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放課後RPG  作者: グゴム
1章
1/100

1 放課後RPG

          挿絵(By みてみん)           

1


 それは一瞬だった。


 俺、一橋ひとつばし 空海くうかいは、いつも通り幼馴染と一緒に登校し、退屈な授業を全力で聞き流し、休み時間には親友と最新ゲームについて意見交換をし、今後の発売スケジュールを予習した。そして今日も退屈な学校生活が終わり、ホームルームが終わって家に帰ろうと席を立った瞬間――


 突然に世界が変化した。



……



 教室にいた全員が、何の前触れもなく、周囲を木々で囲まれている広場にいた。


 ボトボトと椅子に座っていた連中が尻餅をつき、突然の理不尽な仕打ちに対してうめき声を上げる。続けて周りを見渡して声を失っていた。そこに見えた光景は、くすんだ色のタイルと灰色のロッカー、そして木目の浮いた学習机が並んでいた教室ではなかったから。


 広葉樹が所狭しと乱立し、芝生が地面を埋め尽くしている。俺達が居たのは土と樹の匂いに溢れた、緑深い森林――都会に住む俺達には、見た事も無い光景だった。



 しばらくの静寂のあと、爆発するようにクラスメイトが騒ぎ始めた。


「何!? 何が起きたの!?」

「ここ何処?」

「どうなってるんだ?」


 余りに唐突な事態に思考停止となっていった俺の頭が、その大騒ぎが現実に引き戻される。一回、大きく深呼吸をして、周囲を見渡した。


 周囲は鬱蒼うっそうとした森林。俺たちのいる場所はなぜか広場になっていた。上空を見上げる、とんでもなくデカイ樹が、空と太陽を遮断している。広場になっているのも、この大樹が原因なのだろうか。



 依然として収まらない騒ぎの中、背後から聞きなれた声が聞こえた。


「おっす。クー」

「タクヤか」


 牧原(まきはら) タクヤ。男。出席番号30。イケメンだが、中身は重度のネットゲーマー、いわゆる廃人だ。小学生の時からの付き合いがある。その頃からこいつは当時最先端だった有名MMOにおいて、トッププレイヤーだった。今もその世界では有名人との事。俺はコンシューマーゲーム派なのでよく知らないが。分野は違えど重度のゲーマーという共通点を持つこいつとは、昔から気が合う。


 ちなみにクーは俺のあだ名である。空海だからクー。俺自身はあまり好きでは無い。元凶は幼馴染のバカ。


「クー。この状況どう思う?」

「みんなの事か? まあ王子がすぐに収めるだろ」

「そうじゃなくて、この"世界"についてだよ」

「ああ、そっちか」


 顔を上げ、先ほど見つけた巨大な大樹を見上げる。直径も少なくとも数十メートルはあり、その高さは見当もつかない。高層ビルと見紛うほどの大きさだった。


 俺は都会生まれの都会育ち――木と言えば桜の木より大きな木なんか見た事ないから良く分からないが、こんなにも巨大な木が、日本に存在するのであろうか。


 俺の知っている限りでは、答えはノーだった。


「少なくとも、日本ではなさそうだな」

「――ということは、ついに俺たちは異世界に召喚されたか!?」

「さあな。もしそうなら試しに魔法でも使ってみるか?」


 嬉々とした様子のタクヤに、冗談交じりに返す。異世界トリップ――そんな夢想の産物に、クラス全員が巻き込まれただと? あほらしい。


 しかしタクヤは、『それはいい』と喜び勇み、手を突き出しながら、自身のプレイしているゲームの魔法と思われる名前を叫び始めた。



 ……まあ、なにも起きないわけだが。



 しかし異世界で無いとしても、先ほど言ったとおり日本でもなさそうだ。では、ここは何処だと言うのか……



「クー。タクヤは何してるの?」

「ん。現実逃避だろ」


 タクヤが無駄な努力を行なっているのを横で眺めていると、不安そうな表情をしたポニーテールの小柄な女子が声をかけてきた。くっきりとした大きな瞳に、長いまつげと小さな唇。半袖セーラーの制服をさらに腕まくりし、細い二の腕をさらけ出した、見慣れた女子だった。


