表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後RPG  作者: グゴム
6章
47/100

47 事実

          挿絵(By みてみん)            

47


『貴様は魔王アンラに騙されている』


 ルシファは俺に向かってそんな事を言い、続けて推移を見守っていたヘルに体を向けた。


「死神。貴様も噛んでおるのか?」

「……」


 ヘルは目を逸らし、そわそわと大鎌の持ち手を替えている。どうやら心当たりがあるらしい。わかりやすい奴だ。


「……どうやら知っておったか。いや、アンラの入れ知恵か?」


 傲慢の君は見た目には一切表情を変えない。だが、明らかに面白がっている声だった。


「アンラは俺に嘘を教えたのか?」

「フハハ。それは違うな」


 俺が聞くと、ルシファは小さく否定した後、答えた。


「ロキがお前たちを召喚した事も、貴様ら異世界人を外の世界に戻す方法を我らが知らない事も、天界アースガルズに行く為に魔石十二宮ジェムストーンが必要な事も、全て事実だ」

「……なら、何に騙されているって言うんだ」

「騙されていると言うには語弊が合ったな。正確に言えば"知らされていない事実がある"といった所か」


 それは、ある程度予想していた。いきなり現れた異世界人に全ての真実を話すほど、魔王がお人好しだとは思ってはいない。


「我ら魔界ニブルヘイムの住人は――天界アースガルズの連中も同じだが――地上ミズガルズに到る為には"二つの障害"が立ちはだかる。一つ目は三界同士の存在次元が切り離されているという事、そしてもう一つは地上ミズガルズを覆う防護壁が存在する事だ。大結界ワールドエンチャントは知っているか?」

「……名前くらいなら」


 大結界ワールドエンチャント――――魔界ニブルヘイム地上ミズガルズの間に張られているとか、バッドステータス【弱体化】の原因だとか、先程ヘルが言っていた。


大結界ワールドエンチャントは、境界神ユミールにより張られた三界をまたぐ忌々しき地上ミズガルズの被膜だ。これのおかげで余を始め、あらゆる魔族は地上ミズガルズで著しく能力を制限される。"自身を召喚する"という方法ならその制限は受けぬが、本体と化身アバターとではそもそもの性能スペックが段違いだ」


 さあきによると、目の前のルシファのレベルは53である。俺がレベル49である事を考えれば、確かに悪魔王という割にたいした強さではない。同時に死神ヘルも、レベルのわりにはステータスは低すぎるように思える。魔界ニブルヘイムへはさあきを連れて行っていないので、こいつらが元々どの程度の強さなのかは知らないが、現状【弱体化】しているのは確かなのだろう。


「時たま、生身で地上ミズガルズに到る例外もいるにはいる。そこに居る死神や、どこぞの世界蛇とかな。だが、生身で来れたとしても【弱体化】は免れぬ。魔界ニブルヘイムにおける本来の力、地上ミズガルズでは失われてしまうのだ」

「……その大結界ワールドエンチャントがどうしたって言うんだ?」

大結界ワールドエンチャントを展開する為に用いられている触媒が、魔石十二宮ジェムストーンの一つ【境界のトパーズ】だと言われている」

「……?」



 よし。ワケがわからなくなってきたぞ。なにが言いたいんだ、こいつは?


「貴様は疑問に思わなかったのか? アンラは何故、貴様のような異世界人に魔石十二宮ジェムストーンを集めさせるのか――何故我々のように地上ミズガルズの魔族が魔石十二宮ジェムストーンを集めていないのか、と」

「それは……」


 確かに、世界蛇ヨルムンガンドもそうだったが、こいつら地上ミズガルズの魔族達は、魔石十二宮ジェムストーンにほとんど執着がないようだった。魔石十二宮それは、不倶戴天の敵である天界アースガルズに行く為手段であるにもかかわず、だ。


 何故、魔王アンラは俺に情報をよこし、魔石十二宮ジェムストーンを集めさせようとしたのか――確かに腑に落ちない点ではあった。


 困惑する俺に、ルシファは続ける。


「それはな異世界人。我らでは魔石十二宮ジェムストーンを集めきる事が出来ないのだ。なぜなら【境界のトパーズ】を手に入れなければ、大結界ワールドエンチャントを解除できない。しかしそのためには大結界ワールドエンチャントが邪魔――そういう事だ」

「……なるほど」


 大結界ワールドエンチャントを解除しなければ【境界のトパーズ】は手に入らず、【境界のトパーズ】を手に入れなければ大結界ワールドエンチャントは解除できない。要するに"矛盾状況"、キー閉じ込めみたいな状況なのか。

 

「それにそもそも大結界ワールドエンチャントの源が何処にあるのかもわからぬ。昔、血眼になって探したが、結局見つからなかった」

「だが、それは俺が――人間がやっても同じじゃないのか?」


 俺が魔石十二宮ジェムストーンを集めにしても、その大結界ワールドエンチャントとやらを何とかしなければいけない事には変わりない。それなら、ルシファがやろうが俺がやろうが違いは無いはずだ。


 ルシファは小さく首を横に振った。


「いや、違うな。貴様は異世界人だ」

「……どういう事だ?」

「境界神ユミール――こいつはラグナロクが始まる前からの付き合いだが、基本的に中立の神だ。どちらの陣営に味方する事も、姿を現す事も滅多に無い。むしろ、バランスを崩す行為を嫌う奴だ」

「バランスを崩す行為……」


 何を持ってバランスなのか。それがどうしたというのだ。


「現在、太古の昔から続いているラグナロクの戦況が大きく動いておる。それはきさまら、異世界人共の仕業だ。特にノルン閃光の騎士(ライトニング)――」


 ノルン閃光の騎士(ライトニング)……だと? 


