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放課後RPG  作者: グゴム
2章
16/100

16 対決

          挿絵(By みてみん)            

16


「アスモデウス。ソロモン72柱の一柱。序列は32位。七罪のうち色欲を司る悪魔の王。ドラゴンに乗り、三つの頭、蛇の尾を持ち、足はガチョウのような水かき。三つの頭はそれぞれ牡牛、牡羊、人間の形をしており、口から炎を吐き、頭には王冠、手には旗と槍を持つ」


 突然、六道りくどうが語り始めた。みながポカンとした顔で六道を見つめる。


「私が知っているアスモデウス、つまり現実世界での悪魔学や黒魔術におけるアスモデウスはそういう設定よ。でも昔の悪魔や怪物から名前だけとってボスをつくるなんてRPGじゃあ良くやる手法だから、あくまで参考程度にしといたほうがいいわ」


「さすがあやねちゃん! すごい物知りだよね」

「なるほど。三頭でドラゴン、そして口から火か。キングギドラみたいなものか」

「キングギドラって、冷凍光線じゃなかったっけ?」

「稲妻光線だろ。たしか」


 引力光線だよおまいら……いや、そうじゃなくて。


 六道の奴、ソロモン72柱の序列とかそらんじれるのかよ。どんな中二だよおい。六道はなんていうか、クールなのか中二なのかよくわからんな。クールビューティじゃなくてクールチュウニ。あ、いいかも。



 俺たちは今、アスモデウスの迷宮・地下21階にいる。結局、今までと同じ構造だった20階を3時間ほどで探索し終えると、俺たちはそのまま最下層である21階に訪れていた。最悪、階段下りたらすぐボス戦を覚悟しておいたのだが、手前に階段部屋があったため、現在休憩中である。


 さあきの【解析】によれば、21階の構造は小部屋2つを挟んで大部屋一つという簡単な構造になっていた。片方は俺たちが居る階段部屋であり、もう一方は宝箱のマーカーがあるとの事からお宝部屋らしい。つまり、真ん中の大部屋がボス部屋であろう。


 問題はその部屋には敵を現すマーカーが無かった事。できれば先に【解析】スキルで敵情報を得てから挑みたかったが、仕方が無い。


「まあ相手がどんな奴だろうが、とりあえず最初にすることは決まってるよ」

「え。そうなの?」

「ああ。簡単だよ」


1.さあきが【解析】スキルで急所を調べる。

2.タクヤが【時術】【ポーズ】で時を止める

3.俺が急所に【一撃死】を叩き込む。


 人差し指、中指、薬指の順に指を立てながらタクヤはそう説明した。先手必勝の電撃作戦だ。一般的にRPGのボスに即死系の攻撃が効く事なんかあまり無いが、それでも効く奴は居る。試さない手もない。


 だって、決まれば一瞬で終わるし。


「即死すればそれでよし。しなかったらしょうがないから、仕切りなおして正攻法だね。その時はまた戦いながら指示するよ。まあとにかく――」


 みんな。死なないように頑張ろう。



……



 それはたしかに悪魔だった。


 大部屋に入った瞬間、部屋いっぱいに描かれた巨大な魔方陣から現れたそれは、予想通りアスモデウスであるとさあきが告げた。


 ただし六道の話とはかなり見た目が異なる。下半身は蛇のように長くとぐろを巻いているが、足は無く、羽やドラゴンの部分なども無かった。そして一番の特徴は上半身である。


 アスモデウスは3つ上半身を持っていた。左はもふもふとした毛並みを持つ弓を構えた女性、右は巨大な角を持つ槍を構えた女性、そして中央はあでやかな黒髪を持つ額に青い宝石が埋め込まれた褐色の女性。それぞれが妖美な笑みを浮かべていた。


 三頭持ちの蛇女ラミアと言えばわかりやすいか。とにかく初めて見る非現実的な悪魔。部屋中を満たす魔法陣の幻想的な光もあいまって、神秘的な雰囲気すら漂うそれは、明らかに今までのモンスターとは一線を画すプレッシャーで俺たちの前に現れた。


