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放課後RPG  作者: グゴム
2章
8/100

8 迷宮

          挿絵(By みてみん)            

8


 次の日。迷宮の前に俺達は集まっていた。それぞれが装備を身に付け、さらにスクルドの街で補給した照明用の松明たいまつ(先端に火術の魔石が取り付けてある簡単な物)、マッピング用にまっさらな紙なども用意して初の迷宮探索に備えている。


 みなの様子は大きく二つに分かれていた。すこし緊張した様子のフー、さあき、仁保姫ら一般人組。そして、高揚こうよう感を隠し切れないタクヤ、俺、六道りくどうのゲーマー組だ。


 本人は隠しているようだが、六道りくどうの奴がゲーマーである事は、色々な場面からもはや周知の事実だった。いやにアイテムや専門用語について詳しいし、システムの理解も早い。なにより俺達6人の中で、最も楽しそうに戦闘をこなす様子は、ゲームの世界の中に入るという夢が叶った少年のそれだ。



「よし。それじゃ行こう」


 タクヤを先頭に階段を下りる。降りた先は小部屋になっており、正面と左右には薄暗い廊下が伸びていた。とりあえずこの部屋にはモンスターは居ないようである。


「さあき。モンスターの情報、わかる?」


 タクヤが言うと、さあきが【解析】スキルを使って、空中を指でなぞる。


「ちょっとまって……うわ。たくさん居る。ゾンビ、スケルトン、バット、マンイータ……」

「レベル帯は?」

「んー……9から12って所かなぁ。見た感じそのくらい」

「おっけ。それじゃ最初は慎重に進むよ。まずは迷宮に慣れること、そして一階層のマッピングに全力を傾けよう」

「……マッピングって?」


 さあきが首をかしげた。タクヤの代わりに俺が説明する。


「マッピングってのは迷宮の地図をつくることだよ。それがないと攻略どころか、迷宮から出られなくなっちまう」

「地図? でもそれってすぐにわかるよ」

「なんでだよ」

「だって……」


 ――だって地図って、いつも見えてるもん。


 さあきはきょとんとした様子で言い放った。どうやらこいつの【解析】では、モンスターレーダー付きの周辺地図が見えているらしい。しかもその範囲は拡大縮小可能で、半径1kmくらいは表示できるとの事。たしかにモンスターの居場所はわかるとは言っていたが、地図まで表示されてたのかよ。


 馬の尻尾のように垂らした、黒のポニーテールを引っ張りあげながら言う。


「そういう事は早く言え」

「いたいいたい! だって聞かなかったじゃない!」

「もしかして、前に言ってた建物の情報がわかるってのも、宿屋とか武器屋とかの種類が分かるって意味じゃなくて、構造まで分かるって意味なの?」


 タクヤが質問する。最初、二人でさあきの【解析】スキルを検証した時に、建物の説明が出ると言う話は聞いていた。しかし、あれは武器屋だとか、あれは雑貨屋だとか言うので、店の種類を判断できる程度に考えていたのだ。


「構造っていうか、うーん。いっぱい有りすぎて、うまく説明できないんだよねー」

「わかった。じゃあこの迷宮に対して見えている情報を全部残さず言え。省略するなよ」


「えー。全部言うの? えーと『ユグドラシル大陸・ノルン王国・スクルド北東丘陵地帯・アスモデウスの迷宮・階層1』。次に『アスモデウスの迷宮・全21階層・出現モンスターレベル[9-32]』て書いてあって、その下に地図があって、地図上にモンスターっぽい赤い点と良くわかんない緑の点と、私達っぽい青い点があって、右上に『アスモデウスの迷宮・地下1階』って書いてある。あ、後赤い点に触ればそのモンスターの情報がポップアップされて……」


 【解析】スキル、チートすぎワロタ。


「予定変更。さあきはすぐにマップを描く作業を始めて。とりあえずは地図だけでいいや」

「ん。わかったー」

「描き終わるまでは、この部屋でキャンプ狩りをしよう。適当にモンスターをプルしてくる。フーと六道りくどうさん、ついてきて。クーたちはバフをかけて戦闘準備」

「おっけー」


 タクヤが、フーと六道を連れて通路に消える。残された仁保姫がすこしおろおろしていたので、一応説明しておいた。


 キャンプ狩りというのは戦う場所を決め、モンスターをその地点に誘導して戦闘を行う事。プルというのは釣りとも言われてて、仲間の場所までモンスターを誘導してくる事。バフというのは強化スキルや強化魔術のことで、それをかけて戦闘に備えろって事。


「あ、なるほど。わかりました!」


 慣れない様子でバフを掛けて行く仁保姫。俺も薄い空気の膜を張る【風術】【ウィンドレイヤー】や自然回復力を底上げする【水術】【リジェネレーション】を使用する。まあこれぐらいしかないわけだが。


