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放課後RPG  作者: グゴム
8章
73/100

73 泥人間

          挿絵(By みてみん)          

73


 デイン・フォン・エスタブルグ。先日タクヤの商会を訪れた時に会った、金髪の若い男だ。皇族のくせに、ノルン王国で情報屋をしてた超変わり者だとは聞いたが。


「どういう事だ、さあき」

「知らないよ! あのね。話を聞いて」


 詰め寄ると、さあきは慌てて説明し始めた。


「あの人、最初っからデインって名乗っていたの。それと帝国の印璽も持ってた。後からタクヤが調べたらしいんだけど、失踪中の帝国第三皇子の風貌と一致して、持ってた印璽も本物だったみたい。でも、私は初めて会った時から。【解析】スキルで名前が"デイン"じゃなくて、"アダマ"だって分かっていたの」

「で? タクヤには言ったのか?」


 さあきは、ぶんぶんと勢いよく頷く。


「勿論、すぐに話したよ! でもタクヤは『印璽も持ってる。噂されている風貌とも一致してる。話に聞く破天荒な性格も同じだ。ここまで揃ってるんなら、本物だろうが偽者だろうが関係ない。こいつは使えるよ』って嬉しそうに言うだけだったの。それで私に、この事は誰にも言わない様にって」

「そのアダマの強さはどうだったんだよ」

「えっ……と。たしか、凄く強かったよ。レベルしか覚えてないけど、たしか70台だったと思う」

「まじかよ」


 レベル70台って、俺よりも15以上高いじゃねーか。あの王子が60代後半くらいだったはずだから、そりゃ化け物だな。


 神話では【泥人間】は神と同等の強さを持つとあったはずだ。レベルが70もあるならば、たしかに神クラスなのかもしれない。



 しかしどうやら、タクヤはデインが偽者だと分かった上で、手を組んでいるようだ。まったく、なんて危ないマネをしやがる。どこの馬の骨ともわからん奴を皇族に仕立て上げちまうなんて。


 しかしまあ、タクヤらしいと言えばタクヤらしいが。


 本物だろうが偽者だろうが、あの利益主義のタクヤにとってはどうでもいい事なんだろう。要するに、タクヤは帝国の皇族との繋がりが欲しかった。その為に利用できるものは利用する。相手にどんな思惑があろうが、な。あいつはそんな奴だ。


 それに、タクヤの帝国での活躍ぶりを見ると、それは今の所は功を奏している。計算通りデインの皇族としての身分を使って帝国の有力者に取り入り、レア魔術を筆頭に 色々な商品を売り込む。そうしてタクヤは、着々と帝国内で勢力を伸ばしていった。さらにタクヤは、デインを皇帝にまで押し上げようとしている。もしも実現すれば、実質タクヤは帝国を手に入れたも同然だ。


 勿論リスクは高いが、その代わりリターンも莫大。今の所は成功しているみたいだし、さすがはタクヤといった所だろう。



「くっくっく。なにやらきな臭いな」

「なにがだよ久遠」


 石碑の前で、久遠が小さな体を震わせて笑っていた。


「いや、別に。ただ少し、気になってな」

「気になる?」

「あぁ」


 久遠は立ち上がり、肩にかかったほこりを払う。そして、ゆっくりとかみ締める様な調子で言った。


「誰が、アダマを起動したんだろうな。そして、なぜ起動したアダマが牧原氏と手を組み、帝国を掌握しようとしているのか」

「……どういう事だよ」

「いや。この碑文にはアダマという名のほかにも、その起動方法も書いてある。それによるとアダマを起動するためには、まず生贄が必要だそうだ」

「生贄? 神話ではたしか、少女を捧げる事で【泥人間】は表情を得たんだっけか?」

「その通り。この碑文には『生きた人間を抽出装置に入れることで、アダマはその人間の姿形、感情、記憶をトレースする』とある。その次からは文字が欠けていて読み取れないが、どうやらアダマの操作方法について書いてあるみたいだ」

「……要するに、何者かが本物のデインをここまで連れてきて、アダマにその姿をトレースしたって事か。つまり、そこの死体は――」

「あぁ。十中八九、本物のデイン皇子だ」


 久遠は無表情に言い放つ。形を保った側のカプセルに浮かぶ、肉塊と化した人間の死体。それは【泥人間】に生体情報をすべて写し取られた、本物のデイン・フォン・エスタブルグの成れの果てだった。


 そして、壊れたカプセルの方に封印されていた【泥人間】アダマは、デインに成り代わって生活している――そういう事か。



 問題は、誰がここにデインを連れてきて【泥人間】アダマを起動したのか――だな。


「アダマって奴は、思い通りに操れるものなのか?」

「わからん。さっきも言ったが、その部分は欠けていて読み取れない、だが神話の内容から考えれば、命令通りに動く傀儡(くぐつ)になると考えるのが自然だろう。つまり、誰かが操作しているのだ」


