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放課後RPG  作者: グゴム
8章
66/100

66 収穫

          挿絵(By みてみん)          

66


 その後タクヤの部屋に場所を移すと、俺は先ほどのデインについて話を向けた。


「皇族と知り合いだったとはな」

「まあね。ひょんな事から知り合ったんだ。ほら、前に迷宮探索をしてた時、夜盗の襲撃があったじゃん――」


 あれは確か、アスモデウスの迷宮を攻略する数日前だったか。夜中、数十人の夜盗どもによってホームを襲われた事があった。タクヤによると、その時夜盗達に情報を流した情報屋が先ほどの第三皇子――デインだったらしい。


「なんで帝国の皇子が情報屋なんかやってんだよ」

「あいつ、かなり型破りだからねー。素行は最悪。相当な問題児だったみたいで、数年前に勘当同然で城を飛び出してから、ノルンに流れて情報屋をしてたみたい。そこを俺が訪ねた。クーが魔界ニブルヘイムに行っちゃった後の話だよ」


 そういえばあの時、情報屋の所にも行くつもりだったんだ。その前に魔界ニブルヘイムに迷い込んでしまったから、すっかり忘れてた――というか行く必要がなくなっていた。


「で、ちょっと荒めに問い詰めたら、エスタブルグ帝国の第三皇子を名乗ったんだ。これは使えると思ってね」

「なるほどねぇ。だからノルンを離れて帝国に向かったのか」

「そういう事。帝国の皇子なんて最高のコネが手に入ったんだよ。使わない手は無いでしょ」

「そりゃそうだ」



 タクヤがアスモデウスの迷宮を攻略した後、王子達からメンバーを引き抜いて真っ直ぐ帝国に向かったのは、これが原因らしい。帝国の皇族――しかも皇帝の直系にパイプがあるんだったら、そりゃ勢力拡大も早いに決まっている。定刻の上層階級に商品を売り込み放題だ。

 

「でも、あのデインも一筋縄じゃいかない奴でね。もう手綱を取るのが大変だよ。最近は俺の手助けもあって地位も高くなったからか、だんだん落ち着いてきたみたいだけど。会った頃はとんでもなく破天荒な奴だったね」

「じゃあ、あいつは未来の皇帝なのか」

「あはは! そんなに遠くない未来の――かな」


 タクヤはひどく楽しそうだった。その答えは、『近く現皇帝の代わってデインが帝位につく】という意味だろう。その際に帝国の実権を握るのが、このタクヤという筋書きか。


 今は立場的に、ただの一商人であるタクヤだが、すでに帝国の中枢を掌握する目処が立っているようだ。まったく、こいつには脱帽だな。



「そういえば、さっき言ってた船ってなんだよ。海運会社でも起こすつもりか?」

「あぁ、あれね。えーと……そうだね、秘密にしとこうか」

「なんだよ。つれねーな」

「はは! まあ完成してからのお楽しみって事にしようよ。それよりクー。【空のサファイヤ】はどうだったの? 収納されてた部屋までは行った、って七峰さん達に聞いたけど、そこからなんか行方不明になったって?」

「ゲットしたまではよかったんだがな。ちょっと罠に引っかかっちまった。で、次元の狭間とかいう意味不明な空間を彷徨う羽目になっちまった。まったく酷い目にあったぜ」

「へぇー。でも何とかなったんだんでしょ?」

「あぁ。ついでに【境界のトパーズ】を手に入れる目処もついた。たまたまだがな」

「え? そうなの?」


 いきなり、在り処が分からないと話していた【境界のトパーズ】を手に入れたと聞いて、タクヤは酷く驚いていた。境界神ユミールとの会話の詳しい顛末を話して聞かせる。


「じゃあ、今度こそ王子に世界崩壊の事、話さないといけなくなったんだね」

「まぁ何とかするさ。とにかくこれで残る魔石十二宮ジェムストーンは【時のラピスラズリ】と【雷電のアメジスト】の二つだけだ」

「いや、【雷電のアメジスト】だけだよ」

「っは?」


 見ると、タクヤはもったいをつけるようにニヤニヤと笑っていた。懐に手を入れると、濃い藍色の塊を取り出す。それはまさに魔石十二宮ジェムストーン【時のラピスラズリ】だった。


 今度は、俺が驚く番だった。


 タクヤの奴『【時のラピスラズリ】は俺に任せろ』とは言っていたが、本当に取ってきてしまうとは。しかも、先日話をしてから二日もかかってないのに。


「まじかよ。早かったな」

「まあね。なかなか楽しいダンジョンだったよ」


 話によれば、俺達が空中神殿へ向かったその日の内に、タクヤは商会の連中を連れて四次元迷宮ラビリンスラビリンスの攻略へと向かったそうだ。


「ほんと。歩いたら一日経過している通路とか、逆に一日巻き戻ってる階段とか。一日経過しないと動かない仕掛けとか、順序が破綻した仕掛けばっかり。もう本当に頭がこんがらがりそうだったよ。現実世界から持ってたこの腕時計と、時間を正常化させる【時術】【アジャスト】、あと迷宮の途中で見つけた【時の砂時計】がなかったら、やばかったね」

「【時の砂時計】?」


 聞きなれない言葉が聞こえた。なんだそれ?


