表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後RPG  作者: グゴム
8章
72/100

72 シェイプシフター

          挿絵(By みてみん)            

72


 シェイプシフタ――変身生物。話を聞けば、どうやら他人になり代わるモンスターの事らしい。


 雷湿原のあるクリミナル半島の周辺地域では、たまに住人が行方不明になる。行方不明になった人は、その後しばらくして、以前とまったく変わらない様子でひょっこり戻ってくるという。


 しかしそれはシェイプシフターであって、本人ではない。声や見た目、記憶や性格でさえ行方不明になった本人のそれだが、実は凶暴なモンスターであり、夜な夜な化けた人間の周りの人間を喰らう。それが久遠が聞いた民話の内容だった。


 ま、どこにでもありそうな怪談の類だ。ただこの世界のそれは、得体の知れない幽霊や妖怪の噂ではなく、この辺りにシェイプシフターというモンスターが出没するという意味なのだろう。


 しかし人間に成り代わるモンスターというのは、どこか【泥人間】とかぶる所がある。



「って事は【泥人間】はそのシェイプシフターの親玉か?」

「シェイプシフターは、ただ単に他人のコピーになるだけモンスターだ。神の強さに匹敵するという伝説の【泥人間】とはランクが違うだろう」

「だが、他人のコピーになるってのも相当強力だぞ」

「そうなのか?」


 きょとんとした顔で聞きかえす久遠。なんだこいつ、ギャグのつもりで言っているのか?


「……お前のユニークスキルが、他人に成り変わる【変化】だろうが」

「別にこのスキル、特段戦闘に強いわけではないぞ。情報収集にはなにかと便利だが」


 情報収集に便利って、どんな使い方してるんだよコイツは……


 ただまあ、確かにこいつの【変化】は、戦闘に関して言えば少し器用貧乏なのかもしれない。相手の弱点を突いて効率的に戦う事はできるが、自分より強い奴には【変化】出来ない訳だし。単純な戦闘力だけでいえば、王子やよこたてなどには負けてしまうだろう。要するに使い方が重要なのだが、肝心の使い手がこんな奴じゃあな。



 そんな話をしながら、神殿の奥へ進む。すると先程さあきが言っていた、広い大部屋に出た。そこはむき出しの土が敷き詰められた円形状の空間で、とんでもなく高い天井とも相成って、さながら闘技場の様な雰囲気を感じた。


「何が出るとしたら、ここだな」


 そう言って、二人に警戒を促したその時、天上部からボトリ――ボトリと泥の塊が落ちてきた。その数は三つ。泥塊はなぜか、ビリビリと電気を帯びている。ドロドロとうごめきながら周囲の土を吸収していくそれらは、何かの形になろうと必死にもがいていた。


「お出ましのようだな」

「あぁ。二人共、戦闘準備だ」

「うん」


 さあきが棍棒を取り出し、両手で構える。久遠は相手によって対応を変えるつもりだろう。特に行動を起こさず、いつも通り自信ありげに胸を張っていた。


 そして俺も、腰から死神の短剣を引き抜き、構える。



 泥塊はやがて等身大の人型まで成長し、その動きを止めた。


「これって……」

「あぁ。噂のシェイプシフターか」


 そいつらは黒ずんだ土色をしていたため分かり辛かったが、それぞれ俺、さあき、久遠の形をとっているように見えた。


「クー。敵の名前、それぞれ私達三人の名前になってる。ステータスやスキルまで……同じだよ!」

「だろうな」


 どうやら俺達のコピーとの戦闘らしい。なんで泥からシェイプシフターが沸いてきたのか知らないが、とにかくやるしかない。


 同じ戦力、同じスキル同士の戦い。こういう場面で重要な事は、いかにして戦力差を作り出すかだ。つまり、敵を分断して一匹ずつ倒していけばいい。


 注意しなければならないのは、俺のスキル【死】である。【一撃死】【死の凝視】そして先ほど覚えた【致死】。どれでも一発貰えば、もれなく冥界行きだ。久遠を【時術】含めたあらゆる魔術が使えるタクヤに【変化】させて、徹底的にマークさせてしまおう。


「久遠。タクヤに【変化】して、魔術でさあきのコピーを分断しろ。続けて残りの二体を【土術】【フォルト】で地面に落とし込んどけ。その後は俺のコピーに【ポーズ】を連発して足止めを頼む」

「了解した」

「さあきは俺と、さあきのシェイプシフターを瞬殺するぞ」

「わかった!」


 久遠がは目を瞑ると、一瞬にして【時術】使いの牧原タクヤに【変化】する。そして間髪いれず、特大の【水術】【ウォーターボール】を打ち出し、敵三体のうち右端に居たさあきのシェイプシフターを、他の二体と分断させた。