「さあき! 【解析】」

「え……? あっ! えっと。"宝玉"。中央の女の人の額にある"宝玉"が急所だよ!」


 金縛りを打ち消すようにかけられたタクヤの呼びかけ。それにさあきが慌てて応える。その答えを聞いた瞬間、俺は飛び出した。


 アスモデウスまでの距離は20mも無い。【ダッシュ】を発動させて走れば5秒とかからずにたどり着ける。


【時術】【ポーズ】


 背後から聞こえたその声と共に、狙いを定めていた中央の褐色女性の動きが止まる。俺は大きくジャンプすると、結構な高さの位置にあるアスモデウスの額に飛び掛り、逆手に持った短剣を"宝玉"に叩き込んだ。


 ピシリッ――と硬い音と共に、宝玉が欠けた。そして――


 アスモデウスの頭上にHPバーが現れ、一割ほど減少した。


「クー! 横だ!!」


 その声で、初めて左右の女性達の動きが止まっていないことに気がついた。それぞれの上半身が攻撃準備を整え、今まさに矢を放ち、槍で突いてきたのだ。


「くっ」


 少し気がつくのが遅かった。なんとか槍の方は受け流すことが出来たが、もう片方の弓矢攻撃は肩口に食らってしまい、HPが3割ほど減少する。ちょーいてぇ。


 どうやら失敗したようだ。原因はなんだ。即死耐性か? とにかく一度離れないと。


 自由落下中になんとか体勢を整え着地をする。距離をとるためにバックステップを行おうとしたその時、中央の褐色上半身と目が合った。そして額の宝玉から怪しいコバルトブルーの光が放たれる。


 蠱惑的な視線と共に。


 次の瞬間、後詰めに飛び出して来た仁保姫の飛び蹴りが決まり、アスモデウスは大きくのけぞった。その隙に俺はアスモデウスから距離をとる。


「一橋さん。大丈夫ですか?」

「ああ。ありがとう」


 なんだ? いまのは。攻撃か? 状態異常狙いか? とにかく、さっさとこいつらを殺さないとな。



 こいつら侵入者を……。



 右手の短剣を握りなおし、アスモデウスに対峙してこちらに背を向けている仁保姫に向かい【ダッシュ】を発動する。そして、一気に距離を詰め、その細く無防備な首筋に短剣を突きたて……



 ガンッ!!



 凶悪な音と共に天地が逆転した。鈍器の様なもので頭を殴られ、地面に突っ込んだのだ。

 

 なんなんだ? 次から次へと。ちょー痛いんだけど。HPもあと3割も無いんだけど。結構やばくね? 俺はただ、仁保姫を殺そうとしていただけ……


「なんで俺が仁保姫を攻撃してんだよ!」


 自分自身に突っ込みを入れながら、勢い良く顔をあげる。そこにはバスタードソードを担いだ六道が、無表情で立っていた。どうやら俺はその大剣の腹でぶん殴られたようである。良く無事だったな。


 しかし危なかった。状態異常を食らっていたらしい。おそらく"魅了"かなにかだろう。敵に操られて味方を攻撃してしまう厄介な状態異常。六道に力ずくで止められていなかったら仁保姫を攻撃していた。【死】【一撃死】の性質を考ええれば最悪殺してしまっていただけに、ぞっとするな。


「大丈夫? "混乱"か"魅了"でも食らってたみたいだったけど」

「ああ。頭はしっかりしてたから、おそらく後者だ。真ん中の上半身と視線を合わせた時だろう。褐色の奴とは視線を合わせるなよ。仁保姫にも伝えてくれ」

「わかったわ」

「しかし六道……」

「ん?」

「もうちょっと手加減してくれても良かったんじゃ。かなり痛かったぞ」

「あらそう? ごめんなさい」


 そういって表情をくずさず、舌を出した。すぐにそれを引っ込めて、アスモデウスに突進して行く六道。全然謝ってる感じじゃなかったが、可愛かったから――間違えた、助かったから許してやる。


「クー。大丈夫?」


 タクヤが横にやってきた。


「ああ。六道の味方攻撃は効いたがな」

「いきなり六道さんがクーを殴ったからあせったよ。"魅了"ってとこかな」


 どうやら、タクヤもすでに状況を掴んでいるようだ。


「だろうな。完全に思考がすり替わって、仁保姫を攻撃しようとしてた。どうやらそういう能力持ちらしい」

「どの攻撃でくらったぽい?」

「褐色の奴と視線は合わせた時だ。六道と仁保姫にはもう伝えた」

「わかった。んじゃ回復するまでちょっと休んでて」

「ああ」

「よし。クアラ! 左の弓を相手して。あやねは右! 2人とも無理をせずに防御重視。できるだけ攻撃を惹きつけて! フーはいつも通り、DD(ダメージディーラー)役頼むよ!」


