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放課後RPG  作者: グゴム
7章
58/100

58 変化

          挿絵(By みてみん)            

58


 アークガーディアンは膨大なHPのほとんどを残したまま、【一撃死】によりその動きを止めた。戦闘開始から一分もたっていない、まさに瞬殺である。


 しかし計算外な事が起きた。生成源であるアークガーディアンを失ったにもかかわらず、機械人形ノーム達が動き続けていたのだ。


「っち。親玉をやってしまえば、こいつらも停止すると思ったんだけどな」

「クー。こいつら、結構強いよ! 一発じゃ死なない」


 連中を食い止めていたさあきが、メイスを振り回しながら報告してきた。景気良くポコポコと殴りまくっているのに、その数は一向に減らない。圧倒的な物量だった。さあきでは侵攻を食い止めるのが精一杯と言った所だろう


 俺達だけならさっさと逃げてしまいたいのだが、舞台の上ではまだ光宙ぴかちゅう機械人形ノーム達に囲まれたままなので逃げられない。


「どうしますか? あそこまで【コネクト】で繋げましょうか?」

「いや、比治山に回収させよう。おい! 比治山――」


 倒れたアークガーディアンの周囲を旋回していた比治山に向かって声を上げた。光宙ぴかちゅうを救出し、ここまで運んでくるようにと指示を出すためだ。



 しかしその時、機械人形ノーム達の中心――光宙ぴかちゅうが居るはずの場所から、巨大な紫の光柱が立ち上った。その柱はちかちかと数回瞬いた後、周囲に放電を始める。中心の光柱から発生した無数の稲妻が、雷鳴と稲光を部屋中に響かせながら周囲の機械人形ノーム達に襲い掛かった。


 はぐれ魔術【雷術】は、天変地異のごとき威力だった。一巡して雷柱が消える頃には、機械人形ノーム達は全て消滅し、大量の魔石や部品群だけが床に散らばっていた。


「すっごーい」

「なんだ、今の……」


 光宙ぴかちゅうの放ったと思われる先程の攻撃に、みな圧倒されていた。とんでもない威力である。いくら弱点とはいえ、あの量の機械人形ノームの群れを根こそぎ刈り取ってしまうとは。


 さっさと使わなかったのは、おそらく最終手段にとっておいたのだろう。さっきの状況だと、本体であるアークガーディアンを倒さなければ、あの【雷術】でも時間稼ぎにしかならなかったからな。


 

 強力な範囲魔術を放ち終えた男が、ゆっくりと立ち上がる。そして片手剣を右手に構えたまま、こちらに近づいてきた。

 

 光宙ぴかちゅうはひょろひょろとした体付きだが、結構な高身長である。茶髪気味の長髪と整った目鼻は、イケメンとまでは行かないが、なかなか悪くないルックスを作り出していた。"黙っていれば"結構もてるはずだ。


 しかし、あいつは絶望的なほど性格に難がある。それはもう病的と言っていい。女子陣は数歩引き下がり、俺に"お前が相手しろ"と目線で合図を送ってくる。あの七峰でさえ、俺を盾にして静観の構えだった。


 やれやれ――別にこいつ、光宙ぴかちゅうじゃないのにな。



「久しぶりだな。久遠」


 そう声をかけると、男は小さく眼を見開いた。後ろの女子陣も戸惑いの声を上げる。


「クー。なに言ってんの? どう見ても山本君じゃん」


 さあきが三人を代表して聞いてきた。俺は肩をすくめながら答える。


「見た目はな。いつまでその姿で居るんだ?」


 そこまで言うと、男は少しうつむき、左手で眉間をつまんだ。そしてその格好のまま、芝居がかった声で笑い出した。


「くっくっく。ばれていたか」


 その言葉の直後、俺の目の前にいたのは光宙ぴかちゅうではなく、酷く小柄な男だった。


「まさしく、俺が久遠だ」


……



 久遠くおん道化どうけ。男。出席番号11。この異世界にきて早々に王子達のグループから離脱し、単独で行動していたクラスメイトの一人だ。


 短髪で幅の広い額。ぎょろりとした目には力が溢れ、表情は自信に満ちている。身長は俺の胸の辺りしか無いくせに、いつも胸を張っているのが印象的な奴だ。性格は一言で言えばオタク。なんていうか、知識がある方面へと圧倒的に偏っており、その上で言動に少し特徴がある。ただ、それ以外は普通に話せる奴である。



「え、え。久遠君? なんで?」

「すっげー。いまのどうなってるんだ?」

「……そうでしたか」


 比治山とさあきがそれぞれ眼を白黒させる。七峰は後ろの方で、小さく悔しがっていた。


「よく気が付いた。一橋氏」

「まあな。こっちにはさあきの【解析】があったからな。ステータスで分かった」

「えっ? そうなのクー?」


 昨日の昼――冒険者ギルドのおっさんから、クラスメイトがこの街に来ている噂を聞いた。俺の知っている情報の中で、その話に出てくるクラスメイトとして可能性があるのは、久遠かドキュンネ三兄弟のどちらかだった。


