33 出発
33
さあき、十、比治山の三人は、昼過ぎに帰ってきた。そのまま七峰と比治山を見送る為、皆で庭に出てきたのだが、別れを惜しむ女子達の会話が現在進行形で続いている。なかなか進まない女子色の強い会話に、俺は居心地の悪さを感じていた。
多数の女子に囲まれて、男一人蚊帳の外というのは、思いのほか苦痛である。
「そうだ、七峰」
「はい?」
空気に耐え切れず、頼み事をする口実で、七峰に話しかける事にした。七峰が輪から外れてこちらに寄ってくる。
「タクヤと王子の所に戻る事があったら、ちょっと伝えといてほしい事があるんだけど――」
「あ」
そんな俺の言葉をさえぎり、突然声を上げる七峰。口を開き、ぽかんとした表情だった。あまり見たことの無い反応である。
「……なんだよ、いきなり」
「そういえば、あなたに伝言があるのでした」
「それはまた、今更だな」
「ごめんなさい」
七峰が、少し恥ずかしそうに目を逸らす。失態だと感じているようだ。別に、気にすんなよ。
「タクヤからか?」
「はい。それと天王寺君からもです」
「王子もか。なんだって?」
「まず牧原君が『魔石十二宮の情報は集めておくから、しばらくしたら帝都に遊びに来るといい』だそうです」
「了解」
「それとこれ、牧原君からの預かり物です。【ポーズ】【リワインド】、あとノルン王都と帝都への【シフト】がエンチャントされた魔石です。必要な時に使ってください」
そう言って、腰に下げたポーチから魔石をいくつか取り出した。さすがタクヤ。気が利くぜ。
「それと天王寺君から伝言ですが『魔石十二宮なら、【光のダイヤモンド】と【土のオパール】の二つを手に入れている』との事です」
「なんだって?」
思わず声をあげて驚いてしまった。魔石十二宮をもう手に入れているだと? しかも二個、俺より多いじゃねーか。
って事はなんだ。王子は俺からの情報を知る前から、すでに魔石十二宮を集めていたって事か? どういうことだよ。
「ちょっと待て。何で王子が魔石十二宮を集めているんだ?」
「意図的に集めている訳ではないのだと思います。【光のダイヤモンド】の時は、ノルン国王からの報酬として貰った宝物の中にあっただけでしたから」
「【土のオパール】は?」
「そっちは知りません。私が天王寺君の所から去った後の話です。美羽に聞いたらわかると思いますけど」
すぐにさあきと十との別れを惜しんでいる比治山を引き剥がし、【土のオパール】について問い詰めると、次のような答えが返ってきた。
「あー? 【土のオパール】? ああ、なんか土色のでっかい魔石のことでしょ。奈々達がタクヤの所に合流した後、東の国で超でっかいミミズが街を荒らすって事件があったのよ。それをみんなでそれを退治したら、腹にその魔石が入ってたの」
王子引力、恐るべし。勝手にクエストアイテムが集まってくるなんて。なんなんだよあいつは。これじゃあ必死で集めようとしている俺がバカみたいだろうが。
いや、まあいい。あいつに文句を言っても仕方がない。見つける手間が省けたと、ポジティブに考えよう。
「私の伝言は以上です。伝えるのが遅くなってごめんなさい。ではそちらの用件をどうぞ」
「こっちの伝言は半分なくなっちまったよ」
世界蛇は、魔石十二宮がタクヤと王子それぞれの現在地に存在すると言っていた。その事を二人に伝言しておくつもりだったのだが、王子への伝言は必要なくなってしまった。既に手に入れてしまったのだからな。
これでもし、タクヤも【風のエメラルド】を手に入れていたとしたら笑えないな。
タクヤと王子へそれぞれ伝言を頼み終えると、比治山がスキル【飛行】による純白の羽を広げた。七峰が比治山の手につかまり、別れの挨拶をする。
「それでは、失礼します」
「それじゃあ! さあきと姉御、それと一橋も。ほどほどに頑張れよー」
そんなお気楽な比治山の声を最後に、二人は次の街へ飛び立った。これからあいつらは世界一周の旅だ。聞けばヴァナヘイム教国にも向かうそうなので、十が一緒に来ればいいと引き止めていたが、断られていた。
今回の都市巡りに対して、2人はタクヤから期限が与えられているそうだ。のんびり俺たちと行動している場合ではないとの事。多少手伝ってくれる事を期待したのだが、まあ仕方が無い。
