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放課後RPG  作者: グゴム
1章
6/100

6 契約

          挿絵(By みてみん)            

6


「そうですか。引き受けてくださいますか」


 次の日の午前。俺はタクヤに付いてエギルの屋敷を訪ねていた。来客用に装飾された広間に通された俺たちは、エギルとの交渉に臨んでいる。俺は勧められた椅子に座らずに、険しい顔を作りながら壁際に腕を組んで立っていた。


 格好をつけているわけではなく、俺はこちらが不利になる条件を出されないように牽制する役回りである。たまに短剣を鳴らして、「舐めた条件は承知しねえぞ?」みたいな顔をしてればいい。おそらく、百戦錬磨の商人であるエギルに、こんな子供だましは無意味であろうが、まあしないよりはマシ――気分の問題だ。



 小一時間ほどの交渉の末、契約内容は次のような感じになった。


・契約期間は迷宮を"消滅"させるか、最長半年

・素材の売却には週二回、エギルから回収の為に使いを出す

・魔石は最低でも銀貨1枚。他の素材もモノにより買い取るとの事



「迷宮を"消滅"というのは、どういう事なのですか?」

「迷宮の最奥にある魔法陣を壊せば迷宮は"消滅"する、という話なのですが、実際に最奥までいける人間は、迷宮ギルドの連中でも一握りでしょう。もちろん私も行ったことはありません」

「毎日これくらいは敵を倒せ――とか、ノルマみたいなものはありますか?」

「そうですなぁ。染み出しを防いでくれる程度には働いてもらいたい。具体的には迷宮ギルドの方に聞いた方が良いと思いますよ」


 エギルは、迷宮についてあまり詳しくないようだ。迷宮ギルドに依頼申請に行かないとならないので、その時情報は集めておこう。


 少々の雑談の後、昼前には屋敷を出た。



……



「さて、昼までまだ時間あるし、迷宮ギルドへ先にいっておこうか」

「そうだな。さあき達には、後で説明すればいいか」


 ちなみに、フーのハゲは行く所があると言って、朝から姿を消した。行き先はだいたい予想できる。女子組は、なにやら女の子だけで買い物があると言って、こちらも朝から出かけてしまった。こっちは荷物持ちに駆り出されなかっただけ、よしとしよう。



「契約についてどう思う?」


 歩きながら、タクヤが聞いてきた。


「悪くないだろ。ドロップ品を一括に買いあげられるのが気になったくらいだ」


 エギルとは、タクヤがすべて一人で交渉していた。俺は横で聞いていただけで、ほとんど文句は無かったのだが、買取をエギルに全て任せるのは、信用しすぎではないかと感じていた。


「んー。それはクーの言う通りなんだけど、輸送手段の問題があるからねぇ」

「まあな」


 迷宮は街からかなり離れている。自分達で売りさばくためには、街に輸送する手段を確保する必要があった。


「四次元ポケット的なアイテムボックス機能があればいいんだけど。今の所、ないでしょ」

「だな。この世界、アイテムについては現実的なんだよな。ステとかレベルとか実装するくらいなら先にそっちを実装しといて欲しい」

「はは! それ、誰に要望してるの?」


 そんなどうでもいい雑談をしながら、通りすがりの人に道を訪ねつつ、10分ほど街を歩いた。迷宮ギルドは街の中心から少し外れた通りにあり、戦士ギルド、冒険者ギルドも同じ場所にあったので、この辺りはギルド横丁といった所なのだろう。


 迷宮ギルドに入り、カウンターのお姉さん(猫耳)に、エギルさんから受け取った依頼書を渡す。すぐに手続きが終わり、魔物の毛皮で出来た一振りの旗をもらった。これは要するに『この迷宮は専属契約ですよ』という目印らしく、迷宮の近くに立てとけとの事だ。


 その後も、迷宮についての疑問をタクヤと二人で根掘り葉掘りと聞いていると、猫耳の姉さんは面倒になってきたらしく、『仕事がありますので……』といって逃げてしまった。それでも迷宮についていくつか重要な点が分かった。