「うん。時間を早送りするアイテム。それがないと時間経過で動く仕掛けを解くのに時間がかかって、たぶんもう一週間くらいかかってたよ」

「お前の【フォワード】じゃ足りなかったって事か?」


 【フォワード】は時間を早送りする【時術】だ。結構初期の段階からタクヤは習得していたのだが、時を止める【ポーズ】や時を巻き戻す【リワインド】と違って、"時を早送り"するだけのこの魔術は、なかなか使い道の難しい魔術だった。


「だって、一日単位で時間を操作しないといけないんだよ? 今の俺のスキルとINTじゃあ【フォワード】で操作できるのは精々3倍速くらいだね。そもそも一日使い続けるとか、HPが持たないし」


 えーと。3倍速って事は、1時間使い続けて3時間、時が進むのか。って事は一日進めるためには、8時間【フォワード】を使いっぱなしにしないといけない。確かにそれはきついな。


「その点、時の砂時計なら10倍速で時間を進められた。【フォワード】の併用で、さらに加速できたしね。結局それのお陰で、たった一日で【時のラピスラズリ】をゲット出来たって訳」

「なるほどねぇ」


 やれやれ。厄介だと聞いていた四次元迷宮ラビリンスラビリンスだったが、どうやらタクヤによってあっという間に攻略されてしまったらしい。タクヤも俺と同じ穴の狢(ゲーマー)って事を忘れてた。



 しかし、10倍速で時間を進めるアイテムか……ちょっと気になるな。


「そのアイテムって、今ある?」

「【時の砂時計】?」

「あぁ。ちょっと見せて欲しいんだが」

「別にいいけど。ちょっと待って」


 そう言ってタクヤは立ち上がり、棚から一つに砂時計を手にして戻ってきた。差し出されたそれを受け取ると、くびれたガラスの容器の中を青色の砂がさらさらと流れ落ちている。


 それを手に持ちタクヤを見つめる。すると予想通り、タクヤの横に見える『死の凝視』によるカウントがとんでもない速さで減り始めた。


 どうやらこの【時の砂時計】――俺の【死の凝視】の、発動までのカウントダウンを加速するために使えるようだ。これは欲しい。


「タクヤ。ついでにこの砂時計もくれない?」

「え? えーどうしよっかな……」


 微妙そうな顔をするタクヤ。だが、このアイテムは俺が使ってこそ真価を発揮するはずだ。たぶん。きっと。


「お前、空中神殿の戦利品と宝物庫のアイテム。全部七峰に持たせただろう。あれの代わりって事にしてくれよ。頼む」

「あー。それを言われると弱いな……まあいっか。それもう、用済みだし」

「っしゃ。ありがとう」


 交渉成立。この【時の砂時計】はなかなか使えそうだ。格上にはまだ難しいかもしれないが、【死の凝視】が使える対象が増えるのは間違いない。今度、検証しておこう。



「まあなんにせよ、まじで助かったぜタクヤ。こんなに早く【時のラピスラズリ】を手に入れてくれるなんてな」

「気にしないでよ。これで魔石十二宮ジェムストーンは後一つだけど、次は王子の所だよね?」

「そうだな。次は王都ノルンだ。久遠も当てがあるって言ってたし」

「あー。そういえば七峰さんが言ってたね。久遠の奴に会ったんだって?」

「相変わらずだったよ。一緒に来てるぜ。今、どっかに逃げちまってるが」

「あいつのスキル【変化】は誰にでも【変化】できるそうだね。うらやましいよ。俺の【時術】と交換して欲しいくらいだ」


 確かにあの何でもできる【変化】を、歴史バカの久遠ではなく野心家のタクヤが所有していたら、状況はかなり変わっていたかもな。少なくとも今の段階でもう、帝国の一つや二つは軽く支配していそうだ。


「っは。あれはあれで制限がるからな。思ったよりは不便だぜ」

「やっぱそうか。それでも使い方次第だけどね。まあいいや。すぐに出発するの?」

「そうだな。別にもう、帝都には用は無いし」

「あはは。クーも大変だよね。世界中を飛び回ってる。俺達の中で、今一番働いてるのって、実はクーなんじゃないかって思っちゃうよ」

「っは。そんな事は無いだろ。少なくとも王子の方が、確実に働き者だよ」


 そう。これから向う街にいる王子は、モンスターから人類を守るために戦っている勇者様である。俺なんかよりも遥かに重い責任感を背負って、行動しているはずだ。



……



 タクヤとの話を終え、ラウンジで仁保姫たちと談笑していたさあきと、地下倉庫でこそこそとアイテムを漁っていた久遠を捕まえると、七峰に王子のいる王都ノルンへ送ってもらう事にした。


 その出発直前、タクヤが思い出したように言ってきた。


「そうだクー。最近、帝国内部で怪しい動きかがあるから、ちょっと王子に会ったら注意する様に言っておいて欲しいんだけど」

「なにに注意するって?」

「帝国の動き」


 なんだよ、その抽象的な注意喚起は。国の動きって、注意したらどうにかなるものなのか?


「よくわからんが、まあわかった。伝えとく。じゃあ七峰、頼む」

「了解しました」


 七峰によって王都ノルンへと繋がる平面ワープゾーンを作り出されると、俺とさあき、そして久遠の三人は、タクヤ達に別れを告げ、その中に飛び込んだ。


 次の街は王都ノルンである。


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