 続けて久遠は【土術】【フォルト】を発動する。これは地面を操作し、巨大な裂け目を作り出す魔術だ。巨大な裂け目が発生し、久遠と俺のシェイプシフターは為す術無く飲みこまれた。


 その隙に俺とさあきは、分断されたさあきのシェイプシフターへと突進した。敵も泥から棍棒を作り出し迎え撃つ。


 ゆっくりとした動作から棍棒を振り回すシェイプシフター。先を走るさあきが、それを同じく力強い棍棒攻撃で受け止める。轟音を立ててぶつかり合う棍棒同士。同等の攻撃力が炸裂しあって、二人とも大きく後ろに弾き飛ばされた。


 俺は吹き飛んだ敵との間合いを一気につめ、起き上がる前に敵の首筋を目掛けて短剣を振り下ろした。するとシェイプシフターは呻く。半狂乱になりながら反撃を繰り出すさあきのコピー。だが、所詮さあきのコピーだ。楽々回避し、そのままカウンターで短剣を次々と打ち出していった。


 やがて一方的にダメージを与えた結果【致死】が発動したらしく、一体目――さあきのシェイプシフターはHPを半分近く削った所で消滅した。


 まずは一匹。さあきのシェイプシフターがレベル的にも能力的にも最弱だと読んだが、思った通りかなり弱かった。ま、こいつは元々戦闘向きじゃないしな。



「久遠、こっちは終った。次は危険な俺のコピーを狙うぞ……?」


 振り向いた瞬間、トンッという感触を胸に感じた。見ると、俺の形をしたシェイプシフターが、背後から俺の心臓を突き刺していた。


 背後からの一撃――『一撃死』


 大した痛みも無く、ゆっくりと意識が遠ざかっていった……



……



【時術】【リワインド】


 薄れる意識の中、聞き慣れたタクヤの声が聞こえた。次の瞬間、一気に意識がクリアに戻る――そして瞬間的に状況を理解した。


「っち!」


 慌てて飛び退き、シェイプシフターと距離をとる。危ない――というか、死んでいた。どうやらタクヤに【変化】中の久遠に助けられたようだ。


 あれほど気をつけろと言っていた自分のシェイプシフターに接近を許すとは――いや、違うな。今のは【時術】【ポーズ】か。



 よく見ると、シェイプシフターの一体が再び姿を変えていた。泥だらけで良く分からないが、おそらく久遠が現在【変化】している姿――すなわち【時術】使いの牧原タクヤの姿になっていた。


「さあき。あっちのシェイプシフターのステータス、今はタクヤになっていないか?」

「え……っと。うん。タクヤになってる」

「そういう事か。久遠!」


 久遠に向かって声を張り上げる。俺のシェイプシフターに向けて【時術】を使用し続けていた久遠が、こちらに顔を向けた。


「タクヤに【変化】は終わりだ! 【変化】を解除しろ!」

「む? どういう事だ?」

「いいから。元の姿に戻れ!」


 その指示に久遠は首をかしげながらも、言われた通りに【変化】を解除した。それに連動して、シェイプシフターの一体も形を変える。ごぼごぼと脈動し、小柄な体型――久遠と同じ様な体型へと変形した。



「なるほど」

「さあき。あいつのステータスは?」

「うん。久遠くんのとまったく同じに戻ったよー」


 自身のシェイプシフターの変形がする様子を見て、ようやく久遠は得心がいったようだった。要するに、敵は久遠の現在の姿になるのだ。だったら久遠は【変化】などしなければいい。それだけで戦闘力は大幅ダウンである。


「おっけ。さあきと久遠は俺のシェイプシフターの足止めを頼む」

「任せて!」

「了解」


 さあきと久遠が連携し、俺のシェイプシフターを牽制する。レベルは俺の方が二人より10ほど高いうえ、俺のステータスはAGIが異常に高い。その為二人の攻撃はまったく当たっていなかったが、俺はその代わり攻撃力も無いから、ユニークスキルの【死】にさえ気をつければ二人でも足止めは十分可能だ。


 その間に、俺は久遠のショイプシフターとの間合いを一気に詰める。相手は泥から作り出した片手剣を構えて応戦するが、はっきり言って【変化】を使わない久遠など、ただの雑魚だ。そもそもあいつ戦闘に関するスキルが【片手剣】くらいしか無いし。


 シェイプシフターは、迫り来る俺に向けて袈裟切りを放つ。しかしそれは、俺から見ると止まって見えるほどに遅い斬撃だった。軽く身をひねって刃をかわし、そのまま体重を乗せて死神の短剣を敵の胸部に突き立てた――すると一撃で【致死】が発動したのか、久遠のシェイプシフターはHPのほとんどを残したまま、消え去ってしまった。



