課後RPG  作者: グゴム
終章
88/100

88 戦略

          挿絵(By みてみん)            

88


 飛行船には、タクヤを中心とするブルゲール商会の連中が勢ぞろいしていた。主に魔術スキルによる戦闘をメインするこいつらの多くは、丈の長いローブを身につけ、精巧な文様を刻まれた魔法杖を手にしていた。


 タクヤは、出迎えた王子達といくつか言葉を交わした後、後方で並び立つ俺とアンラを見つけやってくる。


「おっす、クー」

「あぁ。遅かったな、タクヤ」


 いつも通りの挨拶に、軽口を返す。タクヤは楽しげに笑っていた。


「本当だよ。完全に乗り遅れたって感じ。急いで来たっていうのに、もう始まってるじゃん――あ、六道さん。ひさしぶり」


 話しながら横目で六道を見つけ、声をかけるタクヤ。相変わらず不機嫌そうだった六道も、無表情で手を振り返していた。


「クーがいるとは聞いてたけど、まさか王子達と六道さんまでいるとはねー。王子の所は――他の皆は地上ミズガルズ?」

「はい。霞さんと御手杵おてぎねさん以外には、地上ミズガルズの防衛を頼んでいます。特に五龍君たちは今頃、魔界ニブルヘイム軍の本体と交戦中でしょう」

「うへぇ。それってルシファが相手でしょ? あいかわらず五龍の奴は頑張るねー」



 傲慢の君ルシファは、六道――つまり大魔王の命令を無視し、一部の七悪魔セブンスデーモンを引き連れて地上ミズガルズへの侵攻を開始してしまったそうだ。一応アンラが状況を説明し、説得したそうだが、頭の固いルシファは地上ミズガルズ侵略を優先してしまったらしい。


 それが魔界ニブルヘイム軍の本体であり、つまり五龍達は大悪魔ルシファを含む、魔界ニブルヘイムの屈強なモンスター達と戦闘中だという。激戦となるのは、必至だろう。



「あとドキュンネ三兄弟もいないか」

「ドキュンネ三兄弟はどうでもいい。あいつら、殺しても死なないだろうし。それよりタクヤ」

「ん?」


 へらへらと弛緩した空気を振りまくタクヤに、真面目な質問をぶつけた。


「お前、帝国はどうしたんだよ」


 こいつはエスタブルグ帝国の防衛を行なうはずだった。それを放り出して――しかも商会の連中を全員連れて、天界アースガルズにまで来た。つまり現在、帝国には俺達クラスメイトが誰もいないことになってしまう。


 タクヤはその質問に、特に表情を変える事もなく答えた。


「帝国はフーに任してきたよ」

「……フーだと? 一人でか?」

「そうだけど?」


 フーこと門倉風――帝国の郊外にハーレム(男の夢)を練成しようと頑張っている、クラスメイトの一人だ。そういえば、確かにフーの姿は見えないな。


 しかし、それ大丈夫なのか? 勿論、強さ的な意味では問題ないのだろうが、あのハーレムキング(変態)に、そんな重要な任務を任せてしまって。


「大丈夫大丈夫。フーは強いから。最近は責任感もついてきたし」


 何の責任感なんだよ――いや、やめておこう。藪から変なモノが出てきても面倒だし。



「3日くらい前かな。そこのアンラが商会にやってきたんだよ」


 タクヤは、俺の隣に立っていた優男を指差しながら言った。どうやら先程の、アンラが先日帝都に行ったという話は本当のようだ。


「話は全部聞いたよ。この様子じゃ、先生が黒幕って話も、本当みたいだね」

「残念ながら――な」


 俺の答えに、比治山やくすのきなど、タクヤについて来ていた数名のクラスメイトがざわついた。だが、タクヤ本人は大した動揺も見せずに続ける。


「そっか……まあ、それは今は置いとこうか。とにかく、アンラに呼ばれて来たわけ。正確には俺じゃなくて、戸松と大川が必要だったみたいだけど」

「戸松と大川?」


 タクヤの後ろにいるブルゲール商会の中には、もちろんメンバーである【界術】使いの戸松と【波術】使いの大川もいた。


「どういう事だ? アンラ」


 振り返り、軽く睨みつけながら問いただすと、アンラはすぐに説明し始めた。


「はぐれ魔術である【界術】には、結界内の魔法陣による効果を無効化する【デエンチャント】があります。これを用いれば、天使を無尽蔵に湧き出させている魔法陣を無力化カウンターする事が出来るはずです」


