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放課後RPG  作者: グゴム
5章
31/100

31 事情

          挿絵(By みてみん)            

31


 さあき達の加勢により赤銀騎士を撃破した後、俺達は各地区の教国兵を各個撃破し、同時に怪我人や子供達を保護していった。


 各地区で暴れている教国兵を処理するには結構な時間がかかると思っていたのだが、実際はそれほどでも無かった。というのも三好が去ってからは、エ・ルミタスに残った教国兵の士気が、ガタ落ちしたのだ。それこそ憑き物が落ちたかの様に。


 その結果、エ・ルミタス市民達の反撃が優勢となり、俺たちの手助けを受けずともあっという間に敵兵は駆逐されていった。そうして結局、日が暮れるまでには混乱が収束したのである。


 

……



 俺達はよこたての屋敷に集まっていた。


 この屋敷は難を逃れていたようで、前に来た時と同様に大量のメイドと使用人が迎えてくれた。当然ながら俺達に付いて太古の地(ドラゴンズホール)来ていた連中はまだ戻っていないが、それでもすぐによこたて自慢の風呂と食事が用意された。それに対する、特にさあきの風呂に対する感激っぷりは、軽く引いてしまうほどだった。


 ただし、屋敷の主であるよこたてだけは、今回の件で街の役人達と話し合いがあるとかで食事の前に出掛けている。『付いてくるか?』と聞かれたが、俺の様なよそ者が出る幕ではないだろうし、後で話だけ聞けばそれでいい。姉御が帰ってくるまでに、まずは乱入組の女子三人から事情から聞く事にした。



 話はタクヤの近況から始まった。タクヤは、俺と六道りくどうが魔界に迷い込んでしまった後、アスモデウスの迷宮が消滅したのを確認して、ノルン王都に向かった。そこで王子達のグループと会い、その際何人かを自分のパーティに引き抜いた後、西のエスタブルグ帝国に向かったそうだ。


「それでね。タクヤのやつ、なんか”商会”を作るとか言い出したの。何を言っているのか良く分からなかったけど、とにかく帝都でちっさな家を買って、なにかやり始めたの。ね、七峰ななちゃん」

「はい」


 同意を求めるさあきに、七峰が簡潔に答えた。聞けば七峰は、タクヤが王子のパーティに会いに来た際に、タクヤのパーティと合流したそうだ。他にも王子の元にいたレア魔術を使えるの連中、さらに金になりそうなユニークスキルを持つ連中は、軒並みタクヤのパーティに合流したらしい。


 タクヤは、ついに俺と話していた戦略を実行し始めたようだ。ユニークスキル、レベル、初期資金、情報、人脈。あいつが必要としていたものが、ほぼ揃ったのだろう。


いよいよあのネトゲ廃人様が本気で動き始めた。まあ、色々な意味で楽しみではあるな。


「でも、忙しそうにしているのはタクヤだけで、私達は結構暇してたの。そしたら王子の所から美羽みうちゃんが、クーの手紙を持って来てくれて、それで私びっくりしちゃって……」


 尻切れに言葉が途切れていくさあきを、美羽みうと呼ばれた少女がフォローした。


「もー。牧原は『クーは勝手にやるから大丈夫』って言うのに、さあきがすごく泣くから、牧原もたじたじだったよねー」

「うっ……そんなことないもん」

「最後は牧原君が泣いていました」

「アハハハハ! そうそう! あれは傑作だったよね」


 少女は、明るい声で笑っていた。比治山ひじやま美羽みう。女。出席番号27。たしかバレー部とかだった気がする。少し毛先が跳ねたくせ毛と、大き目の目が印象的な、元気な女子である。あまり話したことないので良く知らないが、俺の印象としては良くも悪くも普通の女子高生といった感じだ。


 こいつのユニークスキルは【飛行】である。スキルというかなんというか。比治山は背中に羽を生やせる。そして、その羽を使って空を飛ぶ。言ってしまえば、それだけのスキルなのだが、単純な分だけ有用性も高い。


 現にさあきと七峰の2人を連れて、帝都からエ・ルミタスの街まで二日で飛んで来たそうだ。まともなルートで行けば十日近く掛かる行程のはずだから、相当である。

 

 しかし、この羽を使うという行為はかなり変わった感覚らしく、最初はまったく使い物にならなかったそうだ。スキルの使い方に気がついてから、数日間巣立ちの練習をする雛のごとく不細工に飛ぶ練習を繰り返して、やっと空を飛べるようになったらしい。今では戦闘にも使用するほど自由に使いこなしていた。

 

