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放課後RPG  作者: グゴム
7章
51/100

51 報告

          挿絵(By みてみん)            

51


 やがて夜も更け始めた頃、ラウンジに並べられた食事がほとんど売り切れたので、タクヤの指示の下で後片付けをしていた。サボるとさあきがうるさいので、俺も適当に手伝っていると、指示を終えたタクヤが声をかけてきた。


「この後、俺の部屋で話そうよ。色々聞きたい事があるしね」

「あぁ。それなら今すぐ行こうぜ」


 これは良い口実を見つけた。タクヤと大事な話がある――そう言って俺はラウンジから脱出する事にした。なにやらさあきが喚いていたが、気にしないでおこう。



……



 タクヤの部屋は先程七峰と話し合ったオフィスのさらに奥にあった。革張りのソファーと木目の浮いた背の低いテーブル。それに作業用デスクや本棚が並んでおり、なんとなく社長室といった雰囲気だった。元々あった家具類なのか、それともタクヤの趣味なのかはしらないが、随分と趣味が良い。



「商売は順調みたいだな」

「儲かっているよ。張り合いが無くてつまんないくらいだ。これじゃあオンゲーでPCに張り付いて相場チェックしてる方が、遥かに大変だったね」

「っは。やっぱ"ユニークスキル"ってのはでかいか」

「うん。独占商売ってのは本当に楽だよね。あ、適当に座って」


 そう言って俺をソファーに座らせると、タクヤ自身はデスクに備え付けられた肘掛け椅子に腰掛けた。


大河たいがの【波術】と戸松とまつさんの【界術】は、使いやすくて本当に良く売れるよ。それと木原きはらさんの【コピー】商品もね」

「【時術】と【空術】は売ってないのか?」

「【空術】は術自体を売るんじゃなくて、交易用に使うつもり。それぞれの都市に拠点を作って交易する――主要都市の【マーキング】は終ったし、そろそろ動き始める予定だよ」


 なるほどねぇ。普通に【空術】をエンチャントした魔石を売るのとどっちが儲かるのは知らないが、そういう使い方もあるか。


「それと、俺の【時術】はちょっと特殊な売り方をしてるんだ。基本的には、物好きな金持ち連中に高額で落としてる。取引材料にもなるしね。数秒間時を止める【ポーズ】一個がだいたい金貨1枚、時間を巻き戻す【リワインド】一個がだいたい金貨10枚とかで売れてる」

「っは。吹っかけすぎだろ」


 【時術】【リワインド】。対象の状態を数秒間だけ巻き戻す魔術。様々な使い方が出来るが、その効果を最大限に発揮するのは、戦闘で致命傷を喰らった時である。


 即死さえしなければ、大ダメージを喰らってもすぐに【リワインド】を使用することにより、ダメージを喰らう前の状態に巻き戻せるのだ。使い方によっては、この世界には存在しないはずの瞬間回復魔術のような働きをする。死人さえも――死んですぐならば生き返せるらしい。



「いやー。最初はギルドランカーとかに売ってたんだけどね。なんか、死人を生き返らせた所を見て勘違いする金持ちが現れたんだよ。持っていれば、死ぬ事は無いんじゃないのか――ってさ。だからちょっと話を盛って、不老不死の魔術っていう名目で金持ちに売り込んだら、すっげー高値で売れはじめてさ」


 この【リワインド】はあくまでも対象の状態を巻き戻すだけであり、怪我や病を治癒させたり、ましてや不老不死のになれるといった類の魔術ではまったくない。一応若返るという点では間違っちゃいねーが、不老というには巻き戻る時間が数秒――もしくは数十秒じゃ、ほとんど意味が無いだろうに。


「ほぼ詐欺じゃねーか」


 俺がそう言うと、タクヤは「まあねー」とケラケラと笑っていた。


「でも、嘘は言って無い。死んですぐ使えば生き返れるし、一個使う度に間違いなく若返ってる。若返りを実感するためには、百個使ってもまだ足りないってだけの話だよ。実際、一人で数百個【リワインド】を買ってるお得意様も居るけどね」


 そう言って、愉快そうに笑うタクヤ。この世界に来てから特に金に困った事などは無かったが、そんなアホみたいな稼ぎ方をしてるんじゃ、さすがに羨ましくなるな。ちょっと後でせびっておこう。


 しかし、タクヤに関してはほとんど心配していなかったが、やはり必要なかった。つーか、王子とは別の意味でやり過ぎなくらいだ。



「で、クーの方はどうだったの? よこたてさんと一緒だったんでしょ? なんかヴァナヘイム教国の軍隊に襲われた――って所までは七峰さんに聞いてるけど」

「ああ。そうだな……とりあえず姉御の話からするか」


 俺は魔界ニブルヘイムに落ちてからエ・ルミタスに戻ったこと。さらによこたて姉御との旅、そして教国での一件までのダイジェストを、駆け足で話した。



……



「ってわけだ。完全に裏を突かれてな。危うく唐松に殺される所だったよ」

「そっか、うーん……」


 話を聞き終り、タクヤが頭を抱えてうめく。


「そういう奴が出ちゃったか。まあ、時間の問題だとは思っていたけど」

「唐松の事か?」

「うん。【ネクロマンサー】っていうユニークスキルのせいって事もあるけど、クラスメイト同士の殺し合いになるとは。一応覚悟はしていたつもりだけど、やっぱり嫌なもんだね」

「すまん。結果的には殺す事になってしまった」

「それは仕方ないでしょ。むしろ、その状況で唐松を殺そうとしなかった、クーのほうが異常だよ」

「そうか?」


 あの時俺は、すでに目的を果たしていた事もあり、唐松との殺し合いを避けて脱出しようとしていた。その結果失敗し、唐松に殺されかけた所を死神ヘルの登場によって危うく助けられた。