・最奥に魔法陣があり、それを壊せば迷宮はやがて消滅する

・階層どこまであるかは不明。最短では10階くらいだし、100階以上の迷宮もあるらしい

・入るときは必ず一階から。また、入るたびに構造が変化するということは無い

・宝箱もあるのが、開くには専用スキルが必要


といった感じ。



「いわゆる"迷宮"だな」

「うん。ランダムマップじゃないってことは、レベル上げとマッピングしながら徐々に攻略するタイプだね」

「魔法陣を壊せば終わりってのがちょっと変わってるか」

「あまり聞かないね。あ、しまったな。染み出しの件、聞くの忘れてた」

「まあ、とりあえず、毎日潜ってれば大丈夫なんじゃね?」

「うーん。やっぱりこの世界の迷宮はどちらかというと邪魔な存在なんだろうね。ドロップ品は魅力だけど、それだけならこの世界、何処にでもモンスターがいるわけだし」

「土地にモンスターを増加させるだけの邪魔者ってことだな」


「あの」


「でも、やっぱり攻略には時間が掛かりそうだね。一日一階層を目標にしても、ひと月近くかかりそう」

「まあ慌てて攻略しても危険なだけだからな。安全マージンはしっかり取りながら……」


「すいません」

「え?」


 気がつくと目の前に人が立っていた。俺もタクヤも、話に夢中で全然気がつかなかった。とりあえず応対はタクヤに任せて、俺は黙り込んだ。


「はい。なんでしょう?」

「見た所、あなた方はあまり迷宮に詳しくないようですな。宜しかったら説明しましょうか」

「あなたは、迷宮ギルドの方ですか?」

「いえ、違います。わたくし、ディオンと申します。各地を旅している――そうですね、語り部といったところです」


 語り部とは各地の民話や伝説を集めて伝承する職業だったはず。要するに歌わない吟遊詩人だ。


「その語り部が、なぜ迷宮のことを?」

「わたくし、知識だけは誰にも負けない自負があります。迷宮についてもそこらのギルド員なんかより詳しい。よかったら知恵を買ってもらおうかと思いまして」

「なるほど。それはぜひ」


 タクヤは渡りに船といった様子で、嬉々として質問を始める。俺は、横で話を聞きながらディオンというその男の様子を観察していた。


 怪しい。俺の第一印象はそれだ。ぼさぼさの白髪で、ヒゲの先まで白かった。まとった外套は薄汚れており、身なりはあまり良くない。ぱっと見、白髪のせいで初老の男に見えたが、よく見ると肌は綺麗で、かなり若いようにも見える。30代かそこらかもしれない。えもいわれぬ超俗的な雰囲気が、この男にはあった。


 目的はおそらく、路銀を集める事と、語り部という職業がら、何か面白い話が聞ければといった所だろう。この世界では余り見かけない黒髪黒目の少年二人組が、田舎者まるだしで居るのを見て。興味を持った――確かに、スジは通っているような気もするが……


 なんか、都合が良すぎる気がする。それはこの世界に来てからずっと感じている事だ。クラスのみんなは異様な世界――少なくとも現実ではないこの世界に、すぐに慣れてしまった。見知ったクラスメイトと一緒にトリップしたという事態が、心理的に安心するのだろう。


 思った以上に、皆がこの世界に適応できている事は今のところいい方向に進んでいるように見える。ただ、この世界の異常性に慣れきってしまうのは、危険だと思う。


 なぜクラス全員まとめてこの世界に飛ばされたのか。

 ここは異世界なのか、ゲームの中なのか。

 HPが無くなれば死ぬのか。死んだら生き返れないのか。

 そして、現実に戻れるのか、戻れないのか。


 疑問はいくらでも沸いてくる。だが、答えは今のところ、見当たらない。だからといって考える事を止める事だけは、絶対にしたくなかった。



「クー」

「ん……」

「クーも、ディオンさんに聞いておくこと無い?」

「ああ、わるい。えーと、ディオンさん。この街にしばらく居る?」

「いえ。明日にはウルドの街に行こうと思っております」

「ウルド……」


 最初の街だ……ってことはたぶん。


「そうです。割と新しい街なのですが、その街に突然、奇妙な騎士団が現れたという噂を聞きまして、早速行ってみようと思っています」


 ですよねー。やっぱり噂になってたか。まああんな異様な集団、噂にならないほうがおかしいが。


 タクヤが礼と共に、報酬として銀貨を何枚か渡し、俺達はディオンと別れた。



「ラッキーだったね」

「まあな。それで、何の話をしてたんだ?」

「聞いてなかったの?」

「わるい。ちょっと、ボーとしてた」


 タクヤがやれやれと言った様子で、先ほどディオンと話した内容を説明してくれた。


・先に迷宮内のモンスターから生まれていくので、普通に探索していれば、周辺での染み出しは止まる。

・迷宮が発生する理由は色々な説があってよくわかっていない。

・最深部には、迷宮の守護者――つまりボスがちゃんと居るとの事。


 といった感じ。


「それじゃ、迷宮については大体わかったな」

「うん。しっかり準備を整えていかないと」

「ああ」

「そろそろ集合場所行こうか。たぶんみんな待ってるよ」


 俺たちは集合場所にしていた酒場に向かって歩き出した。




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