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放課後RPG  作者: グゴム
4章
27/100

27 双竜

          挿絵(By みてみん)            

27


「クー。どっちがいい?」


 姉御が、嬉しげに腕を回しながら聞いてくる。


「どっちって。お前、まさかタイマンでやる気か?」

「当たり前だろ。じゃあ私、赤な。レッドドラゴン! くぅぅ。行くぜ!」


 よこたてはそう言い残し、二体のドラゴンの片方――赤の鱗を持ったレッドドラゴンに突撃した。


 レッドドラゴンは、直径が人間2、3人分はありそうな巨大なブレスでそれに応じる。よこたてはその炎柱を、致命傷にはならない程度に紙一重でかわし、瞬時に距離を詰めた。


「くらえぇ!」


 よこたては大きく飛び上がり、巨大なレッドドラゴンに一撃を加える。右手を突き上げ、相手のあごに拳を叩き込む――見事なリアル昇竜拳だった。続けて【爆術】【パイロマニア】の追加効果により打点が爆発する。


 その見事な一撃に、俺は一瞬あっけにとられてしまった――だが、戦っている当人達は違った。レッドドラゴンはすぐに反撃に移る。自由落下中のよこたてに、その強靭な前足をたたきつけたのだ。


 なんとかトンファーを構えてガードし、直撃は免れる姉御。しかし勢いは殺しきれず、ドカンという音共に地面へと突っ込む。姉御は落下ダメージをくらったが、代わりに【パイロマニア】によって、ガード時にカウンターを与えていた。


 【爆術】【パイロマニア】。この魔術により、姉御の直接攻撃には爆発効果が付加される。それに加え、このバフは攻撃をくらっても、装備が爆発してカウンターをくらわせる仕様だ。結果、殴りあうだけの姉御のケンカ戦法が異常な破壊力を発揮していた。


 ただ【パイロマニア】の弱点は発動毎にHPを消費する点――つまり攻防どっちにおいても敵に与えるダメージも増えるが、自分が受けるダメージも多くなってしまうという諸刃の剣である事だった。


 姉御は、高いHPと自然回復力により、そのデメリットを最小限に押さえつけている。というのも、こいつはVITが異常に高い。レベルは30台後半のくせに、200を超えていた。これは俺のAGIを超える成長率だ。


 VITとは、活力(vitality)。つまり、防御力などの打たれ強さをあらわすステータスで、この世界でも、VITはダメージカットと自然回復力に影響するという事実がある程度わかっている。


 本来前衛や盾役が重要視するべきパラメータだが、この世界では少し事情が違う。HPがMPの役割も為す事が原因で、単純にVITが高いほど自然回復力が高くなり、魔術を継続的に使えるのだ。勿論、威力や効果範囲などはINTに依存するところが大きいので、VITだけ高ければいいというわけでもないのだが、数を打つにはHPとVITが重要になってくる。


 姉御は素で高いVITに加えて、さらに高価な薬品(ポーション)を併用する事で自然回復力を異常に高め、【爆術】を自由に使いながらの肉弾戦を実現していた。よこたて本人が、システムを理解してそのスタイルを採用しているかどうかはかなり怪しかったが。



 とにかく姉御とレッドドラゴンのタイマンバトルは、火炎と爆発により加速度的にヒートアップしていった。



……



「人間よ。私の相手は貴様のようだな」


 取り残されたブルードラゴンが話しかけてきた。どうやら言葉が通じるようだ。まあ、ヨルムンガンドもしゃべってるんだから、なんの不思議も無いが。


「俺さ。ガチ勝負、苦手なんだ。出来ればあっちの戦いが終わるのを待って、あの女と戦ってくれない?」

「フフフ。逃げようというのか」


 ブルードラゴンが、表情を変えずに笑う。


「っは。やっぱダメ?」

「力を見せよ。人間」


 口を大きく開き、氷の息(アイスブレス)を放つブルードラゴン。青いブレスが吐き出さたので、大きくバックステップをして距離をとる。見るとブルードラゴンとの間にある空気中の水分が、一瞬で昇華し凍りついていた。


 よく氷系のドラゴンブレスの攻撃エフェクトは氷を伴って表現されることが多いが、こいつのそれは少し違うようだ。なんというか、強制的に温度を下げる光線レーザーという印象を受ける。まあ、直撃するとタダでは済みそうにないのは確かだが。