 別に唐松と戦わなくても、よこたて拾って逃げ切るだけなら悪くない選択だったと思うのだが。結局失敗して、殺されかけたんだから何も言えない。



「まあ、いいや。それでその後は? 北の果てって言ってたけど」

「ん、ああ……」


 さて。ここからだな。


 北の果て――ヴァレンシス城でルシファから知らされた事実を、この男にに教えて良いものか。それが問題だ。


 魔石十二宮ジェムストーンを集めて使用すれば、地上ミズガルズは未曾有の混沌に陥る。俺がその事実を話した時、タクヤは俺に協力するのか反対するのか――どちらに振れるかは、読みきれなかった。


 もちろんタクヤは信頼している。その一方で、俺はこいつの性格も良く知っている。タクヤはこの世界――異世界召喚の事を気に入っているだろうから、それをぶち壊す事に反対して、俺と敵対する可能性は十分にあるだろう。



 とりあえず、三つの魔石十二宮ジェムストーンをゲットした事と、六道の近況についてだけ話しておくか。


「さあきとさっき話した死神ヘルの三人で、北の果て――ヴァレンシス城まで行ったんだ。そこで傲慢の君ルシファと会って――今日昼ごろの話だな――適当に交渉してたら、持ってる魔石十二宮ジェムストーンをくれた。【水のアクアマリン】【火のガーネット】それと【闇のブラックパール】の三つ。これで今俺の手元にあるのは五個に。王子が二つ持っているらしいからあわせて七個。残りは五個って事だな」

「昼ごろって……随分とあっさりもらえたんだね」

「まあな。それと六道だが、あいつ、なんか魔界ニブルヘイムでルシファの本体に戦いを挑んで、返り討ちにあったみたいだぜ」

「えっ。大丈夫なの?」

「ルシファは『無限の闇に叩き落とした】みたいな言ってたけど、死にはしないとも言っていたから、まあ大丈夫だろ。ほっといても」


 ルシファは今後、六道の事を利用しようと考えているみたいだったからな。当面は問題無いが、今後どうなるかが問題だな。


「なんか、六道さんに冷たくない?」

「うるせぇ。俺はあいつのせいで一回、死に掛けたんだからな」


 そのおかげで魔界ニブルヘイムに行けて、元の世界に帰る手掛かりも見つけられたんだから、まあ結果オーライなんだが。あの女は、なんとなく心配するだけ無駄な気がするんだよな。



「それより、魔石十二宮ジェムストーンの一つ、【風のエメラルド】の件はどうなったんだ? 七峰に伝言、頼んどいたはずなんだが」

「ん? あぁ、それもあったね。ちゃんと手に入れてるよ。ちょっと待って」


 そう言ってタクヤは席を立ち、後ろにある鍵つきの戸棚から美しい緑色をした巨大な魔石を取り出した。それを片手で持ち、その場でしばらく玩んでいた。


 どうやらすでに入手済みだったようだ。


「【風のエメラルド】。帝国貴族の一人が持ってたから、買い取っておいたよ」

「また簡単に言うな。高かっただろう」

「そんな事無いよ。ちょっと脅しと、商品の融通を組み合わせればすぐだった」


 なんか、さらっと怖い事を言ってくるな。さっきも城に行くとか行っていたし、どうやらタクヤは、帝国の中枢に食い込んでいるようだ。あまり敵には回したくない。


「まあ、とりあえず助かった。これで残り四つだ」


 【風のエメラルド】を受け取るため、魔石を持って立ち続けるタクヤに右手を差し出す。しかしタクヤは翠色の魔石を手にしたまま、一向にそれを手渡そうとしなかった。


「タクヤ?」

「クー。これを渡すのは勿論構わないんだけど、その前に聞きたい事がある」

「なんだ?」

魔石十二宮ジェムストーンの、本当の効果について、何か知ってない?」


 力の込もった声。俺の瞳を強くみつめながらの質問だった。


「本当の効果もなにも、手紙で説明しただろ。人神ロキって言う神様に会いに行くために必要なんだよ。ユグドラシルの樹を登って天界アースガルズに行くためにな」

「クー。その話は魔界ニブルヘイムの魔王から聞いたんだよね?」

「まあな」


 タクヤは【風のエメラルド】を手にしたまま、大きく肩をすくめた。


「明らかにおかしいでしょ。なんでわざわざモンスターの親玉みたいな奴が、クーに魔石十二宮ジェムストーンを集めさせるんだ。自分達で集めればいいじゃないか。どう考えても、なにか裏があるに決まっている――っなんだよその顔は……」

「……」


 その時の俺は、どんな顔をしていたのだろう。気持ちとしては、驚きと関心が半分半分と言った所だったが。


「っは。ハハハハハ!」

「何がおかしいんだよ。クーがこんな簡単な事に気が付いて無いわけが無いだろうに」


 さすがはタクヤと言った所なのだろう。少し、こいつの事を甘く見ていた。


「……やれやれ」


 腰掛けていたソファーに、深く体を投げ出す。どうやら、こいつには隠し通せそうにはないらしい。


 ま、そもそも隠す必要も無い――か。どうとでもなれだ。



「わかった。俺が今、知っている事実を話そう。だが――先に約束してもらう。この話が終ったら、その【風のエメラルド】は貰うからな」

「別に、今すぐで構わないよ。ほら」


 無造作に投げられた【風のエメラルド】。慌ててそれを受け取ると、向かい合って座ったタクヤが笑顔で続きを促した。



「それじゃ、話してもらおうかな」


 



【時術】【リワインド】

HP消費・大。対象の時間を巻き戻す。

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