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放課後RPG  作者: グゴム
1章
7/100

7 ホーム

          挿絵(By みてみん)            

7


「やっと着いたー」


 安堵の声と共に、荷物をほっぽりだして座り込むさあき。明け方にスクルドの街から王都方面の街道に出発し、途中で道を分かれ、木立に囲まれた道をひたすら歩き、目的地の迷宮とその側にある小屋を見つけた時には、すでに日が傾き始めていた。


「まだへこたれるのは早いよ。日が落ちる前に急いで今晩の準備を整えないと」


 タクヤがみなに声をかける。実際、思ったより時間が掛かった。迷宮に近づくにつれて、遭遇するモンスターが増えてきたのが原因だ。染み出しというやつだろう。幸い、弱いモンスターばかりだったので、危険はなかったのだが、いちいち荷物を置いて戦わざるをえず、一戦一戦にずいぶん時間が掛かってしまい、こんな時間になってしまったのだ。



 そうして用意された小屋にたどり着いた。それは思ったより大きく、10人は軽く生活できるように作られた建物だった。木造の二階建てで、一階は暖炉つきの大広間とキッチンがある。二階には粗末なベットがならんだ大部屋が二つと個室が二部屋。現代人の感覚から言わせてもらうとこれは小屋ではない。普通に家だ。


 これからしばらくここをホームにして、迷宮に挑むことになる。



 女子陣が歓声を上げながらで小屋――改めホームを探索し始める。さっそく家具が気に入らないやら日当たりのいい大部屋を女子部屋にするやら、てんやわんやの大騒ぎを始めやがった。


「はしゃぐな。まだやることがあるって言ってんだろ。タクヤ、早く指示出せって」

「それじゃあ、フーはとりあえず今日の分だけでいいから薪を集めて。クーとさあきは周辺の探索。無理をしない程度にモンスターを掃除しといて。仁保姫さんと六道りくどうさんは荷物を開けるのと、掃除をよろしく」

「え!? 私、探索なの?」


 さあきがビクリと声を上げる。


「うん。モンスターの位置がわかるのはさあきしかいないから、頼むよ」

「えー……」

「ほれ。さっさといくぞ」

「いたい! 髪、引っ張らないでよ! わかった。わかったってばー!」


 俺はタクヤの指示通り、さあきを連れて小屋の入り口へと向かう。


「俺もいってくるわー。乾燥してそうな枝を拾ってくれば良いんだろ?」

「うん。そこの暖炉にくべるやつね」

「うーい。タクヤは?」

「俺はちょっと迷宮の様子を確認してくるよ。ギルドでもらった旗も立ててこないといけないし」


 六道りくどうと仁保姫の2人に見送られながら、俺達はそれぞれ小屋の外に出た。



……



 ホームの周辺は起伏のある林になっており、あまり見通しがよくなかった。とりあえず、耳を澄ますとさらさらと水音が聞こえたので、まずはその音の方向に向かって歩くと、すぐ小川に到着した。


「水場確保っと。おい、いつまで落ち込んでんだよ」

「うー。やっと到着したと思ったのにー」


 さあきが不満げな様子で言う。


「うるせぇ。モンスター掃除をしておかないと、ホームが襲われるかもしれないだろうが。夜中、寝てる時に襲われてもいいのか?」

「それはイヤだなぁ……」

「そういう事。さっさと終わらせないと、本当に日が暮れるぞ。さっさと"位置"を教えろ」

「はいはい。えーと。一番近いのはこっちね。バーゲストが3匹」

「よし、いくぞ」


 さあきの能力【解析】。さまざまな情報が得られるスキルである。余りにも多機能な為、いまだにさあき自身も把握し切れていない。今の所わかっている事は、モンスターや他人のステータス、レベルの把握。周辺にいるモンスターの名前と数と位置の情報、さらに特殊な効果のあるアイテムの鑑定などもできるとの事。現状、俺達の中で最も使える能力だろう。


 木立に分け入って、さあきの示した方向に向かうと、すぐにイノシシ型のモンスター三匹に出会った。これがバーゲストだろう。体長2mといったところか。けっこーでかい。


「レベルは5。ステはVIT特化20、急所は眉間だよ」

「おけ。一匹ずつやるぞ」


 現在のLvは俺が8でさあきが7である。事前に決めてある敵ステータスの報告を受けて、楽勝と判断した。


 一匹に落ちてた石を食らわせて、注意をこちらに向けさせる。こちらに気がついたバーゲストの突進を、ぎりぎりまで引き付けてかわすと、すれ違いざまに顔に短剣を食らわせた。


 鳴き声と共に突進が止まる。続けて、さあきが横から金属製のメイスを脳天に向かって振り下ろす。衝撃によりバーゲストが倒れこむと、あとは二人でボコボコにしておしまいだった。


 この騒ぎで他の二匹のバーゲストもこちらに気づき、突進してきた。だが、狙いはなぜか、二匹ともさあきだった。


「うわあぁぁぁ!?」


 巨大なイノシシ×2に迫られて軽く混乱状態に陥ったさあきが、突進を避けきれずに吹っ飛ばされて地面をごろごろと転がる。


「おい。なにやってんだ。大丈夫か」

「いったーい! もー怒った!」


 派手に吹っ飛ばされたが、HPは2割ほどしか減っていない。大丈夫だろう。


 起き上がったさあきはバーゲストに突進すると、大きく振りかぶったメイスを横腹にぶち込む。バーゲストの巨体は低い音と共に数十メートルは吹っ飛んで、木々を何本か折りながら転がっていく。俺は素早く、吹き飛んだ一体に追撃を加えて消去した。


