4 戦闘
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「ちっ、多すぎだろ」
取り囲むゴブリンの群れ。片手剣を半身に構えながら、フーが悪態を付いた。他の仲間もみな、武器を手にし、依頼主である商人の馬車の後ろに付き従っている。馬車は歩くよりすこし速い程度で、なんとか逃げ出そうと四肢を動かしていた。前方は商人の私兵が先導し、道を切り開いているようだ。
状況を三行でまとめると、
場所は商業都市に向かう街道
戦士ギルドで商人護衛の依頼を受けたら
ゴブリン軍団襲来(総数98匹)
という感じ。
こういう事があるから護衛依頼なんてものがあるんだろうが、いかんせん多すぎないか? しかも街の周りにいた野良ゴブよりかなり強く、統率が取れた動きをしやがる。知性の高いリーダーがいるらしい。
前のほうにいたゴブリン5匹が同時に飛び掛ってくる。今度の狙いはさあきだった。六道が一匹に【ブラインド】を発動し、視界を奪い、さらに仁保姫が横から飛び蹴りを繰り出した。その蹴りで、二匹ほどまとめて吹っ飛ばし、HPバーを削る。が、残り二匹の攻撃は止められなかった。攻撃を喰らい、さあきのHPゲージが減少した。
攻撃の後はすぐに距離をとる連中だったが、視界を奪われたゴブリンは逃げ遅れていたので、みなでふるぼっこにして消去した。
「さあき! 後何匹いる!?」
「えっと、えっと。ノーマルが74 ファイターが11 メイジが3 リーダーが1」
タクヤの声にさあきが応える。さあきの解析スキルは敵の総数と内訳もわかるらしい。思った以上に便利なスキルだ。まだまだ他にもわかるのだろうが、今はそれどころじゃない。戦闘開始から結構経つのに敵の数がほとんど減っていない。
「これでやっと10匹程度か」
「ああ。このままじゃまずいね。ここはやっぱり……フー! 魔法攻撃だ!」
「オッケー! 任せろ」
ゴブリンの群れの後方から二つの球体が飛んできた。大きさは一時期流行った、バランスボールくらいはある火球だ。ゴブリンメイジの【火術】【ファイアボール】。
フーが片手剣を鞘に戻し、迫り来る火球の前に立ちふさがる。次の瞬間、両手それぞれで、二つの迫り来る火球を掴み取った。
轟々と燃え盛る火球を、涼しい顔でもてあそぶフー。しばらく、キョロキョロと周りを見渡した後、勢い良く飛び上がり、ゴブリンの群れに向けて、手にした火球を投げ返した。するとどうやら、仁保姫が蹴り飛ばしたゴブリンを狙ったらしく、HPバーを失ったゴブリンが一匹、消滅した。
フーの能力【グラブ】と【スロー】。【グラブ】は有形無形にかかわらず、掴めると思ったものは掴める能力で、【スロー】は投げつける能力らしい。それぞれ単体でも使えるが、今回のように魔術相手にはかなり卑怯な能力である。
なにせ、魔術攻撃をしても、そのまま投げ返されてしまうのだから。事実、最初は連発されていたゴブリンメイジによる魔術攻撃は、今はかなり頻度が落ちている。
敵攻撃の主力である、ゴブリンメイジの魔術攻撃はフーによって抑えられている。しかし、物量を生かした波状攻撃を前に、なかなか数が減らせず、こちらだけが消耗していた。このままじゃ、まずいかもな。
「クー。このままじゃジリ貧だ。ここはやっぱりアタマ狙いでいこう。さっき話してたあの連携で」
「そうだな。まあ、たぶん大丈夫だろ」
「よし。みんな聞いてくれ!」
タクヤが素早く指示すると、すぐに六道と仁保姫が動き始めた。
……
六道の武器は巨大なバスタードソードである。なぜこの武器を選んだのかは教えてくれなかったが、とにかく比較的高めのSTRも手伝って、身の丈ほどはある大剣を軽々と振り回していた。単純な突破力なら、仁保姫よりも上だろう。
