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放課後RPG  作者: グゴム
2章
12/100

12 奴隷

          挿絵(By みてみん)            

12


「説明してもらおうか」

「うっ……」


 恫喝どうかつに黙り込むフー。目が右へ左へ、トビウオのように泳いでいる。どう説明しようかと、あれこれ思考をめぐらしているようだ。


 2人の少女が互いを守るように抱き合っていた。いや違うな、ショートヘアーの小さい方が、ロングヘアーを大きい方をかばっているのか。ショートの少女は威嚇するような目で、ロングの少女は怯えるような目で、それぞれ俺とフーのやり取りを窺っていた。


「えっとな。この子達は奴隷市で売られてて……」

「それは大体わかる。で、俺はなぜここで待っているのが馬車ではなく、少女2人なのかを聞いているのだが」

「えーとっ……話せば長くなるわけで……」

「は・な・せ」



 しどろもどろに搾り出したフーの言葉をまとめると、大体次のような感じだ。


 2人は姉妹。ロングの方が姉のサラ、ショートの方が妹のエレン。フーは初めてスクルドに来た時に、奴隷市で2人と出会ったらしい。ほかの女奴隷と比べて事情があって安かった事もあり、テンションが上がっていたフーはその日の内に買い取る約束をしてしまった。しかし、金が揃っているわけでもなく、伸ばしてもらっていた期限も迫っていたので、しょうがなく馬車の代金で買ってきたという話だ。


 あー……やってしまったな。奴隷ハーレムを作ろうとしている奴に、大金を持たせた俺が間違いだった。


「で、いくらしたんだ?」

「……金貨20枚」

「まぢでか……」


 そう吐き捨てて、少女2人を見下ろす。ビクリと体を震えさせて、さらに強く互いを抱き合うサラとエレン。髪の長さは異なるが、2人とも金色の髪に蒼色の瞳、そして白雪のような肌。ボロボロの服装に栄養の足りてなさそうな体つきだが、奴隷に落ちる前は貴族の家系だったらしい。よく似た姉妹だ。


 年齢はサラが俺たちより少し下で、エレンは小学生高学年といったところだろう。2人とも、まだまだガキっぽさが残っている。


 しかしサラはまだしも、エレンについては言葉も無い。こんなガキを奴隷ハーレムの一員に選んだのかこのハゲは……。いや、こいつの性癖などどうでもいい。問題はこれからどうするかだ。


 フーがなにやら言い訳を並べているがとりあえず無視で。この世界にクーリングオフなんて制度があるとは思えないし、返品は効かないだろう。それよりもさっさとホームに帰らないと日が暮れてしまう。荷物も持って帰らないといけないし。


 とりあえず、一度ホームに戻って、奴隷の扱いはタクヤ達と相談して決めるか。よし。


「馬車以外の言われたものは買ってあるのか?」

「えっ!! あ、あぁ。一応」

「おーけー。じゃあ荷物運び用の荷車、今すぐ買ってこい。ダッシュな」


 そういって金貨を一枚投げ渡す。慌ててそれを掴み取ったフーが逃げ去るように、荷車を買いに走っていった。


「さて」


 2人とも相変わらず怯えている。まあ実際、怒っているからしょうがないが。


「えーと。サラとエレンだっけ? 言葉は分かるか?」

「は、はい」

「うん」


 2人がそれぞれ答えた。出来る限り声のトーンを落としながら言う。


「さっきの男が荷車を買ってきたら、荷物を載せるのを手伝ってくれ。すぐに俺たちのホームに向かう。日が暮れるまでには着くと思うから」

「あ、あの」

「わかってる。歩けない、だろ?」

「はい。申し訳ございません」


 姉のサラのボロボロのロングスカートからは左足一本しか見えなかった。右足のヒザから下を戦争で失ったそうだ。手には松葉杖代わりだろう、木の棒を持っていた。


 値段が安かったのはそれが理由だ。それもそうだと思う。当然ながら、誰が働けない奴隷など欲しがるのかという話。動けない奴隷の使い道など、ギリギリ愛玩動物としての価値しかないのだろう。その点サラは器量がよく、性格も従順であったため、性奴隷としてギリギリ価値があったみたいだが。


「姉さまも分も、私が働く、働きます」


 妹のエレンが舌足らずな敬語で主張する。こいつはまだどう見てもガキだ。フーの話だとサラと一緒に買って貰わないとイヤだと、手が付けられないほどに暴れていたらしい。事実、身体中に傷がある。かなり無茶をしていたのだろう。