 最後に仲間が吹っ飛ばされて呆然としていた一匹を、二人でふるぼっこにして戦闘終了。戦利品を回収している間、さあきは汚れてしまった服を払いながら自身の格好を確認していた。


「よく見たら私の格好、いろんなところがボロボロじゃん。せっかく昨日買ったばかりのボレロだったのに……」

「ひどい格好だな」

「うるさいうるさいー」


 ぷりぷりと腹を立てるさあき。こいつは怒ると、ポニーテールを尻尾のように振りまわして暴れる。それがいい加減、ガキッぽく見えた。


「っで、次は?」

「えっと。後ろ」

「後ろ?」


 振り向くと5匹のバーゲストの群れがこちらに向かって今まさに突進を繰り出すところだった。素早くさあきの腕を掴むと、バーゲスト達とは反対方向に駆け出した。


「気が付くのがおせーよ!」

「だって、だって!」


 走る速度は、俺の方がさあきよりも圧倒的に速い。AGIが倍近く違う上にスキル【ダッシュ】も駆使すれば、突進してくるバーゲストすら置き去りに出来るはずだ。


 しかし、さあきは引っ張っているこの状態では、逃げ切るのは難しそうである。


「はっ、はっ、はやいー」


 腕を引っ張られて、無理矢理に走らされているさあきが、息も切れ切れに叫んだ。


「おい。この先にモンスターいるか確認しろ」

「え、え、えーと。いないよー」

「よし。それじゃお前ちょっとまっすぐ走ってろ。いいか。真っ直ぐ、全力だぞ」

「へっ?」


 そういって俺はさあきから手を放し、大きくジャンプして、立ち並ぶ木々の枝に飛び乗った。文字通り猪突猛進するバーゲスト達は、そのままさあきを追ってドコドコと走っていく。


「ちょっとーー!逃げないでよぉーーー!」


 必死な悲鳴が聞こえ、だんだんと遠くなっていくが、とりあえず無視で。



 ………………よし。もういいか。



 素早く枝から降りると、スキル【ダッシュ】を使用して全速力で前方の一団を追いかける。すぐにその中の一体に追いつくと、視界に入らないように眉間に短剣をかすらせてやる。ほとんど触っただけに等しいその攻撃で、バーゲストは一瞬で消滅した。


 スキル【死】【一撃死】は三つの条件、すなわち


1.短剣での直接攻撃

2.急所に当たる

3.対象が攻撃を認識していない


を全て満たしていれば、一撃でモンスターを倒せる。この中でもっとも重要なのは3.の『対象が攻撃を認識していない』という条件だ。


 今回は猪型という頭の悪そうなモンスターだったので、ちょっと視界から消えればすぐに俺のことを忘れてくれるだろう――という読みだったのだが、どうやら当たったらしい。残りも一匹一匹、同じように処理をしていく。


 最後の一匹となった所で、ついにさあきが追いつかれていた。前方で、勢い良くごろごろと転がっていた。まあHPゲージはまだまだ残ってるみたいだから、大丈夫だろう。


 最後の一匹が倒れこんださあきに更なる追撃を加えようと方向転換をする。止まったその瞬間を見計らって、一気に近づき眉間に切込みを入れる。【一撃死】が発動して、戦闘が終了した。



……



「おーい。大丈夫か」


 地面に大の字になって寝転ぶさあきに、声をかける。さあきは涙目になりながら、こちらを睨みつけてきた。


「……信じられない。見捨てるなんて」

「失礼なことを言うな。囮に使っただけだ」

「そっちのほうがひどいでしょ!」


 ガバっと体を起すさあき。俺はその小さな頭に手をのせ、背後を指差した。


「まあまあ。ほら、いい景色だぜ。見てみろよ」


 そこには、でこぼこの丘が続く丘陵地帯と、鉱山地帯があるのであろう銀色の山脈が広がっていた。手前にはスクルドの街から続く草原や、木立の中あるホームも見える。


 現実世界と同じ太陽と、地平線まで続く丘陵地帯と山脈。人工的なものがほとんど見えない大自然は、生まれた時からビルに囲まれて育った俺達には、ひどく新鮮に見えた。


「……私達、遠くにきたんだね」


 突然、さあきが消え入るようにつぶやいた。


「今更だな」

「ううん。なんか、クラスのみんなが一緒だったから、全然現実感がなかったんだけど、こういう景色を見ちゃうと……」


 一回り小さな体を震わせながら、さあきは目に涙を溜めていた。こいつとは物心が付いた時から一緒に居るが、こんなにへこんでいる姿をみるのは、久しぶりだった。


「私達、もう家には帰れないのかな」

「……みんなもいるし、王子も絶対みんなで現実世界に帰るって言ってた。なんとかなるだろ」

「……本当?」


 座り込んだまま、上目遣いで見つめられた。その目は真っ赤に潤んでいる。仕方なく、くしゃくしゃと、小さな頭を撫でてやった。


 昔、本当にガキのころだが、何かの拍子に大泣きを始めたこいつを、こうして慰めた記憶がフラッシュバックした。


 昔と、何も変わってないな、こいつ。



「本当だ。約束する。だから泣くな」

「……うん」


 さあきは頷き、立ち上がった。


「んじゃ。探索を続けるぞ」


 俺がそう言って歩き出すと、さあきは慌てて後ろを追って来る。後ろでごそごそと顔をぬぐう音が聞こえた。


 からかってやってもいいんだが、まあやめておこう。すぐに、いつもの様子に戻るはずだ。






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