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放課後RPG  作者: グゴム
4章
24/100

24 近況

          挿絵(By みてみん)            

24


 エ・ルミタスの街は迷宮探索の拠点にしていたホーム、広く言えばノルン王国からはかなり離れた場所に在った。聞けばノルン国内の港街から船で5日ほど、地理的には東の大国ヴァナヘイム教国の端っこに位置する、自由都市らしい。


 確かに王侯貴族が住む上品な街というよりは商人や冒険者、賞金稼ぎなどが多い雑多な街である。大通りでは通年バザーが開かれていて、人が多く活気がある。また少し路地に入れば禁制品を売る店から売春宿まである、なんでもござれの闇市状態だ。


 また街並みも古く、建物が密集している。折り重なるように立てられたそれらと、露天状態で並ぶ商店を眺めていると、いつまでも飽きそうに無かった。



 姉御の言う家とやらに向かう途中、姉御は行く先々人から声をかけられていた。市民や商人はもちろん、賞金稼ぎや冒険者、子供に娼婦まで、声を揃えて姉御姉御の大合唱だ。こいつは昔から人を惹きつける性格だったが、ちょっと見ない間に、の街も掌握してしまったらしい。やれやれ。


「姉御。家って買ったのか?」

「ん? いんや。ちょっと、成り行きでね。貰っちゃったんだよ。そこまでたいしたもんじゃないから、あんまし期待するなよ」

「っは」

 

 どうでもいい話だが、この女はお嬢様である。素行が悪いためにウチみたいな公立高校にいるが、こいつの家は冗談みたいな金持ちなのだ。それゆえ今の謙遜はあまり当てにはならないかもしれない。


 と、思いながら半信半疑で歩いていると、予想通りそれはそれはとんでもないシロモノだった。


 巨大な門に噴水付きの庭園。街の一区画を丸ごと占有した敷地に、王宮と見紛う華美な建物が、大量のメイドと使用人とともに待ち構えていた。


 なんていうか。なにがたいしたもんじゃないのか。小一時間問い詰めてやりたい。


「……」

「どうした? 遠慮すんなよ。荷物はこいつらに渡せ。ファラ! 一番いい部屋に案内しろ」

「かしこまりました。ウラナ様」

「それとジン。風呂の用意だ。超特急でな」

「はい!」


 ジンと呼ばれた少年は、よこたての命令に喜び勇んで走り去り、ファラと呼ばれた少女は、無言で俺の傍に寄ってきて両手を差し出した。


 見ると、ファラは年端も行かない子供だ。ホームにいた奴隷の妹、エレンとどちらが年下か、いい勝負だろう。


 請われるがままに荷物を渡す。といっても手荷物はほとんど無く、ぼろぼろのずた袋と外套がいとう程度だったのだが、少女はそれを宝物のように丁寧に抱え、部屋へと案内してくれた。



……



 風呂である。この世界に来て初めての風呂である。ホームに居た時は、近くの川での水浴びか、簡単に体を拭く程度しかした事がなかった。風呂を造ろうという話は一応あったのだが、結局作らずに攻略し終えてしまっていた。


 ただし風呂といっても、俺の知ってる風呂ユニットバスではなかった。銭湯顔負けの巨大な大浴場だ。しかも何の冗談か、入った時には数人のメイドが薄着姿で待機していた。聞けば体を洗うためだとか、お世話をするためだとか、当然の事のように言いやがる。いったい何の世話をするというのか。


 必要無い事を言い聞かせ、出て行かせるのに一苦労。ようやく一人になって体を洗い、湯につかる。すると湯加減は最高だし手足も伸ばし放題で、とても気持ちがよかった。


 しかしどうも広すぎるのか、豪華すぎるのか、いまいち落ち着けない。途中からはいかに自分が庶民だったが思い知らされているような、そんな気分になってきた。よこたての奴は慣れているのだろうが。



「なんだ、クー。女中達は追い払ったのか。そんなに私と2人きりになりたかったのか?」


 なんだかんだで一人羽を伸ばしていた所に、その女は 無粋に踏み込んできた。もちろん、全裸で。恥じらいも無く。惜しげも無く。自信たっぷりに、見せつけながら。


「………………なんで、入ってくるんだよ」

「恥ずかしがるなって。昔はよく一緒に入った仲じゃないか」

「はいってねーよ! 一回だけだ。しかもあれはお前が無理やり入れたんだろうが!」

「そうだったっけ?」


 小首をかしげる姉御。豊満な胸が大きく揺れた。


 小学2年の頃だったか。ある日、こいつは突然、俺の首根っこを掴んで自宅の風呂(今入っているこの風呂よりもデカい)に放り込むという事件があった。原因は、俺とさあきが小さい頃に、2人で一緒に風呂に入っていたという話をどこからか聞いたから。よこたてはなぜか、その話を死ぬほど羨ましやがったそうだ。


 それだけ聞くと男子諸君から羨ましがれるかもしれない。だがそれは本当に地獄だった。プールよりもデカイよこたて家の風呂で、延々数時間恐怖の水遊び(大暴れ)につき合わされたのだ。 


 なんというか、思い出すのも恐ろしい苦い記憶(トラウマ)だ。今の様子では、こいつはすっかり忘れているようだが、俺にとっては忘れたくても忘れられないほどの出来事である。



 俺がそんなトラウマと向き合っている隙に、よこたて姉御は湯船にダイブしていた。勢いよく湯船に飛び込み、湯を撒き散らした後、勢いよく浮上して髪をかきあげる。でかい胸。くびれたウエスト。突き出た尻。隠すべきところが全部見えていていた。


