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放課後RPG  作者: グゴム
3章
20/100

20 六道あやね

          挿絵(By みてみん)            

20


 ヘルの大鎌に串刺しにされた蒼髪の小悪魔は、魅惑の君・アスモデウスだった。いや、元・魅惑の君になるのか。大きさは手のひらサイズだったが、それさえ除けば姿形はほとんど人間と変わりない姿だ。迷宮で戦った時の印象とはかなり異なる。


「ギャハハハハ! つまり、人間に惚れてむざむざと魅惑の君を投げ捨てたか!」

「うるせえ。こいつのよさがわからんとは、だからお前はガキなんだよ!」

「ハハハハハっ腹が痛い! アホだ。アホがおる!」


 骨少女が文字通り腹を抱えて大笑いしている。笑い転げすぎてワンピースのすそがはだけてしまっているが、残念ながら見える範囲はすべて骨だった。いや、なにが残念なんだという話なのだが。


 俺たちはボロボロになってしまった中央の宮殿部分は放置して、尖塔の一つにある客間へと移動していた。そこで明らかになったのは、アスモデウスは六道にホレていたという事実だ。


 一目惚れらしい。悪魔が一目惚れなんかするのかと思ったが、どうもこの世界の悪魔、神の連中はいやに人間臭い。まあ、そんな事もあるかと納得してしまった。


 どうやら○○の君という称号はタイトル制らしく、六道に負けたアスモデウスは魅惑の君の称号を明け渡し、晴れて新・魅惑の君となった六道あやねの使い魔として生まれ変わったそうだ。



「なんだ。あいつ、生きてたのね」

「ああ。良かったな。一目惚れだってよ」

「ふざけないでよ。あんなの、いらないわ」

「魔王になりたいんならいいんじゃね?使い魔なんて魔王っぽいし」

「まあ……ね。あーもう。なんでかなー」


 困ったような表情を浮かべ、机に顔を突っ伏してばたばたと足を振る六道。この能面のうめん女にしてはあまり見ない仕草だ。なんか、おかしい。なんていうか、いつもの感じじゃあないな。


「お前。なんか変わった?」

「え?」

「明るくなった気がする」

「……なにそれ。告白?」

「っな!なんでそうなる……」

「アハハ! 嘘々」


 クスクスと笑う六道。やっぱおかしい。こんな冗談を言うやつじゃ無かった気がするんだが。


「うん。ちょっとね。楽しくなってきた」


 そう言いつつ、大きく伸びをする六道。それほど大きくはないが、形の良い胸が惜しげもなく披露される。ついついガン見しそうになるのをなんとか自重し、話の続きに耳を傾ける。


「私、昔っから家で1人、RPGばっかりやっててさ」

「へー。やっぱそうなのか」


 やはりと言うかなんと言うか、どうやら六道は生粋のゲーマーだったようだ。そりゃあ色々と詳しいはずだ。


「うん。だからこの世界に来た時、本当は飛び上がりたくなるくらい嬉しかったの。でも、私ってほら、周りからはおとなしくて物静かな女の子って思われてるからさ。変だと思われるのが怖くて。だから、今回もおとなしくしていたの。でもさ。すぐに我慢できなくなって……。一橋ひとつばし君達と一緒になってからは、モンスターと戦って、迷宮探索して、ボスを倒して、魔界ニブルヘイムに来て、悪魔と戦った。ほんと。夢みたい」


 やっぱり、こいつはこの世界を楽しんでいたようだ。だが、なまじっかクラスごと異世界にやってきたから、周りの目を気にしてそれを素直に喜べなかった。


 まあ、そんな事もあるよな。誰だって自分を隠して生きている。俺だってそうだし。好き勝手に生きている奴なんて、一握りだ。


「っは。そんなに楽しいか?」

「うん。だから、一橋ひとつばし君には感謝してる。私の言った事、笑わなかったよね。あれ、嬉しかったな」


 なんか、そんなこともあったな。『魔王になりたいからパーティに入れてくれ』か。笑わなかったと言うより、意外すぎて反応できなかっただけな気がする。あの時は理由を聞ける感じじゃなかったが、今なら教えてくれそうだった。


「そういえば、なんで魔王になりたいんだ?」

「え? うーん」


 すこし顔を赤らめ、視線を上げる六道。だが、すぐに一言、「まあいっか」とつぶやいて、話し始めた。


「一橋君、RPGは好き?」

「ああ。一応な。かなりのハードゲーマーだと自負しているよ」

「じゃあさ。LIVE A LIVEって知ってる?」

「また随分古い名前を出してきたな。やったことはあるよ。あれはなかなか名作だ」

「知ってるんだ。知ってる人に初めて会ったな」


 六道はすこし驚いて目を開いた。


「魔王っていったらドラクエが有名だけど、私は魔王といえばLIVE A LIVEを思い出すわ」

「魔王か。俺はクロノトリガーとか思い出すかな」

「でさ。魔王って、実は弱いんだよね」

「は?」

「ほら。RPGって大抵、魔王は必ず勇者に負けてエンディングじゃない?」


 まあ。王道ではそうだな。最近じゃ色々、派生もあるけど。RPGがRPGであるための必須条件ってのは、"最後は主人公が勝つ"事だからな。


「私はそれがいつも思っててさ。私なら、もっと上手くやるのに。回復役から殺したり、弱点を突いたりして、勇者御一行なんか簡単に全滅させてやるのにって」


 それは魔王が弱いというより、AIが弱いだけじゃないのか? 完璧に最善手を打ってくるボスなんか居たら強すぎる。だいたい絶対勝てない魔王なんて居たら、それはクソゲー確定だ。


