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放課後RPG  作者: グゴム
6章
48/100

48 認識

          挿絵(By みてみん)            

48


『元の世界に戻れるのなら、この世界がどうなろうが関係無いな』


 俺は玉座に座るルシファ向け、強い口調で言った。さらにそのまま畳み掛ける。


「傲慢の君ルシファ、取り引きだ。お前らの計略に乗って、魔界ニブルヘイムの蓋を開けてやる。大結界ワールドエンチャントをぶち壊して、世界樹ユグドラシルを起動してやる。だから、お前の持っている魔石十二宮ジェムストーンと残りの魔石十二宮ジェムストーンについての情報をよこせ」

「貴様……自分が何を言っているのか分かっているのか?」


 少し動揺しているのか、ただ単に虚を突かれただけなのか。ルシファの声に先程までの精彩が無くなっていた。

 

「っは。この世界が滅びようが、ラグナロクが終焉しようが、そんな事は俺に関係ない。うっとおしい。俺は――俺達は元の世界に帰るだけだ。その為に必要なら、神だって殺すし、悪魔とだって契約してやる」


 ルシファの動きが止まる。その横で、ヘルが笑みを浮かべながら息を呑んでいた。

 


……



 自分でも極端な事を言っている自覚はある。だが、"元の世界に帰る"――それだけは譲れない。


 俺にとって、元の世界に帰れる可能性があるのに、それを試さないなど我慢がならなかった。例えそれが、この世界に大いなる災いをもたらそうが、俺には――俺達には関係ない。


 そもそも俺達は、この世界の人間では無い――異世界人なのだから。



 俺達はこの世界の人間どころか、物体ですらない――異質な存在なのだ。そんな俺達が元の世界に戻る事を諦め、この現実リアル非現実ヴァーチャルかの判断もつかないようなファンタジー世界にいつくだと?


 ――有り得ない。反吐が出る。少なくとも、俺はごめんだ。なぜ俺達がこんな目にあわないといけない。



 それともう一つ、はっきりとした理由ではないが、漠然と考えている事がある。


 三好はこの世界を非現実ヴァーチャルだと言い切った。しかし俺には、この世界に居る人間や魔界ニブルヘイムの連中がただのAI仕掛けのプログラム人形とは思えない。こいつらは確かに、自分の意思を持って行動している存在なのだろう。


 だが同時に、この世界が俺達の知っている現実でも無い事は明らかだった。


 ステータスとスキル。数万年続いているというラグナロクという世界観。魔界ニブルヘイム天界アースガルズ。神々に魔王。人神ロキが行ったという異世界人の大量召喚。そして今回ルシファが説明した、魔石十二宮ジェムストーン世界樹ユグドラシルの事実――


 全てのキーワードが、完全にファンタジー的なゲーム要素だ。


 この世界は、本物の架空世界上で行われているロール(R)プレイ(P)ゲーム(G)――それが俺の、現段階における、この世界の認識だった。


 うまくは言い表せないし、他にこんな事を考えているクラスメイトなんかいないだろう。だが要するに、俺はこう言いたいのである――

 

『こんなクソゲー、俺が攻略クリアして終らせてやる』


 

……



 しばらくの間、玉座の間は沈黙に支配された。やがて思い出したかの様に、2人の声が玉座の間に響き渡った――死の君ヘルと傲慢の君ルシファが、同時に笑い始めたのだ。


「アハハハハ! クーカイ。やはり貴様は面白い」

「フ――フハハ! 良い。良いぞ、貴様! なるほど死神が気に入るわけだ!」


 大鎌を放り出して暗黒の床の上で腹を抱えるヘルと、顔に手を添えたまま優雅に肩を震わせるルシファ。揃ってゲラゲラと笑い転げる、死神と大悪魔がだった。


 やれやれ。確かに極端な事を言ったかもしれないが、そこまで笑われるとばつが悪いな。



「フフフ……異世界人にも面白い奴がおるものだ。なるほど。人間共に媚びうる勇者や、人間のくせに魔王になりたがる小娘とは違うという事だな」


 やがてルシファが、息を整えながら言った。


「そりゃどうも。それより取り引きの話、どうなんだ? さっきは、俺が魔石十二宮ジェムストーンを集めるのは面白くない様子だったが」

「いや、気が変わった。くれてやろう」


 ルシファは闇の左手を掲げ、掌の闇中から三つの魔石――それぞれ青、赤、黒色の魔石を順に取り出し、無造作に放り投げた。ごろごろと転がる三つの魔石十二宮ジェムストーン


「【水のアクアマリン】、【火のガーネット】、それと【闇のブラックパール】だ。受け取れ」


 俺はそれらの魔石を拾い、後ろで待機していたさあきに放り投げて、本物の魔石十二宮ジェムストーンかどうかの真贋鑑定をさせる。さあきは俺が振り向くと、ビクリと体を震わせたが、すぐに気を取り直し視線を魔石十二宮ジェムストーンに向けていた。


 やがてさあきがおずおずと頷いた。どうやら本物のようだ。

 

「ありがとうルシファ。しかし、随分とあっさりしているな。魔王アンラの計略に乗るのは嫌なんじゃなかったのか?」

「もちろんだ。だがな、それ以上に余は貴様を気に入った。それだけだ。異世界人――クーカイ。境界神ユミールを説得し、大結界ワールドエンチャントを解呪する事に成功した暁には、余の側近に取り立てやってもよいぞ?」

