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放課後RPG  作者: グゴム
7章
63/100

63 境界神

          挿絵(By みてみん)            

63


「断る」


 境界神ユミールははっきりとした口調で言った。余りの即答っぷりに、一瞬思考が停止してしまう。


「貴様らに【境界のトパーズ】を渡すだと? そんな事をしてみろ。一瞬にして魔界ニブルヘイムの悪魔どもが這い出し、地上ミズガルズは一気に暗黒の時代になってしまう。天界アースガルズの連中が出張ってくるならまだいいが、先ほども言った通り天界アースガルズは沈黙しておるからな」


 厳格な表情のままのユミールに対して反論する。


「だが、このまま俺達異世界人が居座ってると、近く地上ミズガルズから魔界ニブルヘイムの迷宮がなくなってしまうぞ。それでもいいのか?」

「【異世界人召還】は人神ロキの能力だ。異世界人により魔界ニブルヘイムの住人が地上ミズガルズから排除するのであれば、魔界ニブルヘイム側がラグナロクに負けたというだけの話だろう」


 ルシファの野郎。話が違うじゃねーか。なにが『異世界人の大量召還は天界アースガルズ側に有利すぎるから、ユミールは面白くないと思っている』だ。全然納得してるじゃねーか。



「じゃあ、お前の力で天界アースガルズに行く事は出来ないのか? 俺達は別にラグナロクに干渉したいわけじゃない。天界アースガルズに行ける方法があるなら、それでいいんだが」

「我の力で送れるのは地上ミズガルズだけだ。天界アースガルズは無理だな」

「……ユグドラシルを使う以外で、他に天界アースガルズにいく方法は無いか?」

「無い」


 きっぱりと断言するユミール。ユミールに天界アースガルズまで送ってもらう作戦もだめ。やはり天界アースガルズにいくためには魔石十二宮ジェムストーンを集めるしかないようだ。何とかして【境界のトパーズ】を手に入れなければ、俺の計画が詰んでしまう。



 仕方が無い。ここは『殺してでも うばいとる』しか道は無いか。


 さあきに聞いてみないと分からんが、こっちとの戦力差はかなりの物だろう。【死の凝視】で見えるカウントもヘル並みの桁数だし、まともに戦っては勝てそうに無い。となると、やはり隙を見て【一撃死】を叩き込むしかない。気づかれずに急所に当てさえすればいい。後は、どうやって隙を作るかだな――


「止めておけ。死を司る異世界人よ。貴様の技は、我には効かない」


 ユミールの見透かされたような言葉に、心臓を鷲掴みされた気分になった。


「……何の事だ?」

「貴様がこの【境界のトパーズ】を欲しておることは知っておる。目的の為には手段を選ばぬその性格もな。神に戦いを挑むなど笑止千万だが、もしも貴様らが我を倒そうとすらば、貴様の技――死の能力に頼るしかあるまい。だがしかし、その攻撃は我には無効だ」

「……」


 どうやら、こっちの行動はバレバレらしい。こいつは困った。選択肢、全部潰されてしまったな……。



「おかしな事がある」


 その時、隣で話の推移を見守っていた久遠が声を上げた。久遠はそのまま一歩前に出、ユミールと対峙する。


「ユミール氏。聞きたい事があるのだが、よろしいか」

「何なりと」


 相変わらず表情を崩さず、彫像の様な無表情で答える境界神ユミール。久遠はそれに対し、まったく臆する事なく質問した。


「なぜ天界アースガルズの連中は沈黙している」

「知らぬ。我が知りたい」

「なぜロキは我々を大量召喚したのか」

「知らぬ。ラグナロクが始まって以来、その様な事は起きた事が無い」

「本当にロキは我々を召喚したのか?」

「……」


 久遠の三つ目の質問に、ユミールは少し言葉を詰まらせた。


「……ロキ以外に、異世界人召喚など出来やしない」

「そんな事は無い。例えば――」


 久遠はその場で目をつむり、スキル【変化】を起動する。瞬きをした瞬間、久遠が居た場所に立っていたのは、"境界神ユミール"だった。


 『目の前に自分とまったく同じ姿の者が現れる』――さすがのユミールもこれには驚いたようだ。氷の様な表情が解凍され、両目が大きく見開かれていた。


 ユミールに【変化】した久遠は、そのまま右手を突き出すと、目の前に玉虫色をした薄膜を作り出した。それはシャボン玉のように、久遠の手に張り付いていた。


 これは【界術】【リフレクト】だ。【界術】の事は、クラスメイトの【界術】使い――戸松に一通り聞いてきたから大体分かる。【リフレクト】はあらゆる魔術をはじき返す魔法の盾で、【界術】の最も簡単な基本魔術だった。

 