 更科(さらしな) 沙愛(さあき)。女。出席番号16。幼馴染。家が隣同士というテンプレ的状況に加え、幼稚園から現在の高2にいたるまで、皆勤賞で同じクラスという、もはや呪いとしか思えない腐れ縁の仲だ。明るくて容姿も良く、結構もてるらしい。俺にはどこが良いのか、よくわからないが。


 人懐っこい性格で、いつもカラカラと明るい奴なのだが、笑顔の消えたその顔と、折りたたんだ小さな腕から、しぼんだ風船のように不安げな様子が伺えた。


 しかし、俺の前で真剣にポーズを決めながら叫ぶタクヤをみて、ちょっとは気が落ち着いたようだ。横から見る分にはタクヤの奴、ふざけている様にしか見えないからな。



 魔法詠唱が無意味に終わり、軽く落ち込みながらタクヤが帰ってくると、さあきがどんまいと声をかけていた。しかしその時、さあきは不思議な事を言った。


「ねぇ。さっきから変な文字がいっぱい出てくるんだけど、これって二人にも見えてるの?」

「……? どんなのだ?」

「なんか、みんなを見ると出てくるの。名前とか数字とか"Lv1"とか」


 タクヤと顔を見合わせる。


「それって、ステータスかな?」

「"Lv1"とかいうなら、そうだろう。おいさあき。それって一人一人に見えるのか?」

「たぶん。いっぱいあるから、ワケわかんないけど」

「じゃあタクヤを見つめて、書いてあることを全部読んでみてくれ」

「全部? いっぱいあるけど……。えーと『牧原タクヤ・Lv1・HP158・STR7・DEX11・VIT15・AGI10・INT30・CHR21・スキル/時術1』かな」



 確定だな。ステータスだ。どうやらステータスがある世界らしい。


「でもどういうこと? 俺たちには見えないよね」


 タクヤが首をかしげる。ステータス……その内約を見ると、RPGの様な印象を受けるステータスだ。だが、もしもここがRPG世界なのだとする、魔法の一つくらいありそうな気もするが、実際タクヤは使えなかった。どういうことだ?


 まあいい。とりあえず、ステータスからだな。



 俺は目をつむり、【ステータス】と念じる。すると脳裏に、文字が羅列(られつ)された電子ウィンドウが現れた。


一橋空海

Lv1 


HP189

STR 11

DEX 23

VIT 12

AGI 30

INT 8

CHR 16


スキル/死1



 ビンゴ。



「二人とも、眼を閉じて【ステータス】って念じてみろ」

「えーと? おぉ。ステータスだね。さあきが言ってたことが書いてある」

「あ。これこれ。私が言っている文字」

「さあき。お前はスキルの所になんて書いてある?」

「んっと。【解析】かな」

「なるほどねぇ」


 どうやら異世界にきたことが確定したようだ。いやゲームの世界の中か? レベルにステータスにスキルがあるんだし。


 俺のスキルは【死】で、タクヤのは【時術】、そしてさあきのは【解析】。さあきの【解析】は人のステータスを調べるスキルみたいだな。タクヤの【時術】は呼んで字のごとくだろう。俺の【死】はよくわからん。ステータスについても意味はよくわからんな。


「スキルにレベルにステータスか。典型的なRPGだね」

「ああ。ってことは、おそらくモンスターもいるだろうな」

「HPもあるしね。やっぱりHPが無くなったら死ぬのかな?」

「どうだろうな。実際HPが無くなる=死亡ってゲームは、そこまで多く無いからな。でもまあ、試すわけにはいかないが」

「うーん」


 大分状況がつかめてきた。なんの冗談か知らないが、どうやら俺達は、タクヤが最初に言った通り、異世界トリップしてしまったようだ。しかも、RPG色の強い世界に。


 なぜこんな事になってしまったのか。理由はさっぱりわからん。しかし、異世界だろうがなんだろうが、とりあえず次にやる事は一つだ。

 


「それじゃあ、そろそろ王子と相談するか」

「そうだね。だいぶみんな落ち着いたみたいだし。さすが王子」



 先ほどまでは、クラスメイト達は恐慌状態とは行かないまでも、かなり騒然とした雰囲気だった。しかし徐々に落ち着きを取り戻し、何人かの小グループで固まって座り始めていた。


