43 北上
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「アギルデーモン――さっき言った通り、数は31でレベルは大体30前後、内訳は剣持ちが15、鎌持ち10、杖持ち6ね」
吹き荒れる吹雪に紛れて、さあきの事務的な声が聞こえた。
「おーけー。んじゃファーストヘイトは俺が引き受ける。お前は杖持ちを魔術で打ち落とせ」
「はーい」
急峻な雪山をなぞるように延びた山道。周囲は延々と雪が降り続けていた。雪だけでなく、風も強い。
山道の中腹――少しひらけた場所にモンスターが集まっている。さあきの【解析】により事前にそれを察知できる俺達だったが、連中は山道を封鎖する形で固まっており、さすがに遭遇は避けられそうになかった。そこで今は、先制攻撃を仕掛けようとしている所だ。
「始めるぞ。【風術】【ウィンドカッター】」
敵の気をひくために唱えた【風術】の基本魔術【ウィンドカッター】。【風術】スキルが上がった現在、大量の風の刃を発生させる事が可能になっている。切れ味鋭い突風が群れを成して襲い掛かり、連中にまんべんなくダメージを与えていった。
同時に、無数の眼光と無表情な顔にこちらを向く。アギルデーモン――硬く、どす黒い表皮を持ち、漆黒の羽と大きく曲がった背が特徴的な悪魔タイプのモンスターである。その姿はなるほど、一般的な悪魔のイメージとそう大差ない。
強さ自体はたいした事はないのだが、巨大な大剣を手に飛び回る奴から、かなり高ランクの魔術を使いこなす奴まで様々な種類がおり、そいつらが高い知性の下で連携してくるのでなかなか面倒だった。少なくともさあきと二人きりだったら、毎回気の抜けない戦いになっていただろう。
だが、現在俺達は三人パーティ――そして、その三人目が化物だった。
俺達の背後から飛び出したワンピースの少女が、巨大な大鎌を手に、勢い良く敵陣のど真ん中に飛び込む。そして着地と同時に、景気良くアギルデーモンの一匹を脳天から叩き斬ると、少女は威勢のいい啖呵を吐いた。
「おう。おうおう。死の君たる我に逆らう愚者どもめ、目に物見せてくれる――かかってこんかい!」
死神ヘル――死の君という二つ名を持つこの骨少女の強さは圧倒的で、地上の雑魚モンスターなど一切意に介さないようだ。
「アハハハハ! ここの奴らは我を恐れぬな! 愉快。愉快」
ケラケラと笑いながら、じゃれる様に敵を虐殺していく死神。だが、これでもヘルは本調子じゃない。どうも調子が良くないそうだ。さあきに調べさせても、確かにヘルはレベルのわりにステータスが低かった。
しかし、それを差し引いてもヘルは十分強い。体の数倍はある大鎌をぶんぶんと振り回し、黒の甲殻に覆われたアギルデーモンたちをバタバタとなぎ倒す。その殲滅スピードはすさまじく、30匹以上いた敵の大部分をヘルが倒してしまっていた。
……
十、三好の二人とエ・ルミタスで別れ、俺は幼馴染のさあきと死神ヘルを連れて、北へ北へと進んでいた。目的地は北の果てにあるという、大悪魔ルシファの居城――ヴァレンシス城である。
以前、魔界で魔王アンラから聞いた話によれば、ルシファは地上の魔王とよばれ、最大規模の領土を持ち、地上に居を構える魔界の住人の中では、最も有力な魔族だそうだ。
そして、ここが重要なのだが、ルシファは魔石十二宮を複数持っている。アンラによれば、2,3個は持っているだろうとの事。つまり、魔石十二宮を集めるためには避けては通れない――本来ならば最初に向かうべき場所だった。
では何故後回しにしていたかと言うと、ルシファの居所が問題だったのだ。単純に遠すぎる。なにしろ、すでに十たちと別れて二週間はたっているのだから。
まず、世界地図上で人の住む最北の国――アギルランドにたどり着くまでに、エ・ルミタスから五日ほど走りつめた。俺一人なら二日もあればたどり着けただろうが、なにぶんさあきのAGIが低すぎて、こいつに合わせて進むとこれが限界だった。