「っは。元の世界に戻れないって事が確定したら考えるよ」

「そうか、残念だ」


 ルシファの本気とも冗談とも取れる話を受け流し、俺は残りの魔石十二宮ジェムストーンについて聞いた。


「ふむ、魔石十二宮ジェムストーンか。今、どれだけを持っておるのだ?」

「えーと、ちょっと待てよ……」



 手元にあるのは、今ルシファから貰った三つを合わせて、火水闇波爆の五つ。王子の手元に光と土の二つがあって、風はタクヤに任せてしまっているからこれも含めていいだろう。って事は、いま持っているのは全部で八つか。


「いま確認しているのは八つだ。残りは、時、空、界、雷の四つだな」

「ふむ……。【境界のトパーズ】は説明したな。大結界エンチャントワールドの源だ。先ほども言った通り、在り処は不明だがな」


 大結界ワールドエンチャントについては、俺一人の情報力じゃ話にならないだろう。これまで俺の情報源は、ほぼ魔界ニブルヘイムの連中だったのだが、この地上ミズガルズでルシファ以上に魔石十二宮ジェムストーンについて詳しい魔界ニブルヘイムの住人が居るとは思えないからな。とりあえず、【境界のトパーズ】は後回しだ。


「【時のラピスラズリ】は南のカラクム高原に広がる四次元迷宮ラビリンスラビリンスにある。なかなか厄介な場所だ。それと【空のサファイア】は西の果て――グラング砂海の空中神殿の中にあると聞く」

「雷の魔石十二宮ジェムストーンはどうだ?」

「【雷電のアメジスト】か。あれは元々は雷神トールの持ち物だったはずだが、地上ミズガルズにあるとは聞いた事が無いな」


 つまり、【雷電のアメジスト】も後回しか。どうやら次の目標は【時のラピスラズリ】と【空のサファイア】に決定のようだ。次は帝都に行って、タクヤと情報交換だな。



 続けて雑談をしつつ、それぞれの魔石十二宮ジェムストーンが封印されているというダンジョンの詳細を聞いた後、俺達はルシファとの会談を終えた。


『飲み込まれぬよう、せいぜいあがいて見せろ』


 ルシファは最後にそんな事を言っていた。



……



「クー……」


 ルシファとの会話を終えて振り返ると、さあきがこちらを見つめていた。なぜか、少しだけ泣きそうな目をしていた。


「って事だ、さあき。目的が増えちまったから、またお前にも働いてもらうぜ」

「クー……もしかして、私のせい?」

「はっ?」


 さあきは瞳に涙を溜めながら聞いてきた。その声は、かすかに震えていた。


「だって、私がクーに元の世界に帰りたいって言ったから、クーはさっき、あんな怖い事言ったのでしょ? この世界がどうなっても構わないって」


 そうきたか。まあ、あながち間違いではないが。


 一緒に元の世界に帰るという、さあきとした約束――それは確かに、元の世界に戻りたいと思う俺のモチベーションの一つになっている。



「違う。おれの考えだよ」

「……本当?」


 だが、こいつにそんな事を言っても仕方が無い。結果、元の世界に帰れれば、なんでもいいんだからな。


「あぁ。お前が今から『やっぱ元の世界に戻らなくてもいい』って言っても関係ない。文句があるなら、力ずくで止めるんだな」

「でも――っ」


 言葉を遮り、その小さな頭に手を置いた。さあきはその意味を反射的に理解し、黙り込んだ。



「さて、用も済んだし帰るぞ。次はタクヤの所だ」

「……うん」


 さあきは、ひどく悲しそうな顔で頷いた。本当に気にするなよ。俺が勝手に――やるだけなんだからさ。 



「クーカイ。良かったではないか。笑わせてもらったぞよ」


 次に死神ヘルがルシファの横から離れ、俺達に近づいてきた。


「ヘル――お前はさっきの話、知っていたのか?」

「む。むむ!」


 ヘルは少し動揺しながら答えた。


「貴様が帰った後、アンラから聞かされておった。だが、どうでもいいと思っておったわ。我には関係無いからのう。『関係ないな』アハハハハ!」


 死神は、俺の声色を真似た後、無邪気に笑っていた。全然似てねーよ。


 まあ、別にヘルもアンラも咎める気なんかない。騙されていたというより、俺が無知だっただけだからな。大体、ヘルを問い詰めても論理的な答えは返ってこなかっただろうし。


「お別れだなクーカイ、サアキ」

「ああ。また色々世話になったな」

「ヘルちゃん。また会えるかな?」

「うむ。うむうむ――サアキ。我に会いたければ冥界に来るがよい。歓迎するぞ」

「お前も、また地上ミズガルズに来る事があったら教えろよ。まあ、さすがに次は世界樹ユグドラシルを起動させた後だろうがな」

「では。ではでは。我はその時を楽しみに待っておる。また会おう、クーカイ、サアキ!」



 俺達はヘルとルシファに別れの言葉を言うと、ポーチから取り出した空色の魔石――【空術】【シフト】の魔石を取り出して砕いた。俺とさあきは、魔石から現れた薄い平面――帝都へと続くワープゾーンへと飛び込んだ。


 死神ヘルは視界が切り替わるまで、楽しそうに手を振っていた。
















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