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放課後RPG  作者: グゴム
6章
45/100

45 侵入

          挿絵(By みてみん)            

45


 俺達はヴァレンシス城の外壁に取り付き、上階から城の中に侵入した。侵入した場所は長い廊下の途中で、飲み込まれるように闇深い通路が奥に向かって続いていた。


 すぐにさあきが【解析】を使ってマッピングを開始する。ボス部屋と思われる最上階――玉座の間は、ここからさらに3フロアほど上にあるとの事だった。



「ルシファ、ルシファ……やっぱり居ないね。最上階――誰も居ないよ」

「む? むむ? それはおかしいのう。普段ルシファはここにおるはずだが」

「なんでだよ。迷宮のボスは、侵入者が最奥にくるまで現れないんじゃないのか?」


 一ヶ月ほど前の、アスモデウスの迷宮でのボス戦が思い出される。あの時は結局、最深部の部屋に入るまでさあきの【解析】のレーダーにボスが表示されなかった。


それはつまり、俺達が部屋に入った後、魔法陣からアスモデウスが召喚された事を意味する。ヘルに言わせると、この城は扱いとして迷宮と同等らしいので、そういうルールは共通だと思っていたが。


「んー。普通はそうなのだが、ルシファは特別だ。地上でラグナロク戦線を指揮する事に命を賭けておるからのう」


 ヘルは少し困った様に言った。よくわからんが、ルシファは地上ミズガルズに常駐しているらしい。


問答無用で襲い掛かってくるような奴だと交渉の余地も無いが、どうなんだろうな。なんとか穏便に、もしくは非暴力的に魔石十二宮ジェムストーンをいただいて、こんな気味の悪い城からはさっさと脱出したい所である。


 とにかく、止まっていても仕方ないので、俺達は最上階に向けて進み始めた。


……


 ヴァレンシス城にいる敵は、大小さまざまな悪魔族により構成されていた。


 そのほとんどは、先ほどから外で何度も遭遇していたアギルデーモンとその亜種で、レベルも最大で35程度である。俺達の中でダントツにレベルの低いさあきでさえ現在レベル37だから、まあ負ける相手ではないのだが、問題はいかに敵を集めずに処理しながら進めるか――だった。


 

 幸いにして城はかなり入り組んでおり、床面積に比べて敵の量が少ない。よって、敵の配置はかなりまばらである。さあきの【解析】を用いて敵の少ないルートを選びながら進む事で、ほとんど敵と遭遇せずに進む事が出来た。


 狭い通路などをふさいでいる雑魚は【死の凝視】によってのんびりと処理。たまに中ボス的なおどろおどろしい姿をした悪魔も現れたが、その場合はヘルのド派手な登場からの【死の左手(レフトハンドデス)】で即死――だめなら、続けて俺の忍び寄る【一撃死】で即死という、二段構えの即死攻撃でサクサク処理しながら進んだ。


 時たまヘルがギャーギャー騒ぐ程度で、俺達は静かに、そして速やかに奥へと進行していた。



 さて、よこたてたちと別れた後のここまでの旅路の中で、久しぶりにまとまった数の戦闘と、それに伴う綿密な検証を行えた。さあきがエ・ルミタスの街で再加入してから教国での一連の事件の間は、ほとんど戦闘はできてなかったからな。


 雑把な能力しか把握できていなかった【死の凝視】や、ヘルの【死の左手(レフトハンドデス)】、そして魔石十二宮ジェムストーンやその他細々としたアイテムの鑑定など、得られた情報は多い。



 まずは【死の凝視】。俺のユニークスキル【死】の数少ない能力で、視線上の敵をカウントダウンして殺してしまうというもんだが、この死亡までのカウントダウンが、どうやらCHR差とレベル補正で決まっている事がわかった。


 現在の俺のレベルが49で、CHRは220である。例えば、敵のアギルデーモンレベル32の場合、CHR差が120近くあり、その上でレベル差17となり、結果【死の凝視】によるカウントダウンは20からスタートだ。つまり20秒間視線上に捉えていれば撃破出来るわけである。


 さあきを対象とするとレベル差13、CHR差105となり、この場合は約100――すなわち一分半ほどのカウント。ここからヘルを対象にすると、今度はヘルのほうが圧倒的にLvとCHRが高いため、カウントは一気に数十万となってしまう。


 最初はレベル差にだけ依存するのかと思ったが、それだと同じレベルでバラバラなカウントダウンになる事が説明できない。そこで何か別の要素が関係しているのだろうと考えていたら、ある奴のステータスをさあきから知らされて、CHR依存性が明らかになった。


 唐松である。あの男と対峙した際に表れたカウントが、3000オーバーからスタートしたのだ。


さあきは、律儀にも唐松のステータスも記憶していた。それによるとあいつのレベルは34だが、ステータスはCHR特化で200を超えていたらしい。すなわち、その時の俺とはレベル差が14もある一方で、CHR差はほとんど無かったことになる。


