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放課後RPG  作者: グゴム
1章
2/100

2 検証

          挿絵(By みてみん)            

2


 この街はウルドと言うらしい。建物は木造が多く、森から流れ出る小さな川を中心に、大小の家々が並んでいる。街の規模はそれほど大きくないように見えるが、中央広場には昼間から酒をかっ食らい騒ぐ人々が群れ、通りには多くが行き交い、なかなかの活気だ。広場周辺には食事を売る出店が軒を連ね、お昼過ぎという事もありうまそうな匂いがそこここから漂っている。非常に誘われる匂いだったが、あいにく金がなかった。


 そこで怪しげな商品を売っている露天商のおっさんに持っていた携帯電話を古代文明の遺産だとうそぶくと、光や音が出るのが珍しいと好反応だったのでそのまま売り払う事にした。


 最初は金にする気だったのだが、細かな装飾がなされた古びた短剣が目に付いたので、これと交換でどうだと聞くと、そんなものでいいのかと即商談成立。電波も電気も無い世界で携帯なんか持っててもしょうがないし、どうせすぐに電池が切れる。おっさん、たぶん一日くらいしか楽しめないだろうな。



 あと仁保姫が倒したモンスターから出てきた結晶を見せて、これは買い取ってくれるのかと聞くと、魔石は冒険者ギルドに持って行けと言われた。やっぱりあるのか――ギルド。ちょうどいいので冒険者ギルドの場所も聞いて、おっさんと別れた。


 冒険者ギルドに行き、受付嬢から話を聞く。その説明をまとめると次のようなものだった。


・モンスターの素材を集めるか、賞金モンスターを狩ることが仕事

・お手伝い系の依頼は無くて、要するにモンスター退治が専門との事

・報酬の高さがそのまま危険度であり、ランクは無いらしい


「薬品とか食糧とかって売ってる?」

「それならあちらのカウンターで少々」

「そうか。あと、魔法ってどうやって覚えるんだ?」

「スキルのことですか? それならどこでも売っています。冒険者用スキルでしたら物品と同じカウンターにあります」

「って事はギルドって他にもあるって事か?」

「あります。戦士ギルド、魔術ギルド、迷宮ギルド、鍛冶ギルドなどが有名です。盗賊ギルドや暗殺ギルドなどは別の意味で有名ですが」


 そんな感じで受け付けのお姉さんや売り子の少女から情報収集。貨幣ルールや周辺地理、この国の政治体制やモンスターの扱いなど、世界観はなんとなくわかってきた。ま、一言で言えば、良くあるRPG的なファンタジー世界のようだ。


 社会風俗については余り興味は無かったが、システムの点でいくつか、興味のある点があった。


 一つはスキルが売り物という点。魔石(モンスター倒したときに出る石)に封じられており、砕くと覚えられるとの事。拾った魔石でもいいのかと聞いたら、基本的に加工しないとだめらしい。


 仕方が無いので、素直に拾った魔石売って、とりあえず一つだけ買えた【ダッシュ】を使ってステータスをみる。すると確かに、スキルが増えていた。勿論スキルレベルは1からだったが。


 もう一つは、魔法について。どうやらこの世界では魔術というらしく、スキルと同様に魔石を使って習得できるらしい。これについては、また後でゆっくり検証するつもりだ。


 とりあえず、武器とスキルを手に入れ、戦闘の準備も整ったので、先に戦闘を検証することにした。周辺のモンスターの情報を聞いた後、残りの金を食事と薬品に変える、そしてクッキーの様に硬いパンをかじりながら、草原へと向かった。



……



「……っは!」


 木をそのまま削り出した、原始的な棍棒を振りかざすゴブリンの攻撃をかわし、短剣を無防備な腹に叩き込む。ナイフなど使った事ない為、素人目に見てもおかしな刺し方だったが、それでもゴブリンは低い唸り声を出し、崩れ落ちた。


 崩れ落ちたゴブリンは、しばらくすると魔石と戦利品を残して消滅した。



 ウルドの街周辺のモンスターは弱かった。森で出会ったような凶暴そうなモンスターはおらず、小動物型のモンスターと、たまにゴブリンがいる程度だった。まあ、仁保姫のように簡単に倒せるというわけにはいかなかったが、十回ほど切りつければ相手のHPを削りきれる。他のステータスと比べてAGIが高いせいか、敵の攻撃は簡単に避けられるので、とりあえず殺されてしまう心配はあまりなさそうだ。


 さっきまでは、仁保姫がぶん殴ればそれでおしまいだったからあまりグロい事にならなかったのだが、やはりモンスターを刃物で切ると、血がどばどばと噴き出してくる。かなりのスプラッタ映像なのだが、なんとなく現実感が無い。自分でも不思議に思うくらい何も感じなかった。モンスターと割り切れているのか、それとも自分でも知らないくらい、残酷だったのか。まあ、あまり深く考えないことにしよう。