二人を見送り、俺達は別ルートでヴァナヘイム教国に向かうことにした。
……
エ・ルミタスからヴァナヘイムの首都ヴァナディースまでは、十が用意した馬車での移動である。教国はモンスター駆除にかなりの力を入れているようで、教国内に入ってからはほとんどモンスターと出会わなかった。今ものどかな風景を横目にみながら、気楽に道中を楽しんでいる。
「もう一回確認しておくぞ。今回の件はどうやら三好と友森が関わっているらしい。とりあえず、こいつらを探すのが先決だからな」
「わーたよ。何回言えば気が済むんだよ」
「お前がいきなり暴れだしそうだからだよ。日ごろの行いを考えろ、この脳筋女が」
「ひど! さあきー、クーがいじめる!」
「もー。なんでクーはすぐにうらなちゃんの事をそんな風に言うの。だめだよ」
一回りガタイの大きな姉御が、さあきのちいさな胸に飛び込む。それをさあきがやさしく撫でると、十は猫のようにごろごろと喉を鳴らしながら擦り寄った。
さあきと十。こいつらは基本、とても仲がいい。当たり前の話だが、二人共が俺の幼馴染という事は、イコールこいつらも互いに幼馴染なのだ。しかも中学以降は疎遠となっていた俺と十とは異なり、さあきと十はずっと近しいままだった。
別に、こいつらの仲に嫉妬するわけではないが、俺としてはこいつらの仲の良さはあまり好ましい物ではない。というのもこいつら、昔から互いにフォローしあって俺に対抗してくるのだ。
十に対しては、俺はいつもストレートに罵倒してしまうのだが、今のようにさあきがすぐに諌めてきて俺のイライラが溜まる。
さあきはいじめやすいので、昔からよくいじめているのだが、十がいると本気で守ってきて俺のイライラが吐き出せない。
俺のストレスは溜まる一方である。
「お。さあき、おっぱいおっきくなったんじゃね?」
「あはは! くすぐったいよ、うらなちゃん!」
なぜか、くすぐり合いに発展してしまっている。やめろ。お前らが乳繰り合っている所なんか、こっちは見飽きているんだよ。ガキの時から、やる事に変化が無さすぎるわ。
放っておくとさらにエスカレートしそうだったので、大きく咳払いをし、強制的に話を戻す。
「とにかく、いきなり暴れるってのは無しで頼む。さあき、お前からも言ってくれよ」
「え、えーと。クーがこんなに言っているんだし。いきなり危ない事するは、ね? うらなちゃん」
「さあきに頼まれちゃあな。わかったよ」
しぶしぶといった感じだが、それでもちゃんという事を聞いた。俺がいくら言っても聞かないくせに、さあきの言う事なら多少聞き分けがよくなる。そう意味ではやりやすいのだが。
さて、今回俺は進んで十姉御について行く事にした。だが、俺自身は今回の十の件はどうでもいいと思っている。
目的は魔石十二宮である。世界蛇によると、ヴァナヘイム教国に魔石十二宮が存在する。その情報を確かめるため、教国には元々行くつもりだったのだ。事情は変われど、目的は変わっていない。
それによく考えると、三好と友森の存在は俺にとっては都合が良い。あいつらは軍隊を指揮し、近衛騎士団すらも自由に使っているのだから、ヴァナヘイム教国内で相当な権力を持っているのだろう。利用しない手は無い。
適当にあいつらに取り入って、魔石十二宮をゲットするつもりだ。友森と十の痴話げんかとか、三好がエ・ルミタスを攻撃しただとか、俺には直接関係は無いからな。
うまく立ち回って、とっととおさらばしてしまおう。後は野となれ山となれである。
一橋空海
Lv48
HP 1423
STR 158
DEX 201
VIT 118
AGI 254
INT 104
CHR 217
スキル/死38, 短剣34, ダッシュ24, 風術21, 水術23, 隠密33, 眼力30, 開錠18, 魔石加工12, 鎌8
十 うらな
Lv42
HP 2012
STR 185
DEX 110
VIT 241
AGI 118
INT 70
CHR 157
スキル/爆術34, 格闘31, ガード24, 風術16, 土術12 , 調合23, 罠7
更科 沙愛
Lv34
HP 993
STR 161
DEX 121
VIT 140
AGI 98
INT 172
CHR 107
スキル/解析35, 棍棒21, 火術22, 土術18, 水術23, 隠密11, 調理27