 見た目は光線レーザーっぽいのだが、なぜか弾速は遅い。敵の口の方向も合わせてよく見れば、近づかない限り問題は無く回避できるだろう。


 しかし一人で戦うとなると、このブルードラゴンに接近して殴り合いわなければ、まともなダメージは期待できない。近づくだけならできるだろうが、問題はそこからどうするか。俺はよこたてと違ってVITはからきしだ。あいつの真似は出来ない。おそらく一発でもあの爪や尻尾、そしてブレスが直撃したら致命傷になってしまうだろう。


 もちろん全部避けきれば問題ない、だがこのランクのモンスターを一人で削りきるのは時間がかかるはずだ。時間がかかれば攻撃をくらう可能性も高まる。大ダメージで一発KOなんて、御免だ。


 要するに、まともに戦うのはリスクが高い――仕方が無いので、ここは素直に奥の手を使う事にした。



 【ダッシュ】を発動して走り出す。ブルードラゴンも氷の息(アイスブレス)に加えて【水術】だろうか、大量の水を伴う攻撃も織り交ぜて迎撃してきた。超低温のブレスと合わさり、局地的なブリザードのような氷の雨が襲いかかる。駆けながら、のんきにもその景色に見とれてしまった。さすがブルードラゴン。レッドドラゴンに負けず劣らず派手な戦い方をしてくれる。


 降りしきる氷の豪雨を【風術】【ウィンドストーム】で払いながら、懐から銀色の魔石を取り出す。そしてブルードラゴンの足元にたどり着くと、その魔石をかかげ――砕いた。


 ブルードラゴンの動きが、凍りついたように停止する――


 瞬間、俺は大きく飛び上がった。そしてドラゴンの喉下のある部分に向け、手にしたナイフを突き刺す――それ喉下にあった、一つだけ逆さになった逆鱗を狙っての行為だった


 動きを止めたままのブルードラゴンの逆鱗にナイフによる一撃を加える――結果、【一撃死】が発動し、ブルードラゴンの巨体はあっけなく光に包まれて消えさった。



 先に戦ったグリーンドラゴンとの戦闘により、このタイプのドラゴンの逆鱗の位置は把握済みだ。いつぞやかにタクヤから貰った【時術】【ポーズ】がエンチャントされた魔石――奥の手として取っておいたのは正解だったな。



……



 ヨルムンガンドの巨大な笑い声が響き渡る。


「フハハハハ! おぬし、やりおるな! 蒼竜を一撃で倒す人間がいるとは、信じられん」

「っは。そりゃどうも」


 同胞のドラゴンが倒されたと言うのに、ヨルムンガンドはゲラゲラと愉快そうに笑うだけだった。


「フハハ。なかなか面白き人間だ」

「次は自分が――って事は無いだろうな?」


 この馬鹿でかい世界蛇相手だと、急所を探すだけで一苦労だろう。あまり戦いたくはない。


「まだまだ、赤竜が残っておる。加勢に行かなくて良いのか?」

「冗談だろ? あの女を邪魔するなんて――そんな事をしたら、後で殺されちまう」

「そうかそうか」


 ヨルムンガンドはそう言って、姉御とレッドドラゴンとの戦闘に目を向けた。どうやら戦う気はないようなので、俺もその戦いに目を向ける。


 その戦いは、まさに死闘だった。


 よこたてはトンファーと【爆術】により、ゴリゴリとレッドドラゴンのHPを削っているが、ドラゴン族の中でも強者なのであろうレッドドラゴンの爪やブレスも、ヒットする度によこたてのHPをゴッソリと奪っていた。


 一回一回のHPの減り方は、さすがによこたてが分が悪い。だが【パイロマニア】によるカウンターもあるし、そもそもよこたての自然回復量が尋常ではないため、トータルではほとんどイーブンな削り合いを維持していた。


「はっはー。強いな! 今まで戦った奴らの中でも、ダントツだ!」

「主こそ、人間とは思えぬチカラだ。フフフ」


 なんだか、変なシンパシーを形成しつつあるよこたてとレッドドラゴン。すでに2人のHPは半分を切っている。もうしばらくすれば、決着がつくだろう。



 よこたての飛び蹴りを受けたレッドドラゴンが、お返しとばかりに尻尾を振り回す。その攻撃をもろにくらい、大きく宙に放り出されたよこたて姉御。空中でクルクルと人形のように回転していた。


 このまま追撃を食らったら、HPがほとんどなくなってしまいそうだった。先ほどヨルムンガンドにはあんな事を言ったが、さすがに姉御を見殺しにする訳にもいかない。後で怒られるとしても、ここは加勢しておくか。


 そう考え短剣を握りなおし、突っ込もうとしたその時――レッドドラゴンの巨大なあぎとが、空に浮くよこたての体を飲み込んだ。





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