 クラスの中心人物が、落ち着くように指示したのだろう。そいつは、一際大きな集団の中心にいた。



 王子こと、天王寺(てんのうじ) (じゅん)。男。出席番号20。一言で言えば、天才だ。高1から生徒会長になってみたり、剣道三段だったり、全国模試でも上位キープしてみたりと、やりたい放題な才能に加え、厄介な事に性格まで出来ていやがる。非の打ち所が無い完璧人間。当然、クラスの皆からも頼りにされている。


 俺とタクヤがこんなに暢気に状況を検証していたのも、この王子が居るからだった。こんな状況で、この男が動かないはずが無いからな。


 王子に声をかけ、タクヤが今分かっている事を説明する。ここはおそらく現実の世界ではない事。ステータス、スキル、そして、おそらくモンスターが居るというの事。


 その話を周りで聞いていた奴らが、信じられない――もしくは理解できないといった表情を浮かべる。まあ、当然の反応である。俺だって、信じているわけではない。そうとしか、考えられないだけだ。


 その中で王子は、すぐに自身のステータスやスキルを確認していた。


「スキル【天賦の才・剣】1 【光術】 1 、とあります」

「さっすが王子。完全に勇者ですね。本当にありがとうございます」


 タクヤがあきれた口調で皮肉った。まったく、その通りである。なんで2個もスキルがあって、しかもそんなに勇者っぽいんだよ……



 王子は異世界であることを受け入れると、次にこれからの事について尋ねてきた。俺たちは、何は無くても人のいる集落に行くべきだと主張。王子の考えも同じようで、最初の問題はどうやって集落を見つけるか――だった。俺は、上空に広がる大樹を見上げる。


「なあ……異世界召還物ってさ。大体、身体能力が強化されてるよな」

「確かに、大体そうだね」

「そういう物なのですか?」


 俺が聞くと、タクヤと王子が順に答えた。俺は、試してみるか――と呟いて、後ろにいたさあきを見つめた。


「おい。さあき。ちょっとその場でジャンプしろ。いいか、思いっきりだぞ」

「え? うん」


 タクヤは何かに気付いたようにニヤニヤし始め、王子は少し不思議そうな顔で、じっと見つめる。さあきはそんな俺達の視線に首をかしげながらも、仕方なくといった様子で、思いっきりジャンプした。


「――えっ?」


 そのジャンプは、気持ちが悪いほどの初速で飛び上がると、自身の身長を軽々と超えるような大ジャンプとなった。予想だにしない大ジャンプにさあきは軽くパニックに陥り、はためくスカートを抑えることさえ忘れて、空中でキャーキャー騒ぎ始める。


「おー跳んだなー」

「白だ! やっぱ白が至高だよね!」

「これは……」


 喜ぶタクヤと、無言でガン見している王子。どうやら王子も、聖人君子というわけではないようだ。安心した。


 ちなみに降下中に我に返り華麗な着地を決めたさあきに、三人ともぶん殴られたのは言うまでもない。





 予想通り身体能力は上がっていた。これなら多少の無茶も可能だと言うことで、俺たちは広場中心におわす大樹に登って周りを見渡すことにした。


 冗談みたいな大きさの大樹だったが、側面は割りとごつごつしてて足場は十分にあったし、先ほど確認した通りジャンプ力も信じられないくらいにあったので、特に大きな問題も無く登ることができた。


 その結果、森はしばらくすると草原に開けており、その先に集落のようなものが確認された。



 次の問題は移動、そしてこの約40人の身元不明者で街に入れるか、という事だった。しかし、夜になってしまうと色々とマズイだろうという事で、俺たちはすぐに移動を開始することにした。



……



 結論から言うと、甘かった。モンスターが現れて一人殺された。


 歩く植物っぽいのモンスターが不意打ちを仕掛けてきて、集団から離れ気味だった男子を、みなが気がつく前に食い殺してしまったのだ。


 俺たちが気がついたのは、非現実的なそのモンスターがさっきまで人間だった物体の一部分を持って近づいてきた時で、当然クラスは一瞬で恐慌状態に陥った。この理不尽な状況に慣れつつあったクラスメイトだったが、恐ろしげな怪物を間近に見て、理性を保てるような奴は一握りだった。