 隣の仁保姫はそれら基本魔術に加え、派手なエフェクトの自己バフを使用していた。


 仁保姫の固有スキル【天賦の才・格闘】は、基本的に【短剣】スキルなどと同じ、武器スキルのようである。武器スキルは上がるごとにさまざまな技を習得する。例えば俺の【短剣】スキルで現在使えるのは【三段突き】と【スローイングナイフ】の二つ。どちらも通常攻撃に毛が生えた程度の技だ。


 しかし、仁保姫の固有スキル【天賦の才・格闘】は異常である。自然回復力が大幅に上がる【克己】に、次の一撃の攻撃力を大幅に上げる【気合】。通常攻撃の2-3倍のダメージを叩き出す【飛び蹴り】に、挙句の果てには【気弾】なる遠距離技まである。


 同じスキルレベル5でこの違いだ。元々持っている格闘技術と、前衛向きのステータスに加えて、このスキル性能の違いである。はっきり言って、俺が仁保姫と戦っても、勝てる気がしない。ただ、仁保姫はまだこの世界のシステムに慣れないようで、魔術やスキル関係がぎこちないのが弱点ではある。まあそれはゲーム歴0時間の女子なので、仕方ない事だろう。


「そういえば、タクヤとはどうなったんだ?」


 ビクッっと体を震わせる仁保姫。みるみると顔が赤くなっていく。あれ? なんか変な事言った?


「な……なんで知ってるんですか?」


 なんでと言われても。最初っから丸わかりだったろーが。バレてないとでも、思っていたのか。


「いや。なんとなく……ね」

「うぅ……」


 泣きそうになる仁保姫を、なんとかフォローする。


「ああ見えて、タクヤって押しに弱いところがあるから、行くならガンガン行った方がいいぞ」

「そうそう。私も前から言ってるんだけどねー」

「さ……さあきちゃん。私だってがんばってるんだよ……」

「来たぞ」

「えぇ!?」


 ガチャガチャと金属製のブーツの足音を鳴らしながら、三人が走りこんできた。その後ろには、骨モンスター×5が戦闘体勢で追走している。青い光を目に宿し、ボロボロながらも武装したスケルトン。定番といえば定番のモンスターだが、この世界に来て始めて見たな。


「仁保姫さん!」

「は、はい!」


 仁保姫がタクヤの声に反応し、敵集団に向かって勢い良く飛び出す。そして、すでに三人のファーストアタックによりHPを減らしていた敵スケルトン一体に飛び蹴りを放った。


 ガシャン――と気持ちのいい音を出して、スケルトンの頭蓋骨が吹っ飛ぶ。続けて回し蹴りの後、体勢を整えてからの正拳突き。流れるような連続技により、スケルトンは無惨にもグシャグシャな白い何かに変わっていた。


 瞬殺。いやだいやだ。怖すぎる。


 俺もスケルトンの敵意を引き付けるため、一体に【風術】【ウィンドカッター】を唱えた。カマイタチがスケルトンのHPを削る。攻撃を食らったその骨は方向転換をしてこちらに向かって来た。残ったスケルトンも、それぞれフー、六道りくどう、そして仁保姫が引き付ける。ここからは一対一×4だ。


 オンラインRPGの世界ではPTの1人に盾役・タンクなどといわれる役割を持たせることがよくある。これは、敵の攻撃を一身に集めて仲間を守る役割だ。防御力が高くてHPも高いタフな奴が攻撃を受けたほうが安全で効率がいい。という考え方である。


 最初はこの世界でもその方式でいけるかどうか試してみたのだが、どうもうまくいかなかった。いくつかの要因が考えられたが、最大の原因は手軽にヘイト(敵の注意)を稼ぐ手段が無いことである。この世界の戦闘では、敵の攻撃を一人に固定することが難しいのだ。


 結局、盾役を用意する戦術が有効に働くための、最も重要なファクターは、堅固な防御力でも膨大なHPでもなく、強力なターゲット固定能力なのだ。その要素を持つメンバーが居ないこのパーティでは、それぞれが一対一をしたほうが効率が良い。それが今までの戦闘から分かったことである。


 大きく振りかぶったハンドアックスの攻撃を避け、カウンターに短剣の柄で殴りつける。今の一撃でHPバーをすべて削りきったようで、スケルトンは突然骨くずへと戻り、消滅した。切るべき場所がスカスカのスケルトンは、短剣とは相性が悪かったが、なんとか倒せたようだ。








【風術】【ウインドレイヤー】

HP消費小。術者の周囲に気流の流れを作り出し、攻撃を避けやすくする。効力はINT・【風術】スキルに依存


【水術】【リジェネレーション】

HP消費小。自己回復力を高める。効力はINT・【水術】スキルに依存


【風術】【ウインドカッター】

HP消費小。風の刃で攻撃する。効力はINT・【風術】スキルに依存


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