 確かに。だが、それが誰なのかは検討がつかない。帝国の第三皇子を誘拐し、こんな人里離れた辺境の忘れられた古代遺跡にまで連れてきて、生贄ささげ、【泥人間】を復活させた。まともな奴の仕業では無さそうだが。


「復活したアダマは、デインに成り代わって再びノルンの情報屋として活動し始めた。そして出会ったのが、牧原氏なのだろう」

「……その後は、タクヤはデインを利用して帝国で成り上がって行った――か。確かにうそ臭い話だな」

「そうだろう。俺には出来すぎた話にしか見えない。しかし同時に、だからどうしたという話でもある」


 今の所、特に【泥人間】が問題は起こしているわけではないしな。いまいちアダマ――ひいてはそれを操っている黒幕の目的が見えてこない。


 だが、とりあえずデインという帝国の第三皇子が【泥人間】アダマである事はほぼ決定のようだ。そしてこの神殿に【雷電のアメジスト】が無い以上、予想通り【泥人間】アダマ自体が【雷電のアメジスト】を使用して動いているという可能性が高い。


 次はアダマを探さなければならない。それには先ほどから何度も話に出てきている、タクヤの野郎に相談してみるのが一番だろうな。



「久遠。まだ探索を続けるか?」

「いや、大体終った。この神殿、見るべきものはこの石碑くらいしかなかったからな」


 久遠は少し不満げに言う。確かにこの遺跡は空中神殿と比べると、質素というか原始的というか、文化的な感じではなかったな。この部屋以外は。


「クー。もう帰るの?」


 さあきが聞いてくる。


「あぁ。【雷電のアメジスト】が無いのなら、こんな所に用は無い。タクヤに会いに、エスタブルグ帝国へ行くぞ」

「伝説の【泥人間】が我らのクラスメイトと行動を共にしている、か。くっくっく……少し、面白くなってきたな」


 久遠はそう呟き、ニヤニヤと笑いながら【空術】使いの七峰に【変化】する。そして【空術】【シフト】を使用し、帝国へと続く平面ワープゾーンを開いた。




……




 帝国にあるタクヤ達の商会――ブルゲール商会。その地下倉庫にももう慣れたもので、乱雑に放置された荷物を蹴散らしながら、一階のラウンジへと向かった。


 しかしいつも誰かは必ずいるラウンジに、珍しく誰も居なかった。それどころかメイドであるサラ達すらおらず、完全に無人だったのである。


「クー。やっぱり誰も居ない。みんな出かけているみたい」

「だな」


 どうやら留守のようだった。どうしようかと途方にくれていると、街に出ていた久遠が少し興奮した様子で帰ってきた。


「一橋氏、大変だ」

「どうした?」

「帝国が、ノルン王国に向けて軍を興したらしい」

「はぁ?」

「え?」


 軍? 軍隊だと? って事は、エスタブルグ帝国はノルン王国に対して戦争を仕掛けたって事か?


 おいおい。タクヤの野郎。帝国の上層部に食い込んでるんじゃなかったのかよ。なんで戦争なんか……つーかよりによって王子達の居るノルン王国相手に仕掛けていやがるんだよ。最悪、王子達とタクヤ達とがやり合う可能性だってあるじゃねーか。


「まったく。なに考えてんだよ、タクヤの野郎」

「クー。どうするの?」


 落ち着け。状況を整理しよう。


 まず、俺の最大の目的は【雷電のアメジスト】を手に入れる事、すなわち【泥人形】アダマをとっ捕まえることだ。そしてそのアダマは現在、帝国の第三皇子であるデインを名乗っている。デインを見つけるために、一番手っ取り早い手段はタクヤと会う事だ。


 だが、肝心のタクヤが帝都には居ない。商会のクラスメイトもまとめてここにいないって事は、おそらくタクヤは何かしらの行動を起こしている最中なのだろう。そしてそれはあいつの性格からして、ノルン王国との戦争に関係する可能性が高い。


 帝国と王国による戦争。別段この世界でいくら戦争が起きようがどうでもいいが、タクヤがいる国と王子がいる国とが当事国だという点は問題だ。最悪の場合あの二人、ひいてはあいつらに属するクラスメイト同士が激突する事も考えられる。そうなったら、敵対するクラスメイトの数がとんでもない事になってしまう。さすがにそれはまずい。


 どちらにしても戦場に向かうべきだ。その前に、保険をかけておく事にしよう。


「とりあえず、戦場にいくぞ」

「どうする気なのだ?」


 久遠が久遠が聞いてくる。俺はいま思考した事を端的に説明する。


「ここに誰もいないのは、タクヤが作戦行動を起しているからだろう。そしてあのタクヤの事だ。ノルン王国との戦争なんて大イベントに乗り遅れるわけがない。つまり、タクヤはおそらく戦場にいる」

「わかった。じゃあ、すぐにここから出発――」

「いや、王都から向かおう。それと、ちょっと寄り道していく」

「え? どこに?」

「エ・ルミタスだ」






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