「あの小僧には余を始め、七悪魔セブンスデーモンの多くが苦汁を舐めさせられておる。まったく忌々しい小僧だ」


 ルシファは声を荒らげた。それはおそらく、王子の事だ。


 あいつ、そんなダサい二つ名をつけられているのかよ。かわいそうに――いや。いやいや。そうじゃない。どうやらあの完全無欠の王子様は、地上ミズガルズの魔王でさえ困らせるほどの活躍をしているようだ。


「これは数万年続くラグナロクにおいて、初めての事態だ。しかも明らかに天界アースガルズ側に有利な事態――このような天界アースガルズの暴挙、ユミールが面白く思っているワケが無い。このような自体の当事者である貴様ら異世界人には、あの堅物ユミールも大いに興味を持っておるだろう」

「……異世界人である俺達なら、その境界神とやらが会ってくれるという事か?」

「その通りだ」


 要するに、俺達が天界アースガルズに行くためには、その大結界ワールドエンチャントとやらに行き、ユミールとかいう奴と話をつける必要があるという事か。しかし、そのユミールがどんな奴か知らないが、本当に異世界人ってだけで会ってくれるのか?


「そいつがどこにいるのかは分からないんだったよな?」

「うむ。知っておれば、真っ先に殺しに行っておるわ」


 っつー事は、これも目的タスクに入れて情報収集だな。やれやれ。また目的が増えたな。



「それともう一つ、ユグドラシルについてだ」


 ルシファは続けて言った。ユグドラシル――アンラによれば、世界の中心にあるというその樹に魔石十二宮ジェムストーンをささげた時、天界アースガルズへの道が開けるという話だったはずだ。


「ユグドラシルは、天界アースガルズへの移動装置じゃないのか?」

「それは正確ではない。あれは存在の鎖(リンク)をつなぎ合わせて三界を次元同相にしてしまう秘宝アーティファクトだ。世界樹ユグドラシルが起動すれば、天界アースガルズ地上ミズガルズ魔界ニブルヘイムの三界が繋がり、直接的に移動できるようになる」

存在の鎖(リンク)? 次元同相?」


 またわけのわからない言葉が出てきたな。


「異世界人による侵攻自体は腹立たしいほどに熾烈を極めておる。しかし一方で、天界アースガルズの連中の介入自体はほとんど見られない。これはおそらく、天界アースガルズでなにか"ごたごた"が起こっているのではないのかと、余は推測しておる。おそらく魔王アンラも同じ読みだろう。そこで小僧アンラはその隙に乗じて地上ミズガルズ天界アースガルズを攻め落とす為、、貴様に魔石十二宮ジェムストーンとユグドラシルの情報を教えた――真実を伏せてな。そうすれば、貴様が外の世界に戻ろうと行動する過程で、大結界ワールドエンチャントは解除され、世界樹ユグドラシルが起動する。我らを邪魔する障害が二つとも無くなる。それが小僧アンラの狙いだ」


 ルシファは淡々と説明した。俺の行動を操って、こいつら魔族を邪魔している"二つの障害"を両方とも破壊する。そして魔界ニブルヘイムの連中を率いて、地上ミズガルズ天界アースガルズを滅ぼす――それが、魔王アンラの本当の狙い。


「このまま俺が魔石十二宮ジェムストーンを集め続ければ、地上ミズガルズにお前ら魔族が溢れ出るという事か……」

「フハハハハ! 地上ミズガルズのあらゆる場所に魔界ニブルヘイムへの入り口が現れ、空には天界アースガルズの大地が可視化する。三界が重なりあった世界となり、魔族も天使も人間も同じ土地を取り合う。太古の昔――ラグナロクが始まる前の混沌へと世界が戻るのだ。どうだ、胸が躍ろう」


 ルシファは大きく声をあげて、愉快そうに笑った。なるほど、なにか裏が有るだろうと思ってはいたが、そういう事か。しかし……


「なぜ、俺にそんな事を教える?」


 ルシファは魔族の中でもアンラに次ぐ地位にいる存在のはずだ。そんなルシファが、なぜ魔王アンラの計画を俺に暴露する必要があるのか。


「なに。余はあの百々目鬼(どどめき)の小僧が気に食わぬだけだ。だから教えてやった――投げ出してもいいぞ? あんな奴の計略でラグナロクに勝利するくらいなら、現状のラグナロクを戦い続ける方がましだからな」


 どうやら、ルシファの魔王アンラに対する嫌がらせらしい。魔界ニブルヘイムの連中は、全然一枚岩ではないようだ。



 要するに、このまま俺が魔石十二宮ジェムストーンを集めてユグドラシルを起動すれば、大結界ワールドエンチャントが消え、三界が繋がり、その結果この地上ミズガルズが混沌に陥ってしまうという事――



「……それがどうした」

「なんだと?」


 小さい声でぼそぼそとつぶやくと、ルシファが聞き返した。俺は顔を上げると、今度は強い口調で言い切った。


「元の世界に戻れるのなら、この世界がどうなろうが関係無いな」


 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