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放課後RPG  作者: グゴム
7章
52/100

52 牧原タクヤ

          挿絵(By みてみん)            

52


 牧原タクヤ――職業は高校生兼廃人ゲーマーである。


 俺達が小学3年の頃だったか――こいつは夏休みを含めて、半年ほど学校に来なかった事がある。理由はその年の夏休みに発売ローンチされたある大作MMORPG――そのサービス開始に伴うスタートダッシュの為だった。大人達に登校拒否だと騒がれながら、本人は一切気にせず学校をサボり、昼夜を問わずネットの世界へINし続けていたのだ。


 聞けば、素材買占めによるレシピ独占、価格破壊からの後続潰しなど。当時あまり馴染みが無かったMMORPGというジャンルにおいて、タクヤは小学生とは思えないアイデアと狡猾さを発揮し、サーバートップレベルの生産廃人に上り詰めたそうだ。今でもその世界では結構な有名人らしい。


 しかしその年の終わり、それまでのサボりっぷりが嘘のように、タクヤは学校に登校してきた。その後は現在に到るまで、通常の学校生活を行いながらの健全なネトゲライフを送っている。


 プレイ時間の意味では、タクヤは廃人とは呼べない。しかし高校2年のとなった今でも、タクヤは学生が持つ全ての自由時間を投げ捨てる程度にはオンライン世界へとINしていた。



……



「つまり、魔石十二宮ジェムストーンを集めきったら、この地上ミズガルズ魔界ニブルヘイム天界アースガルズの連中が雪崩れ込んできて、混沌とした世界になってしまうそうだ」


 俺の説明に、タクヤは静かに耳を傾けていた。反応もほとんど無く、たまにあいづちを打つだけ。そして俺の話が終ると少し息を吐いた。


「クーは、その話に乗る気なんだね」

「まあな。それが元の世界に帰る唯一の手掛かりなんだから、見過ごす訳にも行かないだろ」


 元の世界に帰還する可能性を繋ぐために、この世界の人々の世界を犠牲にする――俺がやろうとしている事は、ひどく自己中心的な考えである。タクヤはともかく、王子なら聞いただけで卒倒するような話だ。


 別に理解されないとしても構わない。邪魔されなければいい。情報さえ手に入るなら、俺が勝手にやるだけだからな。



「うん。いいんじゃないかな」

「……?」


 タクヤの答えは意外なほどに簡単だった。思わず耳を疑うほどに。


「クー。その話、俺も乗ったよ」

「……止めないのか?」

「止める? なんで?」


 その後のタクヤは、まさに堰を切ったように喋り出した。


「世界崩壊? 魔界ニブルヘイムのモンスターが溢れ出る? RPGじゃ良くある事でしょ、そんなの。そりゃ突然そんな事態になったらやばいけど、それが起きるタイミングは俺達がコントロールするわけでしょ? なら話は別――全然楽勝だよ」

「おい、タクヤ?」

「世界が一変しようが、モンスターが溢れ出そうが、起こる事態とタイミングがわかっているならいくらでも対処できる。世界の危機なんて、起きるとわかっていればただのチャンスだからね。うん。これから忙しくなるな。とりあえず食料関連と武器魔石、それから石材木材の必要物資――溜め込んだだけ売れるはずだよ。っね?」

「っね、と言われても……」


 嬉々としてこれからの行動計画を語るタクヤ。要するに、魔石十二宮ジェムストーンを集めきった後、金儲けすればいいという発想のようだ。


 どうやら、俺が思っていたよりも、こいつは変な奴だったらしい


 『オンゲー、特にMMORPGってさ。一番面白いのは発売ローンチ後の三ヶ月だよね。次に楽しいのがアップデート時の混乱。それ以外は暇つぶしだよ』


 昔、タクヤがそんな事を言っていた事を思い出した。こいつはこの世界でも、そんなスタンスで生きていっているようだ。



「タクヤ、一応聞いておくがお前、元の世界に戻れるとしたら戻りたいか?」


 俺の問い掛けに、タクヤはすこし困ったような顔をした。


「えっと、難しいな……。とりあえず今の状況は飽きちゃったってのはあるかな。最初の頃は楽しかったけど、最近は先が見えてきちゃってたからね。でも世界崩壊なんて大イベントがあるんなら、ちょっとワクワクしてきたよ」


 "ワクワク"――か、俺にはそんなに"ワクワク"は出来ないな。"仕方が無い"とは思うが……。


 まったく、お前は相当変わってるよ――そう言うとタクヤは、クーほどじゃないよ――と言って、笑って返された。



 理由はどうあれ、タクヤが協力してくれるのは大きい。残りの魔石十二宮ジェムストーンの情報を得るために、王子かタクヤ、どちらかのグループとは協力体制を取っておきたかったからな。


 しかし、タクヤは協力してくれるみたいだが、王子はさらに問題だな。


「ま、とりあえず黙っとけばいいんじゃない?」

「そういう訳にも行かないだろう。下手にそんな事態(世界崩壊)を引き起こした後、その原因が俺にあるってばれたら、王子に殺されてしまう」

「そうかなぁ。王子はクラスメイトを殺すような真似、絶対にしないと思うけど」


 それは、確かにそうかもしれない。だがしかし、言い訳の一つくらいは考えないといけないだろう。何とか言いくるめないと、あいつの持っている光と土――二つの魔石十二宮ジェムストーンが手に入らないからな。