 次に覚えたてのスキル【ダッシュ】について。これは、体感で数倍の速度で走れるスキルだった。ただし直進限定。


 これもAGIが高いせいか、現実世界よりかなり早く動けた。直進だけなら、現実世界の自転車チャリよりも遥かに速度を出せる。コントロールが難しかったが、練習すればなんとでもなるだろう。


 次にスキル【一撃死】について。これは要するにバレないように急所を攻撃すれば、残HPに関係なく、一発で殺すスキルのようだ。


 ダッシュも用いながら、何回かモンスターの背後から襲ってみたが、これが結構むずかしい。まあ、ここが身を隠すものがあまりない草原だからかもしれないが。ちょっとでも気づかれたら発動しないし、また急所以外を攻撃すると失敗して、通常と同じダメージしか与えられなかった。


 そもそも、急所に当てろってのがきつい。人間型や動物型ならなんとなくわかるが、このてんとう虫型はどこが急所なんだよ。まったく。



 何回か練習がてらにゴブや小動物を惨殺。死がスキルアップ。


一橋空海 

LV 3

HP 197


STR 15

DEX 33

VIT 13

AGI 43

INT 18

CHR 30


スキル/死2, ダッシュ1


 レベルも上がっていた。DEX、AGI、CHRの伸びが良い。DEXとAGIが上がるのは助かるが、CHRは上がっても意味なさそうだ。あと、ステータスはレベルで上がるのか、スキルアップで上がるのか。タイミングをしっかり確認しないといけないな。


 練習の結果、この辺りのモンスターなら大体、背後から即死させられるようになった。てんとう虫以外。



……



 だいぶ日が傾いてきた。太陽が地平線に近づき、夕焼け色になり始める。ウルドの街は半面を深い森に囲まれており、もう半面には広大な草原が続いていた。草原の真ん中を、街道が延々と延びている。この街道の先には商業都市、そしてその先にはこの国の首都があるそうだ。


 森は開拓を進めているようで、俺とおなじくモンスターを狩る冒険者、木を刈るきこり、耕作をする農民などの人々がそれぞれの仕事をこなしていた。夜が近づき、みな片付けの作業に入っている。


 俺もそろそろ街に戻る事にした。しかし、街に向かっている途中、頭部だけ真っ赤なゴブリンを発見した。冒険者ギルドで赤いゴブリンという記述の手配書を見た記憶があるので、おそらく賞金モンスターだろう。


 すこし悩んだ。背後から急所(ゴブの場合は首であることは確認済み)を刺せばおそらくはスキル【一撃死】で倒せる。しかし失敗してガチ勝負になったとき、勝てるかどうかは未知数だった。他と違って、明らかに強そうだし。


 さてさて、どうするか。少し悩んだが、まあ薬品はいっぱい買ってほとんど使ってないから、やってみる事にした。最悪、全力で逃げればいいだけだし。



 相手の視線の外からのダッシュを開始。音を立てないように間合いを詰めて、最後は走り幅跳びのように水平方向にジャンプ――


 一気に近づき、短剣を首筋に突き立てた。


 HPバーが現れることなく、赤いゴブリンが光をまといながら消滅する。拍子抜けするほどあっさり倒せてしまった。まさに一撃必殺である。ドロップした大きめの魔石をゲットし、ゴブの落とした棍棒やら汚い布きれとかはポケットに入りきらないのですべて放置していった。



 

 その後、冒険者ギルドに帰って魔石売却。カウンターの女の人が一個一個、鑑定スキルを使って値段を決めていき、赤いゴブ(ヘッドレッドと名付けられてたらしい)の魔石についてはちゃんと賞金を出してくれた。どうやら、魔石を見れば分かるらしい。


 得た金で収納用の袋を購入した後、みなと合流するために冒険者ギルドを後にした。



……



 とある宿屋を貸し切って、クラスメイト全員分の部屋が確保されていた。どこにそんな金があったのかと思ったが、領主の計らいらしい。なぜここまで優遇されるのか腑に落ちなかったが、とりあえず今日得た情報を共有するために、皆で広間に集まっていた。


 まずは俺が、今日得た基本的な世界観とモンスターとの戦闘などについて報告。分かりにくい説明だったかもしれないが、よくあるファンタジーRPGの様な物なので、その手の物に詳しい奴らが噛み砕いて説明してくれるだろう。