 そんな窮地を救ったのは王子の統率力と、スキル【天賦の才・格闘】を持つ女子の奮闘であった。


 仁保姫にほひめ 紅亜礼(くあら)。女。出席番号24。ツインテールの小柄な女子だ。あまり接点が無いため、どんな奴なのかは知らないが、さあきによると家が古武術的な物の道場で、普段はかわいらしい性格らしい。


 戦闘中の雰囲気には鬼気迫るものがあった。だが、それよりも敵を倒した後の、


『こわかった。テヘッ』


という発言の方が俺を戦慄させた。なんというか、いろんな意味で。



 戦闘自体は仁保姫の一方的な勝利であり、その際いくつかこの世界の戦闘ルールが判明した。


・ダメージを食らうと、敵にも味方にもHPバーのような物が現れる

・モンスターは倒すと、ドロップ品や、奇妙な結晶になる

・HPバーは徐々に回復し、Maxになると消える


 どうやら、完全にゲームの世界に入り込んだようだ。

 

 その戦闘の後は注意深く円陣を組み、周囲を警戒しながら固まって進んだ。森を抜けるまでに、さっきの植物やゴブリンっぽいモンスターの襲撃を何回か受けたが、仁保姫を中心に、何人かの有志によって首尾よく撃退していった。



……



 森を抜け、草原に出る。遠くにウサギ型のモンスターやゴブリンっぽい人型のモンスターを見かけたが、こちらの人数が多いためか、遠巻きに見ているだけだった。それでも先ほどの不意打ちの恐怖は忘れられず、みな緊張して歩いている。さっきから歩き詰めのわりに誰一人脱落者がいないのは、やはり身体能力が向上しているからだろう。


 草原に入ってからは周囲も見渡せて、警戒を強める必要が無かったので、俺は目を閉じると現れるウィンドウについて検証してみた。色々と念じてみると、ステータスの他にも所有スキル一覧やそのスキルの説明が確認できた。


【死】【一撃死】

次の条件を満たした時、対象を即死させる

・対象が攻撃を認識していない

・短剣による直接攻撃である

・攻撃が急所に当たっている


 どうやら暗殺スキルらしい。だったら最初からスキル【暗殺】にすればいいのに。とりあえず、いま使用できるのはこの【一撃死】だけのようだ。まずは短剣を入手しないといけないな。


 王子とタクヤは全員で街に入る作戦を考えているようだったが、あまり興味がないので俺は話し合いに参加していない。まあ、あの二人なら何とかしてくれるだろう。現実世界と電脳世界のカリスマが組み合わさり最強に見えるってね。



……



 昼前には街に到着した。見事な中世ヨーロッパ的ファンタジー調の建物群。街というか村に近いというのが第一印象。周囲は堀と木の柵に囲まれ、中央には森から川が流れ込んでいた。


 当然のように人の出入りには厳しいと思って、何パターンもの芝居を考えていた王子たちの当ては外れ、意外にも問題は起きなかった。言葉も普通に通じたし。


 どうもこの街は辺境開拓の拠点のような位置づけらしく、人の移動についてはかなり大らかなようだ。さすがにこの世界では、現実世界から着ていた学校の制服は周囲から浮いていた(しかもみんなお揃いだから余計怪しい)。だが、王子らはその怪しさを逆手にとって、門の兵士長らしいおっさんを丸めこみ、この街の領主と面会する約束を取り付けていた。


 まじめに聞いてなかったが、要するに俺たちは流浪るろうの騎士団みたいな位置づけになったらしい。とにかく街に入れないという事はなさそうだ。



「なんだ、クーは一緒に行かないのか?」


 タクヤが意外そうな顔で尋ねてきた。横にいたさあきも、不安げにこちらを見ている。


「俺は先に街を見ておくよ。後で話を聞かせてくれ」

「じゃあ、私もクーに付いていこうかな……」

「お前はタクヤたちと行け。邪魔だ」


 ぶーぶーと文句を言うさあきを無視して、俺はみんなと別れた。



「まずは金からか」 


 そう独り言をつぶやきながら、俺は人が集まる市場に足を進めた。




【死】【一撃死】

次の条件を満たした時、対象を即死させる。

・対象が攻撃を認識していない

・短剣による直接攻撃である

・攻撃が急所に当たっている

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