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放課後RPG  作者: グゴム
7章
53/100

53 砂漠都市

          挿絵(By みてみん)            

53


 グラング砂海――タクヤ達の居るエスタブルグ帝国からさらに西に進んだ先にある、大砂漠である。


 広大な砂の海は、大陸西の海岸に到るまでひたすら続いており、その中にある目立った地形といえば、砂海中央に横たわる巨大な湖――グラング魔塩湖だけ。地図上では西大陸のほとんどを砂漠地帯を表す細い斜線が塗りつぶしており、その広さは帝国領土の数十倍にもおよんでいた。


 砂漠の国――グラング国の首都ファーは、グラング魔塩湖とエスタブルグ帝国を結ぶ中間地点、砂漠に入って数百kmほど進んだ場所に位置する、グラング砂海最大の都市である。



 俺達は七峰の使う【空術】【シフト】によって、砂漠都市ファーへと瞬間移動していた。移動ワープ先はある建物の屋上から街を一望できたのだが、街の風景は想像と全く異なるものだった。



「うわぁ。なにこの街。本当に砂漠の街なの? 建物から木が伸びてる」


 同じく【シフト】で移動してきた少女――更科さらしな沙愛さあきが、感心したようにつぶやいた。


 膝下丈の長袖ワンピースと、膝までのロングブーツを身につけたさあき。珍しく三つ編みに結った髪の上には、砂漠に行くと聞いて急遽用意した日差し避けのボンネットハットを乗せていた。少し変わった格好な気がするが、おそらく砂漠用のスタイルなのだろう。


 幼馴染の第一声が物語るように、グラング国の首都ファーは砂漠の街というイメージとはかけ離れていた。


 中央の巨大なオアシスを中心に、同心円状に広がった建物群。そのさらに外周には、オアシスから灌漑かんがいした耕作地帯が広がっている。正午過ぎの暑い盛りだというのに、多くの人々が通りを賑わせていた。


 奇妙なのは、オアシスと耕作地帯に挟まれた区域――住宅地帯のほとんどが、苔や木々に覆われている点だ。苔は壁面という壁面に根を張り、木々の先端はそれぞれ、建物の頭上にまで伸びている。


 全く不可思議な光景だった。砂漠のど真ん中で、こんなにも植物が繁茂しているなんて。 



「中央のオアシスから引かれた水は、街中を通り外周の畑へと繋がっています。しかし、それだけではこの植物の量は説明が付きません。おそらく、あれが原因でしょう」 


 興味深げに周囲を見渡す俺とさあきの後ろで、秀才少女――七峰ななみね奈々(なな)が抑揚のない声を発した。


 七峰は強い日差しからその柔肌を守るために、頭からすっぽりと純白ローブを着込んでいた。どういう訳か猫耳フード付の一品なのだが、突っ込んだら負けな気がするからスルーしている。


 とにかくそのファンシーなローブの裾から伸びた白い手が、オアシス上空に浮かぶ建造物を指差していた。


 空中神殿。掌をかざせば見えなくなる程度の高度に浮かんでいる、結構な高さだ。どんな構造になっているのかも確認したいのだが、ここからだとほぼ真下から見上げる形になっているため、うまく見えない。


 【眼力】スキルを使用して視界を拡大すると、空中神殿の周りはキラキラと光る靄のような物が見えた。それは、雲のように空中神殿の周囲を覆っていた。


「あれはおそらく水です。空中神殿からは、大量の水が絶え間なく降り注いでいるのです」

「水なのか?」


 七峰の話では、空中神殿からは大量の水が降り注いでおり、それが原因でこんなにも街に植物が繁茂しているらしい。その理屈自体はわからないでもない。


 だが、それはつまり空中神殿の内部で大量の水が生産されているという事だ。どうやって作り出しているのかは知らないが、空中に浮かんでいるという点も含めて、随分とファンタジックな場所のようである。



「どうするんだよ、一橋。早速向かうのか?」


 今回の旅のパーティは四人、その最後の一人、くせっ毛を逆立てた快活な女子――比治山ひじやま美羽みうが、ユニークスキル【飛行】による流麗な翼を形成しながら言った。


 比治山は大体いつも、背中の翼を可動させるために背中から腰にかけて大きく開いた軽鎧を身に着けている。今もそうなのだが、今回は日差しを気にしてか、薄手のボレロをその上に羽織っていた。羽はボレロと軽鎧の隙間から伸ばしているようだ。ちなみに下は軽金属の板をつなぎ合わせた短いチェーンスカート、そしてAGIを高めるという金属製のロングブーツといった装備である。



「いや、準備と情報収集が先だ。とりあえず宿を探そう。空中神殿の話や伝説があるなら聞いておきたいし、地下都市ってやつの情報も一応集めておきたいからな」

「それなら、私達が前に使った宿屋がこの建物の中に在ります」

「おーけー。んじゃまず部屋を借りる。それから分担して動くぞ」 

「はーい」



……



 公平な話し合いの結果、女子三人が必要物資を買いに行き、俺が一人で情報収集にあたる事になった。いや、別に一人のほうが気が楽だからであって、決してハブられたわけではない。やつらの女子女子した会話に付き合いたくなかっただけである。


 とにかく俺は、一人寂しくファーの冒険者ギルドにやってきた。


 この街の地下にあるという地下都市は、おそらくダンジョンになっていると思われる。また、この世界の冒険者ギルドは周辺のモンスター掃討を行うのが仕事だ。よってこの街の冒険者ギルドの人間なら、地下都市について情報を持っているだろうという読みだった。