 この事から、CHR差がカウントダウンの数に大きな影響を与えている事がわかった。どれだけ影響があるのかまでは正確に把握はしていないが、今のところ実用的に使えるカウントダウン30秒以内とするには、大体レベル差15――CHR差が100以上というのが一つの目安としている。


 幸いにも、ヴァレンシス城の雑魚程度だとそれくらいに収まっているので、コンスタントに【死の凝視】で雑魚を撃破していた。



 次にヘルの【死の左手(レフトハンドデス)】についても徐々に検証を続け、その性質と使用方法についていくつかの情報を得ている。ヘルの説明によると、この左手は対象の魂を吸い取るらしく、その骨の左手で対象にしばらく触れていれば撃破できるとの事。要するに、俺の【死の凝視】の"左手で触れる"バージョンである。


 性能的には俺の【死の凝視】と大した違いは無く、レベル差とCHR差が影響していると推測している。しかしヘルのステータスが、俺のステータス比べて高すぎるため、触れさえすればどんな敵でも殺せるという無双状態になっているようだ。


 はっきり言って、現状俺の戦闘における存在価値レゾンデートルは完全に奪われてしまっている。死の君さん、まじぱねぇっす。 



 一方【死の左手(レフトハンドデス)】の能力の一つらしい【黒光】。『左手から発する黒い光に触れた者全ての魂を奪う』という効果を持つこの技は、本来どんな相手でも問題なく発動するらしい。だが現状はなぜか、アンデッド相手でなければ効果が発動しなかった。


 こちらの原因は不明。おそらく【弱体化】が関係しているのだろうと予想しているのだが、詳しい検証をするには問題がある。というのも、巻き添え食らってこっちが冥界に旅立ってしまう可能性があり、恐ろしくて詳しい検証が出来ないのだ。まあ、とりあえず保留である。



 他にも魔石十二宮ジェムストーンの装備ボーナスや、ヘルから貰ったこの【死神の短剣】の能力なども明らかになっている。【爆破のペリトッド】はSTR上昇・追加ダメージ、【死神の短剣】はAGI・CAR上昇・即死攻撃アップなどである。


 これらの付加条件は、細かい性能が良くわからない所が多い。例えば即死攻撃アップとか、何の意味があるかさっぱりわからない。詳しく調べたいとは思うのだが、個人で検証するにしても無理があるし、詳しく調べてもメリットも少なそうな為、とにかく今は使えそうな奴を選んで身に着けていた。



……



 黒くうごめく影を従えた奇形の悪魔。その図太い首筋に狙いを定め、背後から忍び寄る。敵の前方で敵の注意を引くために騒ぎ立てるさあきとヘルの声を聞きながら、一気に距離を詰めて短剣を突き刺した。


 スキル【死】の基本スキル【一撃死】が発動する――大型の悪魔は絶命し、身動き一つとる暇なく、一瞬にして魔石へと姿を変えてしまった。


「お見事ー」

「おう。おうおう。さすがだのう」

「うるせぇ。さあき、周囲を確認しろ」


 これで、三つ目の中ボス部屋だ。すでに残るフロアも最上階――ルシファが居ると思われる玉座の間を残すのみとなっている。後は部屋の両端から続く二重螺旋階段を登るだけだった。


 しかし、ここまで【一撃死】か【死の左手(レフトハンドデス)】の即死攻勢で問題なく進んで来た。前回までは、あのよこたてが一緒だったから、それと比べれば静かでいいはずなのだが、何か物足りない気分を感じる。



「しかしヒプノティックデーモンとはな。さすがルシファの居城だ。とんでもない奴がおるのう」


 死神ヘルが、先ほど倒した悪魔のドロップした魔石を大鎌で弄くりながら呟いた。


「そんなに強いのかったのか? あいつ」


 俺が聞くと、ヘルがうむりと頷く。


二つ名無し(ネームレス)としては最強クラスだ。魔界ニブルヘイムにはゴロゴロおるが、地上ミズガルズに召喚されておるとな。さすが大悪魔ルシファだのう」


 なるほど。大悪魔ルシファの名は伊達では無いという事か。この後に会うだろうが、戦闘にならなければいいが。



 その時、さあきが言った。


「あ、いたいた。玉座に居るよー。ルシファ」

「レベルは? 一人か?」

「レベルは53で……うん。一人みたい」


 さあきの答えに、俺は少し首を傾げた。魔界ミズガルズの猛者としては、レベル53は弱すぎる気がするが。


「当たり前であろう。さっきから言っておるが、我らは普通、地上ミズガルズに来る事はできぬ。転移陣を使って自身の化身アバターを召喚するのが関の山だ」

化身アバターっつっても、本人に間違いは無いんだろ?」

「その通りだ」


 それなら、まったく問題ないな。気合を入れて会談に臨む事にしよう。


「じゃあヘル――紹介よろしくな」

「むう。あまり期待するでないぞ」


 そう言って、俺達は最上階へと続く螺旋階段を登り始めた。









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