 久遠は自身のシェイプシフターが倒れたのも見て、再びタクヤの姿に変化した。そしてさあきが魔術を連発している後ろから、【時術】【ポーズ】を発動する。


 俺の姿をした最後の一匹。時間を停止させる【ポーズ】によってその動きがピタリと止まる。それを逃さず、俺は一気に距離をつめ、さきほどのお返しとばかりに急所の額に一撃を加えた。


 【一撃死】が発動し、シェイプシフターは光に包まれ消え去った。



……



 俺達はシェイプシフター達を倒すと、そのまま大部屋を抜け、最奥にある小部屋へと足を進めた。


 最奥の部屋は紫を基調とする金属製のタイルが敷き詰められた小さな部屋だった。中心にはカプセルの様な巨大な容器が二つ。その間には石碑があり、ミミズが這ったような碑文が途切れ途切れに記されていた。どうやらここが『泥人間』の封印されている部屋のようだ。


 部屋に入った瞬間から久遠が石碑に飛びついたのは言うまでも無い。しかし、俺には二つ設置されたカプセルの方が気になった。一つは形を保っていたが、もう一つは派手に破壊され、周囲にはその破片らしきものが飛び散っていたのだ。


 壊れたカプセルの中身を覗くと、中には泥水の様な茶色の液体が満ちている。だが、それ以外は特に何も無いようだ。


 一方、形を保ったもう一つのカプセルを調べようと近づくと、中身を覗く小窓がある事に気が付いた。そこから内部を覗くと、見えたのは黄色の液体、そしてその中に浮かぶピンク色の塊だった。


「なんだこれ……?」

「なになに?」


 俺のつぶやきに反応して、部屋を見て回っていたさあきが近づいてくる。いや、まてよ。これって――


「止まれさあき」

「え?」


 さあきが不満げな顔でその場に立ち止まる。


「久遠、ちょっときてくれ。これ、何だと思う?」

「ん?」


 代わりに石碑にかじりついていた久遠を呼び、小窓を覗かせた。久遠は一瞥し、すこし眉をひそめた後、興味なさげに言う。


「……人間だな。しかも、全身の皮が溶けて、筋肉がむき出しの」

「やっぱそうか」


 何の感慨も無く、久遠は淡々と内部を描写した。どうやら「変なものを見せられたな」程度の気分のようだ。


 しかし、あのピンク色の塊は人間か……そうじゃないかとは思ったが、久遠もそう言うなら確定だ。このカプセルの中には、人間の死体が入っている。しかもかなりエグい様子で。



「え……え……どういう事?」

「さぁな。この中に人間のホルマリン漬けが入っている。ま、それだけだ」


 さあきの顔色が変わる。人間の死体くらいならこの世界に来てから何度か見ているだろうが、それでも気分のいい物では無い。今回はさらに猟奇的な死体だったからなおさらだ。


「心配するな。死体くらい何でもねーよ」

「でも……」

「お前は周囲を警戒してろ。なにか反応があったらすぐに知らせればいい」

「……うん」


 おずおずと頷くさあき。まあたしかにショッキングなものだが、見るからに死んでいるし、死体が動き出すって訳でも無いようだ。ならば、危険もあるまい。さあきの【解析】によりこの部屋どころか、この神殿内にすら誰もいない事もわかっているし。



 その後、久遠はその死体には興味を示さず、すぐに碑文の古代文字の解読作業に戻った。しばらくして解読が終ったのか、立ち上がって説明を始めた。


「どうやら、壊れている方のカプセルに【泥人間】が封印されていたようだ」

「って事は【泥人間】の封印がすでに解かれているという事か」

「そうだ」


 久遠は自身ありげに頷いた。そうなると、もう【泥人間】はここには居ない。どこかへ行ってしまったという事だろう。まったく、ここまで来て空振りとはな。


「正確には【泥人間】じゃ無いみたいだ。個体名・アダマとある。これが名前だろう」

「アダマねぇ」

「えっ?」


 その言葉を聞いて、突然さあきが驚きの声をあげた。


「なんだよ、さあき」

「私、アダマって名前の人、知ってる」

「まじか」


 そういえばさあきの奴、【解析】スキルで他人の名前が見られるんだった。すでに出会った人の中にアダマが居たとは、運がいいな。


「何処で見たんだよ」

「帝都……クーも会った事があるよ」

「帝都? アダマなんて名前の奴、いたっけ?」


 そもそも帝都ではのクラスメイト以外、ほとんど人と会ってないような気がするんだが……


「……デイン・フォン・エスタブルグ」


 さあきが消え入るように口にしたその名前は、エスタブルグ帝国の第三皇子の名前だった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