「だから、お前が魔王になって、ゲームクリアにやってくる勇者達をことごとく全滅させてやるって事か?」

「そう。私が魔王になってやる。王子君だろうが、牧原まきはら君だろうが、私が倒してみせる。もちろん、あなたも挑んでくるなら容赦はしないわ」


 見た事もない生き生きとした笑顔でそう言われた。別に、俺は魔王と戦う気なんか無いのだが、この顔を見たら、そんな無粋な事は言えなくなってしまった。


「ああ。その時はよろしく頼む」


 そう答えておいた。



……



「アヤネー」


 蒼髪のアスモデウスが泣きながら六道の胸元に向かって飛び込んできた。どうやらヘルに泣かされたらしい。


 ガッ、ガンッ!


 だが、頼りの六道にも無言で叩き落されて、ブーツ底の餌食にされてしまった。ジタバタともがくアスモデウス。


「ギャハハハハ! どうしたアスモデウス! そんなに地面が好きかっ」

「アヤネ! なにすんだ。ベッドじゃあんなに優しかった――! うぎゃあっ」


 なにやら気になる言葉を吐いたアスモデウスを、六道が頭ごと踏みつけて強制的に口を閉ざさせた。


「そ、それより。あなたはこれからどうするの?」


 真っ赤な顔で話を逸らす六道。やっぱなんかあったんじゃねーかよ。別に隠さなくてもいいのに。


「俺? とりあえず、ほかの連中がこっちに来てないか調べようかと」

「ひぃひぃ……? ほかの連中?」


 笑い疲れた様子で、よろよろと椅子についたヘル。そのままテーブルの上のワインを、一気飲みしていた。こいつ、食事はしないくせにワインは飲むらしい。


「ああ。さっき話しただろう」

「そうか。そうかそうか。そういえば貴様らはアスモデウスの転移陣からやってきたんだったな」

「転移陣?」

「うむ。我らがミズガルズに干渉するために使う機構のことだ」

「へぇ。詳しく教えてくれないか?」

「よかろう。心して聞け」


 わかりにくいヘルの話をまとめると、次のようなものだった。


地上ミズガルズの迷宮とは魔界ニブルヘイムから悪魔やモンスターを送る転送装置である

・地上の支配率はそのまま魔界ニブルヘイムに住むこいつらの力に影響する

・最奥の魔法陣(転移陣)は、本来魔界ニブルヘイムから出られない神や上級悪魔の類を(ミズガルズ)に召喚するためのもの

・本体が地上ミズガルズにいけるわけではない。あくまで分身らしい


 特に最奥の転移陣の部屋に来たときに、迷宮の主が自ら相手をするのは、こいつらの矜持というかポリシーというか、とにかくそういうルールらしい。絶対の掟だそうだ。


「何で俺立ちは、魔界ニブルヘイムに飛ばされたんだ?」

「知るか。ただアヤネは変わった術を持っていやがるから、それが原因じゃねーの?」


 ようやく六道のブーツから開放されたアスモデウスが、話に加わってきた。ずいぶん長い間踏まれていたが、恍惚こうこつの表情を浮かべている所を六道に見つかり、開放されたようだ。どうやら苦痛を快楽に変えられる類らしい。まったく男すぎる。


 同じ事を考えたのか、六道も横で頭を抱えていた。

 

「他に仲間が来ているかわからないか?」

「我は知らぬ。そういうことは魔王に聞いたほうが早いぞ」

「魔王……」


 その言葉に六道が反応した。魔王――そういえば、さっきヘルと話していた時も、その言葉が出たな。


「どんな奴なんだ?」

「アンラの事か? 魔王アンラ。悪魔の王。魔界の覇者。百眼の童子。空の君。深遠の賢者。千里を駆ける者。魔力管理者(マナバランサー)。我以上に二つ名を持つ魔界ニブルヘイムの実力者ぞよ」

「何でもお見通しで、何考えているのかわからない気持ち悪い奴だよ」


 ヘルが流暢に説明すると、アスモデウスが不機嫌そうに横槍を入れてきた。


「アハハハハ! アスモデウス。魔王の地獄耳に聞かれて消されても知らぬぞ」

「いえいえ。そんな事はしませんよ」

「そうだ。あんなヒョロヒョロもやし野郎。俺のアヤネにかかればイチコロだぜ」

「私が"誰の"――だって?」

「え。いや、すいません……」


 六道の恫喝どうかつに鳴りを潜めるアスモデウス。早くも息のあった掛け合いを見せてくれるとは。この2人は今後の展開に期待できそうだ。しかし、それよりも気になる事がある。


「ところでさ。こいつだれ?」

「は?」

「あん?」


 俺は、いつの間にか隣の席に座っていた一人の男に指を向けた。


「ん。んん。あ!アンラではないか!久しぶりだのう」

「やぁヘル。お変わりなく」


 ヘルが嬉しそうに話しかけると、男はにこやかに返事をした。







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