「結局牧原が折れて、私がさあきを運ぶ事になったわけ」


 比治山が目の前の食事を口に運びながら言うと、さあきがそれに付け加えた。


「でも、タクヤも私の為だけに、二人をここに寄こしたわけじゃないよ」

「まあねー。まったく。あいつも人使いが荒いよ」


 要するにタクヤは、比治山を使って、仕方なくさあきをエ・ルミタスまで送り届けた。しかしそこはあの効率厨、タダでは転ばない。七峰と比治山にはある指令を出していた。遠距離転移魔術の為の、都市巡りである。


 七峰の固有スキル【空術】。2対魔術の一つであり、タクヤの【時術】に対応する魔術だ。その名の通り空間を操る魔術で、今回敵の全方位攻撃から俺を守ったのもこいつの【空術】らしい。


 そしてこの【空術】には、【マーキング】と【シフト】というペアとなる魔術がある。要点だけ説明すれば、【マーキング】した場所に【シフト】で瞬間移動できるというもの。瞬間移動ができる【空術】は他にもいくつかあるらしいが、長距離の移動にはこの魔術が一番便利との事だ。


「便利そうな魔術だな」

「それが、そうでも無いのです」


 俺の感想に、七峰は微妙そうな表情でそう答えると、続けて【マーキング】の詳しい仕様について説明してくれた。とにかく、色々と制限が多いようである。特に一番の問題点は、とにかく一度は現地に訪れて【マーキング】を行わなければ、【シフト】を使用できない点。これを解決するために、七峰と比治山はこれから二人で各地の主要都市を回るのだという。


「世界一周の旅! いいだろー。金も牧原にたんまり貰ってきたもんね!」

「美羽。目的を忘れないでください」

「いいじゃん。奈々は私に掴まっとくだけかもしれないけど。私は実際、肉体労働しているんだから、これくらい貰って当たり前だよ」


 よくある都市間ゲート開通の旅って事だろう。一度は訪れないとならない点は確かに面倒そうだし、他の制限もなかなか厳しそうだった。しかしどれだけ制限が多かろうと、転移魔術というだけでそれはすでに有用だ。


 直接的な方法でしか遠距離移動ができないこの世界で、全ての街への瞬間移動ワープが可能になり、しかもその手段を自分達で独占できるのならば、計り知れない利用価値があるのだろう。タクヤが使いたがるのも無理はない。



「なので、私達は明日の昼過ぎには次の街に出発しなければいけません」

「さあきは置いていくから。姉御もいるけど、二股するなよ! 一橋」


 比治山の余計な一言に、俺は少し頭を抱えた。



……



 よこたてが戻ってきたのは深夜だった。すでに俺以外の連中は床についている。俺は屋敷で見つけた適当な本を読みながら、薄暗い蝋燭が灯された大広間で姉御の帰りを待っていた。


 疲れた様子で戻った姉御によると、隣国であるヴァナヘイム教国による突然の侵攻は、この街の上層部にとっても寝耳に水だったらしい。戦争の予兆がまったく無かったそうだ。


 教国軍は何の前触れも無く現れて、よこたてを出すように要求してきた。もちろん姉御はその時、俺と共に太古の地(ドラゴンズホール)に赴いていたから不在である。その旨を教国側に説明したが、連中は信じずに居座った。そして俺達が戻ってきた日の朝、突如として侵攻を開始したそうだ。


 後は俺達が見た通り――それがエ・ルミタス側から見た、今回の事件の経緯である。


 話し終えると、姉御は怒りをあらわにした。


「教国の連中、とくに教皇には必ず落とし前をつけてやる。それと、三好と友森も噛んでいるらしいな。あいつら、何のつもりかしらないけど、私にケンカを売るなんていい度胸してる!」


 地団駄を踏みながら息巻く姉御。怒りの形相が暗い蝋燭の明かりの中でもハッキリ見えた。


「罠かもしれないぞ。というか、確実に罠だ」

「それがどうした。関係ないね。私の街をこんなにしておいて、私がそれを見過ごすと思うか?」


 一応忠告してみるが、無意味だった。自分の街を陵辱されたよこたては、仕返しの為にこのままヴァナヘイム教国に突撃するだろう。そしてこの突進は、首謀者をぶちのめすまで止まらない。


 ――あぁそうか。あの時、三好があっさり撤退した理由が、やっとわかった。


 自分の街を襲われたよこたては、何を差し置いても復讐の為に教国に乗り込む。それは誰にも止める事はできない。この女の性格からして、それは確実だ。


 そして『よこたてうらなを教国に連れて行く事』――それが三好の目的。エ・ルミタスの街を侵略した時点で、この目的は達成されていたのだ。


 まったく。姉御の性格をよくわかってるじゃねーか。





【空術】【マーキング】 

HP消費・特大。遠距離転移魔術用の魔法陣マーカーを作りだす。マーキングできる数は【空術】スキル依存する。マーキングしている数に比例して、ステータスダウンのデメリットが発生する。


【空術】【シフト】

HP消費・特大。マーキングされた魔法陣マーカー上へ瞬間移動する。




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