78 配置
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「という事は、泥人間を操っていた黒幕は天界にいるという事ですね」
「あぁ。しかも、どうやら天界はとんでもない事になっているらしい」
「と言いますと?」
「……まあ、ただの勘だ。何となくそんな気がする程度のな」
「勘……ですか」
王都――ノルン王城内の尖塔の一角で、俺と王子は今後の行動について話し合っていた。
王子には先日のオーディンとの遭遇は話していない。というかおれ自身、あれは夢だったのではないかと思うほど、意味不明な邂逅だった。
オーディンの野郎。いきなり正体を現して、戦闘を仕掛けてきて、さらにわざと負けて、後はお前に任せるだ? まったく、ふざけんじゃねー。理由を説明しろってんだ、理由を。
「そうなると、クーさん一人に天界行きを任せるのは危険かもしれませんね」
「いや。姉御がついてきてくれる。それに三好もな。さあきと久遠も来るから、このメンバーなら大抵なんとかなるはずだ。俺達の手に負えない状況になったら、とっとと逃げてくるさ。偵察になってちょうどいいだろ」
「……わかりました。あまり、無理はしないでくださいね」
「あぁ。まかせとけ。それよりそっちはどうなんだよ」
「はい。まず主要な都市にクラスメイトを数人ずつ派遣します。特にクーさんに言われた北のアギルランドの方面には、五龍君のパーティに行ってもらいます」
今回、魔界から侵攻して来ると予想される連中の中で最も危険なのは、大悪魔――傲慢の君ルシファである。あいつは間違いなく、魔界の悪魔を大挙として引きつれ、北の果て――ヴァレンシス城から地上へ侵攻してくるはずだ。そのための抑止力として、強力なパーティを最北の都市に配置する事が必須だった。
そしてそいつらに対抗するために王子が配置したのが、王子とは別行動をしていた五龍達のパーティだ。
リーダーの五龍は柔道の心得がある、ガタイも性格もいい男である。他にも奴のパーティには【金属化】の黄金、【天賦の才・斧】の山城、【天賦の才・弓』の野村など強力な戦闘用ユニークスキルを持つ連中が揃っている。パーティ単位で見れば、本隊である王子パーティに匹敵する強さだろう。
「五龍達なら安心だな。お前はどうするんだよ」
「はい。太古の地に向かおうと思っています」
「ヨルムンガンドか。お前が自分で行くのか」
ヨルムンガンドを食い止める事が、境界神ユミールとの契約だ。その件については王子に任せていたのだが、わざわざ王子自ら行かなくても、他のクラスメイトに任せても問題は無いのではないか。
「勿論クーさんとの約束もありますが、理由はもう一つあります。あそこはおそらく、大結界が消え、ユグドラシルにより三界が繋がった際、最も魔界に近い場所となると考えています」
ルシファが言っていた『三界が繋がる』という事態がどういう事なのか、いまいち良くわからない。しかし少なくとも今現在、地上と魔界が直接繋がっている唯一の場所が太古の地である事は確定情報だ。したがってその場所が、魔界に繋がる可能性が高いというのが王子の読みだった。
「ヨルムンガンドを倒した後、太古の地から魔界へ進入します。地上の防衛に多くのクラスメイトを配置するので、おそらく魔界へは僕を含めた、少数精鋭で向かう事になるでしょう」
「そうか。まあ、最終的な戦力配置はお前に任せる。ただ、帝都はどうするつもりなんだ?」
あの後、タクヤは帝国軍を率いて帝都に戻った。その後どうなったかは詳しくは知らないが、先日七峰が現れて、俺にユグドラシルの起動日時を聞きにきた。その時の七峰によれば、タクヤは何とか立ち回っているとの事だった。
「帝都は牧原君に任せれば大丈夫でしょう。すでに七峰さんを通して計画は伝えましたし」
まあ、あまり心配しても仕方が無いか。タクヤなら何とかするだろう。
「確かにな。それじゃ、地上の細かい事はお前らに任せる。俺はこれからユグドラシルへ向かう。予定通りなら、7日後の正午に決行するからな」
「わかりました。こちらも準備に取り掛かります。まあ太古の地へ行く僕以外の人たちは、ほとんど七峰さんに頂いた【シフト】で移動するだけですけどね」
王子はそう言うと、手を広げておどけて見せた。
「っは。そりゃ楽でいいな――じゃあ行くわ」
「はい。クーさんも気をつけてください」
「お前もな。死ぬんじゃないぞ」