途中、さあきにスキル【ダッシュ】を習得させ、移動速度の底上げをしたのだが、それでも俺やヘルの走る速度の半分ほどしか出せなかった。まあ、飯も作ってくれるし、スキル【解析】もとても便利だから文句は無いのだが。
アギルランドの首都であるダロンから、人類最北の砦 (名前は忘れた)までさらに二日。その先は雪に覆われた道なき大雪原を、魔王からの情報と粗末な大陸地図、そしてさあきの【解析】スキルによる周辺マップを頼りに進んだ。
そして現在は大雪原も抜け、名も無き山脈をさらに北へと進んでいる所だった。
一応、持てるだけの食料と防寒具、そしてテントなどのキャンプ用品は仕入れている。輸送の問題は、ヘルの便利な骨召喚によって解決された。数歩後ろにつき従う死者の軍団たちが、この吹雪の中文句も言わずに、かさばる荷物は延々と運んでくれているのだ。ただ見た目が人骨なので、「気味が悪い」とさあきには最初不評だったが。
異世界人仕様の体力、ヘルにより召喚された人骨荷車、そしてさあきの【解析】による正確な地形と方角の把握。サバイバル経験など皆無だった俺達だったが、これらのお陰で特に問題を起こさずにここまで来た。
ただ、いかんせん人間の住まない地域だ。モンスターが異常に多く、旅の道中で見かけるのは雪かモンスターの二種類しかないという始末だった。先程のように、モンスターの団体と遭遇する事もざらである。
まあ、レベル的には問題無い連中なので、良いレベル・スキル上げになるのだが。
……
「アハハハハ! 全滅! 全滅! 戦利品が大量だのう――ほれ、貴様ら残らず拾っとけ」
「白ちゃん達、ご苦労様ー」
付き従う白骨達を顎で使い、大量のドロップ品を回収させるヘル。さあきもヘルの横でそれを見守っていた。当初、この不気味な白骨達におびえていたさあきだったが、最近は一周回って可愛く見えてきたらしく、ちゃんづけで声をかけるまでになっている。
そんな白骨達の労働を眺めながら、俺は厚く着込んだ毛皮のコートに首をすくめる。降りしきる雪がさらに強くなってきやがった。
「ねぇヘルちゃん――本当に寒くないの?」
「うむ?」
さあきが呆れたように言った。俺とさあきは、街で仕入れた最高級の毛皮で仕立てられたダウンコートを羽織り、さらに魔術を使って作成した湯たんぽを大量に懐に仕込んで、何とか寒さに対抗している。一方、ヘルはここに来てもまだワンピース一枚で過ごしていた。吹き荒れる雪の中、そんな薄着で走り回るヘルを見ていると、こっちまで寒くなってしまう。
「まあ少しは寒いが、耐えられなくは無い。この程度の寒さは寒いうちに入らぬぞ。魔界にはコキュートスと呼ばれる地域があってな、それはもう寒いという言葉では表せないほど寒い。我も昔、遊び半分で行ってみたら、一瞬で凍り付いて死にかけた事がある。死神なのにだ! アハハハハ!」
ヘルは、戦闘によって発生した返り血もぬぐわずに、ケラケラと笑い転げていた。すでに打ち解けているさあきは、楽しげに笑うヘルを見て微笑んでいた。
そんな感じで、俺達はわりと能天気に進んできた。その長旅もそろそろ終着である。目的地であるヴァレンシス城が近づいてきたからだ。
一橋空海
Lv49
HP 1440
STR 160
DEX 203
VIT 119
AGI 258
INT 105
CHR 220
スキル/死39, 短剣35, ダッシュ26, 風術22, 水術24, 隠密34, 眼力31, 開錠18, 魔石加工12, 鎌8
更科 沙愛
Lv36
HP 1012
STR 164
DEX 123
VIT 143
AGI 99
INT 176
CHR 115
スキル/解析37, 棍棒22, 火術24, 土術20, 水術25, 隠密12, 調理28, ダッシュ3
ヘル
Lv 99
HP 2320
STR 291
DEX 219
VIT 183
AGI 247
INT 217
CHR 326
スキル/死の君255 鎌198 死の左手172