「でも、実際にさあきの【解析】で確認したのはドキュンネ三兄弟――山本だったじゃん」

「あぁ。でも光宙ぴかちゅう一人ってのは、ちょっと不自然だろ」

「そりゃあ……ね」


 腑に落ちない様子の比治山。まあ、俺がレーダーにうつった光宙ぴかちゅうが久遠だと見破れたのは"久遠のユニークスキルの名前を知っていた"ってのが大きかった。



 久遠のユニークスキルは【変化】である。この名前から想像できる能力は二つ――他人を変化させるか、自身が変化するか、だ。


「あいつらドキュンネ三兄弟が別行動するとは考えにくい。そう思ってさあきに詳しいステータスを聞いて大体読めた。同じスキルレベル21のスキルが不自然に並んでいたからな。この二つの事を考えれば、『【変化】のスキルを持つ久遠が、空中神殿を攻略するために最も有効なスキル【雷術】を持つ光宙ぴかちゅうに【変化】している』と考えたほうが自然だろ。それに――」

「山本君が、あんなに落ち着いた態度を取るわけがない――という事ですね」

「その通り。落ち着き払った山本やまもと光宙ぴかちゅうなんて、俺は見た事が無いからな。正直、違和感しかなかった」


 最後は七峰がフォローしてくれたが、その声には少々の怒気が混じっていた。気がつかなかった自分を恥じているのか、教えてくれなかった俺に怒っているのかは知らないが。



「さすが一橋氏、といった所か」


 久遠は余裕げな表情を崩さない。その顔からは、焦りの感情は一切読み取れなかった。その久遠に向け、俺は言った。


「ま、本音を言うと別に光宙ぴかちゅうだろうが久遠だろうがどっちでも良かった。だが、お前が正体を隠したまま俺達に近づくなら話は別だ」


 久遠が何を考えているのかは知らないが、前にヴァナヘイム教国でクラスメイトには痛い目にあわされている。多少、警戒せざるを得ない。


「久遠、お前こんな所で何してやがる」

「そんなに怖い顔をしないでくれ。一橋氏」


 久遠は手にした片手剣を収め、続けた。


「別に取って食おうとしたわけではない。ただ単に、山本氏に対する女子らの反応を観察したかっただけだ。まあ、思った通りの反応だったがな。くっくっく」


 どうやら悪戯だったらしい。拍子抜けである。そんなどうでもいい理由かよ。


「やめろよな久遠。冗談でも、ドキュンネ達はきつい」

「ほんとだよー」


 そんな感じで、ブーブーと騒ぐ女子達の反応を、久遠は満足げな表情で頷いていた。



「で、一橋氏。なぜ俺がここにいるかという質問だが――それはこちらの質問だ。なぜお前達がここにいる。俺はこの十日ほど、地下都市を探索をするためにファーに滞在していたが、お前達の噂など聞かなかったが」

「そりゃあ、俺達がこの街に来たのは昨日だからな。お前は地下神殿にある転送装置ワープでここまで来たのか?」

「その通りだ……比治山氏がいる所をみると、お前達は空中から直接飛んで来たようだな」

「そういう事。お前こそ、律儀に地下都市を攻略してくるとはな」


 その気になれば、久遠は比治山の姿に【変化】する事で、俺達を同じ方法で簡単に空中神殿に来る事はできたはずだ。それをしなかった理由、久遠の"性格"である。


「俺の目的は史跡巡りであって、迷宮攻略ではないからな。直接空中神殿に飛んでしまえば、地下都市を観て回る楽しみが無くなってしまうではないか」



 久遠は歴史好きだ。しかも、かなり筋金入りの。


 聞けば久遠は、俺がタクヤとアスモデウスの迷宮を探索していた頃、王子達のグループを一人で出奔し、各地の名だたる都市や史跡を巡っていたらしい。


 こいつの【変化】は今まで会った事のある人間のステータス、スキル、姿形をトレースするというスキル。それを利用し、こいつは各地様々な人物に【変化】して、史跡や史料、人物や施設を巡っていたようだ。


「っは。相変わらずで安心したよ」

「くっくっく。それでなぜ、一橋氏達はこんな所に?」

「【空のサファイヤ】っていう魔石を探している」

「【空のサファイヤ】……魔石十二宮ジェムストーンか」

「知っているのか?」

「当然だ。その名前はいくつもの伝承に現れる。それなら、この祭壇の奥にあるはずだ。ついてきたまえ」


 久遠は戦闘で受けたダメージの回復も待たないまま、さっさと奥へと進み始めた。俺達は慌てて、その小さな背を追いかけた。







久遠(くおん) 道化(どうけ)

Lv46


HP 1452

STR 153

DEX 147

VIT 141

AGI 169

INT 186

CHR 171


スキル/変化21, 片手剣11, 隠密34, 聞き耳23, 開錠21, 探査21, 翻訳35


【変化】

今まで会ったことのある者に変化する。ただし、スキル数値は変化のスキル数値が上限となる。また、レベルが上の相手に変化する場合、能力に大きな制限を受ける。



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