……



「って事は、在り処が分かっているのは【時のラピスラズリ】と【空のサファイヤ】の二つって事だね」

「あぁ。とりあえず次は、【空のサファイヤ】があるグラング砂海の空中神殿とやらに行くつもりだ」

「へぇー空中神殿。それって浮いてるの?」

「七峰が言うに、砂漠都市ファーの上空には、結構な高さで浮いてるらしいぜ……あーそうだ、七峰で思い出した」


 昼間に七峰と相談した事をタクヤに話すの忘れていた。


「ちょっと、七峰と比治山のコンビをしばらく借りたいんだが。たぶん三日くらい」

「え、あの2人か……やっと旅から帰ってきた所なんだけどな」 


 比治山さんはまだしも【空術】の七峰さんがねぇ――そう呟きながら、タクヤはおもむろに書類を取り出し、流し読みを始めた。


 この世界の紙の多くは、繊維を混ぜ合わせただけの様なざらざらで質の悪いものだ。しかしタクヤの取り出したそれは、現実世界のノートのように艶々としたものだった。あまり興味はないが、これも売り物の一つなのだろう。どうやって供給しているのかまでは知らないが。


「うーん。【空術】はまだそんなに数を必要としてないし、なんとかなるか。空中神殿に連れて行くの?」

「あぁ」

「そっか。それならおっけーだよ。丁度良いや」


 なにが丁度いいんだ? そう聞くと、タクヤは笑いながらはぐらかした。


「気にしない気にしない。まだ構想段階だからね。それより、2人に了解はとってる?」

「……? 七峰には確認済みだ。比治山には七峰から話してもらってる」

「そっか。それなら問題無いよ。ただ、道中で手に入るアイテムやら素材やらはこっちで回収したいんだけど、いいかな?」

「構わんぞ。【空のサファイヤ】以外は全部やる。勝手にもってけ」

「サンキュー。2人に言っておくね」


 なんか良く分からんが、魔石十二宮ジェムストーン以外は興味ないしな。



「次は【時のラピスラズリ】のある四次元迷宮ラビリンスラビリンスだっけ? 一応、七峰さんがカラクム地方には行ってくれたけど。そんな迷宮ダンジョンの話は聞いてないな」

「ルシファの話じゃ、カラクム高原とかいう土地にあるらしい。見た目はただの複雑な迷宮なんだけど、その複雑さが時間方向にも入り組んでて、道を間違えると数百年単位で時間がずれるらしい」


 ルシファの説明を額面どおりに受け取れば、魔石十二宮ジェムストーンは手に入れたが、クラスメイトは全員死んでいるとか、そんな事も冗談みたいな起こってしまう。


「それはやばいね。どうすればいいって?」

「時の要石ってアイテムを探せって言ってた。でも在り処はおろか、どんなアイテムなのかもわからん」

「確かに、聞いた事がないね……」


 どうやら、タクヤにもわからないらしい。あの傲慢の君め。もうちょっと詳しいヒントをくれてもいいのに。



「でも時間関係なら、俺の【時術】でどうにかならないかな」

「いけるかもしれないが、試すにはリスクが高すぎるだろ」


 タクヤの【時術】は確かに時――時間を操るとんでもない魔術だが、それでも数百年単位で時間が狂うという迷宮にまで通用するとは思えない。ここはやはり、ルシファの言う通り、時の要石とやらを探したほうが無難だ。


 しかしタクヤは、あくまでも主張した。


「ちょっと考えがあるんだ。一つだけ使い道がサッパリわからなかった【時術】があってね」

「なんだよそれ」

「【アジャスト】って言うんだけど、もしかしたら当たりかもしれない。ちょっと俺に任せてみてよ」


 【アジャスト】は、時の流れを正常化させる効果を持つ時術だそうだ。タクヤはこれを、何かの状態異常を回復させる物だと思っていたが、今の話を聞いて使えるかもしれないと考えたらしい。


「それなら、先に四次元迷宮そっちから行ってみるか」

「いや、クーは空中神殿の方から行くといいよ。こっちは俺が試してくる――はずれの可能性もあるしね」

「それは助かるが……帝都を空けても大丈夫なのか?」

「まあ一日二日なら大丈夫だよ。俺の【時術】は売る相手が限られてるし、他の商品はみんながサボらなければ、俺が居なくても回るようにシステム化してるから」


 タクヤは、事も無げにそう言った。ま、手伝ってくれるんなら、こちらとしては文句は無い。


「じゃあ、そっちは任せるわ」

「おっけー」

「で……問題なのは最後の二つ、【雷電のアメジスト】と【境界のトパーズ】だな。こいつらは現状ほとんど手掛かりがない。わかっているのは【境界のトパーズ】が大結界ワールドエンチャントっていう場所に在るって事がだけだ」

「うーん……聞いたこと無いね。王子の所に行けば、何か分かるかもしれないけど」

「王子? どういう事だ?」


 ここであのノルン閃光騎士ライトニング様の話が出るとは思わなかった。


「王子の所には人が集まっててさ――うちみたいに奴隷だけじゃなくて、歴史の語り部やヴァナヘイム教の司教とか、エルフの皇女や人魚姫とかね」


 な……んだと……。


 あの野郎。クラスメイトの女子半数を引き連れるだけじゃなく、さらにそんな属性持ちまでハーレム……間違えたパーティメンバーに加えているとは……


 さすが王子、恐ろしい奴。


「いやいや、別に女性ばっかりじゃないから――とにかく、色々な立場の人が居るから、一人くらいなにか知ってそうじゃない?」


 確かにそうかもしれない。とりあえず【空のサファイヤ】の件が終わったら、次は王子のところを尋ねてみるか。


【時術】【アジャスト】

HP消費・小。時の流れを正常化する。

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