 どうやら【変化】は、相手が神だろうが変化出来てしまうらしい。ただこのスキル、格上相手に【変化】する場合は著しく性能が制限されてしまうはずだから、恐らく今の状態で久遠が使える【界術】は、一番簡単な【リフレクト】くらいだろう。


 だが、 そんな事はユミールが知る由も無い。目の前で自身と同じ形をとり、あろう事か自身のほぼユニークな魔術であったはずの【界術】まで使用されてしまった。この事は、ユミールの無表情な仮面を剥ぎ取る程度には効果があったようだ。



「もし仮に、俺が人神ロキに会いさえすれば、この【変化】スキルによって"異世界人召喚"という能力は使用できるはずだ。こういう事もありえるのだから、ロキ以外の人物が"異世界人召喚"をした可能性はゼロでは無いと思うのだ。ユミール氏」


 久遠がロキに成り代わった所で、おそらくレベルも【変化】スキルも圧倒的に不足している。従って、もしロキが"異世界人召還"に類するスキルを持っていたとしても、実際に久遠が【変化】して使用できるかは疑問だ。


 それでも、久遠の主張はわからなくも無い。要するに、人神ロキ以外が異世界人召還を行ったのだとすれば、ロキには不可能な異世界人大量召還も可能だったのではないか、という事だ。


「……そんな事が出来るのは、異世界人しか居ない」


 ユミールは搾り出すように言った。。


「久遠。俺はクラスメイト全員のユニークスキルの名称を把握しているが、召還や異世界に関するものは無さそうだったぞ」


 少し気になったので、俺は久遠に質問した。久遠は視線だけこちらを向いて答える。


「ならば、まずそんなスキルを持つ異世界人をロキが召還したのだ。"我々に先んじて"――な」


 久遠はにやりと笑う。その言葉に、俺はハッとした。


 そうか。確かに俺達のクラスメイト以外で、同時期に異世界人が召還されていないという保障など、どこにも無い。考えてみればひどく当たり前な話だ。


「もしそれが正しいなら、天界アースガルズの連中が一切姿をみせないというのは……」

「ああ。大方、天界アースガルズの連中の動きを封じてしまったのだろう」


 俺と久遠の会話に、ユミールが割り込んでくる。


「動きを封じるだと? 貴様ら。我ら神々が異世界人に後れを取るとでも言うのか?」

「だが先程のユミール氏の話、一橋氏が魔王アンラやルシファから聞いたという話を総合すれば、おかしくは無い。可能性はあるというだけだ」


 久遠は、そう締めくくるとドヤ顔を披露しながら、眉間に左手を添えるという謎の決めポーズを決めた。



 今回の久遠はいくつか飛躍しすぎな点も有りはしたが、なかなかどうして説得力があった。


 たしかに俺達とは別の異世界人がいて、ロキではなくそいつが俺達を召還したのだとしたという可能性はありうるだろう。しかしそうすると、同時に大きな疑問が生じてしまうが、とりあえずは捨て置こう。境界神ユミールはこの話に喰いついている。ここは【境界のトパーズ】を手に入れる為に、久遠の説に乗っかって巻き返すべきだな。


「異世界人が異世界人を召還している。しかも人神ロキよりも圧倒的に多人数を。もしそれが本当だとしたら、俺達の存在はラグナロクとは無関係だ。ユミール」

「……」


 黙りこむユミールに対して、俺は続ける。


「異世界人は、一人でもラグナロクのバランスを大きく動かす――これは魔界ニブルヘイム魔王アンラの言葉だ。このままだと、ラグナロクとは無関係に召還された俺達が好き勝手に暴れた挙句、永劫続いたラグナロクをぶち壊すぞ。それでもいいのか?」

「……なるほど。面白い」



 ユミールは眉を吊り上げ、威嚇するように睨んできた。とても面白いという顔ではない。相変わらず、言葉と表情が一致しない女である。しかし良く見ると、目つきは鋭いが口角が上がっていた。どうやら面白がっているのは本当のようだ。


 ユミールはやがて、椅子から体を乗り出しながら言った。


「つまり、天界アースガルズ行って確かめるべきだ――貴様はそう言いたいのだな」

「あぁ。俺が天界アースガルズにいって確かめてきてやる。そんな異世界人が居ないんなら、ロキと話を付ければいいし、居るならそいつを説得――だめなら排除してきてやる。その為に【境界のトパーズ】をよこせ」


 最後に目的の【境界のトパーズ】を要求し、俺達のプレゼンは終了した。まあ後は、久遠の説をユミールがどこまで信じるかどうかだな。



 


【界術】【リフレクト】

HP消費小。あらゆる魔術を反射する膜を作り出す。膜の大きさはINT・スキル依存。

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