 次に領主との謁見に臨んだ王子の話。


 騎士団を名乗るもやはり怪しまれる→実力を証明するために相手の護衛騎士と模擬戦→王子無双→領主感動→周辺の魔物退治を頼まれる→前金として金をもらう



 有り得なかった。漫画的に言うと主人公補正、またはご都合主義。この状況が物語なら、間違いなく主人公は王子だな。


 まあしかし『王子ならしょうがない』という感じの説明出来ない納得感は、クラス全員の共通認識だった。それほどまでにこの天王寺順という奴は、高い能力と出来た人格の持ち主なのである。


 王子はみんなに魔物退治を手伝うことを提案した。このクラスには男子17人女子20人の37人いたが、一人殺されてしまったため現在36人である。全員で動くには多すぎるので、何人かに分かれてパーティを作って行動することになった。


 たしかにこの周辺のモンスターは弱いから、戦闘に慣れるためにはちょうどいい。これから何にするにしても、戦闘を行なう事は必須だろうからな。

 


 隣のさあきに【解析】を使ってクラス全員のステータスを書き出す作業をさせながら話し合いの流れを見守っていると、タクヤが話しかけてきた。


「クー。組もうぜ」

「それは構わんが、俺はさっさと別の街に行くぞ?」

「俺もそのつもりだよ。みんなは王子に任せとけば大丈夫だし。じゃあ決まりだな」

「私も行く!」


 さあきが噛み付くように割り込んできた。まあこいつのスキル【解析】は便利だし、連れて行ったほうがいいだろう。


「わかったからさっさと作業を終わらせろよ」

「やった! 二人ともよろしくね!」


 カラカラと喜ぶさあき。満面の笑みを浮かべながらタクヤの手をとってぶんぶん振り回した。


「そうだ。クアラちゃんも誘おうよ!」

「仁保姫は大人気だろ。ほら、あんなに囲まれてる」


 指を指した方向には、小さなツインテールが人に埋もれるように動いていた。みんなが仁保姫とパーティを組もうと取り囲んでいるからだ。今日の活躍からして、あいつと組めれば安全ってことは確定しているわけだから、そりゃ人気だろうよ。


「大丈夫。まかせといて! ほらタクヤいくよ」

「え? なんで俺も?」


 さあきは戸惑うタクヤを強引に引っ張って、仁保姫争奪戦の現場に突進していった。あいつ、まだ作業終わらせていないのに。



「おい。空海」

「あん?」


 見ると背の高い、坊主頭の男が立っていた。細身だが筋肉質な体に、良く通る声。そして眩しいほどにさわやかな笑顔の男子だった。


 門倉(かどくら) (ふう)。男。出席番号8。かなりの強豪であるうちの野球部で、レギュラーを張るくらいの奴だ。坊主頭だが、まあ顔も悪く無い。だがなぜかモテないことをよく俺に愚痴ってくる。なぜだろうね。いまも爽やかなスポーツマンスマイルで、こんなにも純粋な目をキラキラさせているのに。



「この世界に性奴隷っているかな?」



 前言撤回。嬉しそうな顔しながら何を言ってるんだこいつは。さっきまで爽やかに見えていた笑顔が、一気にうさんくさく見えてきた。


「この街では奴隷市は無さそうだったが。東の教国でも禁止されてるらしいし」

「なんだと!」

「でもこの国は西の帝国寄りだからどこか大きな町なら売ってるんじゃないのか?」

「よしきた!」


 ガッっと音がしそうなほどの、大げさなガッツポーズをしながら、このハゲは言い放った。


「おれは奴隷ハーレムを作るぞーーーーーー!!!!」



 だめだなこいつ。もう手遅れだ。



「金を貯めて、アジトを作って、そこで女を囲う。5人、いや10人は欲しいな。巨乳にロリに金髪に褐色に姉妹丼、ああこの世界ならエルフや獣人もいるのかな。やっべ! ちょー興奮してきた!」

「たしかに奴隷ハーレムって男のロマンだけどさ。ほら、ハーレムと修羅場は紙一重って言うだろ。結構面倒だと思うんだが……」

「お前はさっさと他の街に行くんだろ? おれもついていくぜ! そして奴隷市を探す!」


 無視された。それはもう気持ちのいいくらいに。まあ、バカで童貞で暑苦しいやつだが、悪い奴ではないから別にいいか。


 これで4人――と思ったら、仁保姫争奪戦に出向いていた二人がお目当てを連れて帰ってきた。どういうトリックを使ったのかと思ったが、仁保姫がさあきの後ろで顔を赤くしながらタクヤを見ていたので、そういう事かと納得した。


 これで5人。数としてはいい感じだ。俺たちはすぐにこの街を出る予定だし、こんなもんだろう。とりあえずリーダーはタクヤに決定。明日は朝から手分けして旅の準備を整えて、明後日出発ということになった。





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