 実際、冒険者ギルドで暇そうにしていたおっさんに酒を一瓶おごる事によって、色々な話を聞きだす事に成功した。



・地下都市と空中神殿は、ファーの街が出来る前から存在していた

・地下都市はモンスターが住み着いており、その駆除がファーの街の冒険者ギルドの大きな仕事

・さらに一年に一度、国を挙げての大討伐戦も実施される

・空中神殿は、地下都市を作り上げた古代文明の王宮だったという伝説

・【空のサファイヤ】については知らないとの事



「そんなにたくさんの人が攻略してて、まだ地下都市の全容が明らかになってないのか?」

「この街の地下が全て地下都市それだからな。とんでもなく広い。それとモンスターもヤバイからな。地下数階まではたいした事は無いが、ある程度階層を潜ると出てくる古代の機械類――あいつらはそこらのモンスターとは一味違うぜ」

「なるほどねぇ。じゃあ空中神殿に行った事がある奴は居ないのか」

「いるかも知れねぇが、無事に帰ってきたという話はきかねぇな。ってか、地下都市から空中神殿に行けるなんて話――初めて聞いたぜ! ガハハハハ!」


 そう言っておっさんは、軽く一升は入ってそうな酒瓶をラッパ飲みし、まだ正午にもなっていない朝っぱらから全力で酔い潰れようとしていた。ダメな大人の典型だな。ま、俺がおごったんだが。



「しかしお前さん、変わった人種だな。この辺じゃ余りみねぇ肌と髪の色だ」

「ちょっとね。外の世界から来たんだよ」

「帝国よりも向こうから来たのか! それは遠くから来たな。俺は帝都にすら行った事がねーよ」


 そう言って再びゲラゲラと豪快に笑うおっさん。本当の事を言ってみたのだが、期待通り盛大に勘違いしてくれた。



 これ以上話しても新しい情報は得られそうになかったので、礼を言ってギルドを出ようとした時、おっさんが気になる事を言い出した。


「そういえば、最近お前みたいな黒髪で色の薄いガキ共を見かけたぜ?」

「……どんな奴だ? 愛想の無い女か、それともくせ毛の女か?」


 黒髪黒目の純人間(エルフや猫耳ではない)は、この世界ではほとんど見かけない。この世界の人間の髪色は、大体が金髪か銀髪である。このグラング地方には黒髪も居るようだが少数だし、黒髪の人も含めてこの国のほとんどの人が赤い目と麻黒い肌をしていた。


 そんな環境で、俺の様な日本人的な黒髪黒目のガキが訪れているとしたら、それはまあ目立つだろう。俺はそのガキは、数週間前に訪れたという七峰と比治山――あの二人のどちらかだろうと考えた。


 しかし、その予想は空振りだった。


「いや、俺が見た奴は男だったぞ。一週間ほど前だ。ギルド仲間が、ちょうどお前みたいな黒髪黒目のガキに、地下都市と空中神殿について色々聞かれたっつってたぜ。知り合いか?」

「……いや、知らないな」


 男……黒髪黒目……。それに空中神殿について聞いて回っているだと?


 クラスメイトなのか? だとしたら――



「そいつらは、何人くらいだった?」

「さあな。俺が見た時は一人の時だったが」

「何処にいるかわかるか?」

「しらん。適当に探せばいいじゃないか 自分の顔を指差しながら、『こんな髪と眼の色をしたガキをみませんでしたか?』ってな!」


 そう言っておっさんは、がぶがぶと酒を飲み干す。そろそろおっさんが酔っ払いへと進化してきたので、今度こそ本当に礼を言い、いくらか銀貨を渡した後冒険者ギルドを後にした。




 クラスメイトか――どんな奴かまでは聞き出せなかったが、実際こんな辺境の街にまで訪れている可能性のあるクラスメイトなど、ほとんど見当が付いてしまう。


 おそらく久遠か、ドキュンネ三兄弟のどちらかだろう。


 前者なら全く問題無い。久遠はちょっと変わった奴だが、あいつと合流できるならメリットの方が多いだろう。


 ただ後者――ドキュンネ三兄弟が俺達と同じ【空のサファイヤ】を狙っているのだとすると、かなり面倒なことになるかもしれない。


 あいつらは本当に、信じられないほどめんどくさい奴らだからな。


一橋(ひとつばし)空海くうかい

Lv52


HP 1512

STR 167

DEX 212

VIT 123

AGI 270

INT 108

CHR 229


スキル/死43, 短剣38, ダッシュ28, 風術25, 水術26, 隠密36, 眼力32, 開錠19, 魔石加工12, 鎌13



更科(さらしな) 沙愛(さあき)

Lv41


HP 1152

STR 176

DEX 131

VIT 156

AGI 104

INT 195

CHR 122


スキル/解析40, 棍棒26, 火術28, 土術24, 水術29, 隠密14, 調理32, ダッシュ6



七峰ななみね奈々(なな)

Lv37


HP 1012

STR 90

DEX 124

VIT 123

AGI 113

INT 187

CHR 131


スキル/空術31, 魔法杖17, 風術23, 水術24, 火術19, 土術17, 魔石加工23, 鑑定24



比治山ひじやま美羽みう

Lv40


HP 1530

STR 174

DEX 177

VIT 98

AGI 211

INT 121

CHR 115


スキル/飛行41, 槍28,格闘17 火術15, 風術22, 隠密8, 開錠7, 金属加工9

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