 確かにあったな、そんなの。戸松から【界術】の話を聞いた時、言ってた気がする。だが俺が戸松から聞いた話ではそれは――


「【デエンチャント】は――っていうか【界術】自体、効果範囲は周囲数十メートル程度じゃなかったっけ? 戸松」

「えっ……うん。たぶん」


 戸松とまつ左右みうは小さな声で答えた。長い黒髪を三つ編みにし、白を基調とした厚手のローブを羽織った戸松は、自身の背よりも長い木の杖に、自信なさげにすがっていた。


 相変わらず、おどおどした奴だった。


「それじゃあ、ヴァルハラ宮殿全体を覆うのは不可能だろ」

「はい。【界術】本来の使い手――境界神ユミールならば、一人でも可能なのですが……」


 アンラが横目で、よこたての肩で座り込んで脚をパタパタと振っていた、小さなミルの姿を眺めた。


 しかし、ミルはそれに気が付くとぷいっと視線を逸らしてしまう。


「我は境界神ではない。使い魔のミルだ。そもそも、貴様ら魔界ニブルヘイムの連中に、我が協力する訳が無かろうが」


 その答えに肩をすくめ、予想通りといったジェスチャーをしてみせるアンラだった。


「……という事なので【波術】を使う事にします」

「あぁ。なるほどね」


 大川の【波術】には、魔術の効果を増幅させる【アンプリフィ】がある。この魔術を使って【デエンチャント】の効果範囲を底上げするつもりだろう。


「その組み合わせで、ヴァルハラ宮殿全体を覆えるのか?」

「うん。たぶん……」

「前に帝都全体をこの方法でで覆った事もあるし、大丈夫だと思うよ。ただ……」


 おどおどとして要領を得ない戸松に代わって、大川が質問に答えた。少しやる気のなさそうな垂れ目の男子だった。


「ただ?」

「戸松さんの【デエンチャント】は、使用中に一切動けなくなるし、俺も戦闘に参加するのは難しくなる。【アンプリフィ】を使用中は、HPを消費し続ける事になるからね」


 つまり魔法陣を無効化カウンターしている最中、この二人を守らなければならないという事か。湧き出しを止めたとしても、すでに湧き出してる天使達は襲いかかってくるだろうし。


「それじゃあ、何人かに護衛をさせるか」

「はい。ですがここは先は、誰が突入して、誰が先生を倒すかを決めておいた方がいいと思います。そこから逆算して、戸松さん達の護衛に残る人を決めましょう」


 王子の提案だ。なるほど、確かにその通り。先生を倒す突入組を決めないとな。



 とりあえず、実際に先生と対峙してきた俺が、ヴァルハラ宮殿内で起きた事を説明する。ロキとの戦闘、先生の言い分、偽の神々、そして拘束されたさあき――


 最後のさあきのくだりは、ほぼこの場にいるクラスメイト全員が、怒るか悲しむかのどちらかの反応を見せていた。さあきは、男女を問わずに人気があるからな。



……



「――って事だ。俺達が見てきた限り、ヴァルハラ宮殿には先生以外に強敵が三人いる。雷神トール、母神フレイヤ、そして主神オーディン」

「それと先生も合わせて4連戦か。っはは! ラストダンジョンっぽいじゃん」


 タクヤが緊張感なさげに笑った。前にあった一連の事件のせいで、最近落ち込んでいるものだと思っていたが、どうやらいつもの調子に戻ったようだ。


「では、少なくともその4人に勝てる編成で――」


 言いかけた王子を制し、発言する。


「先生以外には勝つ必要無い。へたに戦って、戦力を減らしてもしょうがないからな。1人を2人くらいで足止めしている間に、主力が先生の元へたどり着いて一気に倒してしまえば、それで終わりだ」

「4連戦かどうかは分からないだろう。まとめてかかって来るかもしれない」


 久遠が冷静な様子で口を挟む。たしかに一人ずつ出てくるとは限らない――か。


 次に、タクヤが少し真面目な様子で言った。


「4人で同時に襲い掛かってきたとしても、誰が誰とメインで相手するかくらいは決めておいたほうがいいでしょ。こっちの最高戦力が、先生との戦いに集中できた方が効率がいいからね」

「なるほど……確かにそうでしょう」


 王子が小さく頷く。次に決めなければならないのは、誰が誰を相手にするか――だ。


 ラスボスである先生に対しては、クラスメイトの中でもっとも戦闘力の高い二人――王子と六道をぶつける事が確定しているのだが、残りの劣化神共をどうするか、決めておかなければならない。


 この時問題となったのは、さあきに【解析】をさせる前に、先生に捕まってしまったため、先生も含めて相手の詳しい能力が不明であるという点だった。


「アンラ」

「なんでしょうか。大魔王様」


 俺達が困っていると、氷のように冷たい、六道あやねの声が響いた。俺達は突然の発言に少し驚いたが、呼ばれたアンラだけは表情を変えずに即答していた。


「トール、フレイヤ、オーディンの能力について、説明しなさい」


 六道の突然の命令に、アンラは少し目を見開き、やがて苦笑いをしながら答えた。


「……私は若輩故、詳しくは存じません。そこにいる境界神に聞けば良いかと」

「だから、我はユミールではないと何度も言っておるだろう。貴様、若造のくせにしつこいのう」


 よこたての肩で、寝そべり始めていたミルが、再びアンラを怒鳴りつける。その設定、もうバレバレなんだから、さっさと諦めればいいのに。


「……ではヘルに説明させましょう――ヘル!」


 アンラは小さくため息を吐くと、今度は巨大なスケルトンの頭に跨って大鎌を振りまわす骨少女に向かい、声を上げた。


 ヘルの居る方向では、いつのまにか巨大スケルトン以外に赤や黒の大量のスケルトン達が現れており、天使の大群と骨軍団による大合戦が繰り広げられていた。


 その中心で大暴れをしていた骨少女が、アンラの声に反応して振り向く。すぐに大きくジャンプし、こちらに飛んできた。


 死神ヘルが、無邪気な笑顔で目の前に降り立つ。


「おう。おうおう。アンラ。我は今忙しいのだ。何用だ」

「彼らがオーディン、トール、フレイヤについて聞きたいそうです。私の代わり説明してやれませんか?」

「オーディン? トール? それにフレイヤだと? アハハハハ! 天界アースガルズの神々か。奴らは強いぞー、心して聞くが良い」


 ヘルはゲラゲラと笑いながら、俺達を前に、天界アースガルズの神々について説明をし始めた。








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