 初ボス戦が、こうして始まった。



……



 戦闘開始からどれくらい経っただろうか。奇襲作戦の速攻【一撃死】狙いが失敗してしまったので、予定通り予定変更して正攻法での戦闘を進めていた。アスモデウスのHPは残り3割ほどといったところだろう。


 ここでいう正攻法とは、タクヤの指揮の元、接近戦組の六道・仁保姫の2人が守り重視で様子を見、フーが遠距離攻撃、俺がヒットアンドアウェイでちくちくとダメージを積み重ねるというもの。さあきは基本的にタクヤのそばで状況把握に徹し、いざという時の予備戦力である。


「残り三割切った。行動パターンの変化に注意して!」


 さあきからのステータス報告を受け、タクヤが皆に指示を出す。問題はここからである。


 この手のゲームのボスはある程度HPが減ってくると、行動に変化が現れるのが普通だ。特に瀕死になった瞬間、そいつの持つ最強攻撃をやってくるというのはいわばテンプレであり、今回もタクヤはその点を注意していた。


 最初に俺がくらった【魅了】攻撃はあれから一度もされていない。中央の褐色上半身に近づいていないからという事もあるが、このアスモデウスが持つ最強攻撃で、可能性が高いのはあの【魅了】絡みだろう。はっきりいって全員が魅了されたらおしまいである。そのため、お互いにできる限り距離をとり、同時に【魅了】される可能性をできるかぎり低くしている。まあ全体攻撃とかだったら、おしまいだけど。



……


 しかし、俺とタクヤの心配は杞憂に終わった。正面を避け、左右後ろ遠距離からちくちく削り続けた結果、とくに危険な攻撃もされずにHPを削りきってしまった。これにはちょっと拍子抜けである。


 アウモデウスが美しい容姿にそぐわない低い唸り声をあげて、消滅した。


「やったー! やったやったね!」

「うん! みなさんおつかれさまー」

「よっしゃーお宝ー!!」

「あ、待ってフー!」


 初ボス戦勝利にはしゃぐさあき、仁保姫、フー。一目散にお宝部屋に走っていった三人を尻目に、俺とタクヤはなにかもやもやした、不完全燃焼感を感じていた。


「最後は拍子抜けだったな」

「まあ……ね、でも無事に勝てたからよかった事にしようよ。一応最初は危なかったし」


 皮肉めいた口調で、タクヤが言った。


「うるせぇ。結局なんで【一撃死】が発動しなかったんだろうな」

「あれは明らかに、中央以外の上半身が動いてたからだよ。【ポーズ】で止まってたのは中央のやつだけだったもん」

「それが謎だよな。なんで同じ奴なのに【ポーズ】でとまんねーんだよ」

「まあまあ。反省会は後でホームに帰ってやろう。今はほら、戦利品だよ」


 そういってタクヤも三人の後を追う。俺も続こうとした時、六道がまだ部屋の中心で突っ立っている事に気がついた。その場所は魔法陣の中心でもあるので、一段と明るい輝きが、六道を幻想的な色に染めていた。


「おい。なにやってんだ?」


 近づき声をかける。こちらに気がついた六道が、心無しか高揚した顔でこちらを振り返った。


「ねえ。この魔法陣って何の意味があると思う?」

「さあ? あのボスを召還する為とか?」

「じゃあ誰が、何のために描いたのかな」

「それこそわかんねーよ。この世界じゃあ迷宮自体なんで存在するかもわからないらしいし」

「そう。でもアスモデウスは、確実に悪魔だったわ」

「六道。何が言いたいんだ?」

「あのね」


 六道が愛用のバスタードソードを振りかぶりながら言った。その大剣に【闇術】の一つか、なにやら黒い霧のようなものが纏わりついている。なんだこれ。


「要するに、この魔法陣から魔界にいけないかなって思って」

「は?」


 俺のアホみたいな声と同時に振り落とされた刃は、部屋中を覆う魔法陣の中心に勢い良く突き刺さった。


 魔法陣が輝き、コバルトブルーの光が部屋に満ちる。
















 気がつけば、俺は魔界にいた。





一橋空海

Lv29


HP 824

STR 101

DEX 133

VIT 75

AGI 156

INT 69

CHR 128


スキル/死19,短剣23,ダッシュ18,風術17,水術17,隠密28,眼力25,開錠17,聞き耳5,魔石加工11


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