「それでクー。何であんな所に居たのか教えろよ」


 ガン見している事はスルーされ、そう言われた。まったく意に介していない。まあ、この女の辞書に恥じらいという言葉は無い事は周知の事実だ。中学までは、体操服どころか水着まで男子がいる教室で着替え始めるくらいの無頓着ぶりだからな。スタイルが良すぎるのが余計にタチが悪い。


「ん。あぁ……」


 反応しても面倒なだけなので、こっちも無視である。適当に端折はしょりながら、ここまでの経緯を説明した。



……



「なんだよ! 面白そうな事してたんだな。いいないいなー」


 姉御がぶーぶーと言う。


「危うく死に掛けたがな。死神と魔王に助けられたよ」

「それが一番面白そうだ。あー私も魔王に会いたい。ヘルちゃんに会いたいー」

「っは。姉御もこの様子じゃ、相当活躍していたみたいだな」

「はっはー。たいした話じゃないよ」


 そこから得意げに話し始めた姉御の話は、まさに"よこたてうらな"だった


『とりあえず何も考えずに船に乗ったら、それは海賊船で、危うく捕まって奴隷にされる所を懲らしめて逆に海賊どもを部下にする』

『エ・ルミタスに着いたら、その日のうちに虐げられていた子供奴隷を助けるため、奴隷商に喧嘩を売ってボコボコにし、廃業させる(ここのメイド・使用人たちはその時解放された奴隷の一部)』

『活躍を聞いた街の名士に盗賊ギルドの根絶を依頼され、それを解決する(この屋敷はその時に称号とともに貰ったもの)』

『盗賊ギルドは表向きには解体されたが、トップとは義兄弟の契りを交わし、よこたて自身が首領になって今も存続しているとの事。先に仲間になった海賊とともに、エ・ルミタスの闇社会を仕切っているらしい』


 他にも『近くの村を襲撃に来たドラゴンを一人で倒した』『周囲の賞金首をすべて一人で捕まえた』「街が出来る前から存在していた前人未到の地下迷宮を、一日で攻略した』(←NEW!!)etc.etc.



 頭が痛い。いやね。俺も死神と友達になって、魔王と食事したって自慢しましたよ。俺って結構スゴクね――って得意げに。


 だがこの女には勝てない。小学校のころから何度も何度も、骨の髄まで思い知らされていた――事実だ。俺はこいつのこういう所が苦手なんだった。いまさら懲りずに凹まされるとは、情けない。



 風呂から上がり、用意された衣服を身に着け、ダイニングルームにて食事をご馳走になる。姉御もダルンダルンのワンピースに身を包み、俺の魔界ニブルヘイムでの話に耳を傾けていた。


「ふーん。要するに、その魔石十二宮ジェムストーンを集めれば元の世界に帰れる事?」

「いや、ちょっと違うが……まあそれでいいや。とにかく、魔王からいくつかの魔石十二宮ジェムストーンの在り処を聞いてきたから、これから回っていくつもりだ」

「はっはー! わかりやすくて良いな!」


 姉御はニカっと笑い、身を寄せる。


「どうするんだ? すぐに旅に出るのか?」

「とりあえず、王子とタクヤに報告してからだな。ここってノルン王国から遠いんだっけ?」

「そうだな。まともに行ったら一週間はかかる。手紙でも書けよ。手下に超特急で届けさせるからさ。おい、ファラ! 書くもんもってこい!」

「かしこまりました」


 姉御は、思いついたように言うとすぐに指示を出した。傍にたたずんでいたメイドの一人がすぐに紙と羽ペンを持ってくる。この子、さっきもいた気がする。お気に入りなのだろうか。すこし垂れ目が印象的な、大人しそうな少女だった。


 こっちは何も言ってないのに、相変わらず強引な女だ。しかし一週間もかかるとなると、確かに直接会いに行くのは面倒なので、ここは姉御の言うとおり、王子とタクヤに一通ずつ近況を知らせる手紙を書く事にした。


 俺が無事な事。元の世界の事。魔石十二宮ジェムストーンの事。ロキの事。そして魔王と六道りくどうのこと。


 王子に向けた手紙では、魔王と六道りくどうのくだりはぼかしておいた。『六道りくどうは魔王の下にいる』なんて書いたら、字面だけだと完全にピーチ姫状態だからな。あの王子(お人好し)が勘違いして魔界ニブルヘイムまで乗り込んでしまうかもしれない。それはあまり好ましくない。魔王との約束もあるしな。


「よし。じゃこれを頼む」


 書き上げた手紙を、姉御に投げつける。二通――王子とタクヤ宛だった。


「おっけー。ジン! カランサにこいつを届けさせろ。届け先はこれに書いてある」

「わかりました!」


 俺の手紙とよこたての署名の入った命令書を抱え、ジン少年は元気いっぱい駆け出していった。


 俺はその小さな体を見送って、大きく伸びをした。


「くぁ……ちょっとここ一週間、緊張しっぱなしだったんだ。ちょっと寝てくるわ」

「そうか。じゃあ起きたら出発するか。私も行くぜ」

「いや、来なくてもいいんだが」


 いつの間にか、ついてくる気満々の姉御だった。こいつが来るという事は、間違いなく事が大きくなる。トラブルメーカーの元締めみたいな奴だからな。こいつは。


「まあ、私に任せとけって!」


 そう言って、新しいおもちゃを見つけた子供のようにきらきらとした瞳で見つめられた。


 ダメだ。この目はダメだ。もう、俺には止められない。腹を決めるしかない――


「頼むから、あんまり暴れないでくれよ」

「だから、任せとけって言ってんだろ。んで、何処に行くんだ?」


 アンラとの話を思い出す。あいつから聞いた魔石十二宮ジェムストーンの在り処で、このエ・ルミタスの街から一番近い所は――


太古の地(ドラゴンズホール)だな」


 それが、次の目的地の地名だった。 




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