その六道と、戦闘力と体力ではダントツの仁保姫の二人が、密集したゴブリンの群れの中にまっすぐな道を作って行く。途中ゴブリンメイジの魔術を受け、HPバーを削られながらも、二人はなんとか密集地帯を切り抜け、他のやつらより一回り以上デカく、立派な装備をしたゴブリンリーダーに迫った。
だが、側近と思われるファイター二匹がそれぞれ六道と仁保姫が牽制し、突進が止められてしまう。直後、二人の背後からゴブリンリーダーにむけてタクヤが飛び掛った。巨大なメイスを手に迎撃体制に入ったリーダーに対して、タクヤは空中で、交差した腕を大きく開きながら叫んだ。
【時術】【ポーズ】
タクヤのスキル【時術】。時を操れるらしいが、今のところ使えるのは『対象を3秒ほど停止させる』という【ポーズ】だけ。ちなみに使用前の動作は特に必要ない。タクヤの趣味だ。
対象の動きを完全に固定する【ポーズ】は確かに強力だが、3秒というのは余りにも短い。3秒間では、停止中に一撃叩き込むのがやっと――という所。それでは、ゴブリンリーダーのような強敵は倒せないだろう。
だが、今回は一撃で十分だった。俺がいる。
タクヤが飛び上がってリーダーの視線と時間を奪った直後、俺は前衛の女子二人の影から飛び出した。派手な三人の動きに隠れてこそこそ動いていたので、おそらくリーダーには認識されてない。
【ダッシュ】を発動し、一気に距離をつめて、正面からリーダーの首筋に短剣を突きたてた。分厚いゴムの様な、弾力のあるゴブリンリーダーの皮膚は思った以上に硬く、表面を傷つけただけであった――だが、狙い通りスキル【死】【一撃死】が発動し、HPバーが現れることなくゴブリンリーダーが消滅した。
その後、ゴブリンリーダーを失った群れは劇的に統率を失ってしまった。中には闇雲に突撃をしてくる個体も少しはいたが、そのほとんどは散り散りに逃げ去っていった。
「やった!」
「うおー、あぶなかったな!」
さあきやフーが歓声を上げる。俺はタクヤとハイタッチを交わし、勝利を喜んだ。
タクヤと話していた連携は【ポーズ】と【一撃死】の組み合わせである。
【一撃死】の説明には、敵に認識されて無ければ発動するとある→じゃあ認識されてない状態で【ポーズ】で時を止めれば、急所にさえ当てれば【一撃死】が発動するんじゃね?
という考えを歩きながら話していたのだが、ばっちし発動した。これが可能ということは【一撃死】は不意を突いて背後から襲うだけじゃなくて、もっといろんな使い方が出来そうである。
残ったゴブリンを処理し、戦利品を回収していると、依頼主の商人が俺たちの元にやってきた。タクヤが対応する。
商人の私兵が二名ほどやられたそうだ。だが、俺たちがいなけりゃ確実に全滅だったらしい。えらく働きを褒められ、今回の撃退戦で得られた戦利品は報酬にすべて貰える事になった。身内が二人も死んでいるのに、太っ腹なおっさんだった。さらに次の街に来たときは頼るといいと言ってきた。結構、力のある商人との事。自称だが。
その後、街に着くまでタクヤは商人のおっさん(ああ、そうそう名前はエギル)とずっと世間話をしていた。その後は特に問題も無く、次の日の夕方には次の街に到着した。
後書き
【火術】【ファイアボール】
HP消費中。火球を作り出す。大きさ・数は【火術】スキル・INTに依存。
【時術】【ポーズ】
HP消費特大。敵一体の時間を止める。効果時間は【時術】スキル・INTに依存。
【グラブ】
あらゆるものを掴める。
【スロー】
あらゆるものを投げられる