話し合いは終わり、俺は天界へ向かう為に立ち上がる。ここからユグドラシルのある島まで、5日ほどの船旅だ。次に王子と会うのは俺が天界に、そして王子が魔界行った後になる。もしかしたら会うのは最後になるかもしれない。
ま、俺はともかく、王子が負ける所なんか想像もつかないがな。魔王は底の知れ無い奴だが、王子が遅れを取るわけが――
「……」
その時、不意に重要な事を思い出してしまった――六道の事だ。
扉の前で立ち止まると、椅子に腰掛けたまま俺を見送っていた王子が、不思議そうに声をかけてきた。
「どうかしました?」
その声に、俺はゆっくりと振り向いた。
「王子。最後に一つだけ、忠告しておく」
「何でしょうか?」
「……」
王子は真っ直ぐに澄んだ目で俺を見つてくる。その目はやめてくれ、真っ直ぐすぎて、苦手なんだよ。
だが、この事を黙っている訳にはいかない。もしも王子が、六道が魔界側だと知らずに魔界に行けば、面倒が起きる可能性が高い。最悪王子が危険にさらされちまう。
「……六道は――六道あやねはおそらく、魔界側に味方するはずだ」
「え?」
王子の眼が、驚きで大きく見開かれた。そして口に手を当て、しばらく俺の言葉の意味を考えた後、質問をしてくる。
「六道さんは、魔王に捕らわれているのではないのですか?」
「あれは、嘘だ」
「嘘……?」
王子がいぶかしむような目でこちらを見つめる。
「嘘というか、俺の書き方が悪かったというか……とにかく、あいつは自らの意思で魔界に行ったんだ。目的は魔王になる為。今もおそらく、その目的のために魔界で活動中だ」
実際、六道が今どれくらいの強さにまで成長しているのか、さらに魔界でどんな地位に就いているのかは、よくわからない。ただとにかく、生きてさえいれば今回王子達とぶつかる事は免れないはずだ。
「もしも王子――お前が魔界を進むならば、必ずどこかで六道と出会う。そしてその時、六道は本気でお前を倒しに来るだろう」
「そんな……」
『私は魔王になって勇者を倒す』――そんな子供じみた事を嬉々として話していた六道だ。王子が魔界に来たとなれば、間違いなく立ち塞がり、戦いを挑んでくるだろう。
蒼白な顔でうつむく王子に対し、続けて言う。
「実際、六道の奴がどう行動するかまでは俺にもわからん。ただ、俺が言いたいのは、六道と殺しあうのだけはやめて欲しいって事だ」
「……勿論です」
「六道の事も、お前に任せる。何もかも……お前に任せて悪いとは思うが、誰も死なないようにしてくれたら、俺は嬉しいよ」
「はい」
俺の無責任で自分勝手な頼みに、王子はためらいも無くうなずいた。
「クーさん」
「ん?」
「本当の事を教えていただきありがとうございます。六道さんの事は僕に任せてください。必ず、何とかします」
王子は、晴れ晴れとした表情で立ち上がり、そう言った。
やれやれ。やっぱり王子は苦手だ。善人すぎて、こっちが悪人になった気分になってしまう。あながち間違いじゃあないが。
王子――お前は、余りにもお人好しすぎる。それがお前の一番尊敬できる長所で、一番心配な弱点なんだよ。
一橋 空海
Lv 58
HP 1631
STR 186
DEX 236
VIT 132
AGI 301
INT 114
CHR 266
スキル/死53, 短剣46, ダッシュ34, 風術31, 水術33, 隠密40, 眼力37, 開錠21, 鎌24, 神殺し1
更科 沙愛
Lv50
HP 1261 1401
STR 190 223
DEX 141 150
VIT 186 201
AGI 112 122
INT 219 243
CHR 138 151
スキル/解析49, 棍棒36, 火術37, 土術35, 水術39, 隠密16, 調理43, ダッシュ13
久遠 道化
Lv52
HP 1552
STR 166
DEX 159
VIT 154
AGI 191
INT 208
CHR 187
スキル/変化24, 片手剣16, 隠密36, 聞き耳26, 開錠24, 探査28, 翻訳41
十 うらな
Lv61
HP 2901
STR 276
DEX 141
VIT 331
AGI 147
INT 91
CHR 199
スキル/爆術43, 格闘51, ガード37, 風術26, 土術21, 調合40, 罠15, 翻訳11
三好 哲也
Lv54
HP 2510
STR 210
DEX 221
VIT 169
AGI 131
INT 210
CHR 147
スキル/扇動33, 片手剣43, 盾31, 風術31, 土術35, 開錠22, 魔石加工23