「2人とも、これからどうするかはホームに戻ってから決める。まあ悪いようにはしないが、金貨20枚分の働きはしてもらうだろうから、覚悟しといて」

「……はい。覚悟しています」

「私も、姉さまと一緒なら大丈夫。どんなことでもする、します」


 ん? なんか間違ったニュアンスで伝わった気がするな……まあいいけど。



……



 俺と奴隷2人を含む荷物満載の荷車を、フー1人に牽かせて走ること数時間。ホームに着く頃には日が暮れて辺りが薄暗くなってしまった。


 到着すると同時に、仁保姫が心配そうな顔で出迎える。


「おかえりなさい。一橋さん。門倉さん。遅かったですね。その方々は?」

「ああ。仁保姫。すまんがこの2人をお前らの部屋に連れてって、体を拭いて新しい服を着させてやってくれ。あと髪の長い方は足を切断してるから、ちょっと状態を見といてくれるか?」

「え? えっと、わかりました」


 仁保姫が2人を連れて二階の女性部屋に向かう。あいつは応急手当の知識もあるそうだから、任せて大丈夫だろう。


 入れ違いに残りの三人がホームから出てきた。


「クー? 今の2人はなに?」

「ああ、タクヤ。今から話す。その前にさあき」

「なになに?」

「お前は仁保姫と一緒にさっきの2人、世話してこい。一応、何か隠し持ってるかもしれないから、確実に裸にひん剥いて着替えさせろ。あとステータスも何もかも全部調べとけ」

「え。なんかエッチ」

「うるせぇ。さっさといけ」

「はーい」


 とことこホームに戻るさあき。タクヤに状況を説明しようと思ったが、六道りくどうが黙って荷車の荷物を運び込み始めていたので、俺たちもそれにならい、とりあえず荷物をすべてホームに運び込んだ。走り続けてボロ雑巾のようになってしまった変態坊主は放置して。



……



「なるほど。馬車じゃなくて、奴隷を買ってきたってことね」

「そ。しかも性奴隷候補にな」

「バっ! それは……!」


 俺の一言に、フーが慌てる。


「違うのか?」

「えっ? えっと……はい。そうです」

「最低ね」

「うっ……」


 回復したフーを囲んで、事情を説明する。タクヤの追及に加え、六道りくどうのゴミを見るような目からのさげすみ。完全に『もうやめて、フーのHPはゼロよ』状態だがまったく同情できない。いいぞ、もっとやれ。


 一通り状況を飲み込むと、タクヤは大きく息を吐きながら言った。


「まあ、買ってしまったものは仕方がないね。2人には家事や炊事をしてもらおう。ホームを管理してくれる人が居たほうが、迷宮探索の効率が上がるだろうし」

「だけどサラは隻脚せっきゃくで、エレンなんかまだガキだぞ。できる仕事なんかあるのか?」

「エレンは力仕事じゃなければ大丈夫だと思うわ。問題はサラだけど、まったく歩けないって訳でも無いんでしょ? 炊事やお針子はりこの仕事くらいできるはずよ」


 六道が、壁に背を預けながら言った。


「それはそうだが」

六道りくどうさんの言う通りだね。なんなら簡単な義足でも作ってやればいい。フーが」

「俺っ!?」


 タクヤの言葉に、フーが絶望的な顔をする。 


「あたり前でしょ。寝ずに作ってね。あと彼女達の代金は借金扱いにしておくから、迷宮潜ってさっさと稼ぐように」

「う……うっす」


 タクヤの非常な判決に、フーがうなだれる。自業自得である。


 そんなこんなで2人にはメイドとして働いてもらうことになった。体を洗って清潔な服を着させられた2人を広間に呼び、2階の余っている小部屋を与えて、住み込みで雑事をしてもらう旨を説明する。基本的に食事も生活も、俺たちと同じ様にしてもらうことにした。


 予想していた待遇と違ったのか、ずいぶんと戸惑われた。なぜ奴隷が主人と変わりない待遇なのかとも聞かれた。確かにこちらの世界では異常なのかもしれないが、俺たちが奴隷をどうやって扱うものなのか知らない以上、どうしようもない。


 『その代わり、一生懸命働いてくれ』とタクヤが言うと、涙目になりながら2人が頭を下げた。さあきと仁保姫は可愛い妹が出来たといってはしゃいでいるし、六道もまんざらじゃなさそうだ。


 女成分が当社比60%増しになって、さらにかしましくなってしまったわけだが。


「人手は欲しいと思ってたし、よかったんじゃないかな? クーはメイド好きだろ?」

「まあな。メイド服でもあれば完璧なんだけどな」

「今度、俺が買ってくるよ」

「だまれフー。俺が買ってくる。お前は馬車馬のごとく働いとけ」

「ひでぇ……」

「まあまあ2人とも。とりあえず一応確認しとくけど」


 タクヤがニヤニヤしながら、言った。


「エロい事は禁止ね」


……たりめーだ。








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